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【事件激情】ウルトラ : 2機目【シモヤマ インシデント】

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お山の中ゆく汽車ポッポ
ポッポ、ポッポ黒いけむを出し
シュシュシュシュ白いゆげ吹いて

──『汽車ポッポ』作詞・作曲 本居長世




u02ごぜん

7月6日 水曜日

午前零時20分──


u02にじゅっ

国鉄869貨物列車操車場を8分遅れで発車していた。
運転士が寝過ごしたんである。

すでに電動機関車も活躍してたが、馬力はまだまだデゴイチことD-51蒸気機関車。
エコ?CO2?なにそれおいしいの?


u02こくてつはち

運転士は遅れを取り戻そうと速度をめいっぱい上げていて。

u02はつでんき 
発電機が不調で、予備の蓄電池じゃヘッドランプはたった10ワット程度、
線路もほとんど見えやしない。

さらに蒸気機関車D-51は轟音の尾を引きながら走るわけで、

u02どっしゅこ

ドシュコッコ、ドシュコッコ

u02ぶおー

ブオオオオオ 

uときわ

ドッシュコッコ、ドッシュコッコ

さらにさらに雨も激しく、

u02ごとんがたんごと

ゴトンガタンッ、ゴトンガタンッ


uがーどした

荒川鉄橋を渡るとすぐ、常磐線のレールは東武線と交叉するガード手前で、
ゆるゆるゆる東へとカーブしていく。

u02ひがしへと

昼日中でも前方視界がめっさくそに悪く。
ガードの向こうの様子は、ガード直近に来ないと見えないんである。

しかもD-51はその形から、運転士はでかいボイラーのせいで左の前方しか見えない。右前方は死角。それ補うために助手がいるんだが、視界超悪しは同じ。

しかも線路に敷き詰めてある砂利がはね上げられ、
デゴイチの底面ではじけてカンカン音を立てた。

uそこに


だから、その瞬間に、


u02そのしゅんかんに


"それ"が、線路上にどんな状態でいたのか、


u02たって


立っていた? 横たわっていた?


u02みえなかったし


まったく見えなかったし。


u02ぱしゅっ ぱしゅッ

"それ"とぶつかったことすら、

u02やまもとうんてん

運転士も、助手も気づかなかった。


 
u02ウルトラロゴ02 
uがーどした 
u02ウルトラロゴシモヤマ

下山事件の背景と経過、警視庁による捜査は公開された情報にもとづく。
平塚八兵衛はじめ黒字の人名は実在の人物だが、
一部の会話や行動はちっとばかし変えられている。
またこの色の名前は、架空の人物である。




u02cptせんりょうとしの

と、ここで時計が、東武線ガード時点から19時間ほど巻戻りまして──


──7月5日 火曜日

u02かようび

──午前7時

6月に就任したばかりの初代国鉄総裁下山定則
いつものように起床。家族とともに朝食をとる。

今日は名古屋大学に行っている長男がひさびさに帰省するんで、
その話も家族団らん的に少ししてみたり。


uじだい

──午前8時20分

大田区上池上町1081番地の自邸を出て、丸の内国鉄本庁へ向かう。


u02そうさいせんよう

総裁専用車ビュイック41年型総裁専属の大西運転手@国鉄職員。

本来は国鉄の制服着て運転するんだけども、ときがときだし、下山総裁から「制服は目立つから私服で」と言われて、スーツないんでしかたなくジャンパーだった。

空襲の爪痕もちらほら横目に入れつつ旧帝都ビュイック走る。
モータリゼーションなんてまだずっと未来の話なんで、行き交う車も少ない。

下山が出かける前に読んだかどうかわからんけども、
新聞各紙はきのう発表されたニュースが一面トップに。
 


u02だいいちじじんい

国鉄、3万700名 解雇を通達

占領軍進駐軍の経済顧問ドッジの「緊縮財政」勧告を受けた吉田茂内閣は、多すぎる公務員の人件費を削減すべく行政機関職員定員法を成立させ、

公務員300万人のうち42万人をクビ、
国鉄62万人のうち12万人をクビ、
という大ナタぶるんぶるん振るいを決定する。

なかでも最大の難敵が、国鉄こと日本国有鉄道労働組合。

u02だいいちじ

国鉄運輸省の国営事業から切り離され、この年6月公社として誕生したばかりで、
まず9万5000の職員を整理つまりクビにすることに。

国鉄初代総裁になるってこと=この大量クビ切りをやれってことで。
そんな損なだけの役回り、誰もなりたがらない。

最終的に貧乏くじ引くハメになったのが、運輸次官下山定則。
もちろん速攻で拒否ったけども立場からして断り切れずしぶしぶ受けた下山である。

u02にたいして 
に対して、とうぜんながら国鉄労組の反発は必至。

国鉄労組GHQの容認のもとタケノコのごとく増えた労働組合のなかでも最大最強最強硬、左派勢力の牙城。だからこそここを一番に陥落させることが、GHQ日本政府の必勝戦略だった。

さっそく福島ではクビ対象の組合員があらぶって、
警察署が占拠されるムチャな騒ぎも起きたばかり。


事件当時の空気はそんな殺伐なかんじで。


と、説明してるあいだにビュイックは、Aアベニュー@第1京浜国道から日比谷通りに入って、御成門までやって来た。

u02さとうさん

──午前8時39分

佐藤さんのところへ寄るんだった」

"佐藤さん"は運輸省の先輩佐藤栄作のことと思われ。下山東鉄局長のときに運輸次官で、このときはもう政界に転身していた。のちの総理大臣である。


u02またにし 
「またにしよう」


──午前8時45分 和田倉門ロータリー

国鉄本庁もこのあとすぐ、まで来たとき、

とつぜん、

「買い物をしたいから、三越へ行ってくれ」

u02かいものを

「ぶつぶつ役所10時までに入ればいいんだぶつぶつ」


というのは下山が嘘こいたか、記憶違い、
この日、午前9時国鉄本庁局長会議に出席することになっていた。

GHQからせっつかれてる第二次クビ切りを会議で話し合い、
午前11時にはGHQに報告に行く予定だったんである。

u02おおつかひしょ 
なので、いつもと同じく、大塚秘書午前8時45分から
国鉄本庁玄関前で待ってるんだが。


u02しらきやでも 
白木屋でもいい」

なんか当人はぜんぜん国鉄本庁に向かおうって気配もないみたいなんですけど。

日本橋まで来たんだが、朝早すぎて、三越白木屋もまだ開店前。

u02くじはん 
9時半開店ですね」
「うん…」
役所に参りましょうか」
「うん」

が、常盤橋まで来ると、

u02かんだえき 
神田駅へ回ってくれ」

で、ぐるりと回って神田駅まで来て、

u02おおりに 
「お降りになるのでしょう?」

u02いやみぎ 
「いや」

u02みつびしぎんこうへ 
「右へ回ってくれ」

u02なぞのめいそ 
三菱銀行へ行ってくれ」「もっと速く走れんか」

のち有名になった謎の都内ぐるぐる迷走である。

「もっと速く走れんか」はちょうど国鉄本庁の前に差し掛かったときで、遅刻なおかつ通りすぎる総裁専用車国鉄関係者に見られたくなかったと思われ。

u02くじはん 
この朝、下山のやることなすことまー支離滅裂なんだが、忠実という言葉にぴったりの人を連れてきてくれと言われたら連れて来られるくらいに忠実な大西運転手は、忠実に言われたとおりにする。


──午前9時5分 三菱千代田銀行本店

u02このころみつ

この頃、三菱銀行財閥解体で、三菱を名乗れず千代田銀行と改名中だが、みんなそんな名前で呼びゃしない、三菱三菱だった。

三菱銀行に入った下山は、大西運転手を20分くらい待たせてからビュイックに戻り、

u02これからい 
「これから行けばちょうどいいだろう」

大西運転手は、この行け国鉄本庁に行けでなくて、最初の行け三越に行けってことだろう、と忠実に察して、また忠実に日本橋方面へ。


──午前9時30分

毎朝9時には登庁するはずの総裁がいまだ来ないんで、
大塚秘書、さすがに焦れて下山邸に電話。

u02しもやまはいつ01 
「あら、大塚さん、おはようございます。え?」

u02しもやまはいつ02 
下山はいつもの時間に出ましたけど?」

几帳面な下山が、なぜかこの朝、電話のひとつも国鉄本庁に入れないまま、
何ってこともなく遅刻、予定もすっぽかしていた。


u02すっぽかし

──午前9時35分

三越日本橋本店南口 上得意様専用の車寄せにビュイック到着。

「なんだ、まだ開いてないのか」
「もう人が入ってますよ」

u02ごふんで 
「5分で済むから待っていてくれ」

カバンを車内に置きっぱなしの手ぶらで店内へ。

u02せいぜんの

──午前9時37分

これが、生きている下山下山として確認された最後の時刻


それきり、下山は行方不明となる。


u02みつこしてんない 
とはいえこのあと、三越店内で少なくとも3人の店員が、下山らしい人物を見ている。

下山らしい人物は、1階の売場を行ったり来たり、
とくに何か買おうってわけでもなく、化粧品売場や履き物売場をうろうろしたあとで、

u02あんないじょう 
案内嬢10時15分頃、地下道の方に階段を降りて行かれました」

u02うしろから 
案内嬢「後ろからひと足おくれて、2、3人の男の方が、やはり地下道の方に降りて行かれましたが、この方たちがお連れ様であったかどうか、私にはわかりません」

この案内嬢の目撃証言がのちのち、陰謀論の根拠の一つにされる。


さらにそのあと、

u02ちかてつぎん

──昼12時

地下鉄銀座線 渋谷発浅草行

乗客痛でッ

u02いで 
下山似の男に足を踏まれてにらみつける、

u02かいものを 
が、
謝りもしないし、なにか考えごとしてるような、なんも考えてないような…

(へんな野郎だ)


これと同じ正午頃、国鉄から「総裁ゆくえふめい」の急報を受けた警視庁
失踪人の地位が地位、時期が時期なんで、
制服私服ともわさわさと出動、下山総裁を捜し始める。


そんな騒ぎをよそに──

u02しゅうてん 
銀座線の終点浅草駅西口

靴磨きのおっちゃんが"下山似の紳士"を見かける。

ちなみに、この浅草駅で地下鉄を降りると、
日光方面へ向かう東武伊勢崎線に乗り換えることができるんである。

そしてこのあと、やっぱり東武線に乗ったらしい。


次に"下山似の紳士"が目撃されたのが、

──午後1時45分

東武伊勢崎線 五反野駅

「このあたりに旅館はありませんか」

u02せいさんかか 
駅員@20歳「この先、橋のたもとに末広旅館というのがあります」


u02すえひろり

──午後2時頃 その末広旅館

u02ろくじごろ 
6時頃まで休ませてください」

u02すずしいで 
2階客室の窓に腰掛けて、「涼しいですねえ、水を一杯ください」

女将長島フク@46歳が宿帳を差し出すと、

u02かんべん 
「それは勘弁してくれ」


──午後5時

国鉄下山総裁失踪を発表。
報道を聞いて誰もが「国鉄のクビ切りがらみ?」と連想した。


ちょうどこれと同じ日、

u02かどのたく 角野卓三じゃねーよ

首相吉田茂国家地方警察斎藤昇長官の罷免と長官交代を要求、
に対して国家公安委員会がこれを公式に拒否。
に対して増田官房長官が記者会見で拒否を批判。

政界と官界がGHQまで巻き込んでガチンコ激突、
ギラギラの権力抗争も勃発してる真っ直中での、

大量クビ切りを発表したばかりの国鉄総裁失踪、またもやキナくさい事件発生だった。


その頃、忠実を絵に描いた男のなかの男大西運転手はというと、

u02そうさいせんよう 
忠実にもほどがありすぎで8時間くらい三越南口の車内で待ってるんだが。

ラジオで「下山総裁失踪す」のニュースを聴いて、

慌てて三越に飛び込んで店内放送を頼み、下山がよく行っていた三越劇場ものぞいて。
もちろんいない。顔面真っ青で国鉄本庁に電話。

これが午後5時半過ぎ──

警視庁から捜査員が駆けつけ、三越周辺日本橋界隈で聞き込みをはじめた。


u02すえひろり 
──なんて大騒ぎもまだここへは届かず。

u02しもやまにのし 
"下山似の紳士"は、3時間もひとりで何やってたのか、
2階から降りてくると、宿賃200円とチップ100円を古い100円札で払って、

u02そのあともしも

その後も、"下山似の紳士"は、目撃されつづける。

末広旅館から1キロほど南へ下った、

uがーどした 
東武鉄道伊勢崎線国鉄常磐線の交叉する例の「東武線ガード」付近、
だいたい300m円内のあちこちで。
17人もの人々が彼を目撃した。

今でこそ東武線ガード界隈は、公園や住宅地なんだけども、当時は五反野まんまやろの地名どおり、田畑がほとんどで、あとは民家がちらほらと、ってかんじだった。
さらに線路の南側は小菅刑務所の塀が延々と黒々して、寂しさもひとしおである。


u02えびかに 
──午後6時

どぶ川でエビガニ(=ザリガニ採りの父子@36歳+5歳が、
ガード近くの土手をうろうろする"下山似の紳士"を見かけ、


u02つづいてとうぶ 
つづいて東武線ガードから150mくらい北の隧道「東武線トンネル」近く

銭湯に行く途中の父娘@38歳+9歳
土手下のあぜ道からトンネルへ向かう"下山似の紳士"を見かけ、

u02たかそうなくつ 
(お、上等な靴だなあ)

u02なんかにらんで

(なんか睨んでくるぞ、なんなんだ? クツ見ちゃいけねえのかよ)


u02つづいてとうぶ 
つづきまして、畑仕事中の夫婦@45歳+40歳

u02はたけしごと 
(なにやってるんだろあの人)

下山似の紳士ガード下とトンネルの間をふらふら行ったり来たり、


u02ごごろくじ 
──午後6時半

u02えびかに 
ふたたびエビガニ(=ザリガニ採りの父子
あと@8歳義妹@15歳加わりました。

(あれ、まだいるのか)

u02たばこを

エビガニ父「ええ、その人、鉄塔のそばで、タバコを吸ってました」

義妹@15歳「悲しそうな顔で、線路の方を見ていました」


つづいて近所の主婦@43歳@怒られるけど線路脇歩いてショートカット帰宅中が、

「その人は畑のところでぼんやり立ってました。
じっと見てると、そのうちしゃがんで、

u02からすむぎ 
草の葉むしってました。カラス麦の」


──午後6時50分

u02みなとく 
港区役所赤坂支所職員@37歳
(線路歩くなんて危ないな。それも列車の来る方に背を向けてるなんて)

u02いのちしらず

(命知らずなやつだ)


u02わんこさんぽ 
わんこ散歩中の主婦@51歳
(あー、線路歩いとる、あぶないねえ)

u02せんろあるく 
(ふらふらしてる。酔ってるのかね)

u02あっあぶ

(あっ、あぶないっ)

u02わんわんわん

わんわんッ

u02ふうよか

(ふう、よかった)

「その人はガードから2本目の電柱に寄りかかって汽車を避けてました」

それと同じ場面を、

わんわんッ

u02おなじばめん 
その真ん前に住む若者@20歳が、20mくらい離れた家の縁側から見ていた。

2人の見た汽車は午後6時58分ガードを通過した889貨物列車と思われ。


──午後9時

もうこの時間になるといくら夏でもさすがにとっぷり夜である。

u02けいむしょの

「その人は、刑務所の裏道をぶらぶら歩いてきて──」

u02なにあのひと

(なにあの人)

u02きみがわる 
(気味が悪いなあ)

地元の女性2人@33歳&20歳が目撃

さらに、

──午後10時過ぎ

この目撃のときだけ、"下山似の紳士"は鉄橋を渡ったらしく、荒川の向こう岸にいた。

u02あらかわどて

常磐線下り263貨物列車助手@43歳
荒川土手踏切警標の陰に立ってました。はい、洋服の立派な方で」


「背広つまりスーツ上下、上等な靴、七三分けの髪、ロイド眼鏡、立派な男性、社長のような人」←東京辺境の田んぼには違和感ありすぎの格好だった。

一億総中流意識なんてまだまだまだはるか未来な話で、庶民とアッパーミドルの越えられない壁は高く、見た目でどのカテゴリーの人間かたやすく見分けられるような時代。

だから目撃者たちの記憶に"立派な紳士"はけっこう強く刻まれたんである。

ある予感とともに。


──午後11時

雨が降り始める。
さらに目撃はつづく。

u02せんとうがえり 
銭湯帰りの母娘@43歳&11歳
(こんな夜遅く、雨降ってるのに──)

u02なんであんな 
(なんであんなとこに立ってるんだろ)

u02じてんしゃで 
──午後11時30分

自転車で帰宅中の住民@32歳

u02がいとうのした

「その人は街灯の真下にいたので、顔はよく見えません。
家に帰ってまた見ると、その人は雨に濡れながら、西の方へ歩いて行くところでした」

u02そのしんしは

午後11時30分。これが"下山似の紳士"の目撃された最後の時刻。

やがて雨はどしゃ降りになった。

uがーどした

そして日付が変わり──

u02ひがしへと

──午前零時20分

u02みえなかったし 
u02ぱしゅっ ぱしゅッ

その6分後──

国鉄常磐線最終電車 上野松戸

u02こちらはいち 
こちらは1キロワットの強力ヘッドランプなので運転士にも"それ"が見えた。

u02それがみえた 
「おっ」

次の綾瀬駅で停車すると、

u02おんなのまぐろ 
東武線ガードのそば、女の"マグロ"があったぞ」

「あーあまたか」「こんな雨の夜に」「帰れねえなあこりゃ」

鉄道マンはこういうのも対応しなきゃいけないんで大変である。

あのガード下、見通しがよくないんで自殺の名所化してて、
しょうじき駅員の悩みのタネ。

u02どこだあった 
「どこだ」「あった、そこ、あ、あっちにもこっちにも」

「うわー、こりゃひでえな」
「女じゃない、これ男だよ。大雨でふやけたんだよ。土左衛門みたいだ」

「身元、わかるか」

u02おせびろ 
「お、背広のポッケから名刺が出てきた。……しもや…まッ


──午前2時過ぎ

u02なかがわ 
「えー、こちら五反野南町駐在所の、中川巡査であります。

足立区五反野南町938番地国鉄常磐線東武線ガード近くで轢死体です。綾瀬駅から通報がありまして。汽車にはねられたようであります。
それで、所持品から下山さんではないかと──」

u02どこのしも 
「は? どこの下山さんって……だから 失踪中の! 国鉄総裁の!


──7月6日 水曜日

1949年@昭和24年


u02けいしちょうと 
──午前6時
警視庁東京地検から50人がぞろぞろやってきて、小雨のなか現場検証が始まる。


エビガニ息子@5歳「ねー見てー、昨日のおじさんがいるよー」

u02きのうのu02きのうのお

目撃証人のうち、"カラス麦"おばさんは早くも6日早朝に南町駐在所に「ラジオの二ュースでやってる下山さんらしい人をきのう見かけた」、夜にはエビガニ父義妹千住新橋派出所に「下山さんと似ている人を2回、現場近くで見た」と届け出た。


"……ラジオニュースの時間です。
綾瀬川の鉄橋付近に下山さんの死体らしいものがあがったそうですが。
これ、下山さんの死体ですか?」
「はあ、それは間違いないです」
死体の模様はいかがでしたか」
「そうですなあ、まあ、だいぶ…あー轢死でありますから、ちょっと壊れておった」"


u02くうしゅうじゃ 
大田区上池上町

「このへんって空襲じゃ焼けなかったんですねえ」

u02げんばけんしょう 
「あのー、現場検証、手伝わなくていいんですか?」
「いま見るべきもん見たからいいさ」
「えー、いつもブツがすべてってうるさいのに」

「いいって。課長関口さんも目を皿みてえにしてるし。雨だしよ。今はこっちの方が大事だ。雨だし。一報を聞いてすぐの反応を見たいんだ。雨降ってるしよ」
「つまり雨がいやなんですね」

u02いいかかね 
「いいか、金井。こういう高級な界隈に来たらな、
"奥さん"と言うんじゃないぞ、"奥様"、ってな、をつけるんだ。

反対に下町に行ったらな、"奥様"はダメだ、"奥さん"もダメだぞ、
"おかみさん"って言うんだぞ。どうだい、おかみさんよぉってな」

「そうだ、このへん、淡谷のり子のお屋敷とかもあるんですよね」

「てめーこら金井人の話、聞いてんのか
u02てめーこら 
平塚八兵衛@刑事一代 昭和事件史

警視庁捜査1課 巡査部長


のち伝説の名刑事、このとき35歳


u02おくさましんつう

「奥様、ご心痛お察しします」


u02しゅじんはじ 
「主人は、自殺するような人ではありません」

u02そうさにはぜん 
「捜査には全力を尽くします」


u02いやーこく 
「いやー国鉄総裁の奥様ともなると、気丈でしゃんとしてますねえ」
「うーん」

boypeep.jpg 
「ん?」

u02うーん 
「…………」

u02なんだあの 
(なんだあの女)

u02どっちで 
「どっちでしょうね。他殺自殺か」
「ま、今んとこ半々だな」
「自分は他殺だと思います」
「なんでだ? 理由は?」

「え、いや、だって、ほら、下山さんは3万人もクビにするんで労組ともめてたでしょう。このあいだは組合の連中が福島警察署占領したり、脅迫まであったっていうし。他殺じゃないって考える方が無理ありませんか?」

「バカやろ、そういうの予断っつうんだ。はいその通りでしたなら警察いらねーだろ」

u02いいかかね 
「たしか東調布署が昨日から家族の警護に付いてたんだよな。
金井、それ誰か調べといてくれ。あとで話聞きてえ」

u02そんとき 
「そんときのあの奥さんの様子とかな」

「あれ? ""つけないといけないんじゃ?」
「いーんだよ、本人がいねーとこじゃ! こまけーことガタガタ言うなばーろー!」


下山事件特別捜査本部 第1回捜査会議

u02そうさかいぎ 
「機関車にはねられ、車輪に巻き込まれて、轢断されたと思われます」

現場で確認された遺体は、頭部、右腕、左足首、右足首、胴体。

頭部は粉砕、顔面の表皮ごと剥離し、脳も脱離。

これらは鉄道の轢断事故では珍しくない現象だそうです。

そのほかの部分はバラバラで、線路上の85mにわたって散乱。細かなものは雨で流されてしまったようです。

u02いるいは

衣類は車輪に巻き込まれた際にはぎ取られたとみられ、靴、上着、ワイシャツ、ズボンが現場に落ちていました。いずれも損傷が激しく、血と油らしいものがぐっしょり染みこんでいます。
ネクタイ、下着、ロイド眼鏡が見つかっていません。

どしゃ降りだったこと、最終電車後も現場封鎖の前に貨物列車が何本か通過していますから、吹き飛ばされ、水田に沈んだものも多数あるようです。

ちなみに衣類の一部は、水戸機関区やはるか遠く福島県平駅で見つかった。
ロイド眼鏡は、現場周辺の草を刈り、電波探知機まで駆使して捜索されたが、
いまにいたるも見つかっていない。


下山総裁轢断した列車は、発見される6分前零時20分
現場を通過した869貨物列車と思われます。

u02きかんしゃで 
機関車D51水戸機関区で分解調査するということで、
平塚金井の両捜査員が出張してます。

「右先輪の排障器が、後ろに曲がって先輪にくっつくほど変形してますね。
まずこの部分にぶつかり、そのあと車輪に巻き込まれたんでしょう」

u02しゅっちょう 
「うわー」
「おう、金井、どうだ」
「油と、うわ、これ肉? ひーっ」

u02こらかない 
「ひーじゃねえや金井、おめーもっとちゃんと見ろよ隅々まで」
っさん、なんでぼくばかり油まみれなんですか」
「バカやろ、経験あるおれは重大な上部分を見てるんだ」

u02げんばけんしょうは 
現場検証は監察医務院八十島先生が来られまして。
轢死体をこれまで百体以上検視されたベテランで、

他殺の疑いはなし」

しかし死者の社会的な立場やいまの情勢からして、確実な結果を得るために法医解剖に回すのもいいんじゃないか、と八十島医師みずから提案、

というわけで、

u02とうだいほうい 
東大法医学教室法医解剖をお願いしております。

u02とうだいほういがく 
法医解剖の指揮は、日本法医学の権威 古畑種基教授

u02しっとういは 
執刀医は桑島直樹博士

「轢断面に生活反応が見られない」

u02かいたい 新装版 解体新書 (講談社学術文庫)

死後轢断である」

つまり、はねられて死んだんではなく、
はねられる前からおまえはすでに死んでいる、

死んでたら自分で歩いてそこまで行けないんで、
誰かが死体を運んで、線路に置いた。

つまり──

この「古畑鑑定」の死後轢断認定が、
延々と半世紀以上にわたってつづく陰謀論の引き金になるんである。


u02じたさつろんそ 
下山事件自殺他殺かについては、当時から今にいたるまでマスコミおよび一般大衆の空気、さらに日本政府GHQまでふくめて他殺が圧倒的で。
自殺派はつねに劣勢。自殺が主流になったことは一度もない。

事件当時の容疑者候補は、共産党国鉄労組内の武闘派。

自殺をとなえてるのは、犯人認定されそうな共産党だけだった。

GHQやらキャノン機関やら亜細亜産業やらCICやらKGBやら白洲次郎やら陰謀的な悪玉が、他殺論の主役として脚光あびるのは、も少し未来になってからである。


u02じたさつろん 
事件直後から他殺を推しまくったのはマスコミ各社
なかでも常軌を逸する圧倒的な勢いでそれを牽引したのがこの男

「よし、ありったけのルミノール薬を集めろ!」

u02けんいんしたの 
「轢断現場で血痕を見つけるんだ。
下山が死んだ状態で運ばれたという証拠見つけるぞ! スクープだ!」

下山は殺されたんだ。謀殺だ!

朝日新聞社会部記者 矢田喜美雄
u02ぼうさつだ 
謀殺下山事件だーッ!


u02けいしちょうじち 
警視庁@自治体警察

この当時、日本警察二本立て警察である。

GHQが戦前戦中の内務省警保局による中央集権を嫌ってこれを廃止、全国の市町村ごとに独立性の高い自治体警察をつくり、それ以外の地域を全国組織国警こと国家地方警察本部が引き受けるって二本立て形式になったんである。
ちょうどアメリカ市警州警察のようなイメージである。アメリカ的理想。

u02こっかちほう 
国家地方警察は、旧内務省官僚がこそっと滑り込ませたワームだった。

大都市以外の自治体は自前の警察を抱えるには財力も足りず、すぐ火の車に。全国のあちこちで警察権を返上する中小自治体が続出。それを国家地方警察が吸収合併した。

やがて日本占領が終わるとともに、するするっと巻き返し、自治体警察はわずか8年足らずで消滅、国警に吸収されて、警察庁を頂点とする中央集権な都道府県警察がちゃっかり誕生するんであるが。それはまたべつの話。

とにかくこのころの警視庁@自治体警察の管轄は、いまとちがって旧東京市@現東京23区のみ、それ以外の都内は、八王子市警 青梅市警 武蔵野市警 町田町警 三鷹町警 立川市警、そこからもこぼれてる分が国家地方警察の縄張りだった。

このときの日本警察は政府のさらに上の権力の顔色も気にする難しい立場である。

u02じーえいち 
General HeadQuarters,
the Supreme Commander for the Allied Powers


u02じーえいちき 
GHQ/SCAPこと連合国最高司令官総司令部

なんか最高で司令官で総元締っぽいすごい偉い風な名前である。司令は大事なことだから2回言ったんだろうな。

u02くにやぶれ 國破れてマッカーサー (中公文庫)

最高司令官ダグラス・マッカーサー元帥をトップとした、日本占領軍の司令塔。

GHQ日本の国体を維持するため、人間宣言した天皇を棚上げ状態にして、きほん日本政府に政治をやらせ、それをあれやこれや横からダメ出しする間接支配をとった。

u02まるのうちお 
空襲で焼けずに残った丸の内の主なビルはGHQが接収して使い、
総司令部本部は、皇居を見下ろす第一生命館に置かれた。

ちなみに占領軍じゃ聞こえが悪いから進駐軍とお呼びってことになり、
占領っつうネガティブイメージを薄めようとしていた。

u02そんなはいせん 
とはいえ占領は占領。占領の7年間で、占領進駐軍米兵の犯罪が、殺人、強姦、傷害、略奪など続発。まあいまも昔も米兵のレベルは低めである。

日本警察はどれも手を出せない屈辱を強いられ。
なかには警官が職務として犯罪の片棒かつがされる例すらあり。


u02とはいえせん

そんな敗戦4年後日本の熱い夏──

GHQ下山事件にも暗い暗い影を落とす。


u02このとうじのけい 
この当時の警視総監田中榮一薩摩士族の出身。
現場の刑事婦警を気軽に総監室に入れて意見をきく「人情総監

もちろん第一生命館方面からの来客もやってくる。

u02しつれいし 
「おはようございます、総監閣下

u02しつれいしま

「おお、ミスニイタカ、よくおいでなさった」

u02しつれいします 
「閣下、こちらガールスケット中佐です」
「はじめまして」「イッツァノナートゥミーチュー」


u02ちっけと 
「ちっ、毛唐が。我が物顔によう、なにがミーチューだ」

苦々しく眺める平塚八兵衛@刑事一代 昭和事件史、大のガイジン嫌いである。


kako-wSwoS0glI0BC5KhG002.jpg 
「おう、っちゃん、下山さんの事件、2号部屋もかかってるんだろ。どうだい」
ちゃんか。わかんねえよ。まだかかったばっかりだっつうの」

「また功労賞ねらえそうかい、帝銀みたいにさ」
「なに言ってやがる、ああいうのは狙ってとるもんじゃねえや。ただの結果だよ」

u02なんのにおい 
「なんの匂いだこれ、臭くねえ?」
「ん? 例のデゴイチ調べに行ってよ、トンボ帰りしてきたばっかだからよ。
しみこんでるんじゃねえか? 肉片とか血とかの臭いが、夏だし」
「うえー、早く風呂入れよ」


「ブンヤも血まなこだろうなこのヤマは」

u02うーむさて 
「ミーチューミーチュー、ミーチューっとくらあ。
あ、このやろ、口についちまったじゃねえかミーチューこん畜生

u02うーむさてど 
「うーむ、さてどっちかね」

u02じさつか 
自殺か」

u02じさつたさつ

他殺か」

u02じさつかたさ 
自殺他殺か」

u02うーむさてどっちかね

u02じさつかたさつ

自殺他殺自殺他殺……ミーチューミーチューあ、このやろ」


u02じさつかたさつか03 
「あなたが、ディテクティブハチベー?」

uけとう 
「毛唐の女に名前を呼び捨てされる謂われはねえ」

u02ごきげんわ 
「ご機嫌悪そうですね」

「おめえ、さっき総監室で、中佐だかガールスカウトだかにくっついてた通訳だよな。日本人…じゃねえな」

u02はじめま 
日本人の血も半分ほど私の血管を流れていますよ、国籍はイギリスですけれど」

u02ふんはじめ 
「はじめまして、平塚八兵衛さん。私、ニイタカと申します」

u02おめえさっき 
「はじめましてじゃねーだろ、しらじらしい。
このあいだ下山邸の窓からこっち窺ってたじゃねえか」

「うふふ、よくお気づきで」

u02あんなとこでじ 
「あんなとこでGHQの通訳が何してやがっ──ん?」

u02はいせいれき 
「私の顔に何かついていますか?」

「……おい、今年って、昭和24年だよな」

u02わたしのかおに 
「はい、あなたのお嫌いな毛唐の暦で1949年ですね」

「だよな、んー? おかしいな、おい、
ニイタカさんっつったっけ、おめーさんなんつーか、
今とぜんぜん違う別んときに、居たりしたことなかったか?」

u02よびすて 
「さあ?」

h00永田町異顔2横長419001 
「なにを言われているのか、分かりかねますが?」



3機目 7分25秒くらいで解る911への道】へとつづく
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