【事件激情】ウルトラNW : 第23便【911アメリカ同時多発テロ】









【事件激情】ウルトラNW : 第23便【911アメリカ同時多発テロ】
Mene, Mene, Tekel, Upharsin
メネ、 メネ、 テケル、ウ、パルシン
神はあなたの治世を数え、そして終わらせる
神はあなたを測られ、重さが足りぬと見なし
神はそして、あなたの王国を分裂させる
───────────────ダニエル書

登場する事件テロ紛争戦争、その捜査活動は公表された情報に基づく。
黒字の人物・赤字の人物・紫字の人物および各国の機関団体部局は実在する。
ただし、FBIニューヨーク支局による非公式秘密捜査はリアル界では行われていない。
白鳥百合子はじめこの文字色は架空の人物であり、
実在する人物との関わりも、根拠は創造にしてソースは妄想だが、ある意図がある。







4th September, 2001
2001年 平成13年
9月4日
Tuesday
火曜日
With just a week left until ‘Nine Eleven’
──9.11まであと1週間
9.11までいよいよ1週間を切ったこの日、たまたまながら、
節目となる出来事が同時多発的におこった。

Bundesrepublik Deutschland
Federal Republic of Germany
ドイツ連邦共和国

「ビッグウェディング」が目前に迫り、飛行機計画メンを後方支援してきた“ハンブルグセル”一派が一斉にドイツ拠点を店じまい、“夜逃げ”を開始。

サイード・バハジ、ザカリヤ・エサバール、ハンブルグ@ドイツ>イスタンブール@トルコ経由>カラチ@パキスタン>そしてアフガニスタンへ。

ラムジ・ビナルシブ、デュッセルドルフ@ドイツ>マドリード@スペインへ飛び、>怪しまれないよう往復で買った航空券の復路ドイツ行き分は使わず、>アフガンへ。
同日──

New York
ニューヨーク

この日、ニューヨークは雨。


「ご栄転おめでとうございます、部長、あ、統括審議官」

「また長官の椅子に一歩近づきましたね」
“煽るのはよせ”

「後任には君の件も含めてもろもろ引き継ぎしておいた」

「米村くんは外事課長だったし君のこともよく分かってくれているだろう」
“たぶん米村さん的には災難ふたたび、の気分でしょうけど”
前日の9月3日、警察庁人事が発令。
警視庁公安部長安藤隆春は、>警察庁長官官房統括審議官に。
代わって、
長官官房人事課長だった米村敏朗が公安部長に。
そしてウルトラ世界ではもっと未来のことだが、安藤隆春はこのあと、長官官房長、>警察庁次長と危なげなく序列を上げ、2009年に警察てっぺん警察庁長官に就任、


民主党政権下で国政が混乱する難しい時期に、
山口組の中核組織弘道会への頂上作戦、暴力団排除条例の全国施行を主導。
さらに東日本大震災への全国警察挙げての全力対応の指揮も執ることになる。
“ところでその後、検査の結果はどうだった”

「あ、おかげさまで変な病気もうつされてなかったみたいですし、
他はとくに何も言われませんでしたよ?」

(´-`).。oO(このあと病院で脳手術のことドクターと話さないといけないけど)
“それならよかった。君へのバッシングも下火になった。帰国に問題はないぞ”
「ありがとうございます。わたしの方はもうちょっとかかりそうですので。さすがにそれだけ猶予があればつボイ様のサインはゲットできますよねえ」
“…………”

「なんなら警察村の序列6位を誇る統括審議官の権力をもってすれば、つボイ様の一人や二人しょっぴいて釈放と引き替えにサインさせることだって」
“君の場合、冗談なのか本気なのかわからんな”
「あ、ところで安藤さん、」


「もしや“本郷”に一定の措置の件、バラしちゃったりしてませんよね」


“むろんだ”

「失礼しました」
さらに同じ日、そこから数ブロック離れた場所で──

26 Federal Plaza, New York
FBI’s New York field office
ニューヨーク 第26連邦合同庁舎
FBIニューヨーク支局

対テロ特捜班の諜報捜査官ロバート・フラー(新人)
ただひとりCIA提供のハズミダル情報にふれるのを許された捜査官
なんだが、

忙しさと優先順位のわからなさでアルミダル追跡をほったらかしていたけども、
ようやく手が空いたんで手をつけようと思った矢先──

「え?」

「ええええー、ハリド・アルミダルって名前のやつ、こんないっぱいいるの?」
FBIの捜査はたいていクレカや金融口座の使用履歴を洗うのが基本。個人情報一切さらさないで文明的に暮らすのはアメリカじゃほとんど不可能なんで。
フラー(新人)が余裕ぶっこいてたのも、そう思ってたかもである。
だがアラブ人名のバリエーションが極端に少ないってことを甘く見てた。
彼らは名前にイスラムの聖人や英雄や縁起担ぎの言葉を使う。しかもそれが少ない。
そして彼らに名字はなく、名字的に使われるのは父親や祖父、もしくは地名で。「~の息子」という意味の「bin」、ファミリーネームを表す「al」が多用される。ほとんどのアラブ人名にビンやらアルやらが付くわけで。
なのでアラブ人が似たような名前ばっかりになるのは必然というか。
これじっさいアラブ人も困ってるんじゃねと思うくらい。
しかもハリドもミダルも、ものすごくありふれた名前である。
というわけで↓

フラー(新人)の前には「ハリド・アルミダル」がそれこそずらずら並んだ。

「えーうわーどれがハリド・アルミダル? あ、みんなか。おれ涙目」
さらにさらに同日──

Washington D.C.
首都ワシントン

長らく空席だった新FBI長官がようやくやっと就任した。
初代フーバーから数えて6代目の長官誕生である。

Director of the Federal Bureau of Investigation
Robert Swan Mueller Ⅲ, aka ‘Bobbie Three Sticks’
ロバート・スワン・モラー3世
3世とか国王かよしかもミドルネームもスワンでかわいいし。
スノッビーな名前はともかくモラーはFBI史上初めてのまともな長官だった。
元海兵隊@ベトナム出征、弁護士、検事、司法省高官とイケメンなキャリア。
その仕事師っぷりを見せつけたのが、モラーが司法省次官補@刑事部長だったときにおきた【パンナム103便爆破テロ/ロッカビー事件】だった。


Pan Am Flight 103, aka ‘Lockerbie Air Disaster’
パンアメリカンはアメリカの航空会社で乗員乗客270人のほとんどがアメリカ人、墜落現場ロッカビー村はスコットランドで、別称「ロッカビー空襲」というだけあって上空で四散した103便の残骸が町に降り注いで爆発炎上、住民11人が巻き添えに。そして爆弾が積まれたのは西ドイツのフランクフルト空港、遺留品の出所はマルタ島──
複数国がからむ複雑きわまる国際事件だった。

当時のFBI長官セッションズ・ザ・無能。*【華麗なる無能@ルイス・フリー】
やる気も能力も人望もなくてこのままだと100%お宮入りしそうだった。
それを察知した当時司法省次官補モラー3世動く。長官ザ・無能をほっといてFBI刑事本部と直接やりとり、司法省として現場の捜査官に大きな権限を持たせた。
おかげでFBI・スコットランド警察・MI5@英国陸軍情報部・マルタ警察・ドイツ諜報機関・CIA・リビア潜入スパイまで加わる多国間共同捜査が実現。
それが功を奏し、103便爆弾テロがリビア工作員のしわざと立証する。

John Gotti, Boss of the Gambino crime family
検事時代にはマフィア・ガンビーノファミリーのボスジョン・ゴッディを追いつめ、

Manuel Noriega, Military dictator of Panama
米軍がパナマ侵攻してとっ捕まえた麻薬王にして元CIA協力者ノリエガ将軍(例の悪名高き米州学校 *【第16便】卒)の米国内での訴追っつうごっつい案件もこなし、

9.11後、長官モラー3世はFBIの立て直しにらつ腕をふるう。
国家安全保障本部を新設。FBIを時代遅れのポンコツ集団から、>国際テロやサイバー攻撃に立ち向かえる闘う組織へとたたき直していく。
一方でブッシュ政権の対テロにかこつけた違法な命令ゴリ推しに対しては、職を賭して拒否って、法治国家の越えてはならない一線を頑固に死守。
任期10年を超えて12年間FBIを指揮する。

──というのちの名長官も、9.11までたった1週間しかないんじゃ、
FBI局内のダメダメ状態を把握する余裕すらなかった。
モラー3世の就任が9.11直前にずれ込んだのは、前立腺がんの手術受けてたからで。

もしそれがなくてもっと早くモラー3世が長官になってれば、いやルイス・フリーみたいなアホじゃなくてそのときからモラー3世が長官だったら、いやもうそもそもセッションズ・ザ・無能なんかじゃなく──
言い出すときりがないけども、前任前々任のゴミ2人とあまりにも長官力が違いすぎるんで、そうも言いたくなるんである。

さらに同じ日──

9.11といえば欠かせない「あの人」もワシントンに還ってくる。



「んー、気持ちいい夏だった。ぼくはやっぱり筋金入りのテキサス人なんだな」
息子ブッシュ大統領、テキサス州クローフォードのブッシュ牧場で5週間のサマーバケーションをのんびーーーーーり過ごし、やっと職場ホワイトハウスに戻ってくる。

で、ホワイトハウスの主人が帰ってきたこの日、たまたまながらお歴々の並ぶ会議が。

「テロリズムに関する上級指導者会議プリンシパルズコミュニティ」

National coordinator for Security,
Infrastructure Protection, and Counterterrorism
Richard A. Clarke
対テロ調整官(兼 国家安全保障・重要インフラ防護担当)
リチャード・クラーク
1月のブッシュ政権発足時から対テロ調整官クラークが、すぐ開け早よ開けとせっついてた長官たち相手にテロ対策について議論する場がようやく与えられたんである。

Vice President
Dick Cheney
副大統領ディック・チェイニー
と
Secretary of Defense
Donald Rumsfeld
国防長官ドナルド・ラムズフェルド

Secretary of State
Colin Powell
国務長官コリン・パウエル

National Security Advisor
Condoleezza Rice
国家安全保障問題担当大統領補佐官コンドリーザ・ライス

Director of Central Intelligence
for the Central Intelligence Agency
George Tenet
CIA長官ジョージ・テネット
クラークとテネット的には、やっと訪れた機会にアフガン北部同盟への武器供与とビンラディン筆頭にアルカイダ指導部殺害を認める大統領令をゲットしたいところ。
が、このメンツをみるとなかなか道は険しそう。
このじじい↓とか

「ほかのテロ問題もある。その元も絶ちきらねばならん。
たとえばイラクとかイラクとかイラクとかイラクとか」

(トロール人形とおんなじかよ)

トロール人形→

─────── ウルフォイッツ副長官と呼べ失礼な!
とはいえラムズフェルドから建設的な意見が出ることなんて最初から期待してない。ペンタゴンの奥の院から引っ張り出して同席させてることに意義がある。
ラムズフェルドは息子ブッシュの覚えめでたく、NSCやCIAの動きは無視してやりたいようにやると広言してる厄介なやつなんで、ここで牽制しておきたかった。
そしてもう一人、

この場で最も権力のある‘史上最強の副大統領閣下’はというと。

リチャード・ブルース・“ディック”・チェイニー。
フォード政権で首席補佐官、下院議員、父ブッシュ政権のとき国防長官。政界のベテラン、外交無経験な息子ブッシュの後見人的存在。
息子ブッシュは、補佐官ライスよりもチェイニーの言うことをよく聞くらしい。
だが、

クラークの記憶だと、湾岸戦争のとき国防長官だったチェイニーは、多国籍軍編成のために根回し交渉するのをめんどくさがってたし、
国際テロリストの跋扈する新世紀では、いまやテロ対策はアメリカ一国だけでは無理で、国際間の協調は欠かせないのにどうもそのへん軽く考えてるような。
チェイニーがCIA本部を視察した際、国際テロのことはスルーしてイラクのことしか質問しなかったらしいし、あんまり公正な調整役として期待できそうもない。
息子ブッシュは大統領とは格式高く振る舞うもんだっつう信念があるらしく、長官より下の官僚とは直接話さず、つねに側近経由にして側用人政治をやろうとしていた。


そりゃみんなの意見を聞いて正しいのがどれか考えるより、側近にあらかじめ選択肢を二者択一くらいにしぼってもらった方がブッシュ的に考えんでもいいし楽だしね。
新大統領、本とか長文は読
ただし、その最も信頼厚い側用人たちがチェイニーはじめ下心だらけの連中、
という最悪の組み合わせ状態がブッシュ政権だった。
で、会議では案の定、
クラークとテネットに積極的に味方したのは、
比較的マシな国務長官コリン・パウエルのみ。

「タリバーンに影響力のあるパキスタンに圧力をかける必要がある。大統領ムシャラフはアメリカとよりを戻したがっている。カネが必要になるだろう」
もっとも、アルカイダ対策強化そのものには強い反対意見は出なかった。
テロがおきてるのは事実なんで積極的にノーとは言えないし、そもそも彼らは昨今のテロ事情に詳しくない。トロール人形とかの次官級とちがって決定権をもつ長官が下手なことを口走ったらそれが省の総意になっちまうんで、さすがに慎重。

のちクラークはこの会議を振り返って語る。
「もしこの日の上級指導者会議で、CIA(=テネット)が『米国内にはすでにアルカイダのテロリストが潜伏中』と明かせば、その後の展開はまったく違ったはずだ」
そうなれば、「いつかどこかで起こる」的なぼんやりした予言じゃなく、
具体的かつ今そこにあるアルカイダの脅威になるからだ。
緊急度は爆上げで、このまったりした長官たちの空気も一変してたはずだ。
クラークとテネットの仕事も格段にやりやすくなっただろう。




これまたクラークいわく、
「我々にはミレニアム警戒 *【ウルトラ 19機目】の経験があった。あのときと同じく全米の法執行機関を総動員して徹底的なアルカイダ狩りをやれただろう」
なのにテネットはハズミダル2人組のことをここでも明かさない。あれほどアルカイダ対策を訴えながら、その最大の説得材料になる切り札をポッケに隠したままだった。
事件激情世界のクラーク的には白鳥経由ですべて知ってるんで、
さも知らないようにふるまうのも腹立たしいかんじ。

「国務省とINS、FBIと密に連携して対処しています」*INS : 移民帰化局

(新人1人にしか捜査させない干渉と情報隠しを“密な連携”と呼ぶならそうだろうよ)
けっきょくテネットはこの場でもハズミダル2人組についてひと言もふれなかった。

そしてCIAの情報隠しが忌々しくも適法である以上、知らないことになってる事件激情世界のクラークがここで暴露するわけにはいかないんである。
クラーク、口に出さないがめっちゃ怒ってます。

つづいてクラークは「無人機ドローンのミニマム空爆」プランを披露。

無人機「プレデター」は現状、偵察にしか使われていない。
せっかくだから攻撃もやれる機能つけちゃえよ計画である。

これまではせっかくビンラディンの居場所をつかんでも、巡航ミサイルや攻撃チームが到達するより前にべつの場所へと移動してしまっていた。今どきのテロリストはフットワーク軽いのが最大の防御とわかってて、ちょこまかよく動きやがるんである。

そこでプレデターにミサイルを搭載。偵察して標的を視認したその場で即攻撃する。


まさにサーチ&デストロイ。



標的はソフトターゲット(=人間)だし、タイムラグもなく確実性も高いし、でかい巡航ミサイルや特殊部隊よりコスパもいいし、周辺の巻き添えも(比較的)減らせる。

「プレデターは偵察が本業ですが、ペイロードに余裕があり、ヘルファイア対戦車ミサイル2基を装備して航続距離は2300マイル*3700km以上です」

「しかも操縦は衛星経由なので、パイロットは米国内にいながら遠隔操作できます。
仮に撃墜されても無人機なので人的損失はありませんし、タリバーンのような捕虜扱いに問題のある敵対勢力にバイロットが捕まるリスクもなくなります」
インパクト大のこの案は予想どおり激しく批判される。
とくに国防総省@ラムズフェルド、さらにCIA@テネットが難色。

「軍人以外の文民が交戦に加わるのは法的にも如何なものか」

「準軍事的な行動だ。CIAがこういう武器を使うのは間違ってる」
っつう反応は想定内で、クラークは「慎重派」のテネット長官や工作総本部長ジム・パビットを通さず、「主戦派」テロ対策センター長コファー・ブラックやビンラディン問題課長リチャード・ブリーと直で話し合って、武装無人機の計画を進めている。


ブラックとリッチBもまたハズミダル情報を隠蔽してる点ではテネットと変わらんが。それはそれと割り切って、無人機ではテネットを外してこの2人と組んだ。

(ま、これがワシントンだ)
さて、お互いプロとして認め合ってるクラークと白鳥が、ほぼ唯一しかし絶対的に相容れないのが、このテロリストに対する軍事行動の是非。
警察官の白鳥は、あくまで捜査機関による逮捕>裁判にこだわり、
クラークは軍事力で抹殺するのもやむをえないと考える。
ユリコの言う、テロリストを「犯罪者」から「敵国」に格上げすべきじゃない、
という理屈も分からないでもないが……。
とにかく無人機計画にコワモテコファー・ブラックを巻き込んだのは正解で、


「2004年メドに実用化? 遅いッ。今年12月までに前倒しだ!」
持ち前の圧の強さで米空軍をせっつき、無人機武装化はさくさく進んで、
実はあとちょっとで実戦投入もできるくらいまで仕上がっていた。
6月にはネバダ砂漠の実験場で、模擬ビンラディン邸を破壊するテストも成功。
「いずれにせよ発進基地となる予定のウズベキスタンとまだ武器搭載に合意してませんから、すぐにというわけではありません」

「まだ解決すべき課題が多いのは事実ですが、メリットの大きさを考えるとシステム開発まで否定してしまうべきではありません。じっさいの運営には空軍との連携が不可欠ですし、勝手に投入するわけではありません。ひとまずアルカイダ向けに偵察目的で導入し、状況をみつつ見直していくということで」

「たしかにそのとおり。わたしには異存ありませんが、皆さんは?」

「ま、現状それでいいんじゃないかな」

「そうですね、ええ」

「まあ、今後の状況しだいだな」
のちこのドローンのミニマム空爆は、アフガン内戦、イラク戦争を経て、
対テロ戦争の主役にまでなるんだが。
「ではこれで散会」

「ミスタークラーク。ちょっといいかしら」

「あなたに、国家安全保障大統領令に載せるアルカイダの項の作成を任せます。
わたしに送ってくれれば、大統領からサインをもらいますから」

「分かりました、すぐ提出します」
ようやく分厚い暗雲の向こうからちらりと垣間見えた好転の兆しの気配の匂い。
が、
なにもかも遅すぎた。

Eisenhower Executive Office Building
NSC(National Security Council)Secretariat
アイゼンハワー行政府ビル 国家安全保障会議@NSC事務局
「ライザ、ユリコの言うハイジャックの件だがどうだ?」
Lisa Gordon-Hagerty
ライザ・ゴードン-ハガティ


「スカイマーシャルの現状を確認しましたが、かんばしくありません」

スカイマーシャル@連邦航空保安官
旅客機に一般客のふりして乗ってる武装保安官で、世界でハイジャックが相次いだ60年代にはじまり、以後、民営になったり、連邦職員になったり、予算不足で廃止されたり復活したり増員されたりめまぐるしく変わった。
で、2001年現在のスカイマーシャルはというと──
「昨今の連邦業務の民営化の流れもあり縮小傾向で、
現行のスカイマーシャルはぜんぶで33名です」

「33名? たったそれだけなのか? 毎日数千機が北米の空を飛んでいるのに?」

「しかもそのうち多数が年金支給期限で退職する予定です。まもなく完全に廃止されて、各航空会社の自主運営に切り換えるのが既定路線になってますね」
「喉元すぎれば、か」
90年代に入ってゲリラによるハイジャックも激減。1人1機しか受け持てないからコスパ悪く、なにかと「要らない子」されがちな航空保安官は真っ先に削減対象になる。
しかしここまで弱体化しているとは。増員するにしてもすぐには難しい。飛行中の狭い機内で機体や乗客に害なく犯人を制圧する特殊技能はやたら育成に時間がかかるし、警官や軍人を連れてきて頭数そろえとけばよしってわけでもない。
対して白鳥からもたらされた「大きな声で言えないレア情報@おそらくネタ元はヨルダン人脈」によると、ハイジャックは今すぐにもおきそうなのだ。

「まずいな。なにもかもが悪い方へと循環している」
「ところでディック、あなたのニューヨーク行きは明後日からでしたよね」
「そうだが、どうした?」

「ユリコから、ニューヨークへ来るならミスターオニール交えて話したいとメールが」
「オニールも?」
「彼女、なにか考えがあるようです」

一方、相変わらず雨なニューヨーク。

New York University Medical Center
ニューヨーク大学付属医療センター

「いま手放せない任務があるから今すぐ手術はできない。でも死にたくはないから任務の目処がついたら受けるつもりはある」


「それまで脳出血がおきないように延命する方法があればやってほしい。
ただし、」


「現場を長期離脱しなけばならない入院はまだできないのでそれ以外の方法で」

「ミスシラトリ、あなたの要望はこういうことだという理解でいいのかしら」

「えーと、はい、だいたいそんなかんじです」

「なるほどなるほど」

「ってそんな無茶苦茶な要望が通るはずがないでしょう! 真剣に考えなさいっ」

「真剣に考えてお願いしてます。無茶なのはわかってます」
「ご家族の意見は?」

「家族はいないんです。あ、それに限りなく近いかなという存在はいちおう。
あ、でもわたしが勝手にそう思ってるだけで向こうはさほどではないかもし
れませんがでもそんなかんじかもしれな

「あなたは冷静とは思えない。その人でいいから客観的な意見をもらうことね」

「その人に打ち明けたとき、どう答えられるかは分かりません。でもどっちにしてもその人がのちのち激しく後悔することだけは分かります」

「手術を勧めても、わたしを大切な任務から引き離したと悔やむでしょうし、任務を選ばせても命をないがしろにしてしまったと悔やむだろうし。

だったらあいつこのヤロ隠しやがってと怒ってくれてたほうがいい。
だからその人には言えないというか

「ミスシラトリ。あなたの今いるこの建物はなんですか?」
「えーと、病院?」
「そうです、病院です。疾病を治したい人の来る場所です。
そのような態度では当院は協力できません」


「………」


「そこまで大切な任務とは何ですか?」

「アメリカを救います」


「あっ、違うんです! いやその、過程を大幅にハショッたんで頭痛い子みたいに聞こえますが、わたしのオフィサーとしての働きで結果的にそうなるというか……」

「自分しか出来ないプロジェクトがある。
自分が抜けたら事業が成り立たない。
そこに座る皆さんそう言うわ」
「ええ分かります。でもこれは本当の本当にわたしじゃないとできないんです」


「どうかわたしに力を貸してください」

「どんな任務なの?」
「言えません」
「内容を知らなければ、こちらは納得しようもないでしょう」

「言えません」

「…………」


「約束してください。必ず3日ごとに診断を受けること」

「気休め程度だけど、降圧剤と抗血小板薬を処方しましょう。もしわずかでも異変を感じたら、すぐここで適切な処置を受ける。そのときは今回のように拒まないこと」

「もう感謝しすぎで泣きそうです。我がままに巻き込んでしまってすみません」

「それと、この判断は自己責任で、あとで病院や医師を訴えない、
という書面にサインしてもらいますから」

「……胸熱になりかけたところで、けっこう生々しいっすね」

「訴訟大国なめんな」
一方──

対テロ特捜班の諜報捜査官ロバート・フラー(新人)
しかたないんでフラー(新人)はアルミダルおよびアルハズミが入国時に記入した滞在先の「ニューヨーク・マリオット」を当たることにした。
が、

「えーっ、マリオットって市内だけで9軒もあんのー?」
ロブ・フラー(新人)はぶつぶつ言いながら雨のニューヨークを右往左往するが、けっきょくそういう名前の宿泊者はいなかったし予約したこともなし。ウソでしためんご、とわかっただけ。とうぜんどこへ行ったかもわかるはずもなく。

「ひーん、こんなんイジメやん」

「はあー、FBI捜査官ってもっとスマートでカッコイイと思ってたんだけどなあ」
さらに同日──
Florida
フロリダ

モハメド・アタ、フェデックス便をUAE@アラブ首長国連邦へ発送する。

受取人名「ムスタファ・アーメド・アルハサウィ」
ビンラディンの金庫番と呼ばれる男である。
のちアタが9.11前夜に宿泊したホテルのゴミ箱から発送伝票が見つかった。


中身は、筋肉メンフェイズ・バニアハマド名義のクレジットカードと小切手帳だった。

9月4日はこうして暮れゆく。


「いやーちょっと前までソーホーにふさわしいクールな部屋だったはずなのに、」

「日に日に日本の家と大差ないかんじになってるんですけど、なんででしょうね」

「うーん無理矢理ちゃぶ台置いたせいかしらん。
やっぱりどこに住むかじゃなくて誰が住むかなんですね」

「じゃ、わたしはこれから膨大な紙くずの山を解析しなきゃいけないんで」

「はいはい休みますって。それでは」

「さてと気付けに1杯──う、アルコール厳禁されたんだった。
カップヌードルも食うなって言うしさ」

「じゃ、どう栄養補給すればいいんだよ!」

「スティービー、がんばってファクスくれたのはいいんだけどさー。次の日アラビア語講座受けにニューヨークへ戻るんだから持ってきたほうが早かったんじゃね?」



「んー」




「日用品や飲み食いの現金払いのレシート……」



「フライヤー、割引クーポン券……」



「さすがにつぎの潜伏先とか計画とかバレるものは残さないわな……」


「ありゃ?」


「あーあー、まーねー、ジハード戦士も男の子、か」

「こりゃ白鳥史上、最難度の解析なのかも……」

「そして最後の解析…だったりして」


「ほんとにこの中、破裂しそうなのかねー」

「っておっと、血液サラサラ剤と血圧下げる剤飲むの忘れるとこだった。
またドクターに怒られちまうよ」

「あれ? 1回何個飲むんだっけ? えーと、処方箋は、と」

「あれ処方箋どこいったっ! ないっ! 処方箋どこ?」
アタのフェデックス便をはじめとして、この日から9.11前夜までに、


米国内の飛行機計画メンがつぎつぎと口座に残るカネをUAE@アラブ首長国連邦にあるアルカイダの口座へと振り替える手続きをし始める。

余った軍資金の返却が始まったのだった。
かっつかつでやってるアルカイダは一銭もムダにできないんで、
残ったゼニは返せ(どうせすぐみんな死ぬからいらんだろ)という命令だった。

まあセコケチくせーというか、しゃーない、アルカイダも金欠なんで。

そういう軍資金返却の動きのひとつが、

白鳥の張り巡らせた妖怪アンテナに引っかかった。

「そりゃ夜中に電話で1回何錠でしたっけ、じゃドクター怒るよな」

「ぬーむ、警視にも手術のこと言えなかったぜ」
【ウルトラ ニューワールド之章 第24便】へとつづく








- 関連記事
-
- 【事件激情】ウルトラNW : 第25便【911アメリカ同時多発テロ】
- 【事件激情】ウルトラNW : 第24便【911アメリカ同時多発テロ】
- 【事件激情】ウルトラNW : 第23便【911アメリカ同時多発テロ】
- 【事件激情】ウルトラNW : 第22便-続【911アメリカ同時多発テロ】
- 【事件激情】ウルトラNW : 第22便【911アメリカ同時多発テロ】
| 事件激情 | 20:32 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑