【事件激情】サティアンズ 第二十三解【地下鉄サリン事件】




“──いいかげん支給のポケベルじゃなくて携帯電話にしなさい。
もーいちいち面倒くさい。時代は変わってるんだから!”

“────えっとそのう──だから、しぶ プツッ
……プー、プー、プー”
「あれ?」
“録音されているメッセージは以上です”

「は? 今ので終わり?」
なんだろ、続きを聞きたくばてめえで掛けてこいって意味かな。
これはもしかして、警視どののマハームドラー……?
でも相手が携帯だと10円玉ちゃりんちゃりん落ちるんだよなあ…
ええいせっかく警視どのが電話くれたのにケチくさいことを! 10円玉くらいなんだ!

あれ、マドラーだっけ? ム? マ?
プルル…プルル……
“こちらは留守番電話です、メッセージを──”
「……怒って寝ちゃったのかな」

プルル…プルル……
“こちらは留守番電話です。メッセージをどうぞ”
「あ、あの、イイオンナ(1107)、です」

「ラジコンヘリですが、どうなったか分かりました──。ただ、話を聞いたとき、やりすぎて…ラプドンマ師に、その、ちょっと怪しまれたかもしれません」

「急いで相談したいんです──」

“私、どうすればいいか分からなくて──”

オウム真理教による犯行の経緯、警察の捜査は、原則公開された情報にもとづく。
登場する公官庁、機関、組織、部局、役職もすべて実在する。
ただし白鳥百合子はじめこの色で示されるのは、架空の人物であり、
実在する人物、事件、出来事と彼らの関わる部分は、創作全開ソースは妄想である。
またこの色この印*のある人物は仮名である。



1995年3月16日 夜──

「おい、本隊、聞こえるか。こちらガフヴァ」

「聞こえるか。端本だ」


「いま白鳥の家だ」

「おい、本隊、聞こえたら返事しろ」


くっそ、使えねえ無線だ。相っ変わらずダメダメだな科学技術省は。

さてどうしたもんやら。

おまえが変な動きするからつい焦っちまった。

そうなったの自分のせいやからな。

「おい、本隊、聞こえるか。こちら端本」
ちっ、やっぱり通じないな。
んー、待てよ。今さらあの間抜けどもここに呼んで、VXとか使っても、
考えてみたら、これってどうみたって病死に見えないよな。くそっ。

なにか別の手を…
お、そうだ。おあつらえ向きにいいもんがある。

自宅前の急な階段、踏み外して転落、全身打撲、と。
これだけ転がり落ちれば、ほかの傷とまぎれてわかんなくなるだろ。

よっ、と。
“──御用のかたはメッセージをどうぞ”

「あ、また渋谷です。警視どの、2回も済みません。
いつでもいいんで電話ください、えーと、ども」

「…………」

木は森に隠せっていうし。あれ? 使いかた違うか?

おれこれでもいちおう早稲田だったんだけどな、中退だけど。
“こちらセンター、もう一度願います」

「だから、留守電が途中で切れて、かけても留守電なんです!」
“それは…留守電にしてるからでは? 永田町1丁目10は、そちらに留守電を入れた時刻より後にもセンターに連絡を入れているので問題ないと思うが」
「とにかく、誰か急行させてくださいっ。僕も今から向かうんで!」

「──はい、もしもし」
“警部! 渋谷です! 警視どのが留守電でっ! センターが取り合ってくれなくて!”
「おまえ省略しすぎで意味がわからん。白鳥がどうしたって?」
“えーと、留守電がその──あの──ああああーっ”

「もういいですーっ」
“おい渋谷! なんなんだ一体! おい!”

ふう。
壊れたもんは片付けたし、家んなかの血はぜんぶ拭いたな。
おれの指紋ついたかもしれんとこも。

悪いな、あんた。あいつら頭おかしいんだよな。

あんたが黒幕だって思い込んじまっててさ。

そんなはずないのにな。

だが、おれはこれ済ませば

新しい人生にやっと踏み

だ

「クミコ……え、なんで…?」

「車の後ろに隠れてた」

「あなたがやったの?」

「女の人をこんなに……ひどいよ」
「あ、いや、そんなつもりは。こいつが急に向かおうとしてきたから、
だから焦ってこうなっちまっただけで」
「この人をどうするつもり?」

クミコ、後で説明するから、車で待ってろ。

「やだ」
「いいから行けって!」

「だって私いなくなったらこの人殺すじゃん!」
「あのゴキブリの巣から出るためだ! 2人で!」

このワークやり終わったら下向できる、おれとおまえで。自由の身だ。
金も手に入る。人生やり直せる。だからやるしかないんだ!
お金? お金のためにやったの?

「悟さんがこの人を殺して、お金もらって、それで下向して、
そんなんで私たち幸せになれるはずないじゃん!」
「だからその話は後だって! 今は車にいろよ頼むから! どっちにしろこの女に顔見られたし、あ、そういやいま名前も言っちまったし。もう口封じするしかないんだ」

「でも、この人、悪い人じゃないのに。
こんなむごい目に遭わせていい人じゃないよ」

「え、知ってるのこの女? なんで?」

「……去年の6月27日の夜、悟さん、どこにいた?」
「え、なんだ、急に」

「あの夜、あなた上九にいなかった。どこにいたの? 松本市?」

「くそ、この女が言ったのか!」
「やめて!」

「──警視どの!」



「渋谷です、警視どの!」


「いたら返事してください!」


「クミコ、頭を下げて動かないようにしてろ」
「悟さん、もう…」

「しっ、声出すな」













「──警視どの?」















「あ、やべ──」



「えっ」



「マ……?」



「リ……?」
ぽたぽた、ぽた…
ぽちょん…

ころん、ぽふ、ころん…
ぽふ…
ぽふ…ころん…ぽふ…

ころん…

ぽて…

「……モ?」


「警視どのおおおっ!」




「この野郎っ!」





「せっかくおれとクミコの、台無しにしやがってっ」







「やめて! その人死んじゃうよ! 今の音で警察もたくさん来る!」

「行きましょう! 早く!」




「警視どの! うわ」


「ひどい…救急車を」
「警察だ! 動くな!」

「その女性から離れろ!」

「こっちも警察だ! 本富士署公安係! この人も警察だ!」
「え、巡回するよう本署から指示されて来たんだが…」

「うわすごいケガだ。何かあったの?」
「だから遅いよ! 来るのが!」
救急車と非常線の要請出して! 犯人は2人組で──

「しぶや、くん」
「あ、警視どの!」
「顔ついてる? 顔とれるか……てくらい殴られ蹴られ…」
「顔ありますっ。ほかに傷は…刺されたり撃たれたりしてないですか?」

「んー、どうだろ、体中痛いんだけど」

「し、失礼しますっ
警視どの! どこも刺されてませんっ。すぐ救急車来ます! 大丈夫ですから!」
「渋谷くん」

「いまさ、スカート思いっ切りめくってパンツ見たよね」
「ふ、太腿に創傷ないか確認するため緊急避難的にやむを得ずちらっと
もろともに見てしま──てかなに言ってんですか!こんなときに!」

「ねえ、ごめん、私ひどいことしちゃったよね」

「あんなこともういいですから、ぜんぜん!」
「水槽壊しちゃったね、ごめん」
「あ、マリモに謝ったんですね、ああはい、そうですよね」

「うう…どうしよう、皮肉とか悪口とかひとつも思いつかないよ」
「いいです! そんなのいま言わなくても!」
「いたい…」
「え、どこですか痛いのは」
「いたい違う、けいたい、植え込みのとこ、蹴りこん…」
「携帯電話ですね! 警視どの」

「警視どの!」

「救急車、遅いよ!」

ガフヴァラティーリヤ@端本悟、セーラー@清水紅巳子、
2人はのち教団から逃走。対オウム捜査網をかいくぐり、ゆくえをくらます。

「ええ、聖路加病院に搬送されました」
高石和夫@警察庁警備局公安第1課長@白鳥の上司


「頭を強く殴られていて、いま救命措置を」
「犯人はオウムでしょうか?」
「わからん。白鳥を恨んでるやつは内にも外にもいくらでもいるからな」
「捜査1課が現場に入れろと文句言ってきてます」
「この事件は公安の領分で秘匿事項だと丁重にお断りしろ」

「課長、白鳥警視の携帯電話、渋谷の聞いたとおり植え込みの後ろにありました。襲われてとっさに蹴り込んだようです。奪われるのを防ぐためでしょう」

「まだ聴かれてない留守電が何件かありました。
おそらくそのうち1件が──」
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