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【事件激情】ネバタたん(9)【佐世保小6同級生殺人事件】

Chapter9 大人は惑い、子どもは立ちすくみ

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contents
(8)


■おまえを殺しても殺したりない

6月1日、日差しが強くなりそうな火曜日──。

ミタちゃん一家新聞社支局の上にある社宅で暮らしている。

支局長の父親は朝から洗濯で忙しい。
やもめ暮らしで仕事にも追われ、娘と話をする時間もなかなか持てない。いけないと思いながらもついおざなりに接してしまうことも増えていた。
もちろん娘は可愛い。5年の闘病の末に妻を亡くしたあとも、母親譲りの娘の明るさに救われた。
息子たちからも「妹に厳しすぎる」とたしなめられた。分かってはいるんだが、つい…。

たとえば今朝もそう。
学校に行こうと走りすぎる娘に、体操服は要らないのか、と洗濯物から顔も上げず訊く。

「いらなーい」
「忘れ物はないな」
「なーい」

毎朝のありふれた会話、元気な返事、目に入ったのは娘の手にしていた白い袋だけ。
娘の顔も見ず、走っていく背中すら見送らなかった。


それが娘との最後の会話になった。





1時限目──。
運動会の後片付けだ。
みんなでテントを片付ける。
指図に忙しい担任(男)は2人の様子を覚えていない。


2時限目──。
ミタちゃんが交換日記友にメモを回す。

「もう疲れた。勉強で大変になるし、日記の一部をやめようと思ってる」

メモはネバダの手には回されなかった。でもすぐ耳に入る。
ネバダは素っ気なく言う。
「なんなら全部やめれば」。


それからミタちゃんが「交換日記から外れてほしい」ネバダに告げているのも、同級生たちは耳にしている。

ミタちゃんはネットだけでなくリアルの交換日記からもネバダを切り離しにかかっていた。

じつはここ数日のいさかいの前後に交換日記友の何人かも、やはり嫌気がさしたかミタちゃんに付いたか「やめる」と言い出していた。
だからきっと交換日記友はみんないなくなる。
ネバダはネットだけでなく交換日記も失う。

ミタちゃんはそこまで重大とは考えていなかっただろう。

でも今のネバダにすればなくなっちゃうのは自分の全世界だ。


ミタちゃんはネバダとケンカをした。怒っている。なかなか徹底して激しい追い込み。でも殺されるほどの非があったわけじゃない。
少なくとも
この時点ではいじめっ子でもない。自分がネバダの外界とのアクセスすべて(あくまでネバダ目線)を奪おうとしているのに気づいてたかどうかも微妙だ。

たぶんそこまで考えてないだろう。小6だから。

このとき“もっと仲良し”WKちゃんはどうしているだろう。仲裁しようとした? ミタちゃんと一緒に責め立てた?
たぶん無力におろおろしているだけだっただろう。



4時限目──。
卒業文集の作文テーマをそれぞれ原稿2枚に書くことになった。
担任(男)がみんなに何を書くか発表させている。

ミタちゃんの発表したテーマは「人の心理」。
同級生は「なんか変わった内容」と感じている。

なぜかネバダも同じ。「人がこういう時、どういう気持ちになるのか?どういう表情をするのか調べるとおもしろい」と答えている。


でものちにネバダのランドセルから例の「バトロワ外伝」を書いたノートと一緒に見つかることとなる2枚の原稿の中身は、なぜか人が死にまくるホラーだった。
ネバダはそこにお気に入りの韓国ホラー「ボイス」のセリフを書いていた。

「おまえを殺しても殺したりない」。



4時限目が終わって、

昼12時15分──。

給食の用意が始まった。
担任(男)は教室を出たり入ったりと忙しい。

ネバダはミタちゃんに声をかける。

「ちょっといいかな。話があるんだ」



の学習ルーム

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昼12時20分──、

ミタちゃんはネバダ誘われるまま、素直に学習ルームへとついていく。

ケンカしてるんだから言い合いやひょっとしたらつかみ合いくらいあると思っているかもしれないが、
ネバダはまったく違う方法での決着を考えている。


ネバダカーテンを閉める。ミタちゃんも手伝って閉めたかもしれない。

そうしてネバダミタちゃんを椅子に座らせる。
向き合ってまた言い合いがあったのか、無言のまま背後へと回って、おもむろに「左手で目隠しをした」のかはっきりしない──




「あーあ、やっちゃった」




ネバダその瞬間、そう思った。

ミタちゃんはほとんど即死だった。
でも家庭用カッターでは思うようにいかず何度もふるった。かざされた手も切り裂く。
ミタちゃんは入口近くでうつぶせに倒れる。

「──死んだの、かな」
足や手で突ついてみる。そんな風に15分間、見つめる。


ネバダは自分以外の誰か不審者のしわざに見せかける計画なのか、一応教室に戻ってアリバイ工作か第一発見者のふりをするつもりのようだ。
でも──決行後のことなんてちゃんとは考えてないんじゃないだろうか。

どんな計画だったにせよ、始まった瞬間に空中分解している。

15分もここにいるせいで給食が始まって、教室にいないのはもうバレてる。
だぶだぶのズボンの裾はぐっしょり。
手には血に濡れたの自分のカッターナイフ。
刃先なんて折れてどこへいったか分かんない。
実は返り血も浴びてる。


それでもネバダたんはタオルで手のだけ拭いて、ふらふらと50m向こうの6年教室へと戻っていく。

廊下にずるずる血の帯を残しながら。




昼12時40分。

廊下に叫びが響きわたる。


「違うちがうっ、わたしの血じゃない!

わたしじゃないっ!」





■大人たちは惑い……

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事件後、学校の動きは迷走しまくった。

若くして校長になった立派なキャリアの女性校長は、事件翌日も休校にせず、現場の近くで普段どおり給食を食べさせた。
その理由を、「もう給食の材料を注文してあるのでキャンセルできない」と言ったという。

被害少女の机には花が飾られたが、加害少女の机は急いで運び出された。習字も絵もはがされた。

「早く忘れましょう」
これが学校の姿勢だった。


この校長は保護者から子どもたちへの説明を求められると、
「テレビでやっているのでそれを見て皆さんから子どもに説明してください」
と答えてひんしゅくを買った。

そのあとも校長は舌禍をくり返した。

市教委の聴取結果と子どもの言い分が食い違っているのを保護者から指摘されて、「子どもはウソをつくから」としかとれない言葉を言い放ってあとで問題になると「ウソをつくなんて言葉は使っていない」とあとで釈明し──。

別の子どもの発達障害について保護者に「不適切発言」をして問題になるとあとで釈明し──。

「児童も保護者もマスコミの取材に答えないように」とPTA会長とともに箝口令を敷こうとして、問題になると、「そんなことは言っていない」とあとで釈明し、ますます保護者たちに不信を持たれ──。

6年が荒れているのを担任だけに押しつけて放置していた責任も問われた。
「いずれにせよ事件は防げなかった」と監督責任こそ免れたものの、翌年3月には校長職から外されて現場ではない部署に異動となった。
県教委は「行政上の必要から」と発表した。



教育委員会の対応も注目された。

長崎県では昨年も中1男子@12歳が幼児@4歳にイタズラして殺す「長崎男児誘拐殺人事件」が起きていた。
再発防止に取り組んでいた矢先の今回の事件で、教育委の面目丸つぶれだった。

県教委と市教委は、関係者への聴取を重ねて調査報告をまとめたが、保護者は「分からないことが多い」と第三者による調査を要求した。
県教委と市教委はそれを拒否した。



第一発見者となった担任(男)“ショックで教壇に立てない”ために入院。さらに長い長い自宅待機に。「責任逃がれ入院」「担任隠し」と叩かれた。


当日現場にかけつけた救急隊員惨事トラウマになった。さらに「法的に仮死状態である被害少女を病院に運ばなかった」のが規定違反と咎められた。


警察もまた、事件直後の子どもたちを5時間も学校にとどめて、親たちにも会わせず聴取したあげく、現場に立ち会わせ、さらに指紋までとっていたのが発覚した。
指紋をとられた子どもは「犯人みたいだった」と洩らした。


9.jpg

まさか自分が取材される側になるとは思いもしなかった被害少女の父は、
「自分の立場だったらやはり取材を申し込むと思う」
と、悲しみをこらえつつ報道陣の前に立った。

そして亡き娘を偲んで「さっちゃん、ごめんな」と語りかける手記を公表した。

のちに被害少女の父は、加害少女の更生や現状について遺族に充分な報告がないことに何度も不満を表明した。



多くの子どもたちが長い年月、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しんだ。

事件の起きた3階まで上がれなくなった。教室で給食を食べられなくなった。
何人かはとつぜん花笠音頭を踊り出す発作を起こした。花笠音頭は事件前の運動会で踊った演し物だった。


ある同級生女子は自分がなにげなく描いた絵が何かに気づいて息を呑んだ。

それは血まみれのカッターとタオルを手にした“あの子”だった。



 >>(10_終) サルビアの花


▽参考文献
▼取り入れなかった噂・デマ・中傷・事実と確認できなかった話


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| 事件激情 | 16:00 | comments:4 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

こうして改めて調べてもらったのを読むと
ほんと学校側の対応、情けないというか小さいよねえ。
でも人間ってたいていこういうもんだろうな、とも思う。

危機管理はたぶんどこの学校でもできてないだろうし、
マニュアルとか何かしら取り組みをしている学校はあるかもしれないけど
緊急時に、ちゃんと冷静な判断ができるのかどうかってのは別問題。
自分自身、同じ立場に立たされたときに、毅然としてまともに判断できるのかどうか?はわからないです。

コトの起こったあとで、しかも第三者の立場であれこれ揶揄するのはたやすいけど、
私には誰も裁けない。

ただ1つ、のりあきさんが「こうなるのは当然でしょ」って思うことは、おかしいとは思わない。
それだけははっきりいえますよ。

| ash | 2010/04/17 21:49 | URL | ≫ EDIT

震撼です!
事件そのものもですけれど、事件の影響の大きさにです。
これが他の殺人事件だったら、これほどに当事者以外の人の、愚かさ醜さ弱さを露呈することは無かったでしょう。

| かあたん | 2010/04/17 22:43 | URL |

Re: タイトルなし

>あっ種度の

> こうして改めて調べてもらったのを読むと
> ほんと学校側の対応、情けないというか小さいよねえ。
> でも人間ってたいていこういうもんだろうな、とも思う。

学校のは悪いことしか書いてなかったんで「ガセか?」と思ったんですが、ほんとにこうだったようで。
学校のようなところって大抵こうなっちゃいますね、不測の事態が起きると。
赤木春恵みたいな校長はいないんですねやっぱり。

まあ小学生同士の校内殺人第1号だそうだし。

書きませんでしたが、当日は校長はお出かけで、ワ士とぷーおはお留守番、ではなく、教頭がお留守番で、この教頭がかなり大慌ての対応してしまったのが初動つまずきの最初らしく。

まあ自分が先生でもあうあうとしか言えなかったでしょうな。

>
> コトの起こったあとで、しかも第三者の立場であれこれ揶揄するのはたやすいけど、
> 私には誰も裁けない。

そう思います、だから出てくる人の誰も責めないようにしました。でも学校と校長だけはふつうに事実を書いただけなのになんか責めてる感じになっちゃいましたなあ。

>
> ただ1つ、のりあきさんが「こうなるのは当然でしょ」って思うことは、おかしいとは思わな

いやはやほっとしました。
調べるほど、2人がまったく特殊ではなく、あまりにも平凡などこにでもいそうな子にしか思えなかったんで。
いましたよ、小6とか中1とかで仲良しと思ったらすごい険悪になってる子とか。こんなかんじでした。

半分意地で長々と続いてしまいましたが、やっと次回で終わりです。

| noriaky231(仮名 | 2010/04/17 22:54 | URL |

Re: タイトルなし

>かあたんどの

> これが他の殺人事件だったら、これほどに当事者以外の人の、愚かさ醜さ弱さを露呈することは無かったでしょう。

やっぱり「女子による女子殺し」は理性をすっ飛ばしました。

この事件で、いまの学校や家庭の環境がすごく子どもを追い詰めてる、というのがちょっとだけ表面化したんですなあ。

周りに残した傷はなんともはやです。
余談ではあるんですが、省略する気になれませぬでした。

なので今回で終わるつもりが、あと一回だけ延びることになってしまいました。
彼女が次回裁かれることになりますが、例によって…。

| noriaky231(仮名 | 2010/04/17 23:01 | URL |















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