【事件激情】ウルトラ 最終便 終段─続々【M資金】








【事件激情】ウルトラ 最終便 終段─続々【M資金】
「M資金」の存在が公的に確認された事は一度もありません。
そして、M資金をふくむ様々な秘密資金を詐欺で語る手口が存在し、
著名な企業や実業家がこの詐欺に遭い、自殺者まで出したことで
一般人の間でも有名になってしまいました。
────────────────ミドルエッジ 2019年10月2日

──────────────「M資金とは何だったのか?そして
────────────M資金を騙った詐欺の手口について」▲

広げすぎた大風呂敷がついに畳まれる(はず)。
そこらじゅうにばらまいた伏線は漏れなく回収できるのか?
登場する事件テロ紛争戦争、その捜査活動は公表された情報に基づく。
黒字の人物・赤字の人物・紫字の人物および各国の機関団体部局は実在する。
白鳥百合子、ニイタカ乃至カーチャらこの文字色は架空の人物であり、
実在する人物との関わりも、根拠は創造にしてソースは妄想だが、ある意図がある。






────────────────────────続きの続き
さて場面は前回 *【終段 ─続】の、
ここ↓からすこーし時間をさかのぼり──


「なかっよしに何産土おてーさ」

「にここ、よい来てっ帰とんゃち。でうそ、あ」
──ッャシピ、ラガラガラガ

「!ンリーダねるくてっ行ゃじ」
──そんなかんじで10日くらい前まで巻き戻され。

Late October, 2001
2001年10月下旬──

Kogane-Cho, Yokohama, Kanagawa
横浜市黄金町


「えーと?」


「あ、ここだよね、たぶんおそらくそう思う」



「ざんざん道に迷った挙げ句ようやく到着ー」


「ごめんくださーい」
「あー今行くから。ちょっとお待ちなされ」


「どうもお待たし──」


「あッ」


「あッ、って、え?」





「おおおおッ」


「ここんとこ毎度顔見てはびっくりされるんですけどわたし」

「でも横浜市街からこんな近くにザ・昭和な町が残ってたんですねえ」
「再開発から取り残された最後の地域だね」

「終戦後は青線、麻薬街、ちょんの間、それから外国人娼婦の街。関東一の悪所、魔窟などと称された時代もあったなあ。だが京急の工事でガード下は立ち退き、浄化運動で風俗追い出しも本格化するからこの猥雑な風景も姿を消す。ここも他と同じつまらない無味乾燥な風景に変わるだろう。僕もそろそろ店じまいの頃合いだ」


「いかにも君の信託口座の件で当時代理人を務めたのは先代だ。僕の伯父だが」
(あ、自撮りじゃなかったんだ。そりゃそうよね…)
「もう20年前に他界してしまった。今じゃ二代目の僕もジジイだよ」


「にしても感慨深いな、生きてるうちに“白鳥百合子”と会える日が来るとはなあ」
「すみません。ここに辿り着くまでにずいぶん遠回りしちゃいまして」

「しかし君は若いなあ。白鳥家の養女とすると年齢が合わん気がするな」
「えーとこんなんですけど体質というか、実年齢はアラフィフなんです、わたし」
「 ゚ ゚ (д )」


「と、ともかく伯父はニイタカからこう託されていたそうだよ。“白鳥百合子”を名乗る女性が訪ねてきたら、彼女が戦えるように武器を授けてやってほしい、と」

「でもわたし、自他ともに認める運動神経の鈍さと射撃の低命中率なんですけど」

「いやいや、そういう武器ではなくてな。伯父の言葉を借りれば、現代の地球上のどんな武器をも凌駕する最強の矛だ」


「その名をドルという」


「当時の基軸通貨はまだ英国の£ポンドだったが、彼女はブレトンウッズ体制の始まりでアメリカの$ドルがそれにとって変わること、そしてそののちに現実となる変動相場制や金本位制の終焉をも見越していたそうだ」


「君が18歳になるまでの養育費としてニイタカの用意した信託口座があったのは知っているね。口座は閉じられたが、資金の大半は残り、ニイタカの決めたルールに従い代理人によって投資運用され続けた。半世紀にわたって。
投資先は主に欧米の1世紀単位の歴史を持つ名門か、一方で新興系にもルールにのっとって積極的に一定の割合が振り分けられた。運用の管理人は英国人だが彼らも当然代替わりしとるよ」


「どうもこの素性の知れない資金の動きを不審がった金融界の一部から風説が流布して、例のM資金の元ネタのひとつにもなったらしい。M資金なるGHQの“埋蔵金”が本当に実在するかは知らんが、これはMならぬN資金だな」

「僕がくたばる前にこうしてニイタカの後継者に手渡せたとはこれほどうれしいことはない。伯父の宿題をようやく済ませた気分だ。税などもろもろ面倒事をクリアした額だ。ああ、残高もドル建て、だ」


「え、いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん、ひゃくまん、せ……、ええっ、これドル換算で?」

「これ、カップヌードル何食分だろ」
「なぜそれを基準にするのか」

「んんんん? でもこれってわたし本人でも口座開放するには
本人確認プラスパスワードも必要みたいですね」


「パスワードを君が呈示しない限り、その基金に手を付けることはできない」
「はいはいそうそう簡単に運ぶスイーツなお話とは思ってませんでしたよ」
「問題は、そのパスワードだが──」


ドサッ
「(;・∀・) へ?」
「ニイタカから伯父に届いた手紙や電報だ。この中のどこかに資産継承者の資格たるパスワードが隠されているそうだ」


「全部で28通55枚。手書きやタイプ、無線通信、電報などさまざまだ。ただし、どれも意味不明な文字数字の羅列ばかりだ。例のヴェノナ文書と似た換字暗号で、解読のキーは暗号対応表や乱数表ではなく、なんらかの書籍を使う書籍暗号ブックサイファーらしい。文字列ごとに書籍のページと行と何番目の文字かを示しているようだ」

「ただなあ、伯父はそれがどの本なのか言い残さんまま死んじまったんでな。遺言にも遺書にもそれらしい記述はなかった。伯父の蔵書のどれからしいんだが、」
「その蔵書、見せてもらっていいですか?」


「うげ」

「うっへー本屋さんや図書館以外でこんな本が並んでるの初めて見た。しかも和洋硬軟ごった煮」

「あまりにも膨大だから整理しなければならんのだが、どの本が換字暗号の原本に使われたのか分からんので手の付けようがなくてね。そのまま残していた。版数や出版社によってページや行も変わってしまうからな」


「あいにく伯父は読書家かつ乱読だったのでね」

「和洋中の法律関係から理系文系学術書、純文学から大衆小説、漫画まである」

「膨大すぎてとても総当たりで試すことはできなかったよ。
まったく伯父も肝心なところで迂闊だなあ」

「いえ、ニイタカさんと先生の伯父様が示し合わせてそうしたんでしょう」
「わざと? なぜそんなことをしたのかね?」


「たぶんテストだ、と思います」
「テスト?」


「わたしの脳みそがこの謎解きすらできない程度の仕上がり具合なら、彼女の資産の継承も秘密もろもろを知る資格もなし、お帰りはあちら、というわけです」


「もちろんこんなこと理詰めでいくら脳細胞をフル稼動させても、
的中させるのは限りなく不可能です」

「でも──」


「え、それなのか? なぜ分かったのかね?」
「解析です、キリッ」


「、と言いたいとこですけど、ちょいとズルしました。
第六感? っていうか、お告げ?」


「凄い大金だな、というかド庶民の俺にはこれだけ桁が並ぶとただの数字だ」

「なんなら大邸宅とか別荘もドーンっと建てて豪華客船世界20周くらいとか悠々自適な老後を送り放題ですよ?」


「ダメだろ、おれたちが散財するために残してくれた資産じゃないだろ。あくまで白鳥がニイタカという人の大仕事を引き継ぐ軍資金前提だろ、これは」
「そ、そうですよね、ちっ」
「いまおれのせいにして贅沢三昧を企んでただろ。なに舌打ちしてんだよ」


「というわけで、この忌々しい文字列のダラダラ洪水を、
この本と引き比べて解読しないといけないんですねー」


「青い鳥、か」

「しかーし最大の問題はわたしが機械的な作業が大の苦手ってことなんですよね」
「つまりおれがやれというわけだな」















「うっうっ、ひっく、ひっく」





「むっふふふ、ぎゃっははは」


「いやー手間かかりましたねえ」


「何日がかりだっけ。もうへろへろですよ」

「やったのは俺で、白鳥はずっと横でマンガ読んでただろうが」
「マヤ、おそろしい子(白目」

「で、これが口座の封印を解くパスワードってことでしょうね」
「ずいぶん簡単で短いな。なんでこれなんだ?」
「わたしは分かる気がしますよ、ニイタカさんがこの言葉を選んだ理由」
「?」
「“勝敗いまだ定まらず、勝負はこれからも続く”」

「おかげさまで巨万の富が我ら新婚夫婦のご祝儀ですよ」
「ニイタカや弁護士先生たちが一抹の不安を抱くような高笑いだな」



「横浜でもらった暗号文の解読結果、それと養兄のくれた手紙や文書を合わせた結果、ぼやっとですがいろいろとつながったような気がします」


「苦戦してるっていうロシア語やドイツ語はどうしたんだ?」
「あーそのへんは気合いでなんとかしました」
「相変わらず変態的な語学力を誇ってるな」
「確信も証拠もなしですから解析キリッとはいえない妄想創造ですけど」


「ニイタカさんがソ連へ渡ったあと、なにが起きたか」

「そして、ニイタカさんはわたしにとって何なのか?」



1 марта 1953 г.
1th March, 1953
1953年3月1日
昭和28年

воскресенье
Sunday
日曜日

Москва, Советский Союз
Moscow, Soviet Union
ソビエト連邦 首都モスクワ

1953年3月1日、運命の夜──

ニイタカ最後の謀略が実行された。
【事件激情】ウルトラ 最終便 終段─続々々【スターリン暗殺説】へとつづく











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