【事件激情】ウルトラNW : 第17便-結@再掲【9.11】









【事件激情】ウルトラNW : 第17便-結【911アメリカ同時多発テロ】

復讐の旅に出る前に、墓穴は二つ掘っておけ
───────孔子の言葉というのは誤りで、
─────────アジアの古い格言である

登場する事件テロ紛争戦争、その捜査は公表された情報に基づく。
黒字の人物・赤字の人物・紫字の人物および各国の機関団体部局は実在する。
白鳥百合子はじめこの文字色は架空の人物であり、
実在する人物との関わりは、根拠は創造にしてソースは妄想だが、ある意図がある。






「メガネのお礼も言わないのは、いくらなんでも失礼だと思ったので」

「入るか」
「いえ、ここで。すぐ済みますから」

「先ほどはすみませんでした。わたしらしからぬ、感情もろ出しの理不尽な態度でした。せっかく警視が日本からはるばる来てくれたというのに」
「べつに今の白鳥は感情くらい出してもいいと思うぞ」

「でも、わたしはまだ日本に帰るわけにはいきません。
すみませんけど真美ちゃんと2人で帰国して下さい」
「白鳥が帰国できそうなくらい回復するまで待つつもりだったが」

「困るんですそれじゃ。わたしに近い人の安全にも気を配らないといけないのは気が散ります。日本国内で大人しく待っていてください。それだけです、おやすみなさい」
「部屋まで送ろう」
「一人で帰れますからけっこうです、それじゃ」

「白鳥、おれでは頼りにならんか」

「いえ、このヴィラの敷地内なら一人でも安全ですから」
「そういう意味じゃない」

「たしかにおれは能力的にも白鳥に遠く及ばない。
前におまえも言ったとおり、凡人の中の凡人だ」

「今回だって、白鳥が死ぬほど辛い目に遭っているというのに、おれは遠く安全な国境で金太の大冒険歌ってただけだ。何もできなかった。
ミスタークラークのような司令塔もやれんし、FBIや傭兵のように修羅場に飛び込んでいく経験も能力も勇気もない。
白鳥の戦っている場所はもう以前とはまるで次元が違う。それを痛感した」

「あんな第一線のプロたちと対等に接している白鳥にとって、
おれなどまるで物足りない男なのは分かってる」

「おれにできるのは、白鳥が話したいと思ったときに黙って聞くことくらいだ」


「今のおれにはそれくらいしかできん。だから、白鳥がそれを望まないというなら、おれはすぐ日本に帰ろう。足枷にはなりたくない」




「ふう」

「それでわたしがまだ日本に帰れないのはですね」
「わーっ」

「いつの間に入ってきたんだ!」
「え? あなたの後ろについて入りましたよ。壁を通り抜ける力は無いですもん」
「だったら何か言えよ!」
「じゃあ、水を1杯ください」
「あ、は?」
「水を」

「ああ、ありがとうです」

「まだ日本に帰れないのは、強がってるのではなくてですね。
ある一定の対策を施してからでないと、この件に乗じてわたしを長期休職か離職させたくてたまらない方面からの攻勢に人事が抗しきれないからです」

「厄介なのは、性暴力と拷問の被害者に静養と心身両面の手厚い治療を、
という主張がド正論すぎてて抵抗しにくいってことで。
仮にカウンセリングを拒否しても、こっちの医師に説明した話は共有されるでしょうし、あの内容だけでもわたしを現場から引き離すのに十分な理由にされそうです」

「だから帰国は避けたいんです。少なくとも今はまだ。
ただ、今後、メンタルの面で支障が生じそう、というのも一理あってですね。
じっさい、解放されてから今この瞬間まで──」

「──わたし、涙を一滴も流してないんですよ」

「わたしはほんのちょっとだけ感覚が人様とずれてますが、ああいう目に遭ったあと、一度も泣けないのはさすがにおかしいとは分かります。
声ひとつ表情筋ひとつ震えず、他人事みたいに、男たちにお尻まで犯されましたとかウンコ食べさせられましたとか淡々と説明してるなんて、我ながら異様ですよ。
分かってるんですよ。自分が、いま壊れつつあるんだと。
なので、せめてぜんぶ吐き出してしまおうと思いまして」

「ただねえ。内容が内容だけに。
はじめは同性の誰かに、とも思いましたけど、
自分のことながらちょっと悲惨すぎる体験談なので、ただでさえ今回の件に責任感じてる真美ちゃんにはとても聞かせられるものじゃないし、
プリシーやライザは聞いてくれるとは思いますが、やはり心配されて専門的な治療を勧められるでしょう。もちろん善意からでしょうけど、そういう流れになるのは、わたしを小突き回した連中の思うツボなので」

「ですから、やっぱりわたしには、あなたしかいないんです。
今からあなたに話して、あなたと共有したい。
わたしが捕まってから助け出されるまでの22日間にあったことすべてを。
もちろん、あなたが嫌でなければですが、
聞いていただけますか?」

「言ったろ、聞くことは数少ないおれのできることだ」
「ありがとうございます」

「言っときますが決して楽しい話じゃないですからね。
途中で聞きたくなくなったら遠慮なく止めてください」
「分かった」

「できればですね、あっち向いて耳だけ傾けてくれるとありがたいです」

「あーはいはい、そんなかんじで。では始めます」

「7月5日、ラ・アウロラ国際空港で拘束され、
連行される車内で睡眠剤を嗅がされ、意識を失いました。
目が覚めると暗い部屋で男5人に囲まれていて、すぐ集団レイプが始まりました。
膣と口腔、肛門、その3か所への同時挿入、非常な苦痛と屈辱と恐怖を伴う強姦です。さらに別の男たちが代わる代わる暴行に加わり──」

と思う“本郷”だけども、
ここで何か言えば、白鳥は語るのをやめて部屋を出て行くだろう、
そして二度と姿を現さなくなる、と思って言葉を飲み込む。

「1日目の輪姦は数度の中休みを含めて5時間ほど続いたと思います。
のべ22人目か23人目が終わったところで、わたしが瀕死の状態に陥ったため、強心剤と栄養剤を注射され、体調が回復するとレイプが再開……」

「この歳になって、あんないろいろなセックスと変態行為を集中豪雨のように体験するとは思いませんでしたよ。背骨が折れるかってくらいアクロバティックな体位とか、普通の人生送ってたら知らないまま終わりそうな行為まで」

「──3日目から拷問も始まりました。最初は電気ショックでした。椅子に固定され、電極を手足首と、神経の鋭敏な性器、両乳首に接続され──」
「電気拷問にはいろんなバージョンがあって、歯や舌に電極がつながれることもあります。歯と舌はとくに痛覚が敏感な場所で──」

「ウォーターボーディングは分かっていても毎回溺れ死ぬかと思わされ──」
「内容的にかつてCIAや米軍特殊部隊が米州学校スクール・オブ・ジ・アメリカズで教えていた尋問レシピと酷似していたので、わたしを痛めつけてるのが、グアテマラの“死の部隊”関係者というところまでは推測できました」

「自力で脱出は無理なのは早々に分かりました。わたしは女戦士とかじゃないし、訓練を受けた男しかも大勢に敵うわけないですし。
だから難しく考えるのはあきらめて、わずかばかり残った脳の働きは監禁者の人相風体を記憶する努力にぜんぶ集中させました。できることはそれくらいしかないんで。


二度と外に出られなければその努力も無駄になっちゃいますけど、あくまで出られるの前提でそれだけは粛々とつづけようと。男たちの顔か、でなければ刺青や傷跡など身体的特徴を記憶しつづけました。


メガネなしじゃ少し離れると顔なんて見分けられませんが、あいつらも美しい女が苦しんだり泣いたりしてると近くで見たくなるんでしょうね。


わたしは我ながら年齢を超越した美しい女ですし体もキレイですし、虐待に耐える訓練なんて受けてないんで際限なく苦しんだり叫んだり泣いたりしましたから、

あいつら、わたしの視力でも顔が判別できるところまで近づいてくれました。
わたしを犯し、拷問した男たちは中心になった5人含めて18人。2、3人覚え忘れたのがいるかもしれませんけど、だいたいそんなところです。
男だけでなく、女もいました。

その女は虐待には加わらず、きまって外から眺めていて、

笑って愉しんでました。

メガネなしでは遠すぎましたけど、


一度だけ近づくチャンスがあって。


生きて外へ出られるか、希望なんて皆無でしたけど、

「8日目くらいだったかな、
物理的に傷跡の残る虐待を受けていない、
と気づいたのは。
強姦しながらわたしの顔を殴った男は外されてその後現れなかったですし、性的虐待や拷問も傷痕が残らないタイプばかりでした。金属製だった手錠もまもなく痕の残りにくい革手錠に変わったし、傷やアザができればそれはそれは丁寧に治療されて」

「“苦悩の梨”という中世の魔女狩りの拷問具も登場しました。魔女狩りは煩悩いっぱいの聖職者が変態性欲を満たしたい口実だったのは間違いないですね」
「苦悩の梨はレトロですが、やられる方はめちゃくちゃ苦しいです。閉じた状態で膣内や直腸にねじ入れて、中で鉄製の花弁を開いて内側からひき裂くんです。なので本当に花弁を開き切ると死にますけど、傷を負わせない加減で繰り返され──」

「窒息性交は頭にビニールを被せられました。首を絞めると痕が残るからで──」

「あと歯茎に焼けるように痛くなる薬品をまんべんなく塗られるのも地味にきつくてですね。9日目だったと思いますが、その日ずっと口の中が爆発しそうでした。誰得なんですかあんなの。歯医者って絶対サディストですよ」

「排泄は運がよくてバケツ、たいていは垂れ流しでした。2、3日に一度、体を洗われましたが、たいてい水責めを兼ねてなのでまったくうれしくなくてですね。
ウォーターボーディングや水槽に沈められる疑似溺死体験か、もしくは高圧放水ですね。たかが水でも直撃されると激痛と呼吸困難に陥り、たいてい失禁を伴いました」

「でもどの虐待も拷問も外傷だけは残らないよう巧妙に調整されてました。
殴る蹴る切ったり刺したり裂いたり折ったり砕いたり抉ったり灼いたり剥がしたりの方がたやすく絶望に落とせるのに。その方が確実にわたし心折れてたと思います。
ただ傷をつけないから楽だったかというと、物理的に傷つけなくても心身に重いダメージは与えられるってことを、いやというほど思い知りましたけど」

「栄養と運動、睡眠も最低限は確保されて、あれだけ痛めつけられても体力はあるていど維持できてました。食餌制限と不眠は、拷問のイロハのイなのに。
運動とはいっても電気ショックで脅されながら無理矢理歩かされたり走らされたりだったし、食事は後ろ手に拘束され這いつくばって犬食いでしたけど。ときにお尻の穴から無理矢理流し込まれたり、腐りかけの残飯やドッグフードや──」

「ああ、これはつまりわたしを外見的には無傷のまま外へ出して公の場で晒し者にするんだろうな、それはペルーの法廷だろうなと思いました。
そのためにわたしの頭の中身をぐちゃぐちゃに壊しておくつもりなんだろうなと。
ふつうに何かを自白させようとする拷問なら、
わたしなんて数秒で白状するんですけどねえ」

というツッコミをしていいかどうか分からないのですんでで飲み込む
「そうじゃなくただただレイプされて、
ただただ痛めつけられるばかりなのは、
別の意味でとてもきついんです」

「大半は苦痛を伴う性暴行が中心でしたが、
何度かあえて性的快感を強制的に与え続ける暴行も行われました。
口では嫌よと言いながら体は正直じゃねえか、ってやつです。
そういうレイプは22日間で6回ありました。物理的な刺激によるもので自分の意志じゃないと理屈では分かってるつもりでも、あれはなんとも言えないみじめな気分です」

「11日目、男たちが別の道具を試そうと──」


「16日目、あいつらとビデオカメラの前で、
自慰行為、マスターベーションを強制されました。
いえ、見られながらの自慰行為そのものより、やらないと近しい人たちを拉致して目の前で犯して殺す、という脅しの方が精神的に削られました。
そりゃ理屈ではそんなのあり得ないと考えるんですよ。わたしをひそかに拉致ってこそこそやってるのに、さらに日本から何人も誘拐してくるなんてあり得ない、と。
でも、」

「でも、絶対ないとは言い切れない。外部から遮断され、判断力も低下してる状態ですから、ほんの1%でも可能性があれば揺れ動くんです。もしかしたらと。
もし万一コマちゃん母子がわたしの前に引き出されて拷問されたら、警視がお尻を犯されて豚のような悲鳴を上げたら、それこそ悔やんでも悔やみきれない。
だったらわたしの独りエッチくらいやって見せるしかないでしょう」

「公開オナニーのみじめさよりも、自分のあやふやな現状把握につけ込まれて為す術もない無力感の方がきつかった。
これは彼らにも見透かされて、言うことを聞かせる種に何度も使われました。
あ、でもこれは決して皆さんのせいではないですからね。
わたしが勝手に脳内で考えてただけなので」

「性暴行も虐待も拷問も、とくに自尊心とか理性を踏みにじる系が選ばれていました。わたしが泣いたり怯えたり悶えたり哀願したりするのを嘲笑って。
おまえはとるにたりない、ただ踏みつけられる存在だ、
無力で弱い女だと思い知らせようとしていた。
やつらはほとんどそれに成功してました。
じっさいそのときのわたしはただ踏みつけられる、無力な弱い女でしかなかった」

「それで……あのう、最後のほうもっと内容やばめですが、やめときますか?」

「白鳥が続けるつもりならやめなくていい」

「21日目、解放前日のことです、
夕方まで高圧放水で苦しめられたわたしは、夜までのあいだ休息を与えられました。
休息といっても次の虐待で死なない程度になるまで転がされてるだけですが。
夜半、わたしは浅い眠りから騒音でたたき起こされ、
拷問室の床で四つん這いに四肢を固定されました」

「まもなく『売女、今夜の客だ』の声とともに、
アメリカ種のピットブルテリアという大型犬が部屋に放たれました。
人間の女に欲情するよう訓練された犬です。
わたしはその犬

「むずかしいなら無理に言わなくてもいいぞ」
「いえ、言います」


「わたしはその犬に、犯されました。夜明けまで数時間ずっとです」

「犬のつぎは馬が用意されていました。22日目、最後の夜、わたしは地下道を通って厩舎に連れて行かれ、牡馬4頭の前に跪かされました。
黙示録の四騎とか呼ばれて、毛色も黙示録のあれと同じでした。
それから顎関節を外されて口を皮膚が裂ける限界まで押し広げられ、
1頭目の性器を喉深くまで押し込まれました。
あのとき収容所の方でパンク騒動がおきて中断しなければ、
4頭の馬とわたしの獣姦ショーが始まるところでした」

「あいつらにも見抜かれてましたが、わたしの精神力はすでに限界ぎりぎりで、
あのまま続いていたら、夜が明ける前に精神に異常をきたしていたでしょう。
厩舎から引き戻されてまもなく、どこかからわたしの解放命令が届いたようです。
わたしの精神を液状化するのは未完成に終わったせいか、あいつらは代わりに監禁中の一部始終を録画してあると脅してきました。つまり一線を離れろ、警察もやめろ、彼らの雇い主に都合の悪いことをするな、でなければ録画をばらまく、と。
そして男たちはわたしという美しい玩具を手放すのを惜しみ、
別れの挨拶代わりか、わたしの体に初めてで唯一の傷をつけました。
熱したナイフで、刻印を焼き入れたんです、

わたしの性器に。
その刻印をわたしが目にするたびに、彼らを思い出すように。
“CLV”と。「奴隷女」のイニシャルです。
最後に、性器の傷が火傷と出血した状態のまま、その場にいた全員に犯されました。あまりの激痛に気を失い、また激痛で覚醒させられるのを何度も繰り返して、」

「そのへんから記憶が曖昧なんですよね。睡眠剤を嗅がされて意識がなくなって。
十字架のある場所まで運ばれる車内でも、あいつらは意識のないわたしの体をずっと犯していたと思います。目覚めたら口の中が精液であふれてましたから。
わたしを繰り返し呼ぶ声で目覚めると、真美ちゃんと一緒に路上に寝転がっていて。
まもなく鈴木くんの車に拾ってもらい、わたしは救出されました」

「以上です」


「ふう、もうこんな時間ですね。夜遅く長々と不快な話をすみませんでした。では、

「これで失礼さ あ、あれ?」

「なに、これ」






「白鳥

ありゃ?」


すやすやすや
(ちゃっかりベッドまで行ってから寝落ちしてやがる)




「よく帰ってきた」

「今日は、休め」




月がやけに赤いな。メキシコはこうなのかね。



「む……」

「白鳥……?」










「あ、おはようございます」

「早いな」

「もうお日様はずいぶん高いですよ」

「いやあ、太陽って、明るいですねーっ」

「ありがとうございました、最後まで聞いてくれて」
「ん、ああ」
「それで……あのですね」

「わたし、あなたを物足りない男と思ったことなんて、一度もないですから」

「だから自分を勇気がないとか足枷とか、
価値のないゴミクズだとか、悲しいこと言わないでください」

「…………」

「勇気がないと足枷は言ったが、価値のないゴミクズは言ってないぞ」

「……… (゚-゚; ) あ、あれ?」
1st August, 2001
2001年8月1日
41 days before ‘Nine Eleven’
──9.11まであと41日

Falls Church, Virginia
バージニア州フォールズチャーチ
セブンイレブンいい気分駐車場で、怪しげな取引が。

ハリド・アルミダル、ハニ・ハンジュルの飛行機計画メン2人と会ってるのは、エルサルバドルから来た不法滞在者ルイス・マルチネス・フローレス。
この男に100ドル払って、自動車局に連れて行く。バージニア州の住民ID取得に必要な永住証明に保証人としてサインさせるためだった。

この偽証明を使って、アブドルアジズ・アルオマリ、アーメド・アルガムディ、マジド・モゲド、セラム・アルハズミ@ナワフ弟がバージニア州住民IDをゲットする。
住民IDに書き込む住所は、ミダル、ハズミ、マジド・モゲド、ジアド・ジャラが流用して使ったんで、芋づるのウィークポイントでもあった。
のだが。

New York
ニューヨーク

JFK International Airport
ジョン・F・ケネディ国際空港

「ああッ、警視正どのーッ、警視どのーッ」

「渋谷くん! 急な出張ごめんね」
「おー、渋谷。ちゃんとニューヨークまで来れたじゃないか」
「警視正どののためなら、いつでもどこでもはせ参じます!」

「えーっと、警視正どのにお渡しする重要機密、これです!」

「国家レベルの大事な最重要機密だから盗まれるんじゃないかと心配で心配で!」
「あーそれならもう少し声を小さくできないか渋谷」

「それでえーと、警視正どのに連れてってもらう所メモってきました!
オーランドのディズニーワールドと、えーユニバーサルスタジオ、
メンフィスのプレスリーの家、あとラスベガスのですね──」

「あ、ごめん、渋谷くん、それまた今度ね」
「へ?」
「君には今からすぐ次の国に飛んでもらうから」

「ええーっ、せっかくアメリカ来たのに観光なし? 今度はどこへ?」
「ヨルダン。前行ったことあるから平気でしょ」
「ヨ……ああっ、あのときは迷子になって砂漠で死ぬとこだったんですよ!」
「あ、次の便だから駆け足! はいこれ、必要な書類一式、がんばって!」

「は、はいーっ、頑張りますーっ」

「……彼、ずいぶんテンパってたみたいだけど大丈夫?」
「あ、渋谷くんはあれで平常運転だから」

「しかしおれたちの身の安全は気にするのに、渋谷は一人旅でいいのか?」
「あ、そういやそうでした。でもまあ、渋谷くんだし、大丈夫でしょ」

「と言ってる間に、日本行きのお二人の便もそろそろ搭乗時間ですね」

「百合子さん、ほんとうはあなたを置いていきたくないんだからね」
「心配かけるね、ごめん。でも白鳥百合子は同じポカはしない予定だから」

「それで、百合子さん、あの、これ……」

「へ? なに?」
「FBIのコールマン捜査官から、もしあなたが受け取ってもよさそうな状態だったら渡してほしいと託されていたの。渡さないでおこうと思っていたけど、
でもそれはわたしの決めることじゃないよね」

「アンワル・アルアウラキの捜査資料だそうよ」

「さすがIT発展途上国FBI、相変わらずの紙資料どっさり。ありがとう」

「じゃあ、警視も。ピーガルくんと安藤部長によろしくお伝え下さい」
ピーガルくん→


「あ、電話が。ちょっと失礼します」

「じゃあ百合子さん、わたしはここで」
「うん、ホントありがとう! またね!」

「なにか外務省で緊急なことでも起きたのか」
「彼女、気を利かせてわたしたち二人にしてくれたんですよ」

「って言いつつ、こうやって改まると言うことに困るかんじですね」

「です、けど、あの、」

「──監禁されていた地獄のような日々、何十回も心が折れそうになりました。
こりゃやばい、せめて楽しいことだけ考えようとしたんですね。
すると、なぜか決まって思い浮かんだのがね、なんだと思います?」

「はとバスツアー」

「ほかにもわたしの人生いろいろあったのに。なんでそれよ? ですよね」

「浅草の揚げまんじゅうとか東京タワーとか、カレーパンマンとかプリクラとか、
警視のだっさいスラックスとか、そんなのばっかり思い出して」
「あー最後のは覚えてなくていいぞ」
「それで、わたし
“アテンションプリーズ”
“ジャパンエアラインフライト007、成田/東京行きはただいま搭乗中です”

“ターミナル1ゲート7へお集まりください”
「ありがとう」

「ありがとう。今までそばにいてくれて」

「無理するなよ」





「必ず帰ります」


わかっていた。
白鳥がおれたちの帰国を急がせたのは、

(キスくらいすりゃよかったぜ。……てかさー、してくれてもいいじゃん)
おれたちの安全のため、そしておれに日本でやってほしい作業がある、と、
が、
本当の理由は違うことを。



白鳥はアメリカに残り、これから、
「ある一定の対策」を実行するだろう。

傷つき倒れかけた自分がこの世界に踏みとどまるために。
そのためサッチョウのトップレベルを動かし、
日本からわざわざ最高機密を取り寄せた。

「んー? げ、しまった、かっこつけてないで警視に接続くらい頼めばよかった」


「むー。これとこれはどこに繋げばいいんだっけ?
えっと、あっと、アダプターは、と。どれ? 電源……
あれ? えーっ、なんでケーブル1本余るの?」

白鳥の「ある一定の対策」が、
どんなものなのかは、おれは知らない。

カチャカチャ

カチャカチャ

カチャッ



カチッ

カチッ


カチャカチャ

カチャカチャ

カチャカチャカチャ

チャッ

いずれにしても白鳥は「一定の対策」をおれや水鳥に見せるつもりはない。
いや、それを実行する自分を、おれたちに見せたくない、のだろう。

カチッ

カチッ


カチャカチャカチャッ

カチ

カチ

だが、これだけはわかる。
白鳥は今まで警察官として自制し、決して越えなかった一線を、
あえて踏み越える。

カチ

カチ
つまり「一定の対策」とは──


カチャカチャッ

カチャカチャ

カチャ

カチャカチャッ

カチ


カチ

カチ



カチ



「待てよ」
カチ

「──さっきの動画」






「──ということは、」

「──こっちにもいるはずだよね……」

だからおれは黙って日本で待とう。
白鳥がそう望むなら。

カチ

必ず帰ります、──あの言葉を信じて。

カチャカチャカチャッ

カチ







「見いつけた」
【乗継便 ラストウーマン スタンディング】へとつづく








- 関連記事
-
- 【事件激情】ウルトラNW : 第17便-結@再掲【9.11】
- 【事件激情】ウルトラNW 第17便-続@再掲【シルバースタイン】
- 【事件激情】ウルトラNW : 第17便@再掲【アメリカ同時多発テロ】
- 【事件激情】ウルトラNW : 第16便-結@再掲【死の部隊】
- 【事件激情】ウルトラNW : 第16便-続@再掲【アブグレイブ事件】
| 再掲激情@911/下山事件 | 17:59 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑