【事件激情】ウルトラNW : 第24便【911アメリカ同時多発テロ】
*第23便──────────









【事件激情】ウルトラNW : 第24便【911アメリカ同時多発テロ】
「ワシントンの認識と現実との差は余りに大きかったのです。
“目の前で戦争が起きている”
と現地から報告しても、彼らは否定するのです。
“気が変になったんじゃない?”
“いや目の前で起きてるんです”と衛星電話で説明しても、
ワシントンからの答えはこうでした。
“でも我々には見えない”」
───────────────ロバート・ベア 元CIA局員
──────(1990年8月2日 イラク軍、クウェート侵攻)
登場する事件テロ紛争戦争、その捜査活動は公表された情報に基づく。
黒字の人物・赤字の人物・紫字の人物および各国の機関団体部局は実在する。
白鳥百合子はじめこの文字色は架空の人物であり、
FBIニューヨーク支局による秘密捜査もリアル界では行われなかった。
実在する人物との関わりも、根拠は創造にしてソースは妄想だが、ある意図がある。





5th September, 2001
2001年 平成13年
9月5日
Wednesday
水曜日

6 days before ‘Nine Eleven’
──9.11まであと6日
دبي Dubai
دبي
الإمارات العربية المتحدة
Dubai, United Arab Emirates
アラブ首長国連邦 ドバイ
──中東の金融センター
ムスタファ・アーメド・アルハサウィMustafa Ahmed al-Hawsawi名義の銀行口座に、アメリカ国内の端末から8000ドルが電信振替される。振替元は、









【事件激情】ウルトラNW : 第24便【911アメリカ同時多発テロ】
「ワシントンの認識と現実との差は余りに大きかったのです。
“目の前で戦争が起きている”
と現地から報告しても、彼らは否定するのです。
“気が変になったんじゃない?”
“いや目の前で起きてるんです”と衛星電話で説明しても、
ワシントンからの答えはこうでした。
“でも我々には見えない”」
───────────────ロバート・ベア 元CIA局員
──────(1990年8月2日 イラク軍、クウェート侵攻)

登場する事件テロ紛争戦争、その捜査活動は公表された情報に基づく。
黒字の人物・赤字の人物・紫字の人物および各国の機関団体部局は実在する。
白鳥百合子はじめこの文字色は架空の人物であり、
FBIニューヨーク支局による秘密捜査もリアル界では行われなかった。
実在する人物との関わりも、根拠は創造にしてソースは妄想だが、ある意図がある。






5th September, 2001
2001年 平成13年
9月5日
Wednesday
水曜日


6 days before ‘Nine Eleven’
──9.11まであと6日

دبي
الإمارات العربية المتحدة
Dubai, United Arab Emirates
アラブ首長国連邦 ドバイ
──中東の金融センター

ムスタファ・アーメド・アルハサウィMustafa Ahmed al-Hawsawi名義の銀行口座に、アメリカ国内の端末から8000ドルが電信振替される。振替元は、

米国系サントラスト銀行のフェイズ・アーメド・バニアハマド名義の口座。
アルハサウィはビンラディンの金庫番と呼ばれるアルカイダの財務係メン。アルハサウィは“芸名”で、本名サイード・シェイクのほかオマル・シェイクとかモハメド・アーマドとかたくさん通名のあるうさんくさい人物である。
バニアハマドは、マルワン・アルシェヒ率いる「都市計画学部」の筋肉メンの一人。
モハメド・アタのフェデックス便@クレカと小切手帳入りにつづいて、
アメリカ潜伏組から、>アルカイダ本体への軍資金返却の動きだった。

この日、ニュージャージー州内のATMの防犯カメラがとらえた中東系の男2人。
「美術学部」ハニ・ハンジュルとマジド・モケド。
アメリカ国内で撮られた数少ない生前の映像である。

Baltimore Washington International Airport : BWI
ボルチモア・ワシントン国際空港

空港内のアメリカンエアライン発券センターに中東系の男が現れる。

Khalid al-Mihdhar
ハリド・アルミダル
もはやおなじみハズミダル2人組の片割れ。
ワシントン・ダレス国際空港発>ロサンゼルス国際空港行きアメリカン77便の航空券をカウンターで買いに。8月25日にAA.comで買おうとしたとき入力エラーでゲットできなかった。が、予約は生きてたらしく。

キャッシュで2席分2300ドル*27万6000円を払い、ようやっとこさ航空券をゲット。
飛行機計画メン19人は操縦室に近いファーストクラスもしくはビジネスクラス前列を選んだ。とうぜん料金は高めで、全員分の航空券代は3万ドル*360万円超えに。
ハリド・アルミダルも、先月27日にキンコーズで航空券を買ったナワフ・アルハズミも、本名で予約登録していた。
あれ? 自慢のウォッチリストは? 「ブブーッこいつ悪者」表示出んの?
が、

もちろん国内便にもお尋ね者を検出するシステムはあるにはある。

米国内の移動は入管も税関もないんで、じゃどうするかっていうと、
きほん航空券の予約購入段階で個人情報を拾い出す仕組み。
だが、
それ運用してるのは、米国内の空を管轄するFAA@連邦航空局なんである。

FAAの国内線システムは、出入国向けのウォッチリストとは1ミリもリンクしてない。
そしてFAAに対してもその親機関運輸省に対しても、CIAからハズミダル情報の通達もお尋ね者登録の要請もなかった。もちろんFBIからも国務省からも。
だからハズミダルコンビが国内便を何万回乗り回そうが何万枚航空券を買おうが、アラームがうんともすんとも言わないのは当然のことで。

まーまともなら、「すでにアメリカ国内にいるんだから出入国だけ見張っててなんの意味があるんだよ、網かけとくならまず国内便だろうが」と思うわな。
なのにその単純なことに誰一人気づかなかった。
というか気づいても誰もが自分の管轄でないから誰かが対応するだろと思ってた。大間

抜けすぎて全員

そして一方の──

26 Federal Plaza, New York
FBI’s New York field office
ニューヨーク 第26連邦合同庁舎
FBIニューヨーク支局
の
ハリド・アルミダル追跡捜査班(人員1名)
↓

Robert Fuller, FBI Special Agent
ロバート・フラー(新人)
FBIの捜査手順なら真っ先にクレジットチェックかけて見つけるのが基本のキ
なんだが、
それには相手の社会保障番号ソーシャルセキュリティナンバーが必要だった。

戸籍のないアメリカではこの9ケタの数字が、個人に紐付けられる身分証明になる。

アメリカ国籍の人間も、外国籍永住者も就労外国人も、アメリカに住んでればこの番号が割り振られることになる。このナンバー取ってないと、銀行口座もクレカも持てずローンも組めず免許証も持てず、住居を借りるのも学校行くのも就職するのも厳しい。
よし、じゃハリド・アルミダルの社会保障番

号って、あれ? わからんじゃんね。
新人だし情報制限で上司先輩同僚に相談もできないしがらみの中、
フラー捜査官うんうん考えた結果、

ピコーン!

「あのー、ハリド・アルミダルのクレジットカード番号、サウジアラビアの航空会社なら知ってると思うんで、そこに訊くのってありっすか?」
Dina Corsi
FBI本部ITOS@国際テロ作戦セクション次長補佐官(CIAから出向中)
ダイナ・コルシ


「なし」

あのさーダメ出しばっかりじゃなくて少しは捜査できるようになんか言ってやれよ、おまえが防諜捜査官限定の縛りかけたせいでボクちゃん困ってるんだし、だが、官僚的にはそんなもん自分の仕事じゃないからどうでもいい。

まさにじゅくじゅくに腐ったお役所気質の権化のようなダイナ・コルシであるが、こういうのが有能とされて重用されるのがCIA(そしてFBIも)の体質だった。
フラー(新人)は新人なんで、

うっせークソババア! 蝋人形みてーなツラしやがって! こっちは好きにやるぜ!
とは言えず、
社会保障番号方面はすごすごあきらめて、

うーん、

ピコーン!

警察の犯罪履歴でいこう。

と、ニューヨーク市警にハズミダルの犯罪記録がないかどうか照会要請。

んー、これフラー(新人)がニューヨーク支局にいるから
ニューヨーク市警に連絡したんだろうけども、
フラー(新人)にもう少し機転が利けば、
おれがニューヨーク支局だからって、やつらがおれに合わせてずっとニューヨークにいる義理はない。>そもそもアルミダルはロサンゼルスから入国したんだし、>アメリカのどこへも自由に行き来できるんだし>むしろ行き来してるはず。つまり、>

>全米汎用の捜査データベースだ! NCIC@犯罪情報センターヘアクセスGo!
になると思うんだが、
そこが新人の新人ゆえの限界。ニューヨーク市警に当たって思考終了したらしい。

ちなみにNCICにはオクラホマ州でナワフ・アルハズミが切符切られたスピード違反、バージニア州でハリド・アルミダルが暴漢に殴られたと訴えたが被害届は拒んだという警察の調書、ニュージャージー州サウスハッケンサックやトトワのパトロール警官がアルハズミの車を照会した記録もろもろが保存されていた。

そして全米自動車登録センターにもアルハズミの買ったトヨタカローラの車両ナンバーがもちろんアルハズミ名義で登録されていた。
のちフラー(新人)は、司法省の監察官の聴取に対して、
「NCICも自動車登録センターも商用データベースも照会した。間違った綴りを教えられたせいで出てこなかった」と言い張ったが、
そもそもフラー(新人)がそのへん照会したログの形跡がなく。そしてじじつ9.11後にFBIが照会したら同じ条件でほとんどさくさくっと出てきたわけで。
監察官も「もっと多様なソースで適切に照会していれば、ナワフ・アルハズミはじめ他のハイジャッカーズにも辿り着けたんじゃね?」と遠回しかつ無慈悲に結論づけた。

まあ新人ゆえに無知かつ詰めの甘い照会だったけどフラー(新人)的にそうでしたとは認められないんだろう。9.11の全責任をおっかぶせられるのは間違いないし。
これについては経験薄いフラー(新人)の責任よりも、フラー(新人)だけのどう考えても非力な捜査を強いたダイナ・コルシというかその所属元CIAの責任がいちばん重いのは間違いない。
そもそも各機関のデータベースがシームレスな横断検索してくれず、いちいち別途に検索もしくは電話かけてきかないとわかんないのも大きな原因だった。

こうしてFBI捜査官ロブ・フラー(新人)の華麗なる大捜査線は、




始まらなかった。
これがリアル世界で実際に行われた9.11前のFBIによる「全捜査」だった。
そりゃ9.11後、議会で「FBI解散しちまえ」の声も大きくなるわな。
6th September, 2001
9月6日
Thursday
木曜日
5 days before ‘Nine Eleven’
──9.11まであと5日

Frankfurter Wertpapierbörse, Bundesrepublik Deutschland
Frankfurt Stock Exchange, Federal Republic of Germany
ドイツ連邦共和国 フランクフルト証券取引所

ドイツの証券取引の中心──16世紀に誕生した歴史ある株式市場で、取引高は世界第7位。主要30社の株価の動きをベースにしたのが、DAXことドイツ株価指数である。

株式ブローカーブルーノ・クリンク、奇妙な銘柄の買い動向に気づく。
やたら動きの大きい銘柄があるのだ。ほかとくらべても極端なくらい。それも極端な。

激しく買われてるのは30社ほど。どれもふだん大して動かない銘柄なのに。
航空会社の株がどうしてこんなに動く? それもプットオプションで?
似た動きが大西洋の向こうでも──


New York Stock Exchange, ‘NYSE’
NYSEことニューヨーク証券取引所
おなじみ世界経済の文句なしの中心。NYSEと新興ベンチャー市場NASDAQの主要銘柄をベースにした指標が、ごぞんじ「ダウ平均株価」である。

おいおい、なんだこれ。

特定の銘柄が通常にくらべて不自然なほど大量に取引中。まさに爆買い。
それも「プットオプション」で。
プットオプション>「株価が下落すればするほど利益が出る」という超魔術な株取引。
プットオプションの仕組みは ↓

金融官庁や金融各社は不自然な市場の動きをつねに見張ってるが、そういう裏に株価操作やインサイダー取引が隠れてたりするからだ。
プットオプションもそういう悪さの道具にされやすい。
株を手に入れた時点よりも期日に株価が下がってれば儲けになるんで。
もしインサイダーだとするとその業種その企業の株価が急落するようなバッドニュース、たとえば不祥事や経営不振、政策や外交の変化などマイナスな情報を世間より先につかんだ「内部関係者」がズルこいて儲けようとしてることになるが…。

とくにこの日の爆買いが目立つのが航空業界、
なかでも突出してるのが、UALとAMRの2銘柄。

UALは「UALUAUA.O」のこと、ユナイテッドエアラインズの親会社、

AMRとは「AMRコーポレーション」で、アメリカンエアラインズの親会社。
ほかにもなぜかワールドトレードセンター関連株が似た動きを見せている。

フランクフルトではいつもの20倍から80倍の取引が。ニューヨークでは9月7日からのわずか3日間でいつもの1200%もの取引。どれもプットオプションで。

とくに直近の悪い噂も出回ってない銘柄だし、

誰がなんのために買ってるんだこれ?






「このトンネルで光回線ケーブルが集約されます」

「NYSEやベライゾン、AT&Tの基幹ケーブルも」

「ここの迂回線は?」
「は? 鵜飼い?」
「つまり無いんだね」
Richard A. Clarke
National coordinator for Security,
Infrastructure Protection, and Counterterrorism
リチャード・クラーク
対テロ調整官(兼 国家安全保障 兼 重要インフラ保全担当)


「集約は経済面では効率的かもしれんが、インフラ保全の観点からはリスク増だな」

リチャード・クラークはこれまでの対テロ担当に加えて、重要インフラ保全担当と国家安全保障担当の国家調整官も兼任となっていた。
発言権は縮小されてるのに複雑な仕事をまとめて押しつけられたかんじ。
今回のニューヨーク訪問は、NY証券取引所の万分の1秒単位で飛びかう超絶膨大な取引量を支えるシステム(市内のどこにあるかは公表されていない。理由はお察しのとおり)や基幹回線のセキュリティーを調べるため。

NYSE、ベライゾン、AT&Tの通信ケーブルが走る主要基幹トンネル、NYSEのデータバックアップを担うSIACSecurity Industry Automation Corporationのサーバ群や危機管理体制も視察、実地調査中。
「ここの関係者はソフトウェアのシステム障害しか心配してないようでしたね」
「回線ケーブルが物理的にも切断され得るということを忘れてしまったようだ」


「緊急時の迂回路が確保されていない幹線がいくつかあるようだ。なにかあれば主要通信会社のメインケーブルも一斉に接続不能になる可能性が高いな」

「この光ケーブルが攻撃や事故で破損するとどうなると思う?」
「ウォール街は全世界から隔離されてしまいますね」
「いまや世界の金融市場がすべてリンクして動く時代だ。ウォール街がとつぜん“見えない存在”になれば、我が国だけじゃない、連鎖的に世界規模のパニックがおこる」

「ポール、このあたりの回線網のどの箇所が破壊されるとウォール街および市の都市機能が麻痺するか、シミュレーションしてもらいたい」
「わかりました」

「万一のときはここを優先して回線を確保する、そのルール作りが必要だ」

World Trade Center 2 Southtower
Morgan Stanley Dean Witter, New York office
ワールドトレードセンター2 サウスタワー
モルガンスタンレー ディーンウィッター長げーよニューヨークオフィス

「なあ、このプットオプション取引だが、どういうわけか……」

「非常事態! 非常事態っ!
総員ただちに避難! 総員ただちに避難!」

「うえー今ー? こんなときに勘弁してくれよー」
「忙しいのに。こんなバカバカしいことやってる間に大損したらどうするんだよ」

「聞こえてるぞ! 災いは前もって予定を知らせてから来てはくれん!」


「予期しないときに無慈悲に襲いくるのだっ!
もし100万ドル損しても有能な諸君ならいつか取り返せるだろう。
だが命を失ったら、そっちの損益は二度と取り返せないぞ!」

モルガンスタンレーディーンウィッター長げーよリック・レスコラ大佐の鬼避難訓練
サウスタワーの29階分のフロアを占めるモルガンスタンレーの保安警備統括
リック・レスコラ@62歳である。

Richard “Rick” Rescorla
イギリス南西端コーンウォール州出身で、伝統的に自由奔放を誇るコーンウォール人コーニッシュ。イギリス軍で軍歴が始まり、途中からアメリカ軍の精鋭第1騎兵師団*の一員としてベトナム戦争で奮戦した猛者の極み。
*ちなみに騎兵といっても乗るのは馬じゃなくて、「地獄の黙示録」でおなじみヘリコプターである。

モルガンスタンレーの保安警備統括に就いたレスコラは、1993年のWTC地下駐車場爆破テロ*【ウルトラ 3機目】を目の当たりにして、今後もツインタワーはテロの標的となる! しかも攻撃にはジェット機が使われる!と神がかり的に確信する。

そこでオフィスを安全なニュージャージー州の4階建て低層ビルに移転する計画を提案したが、「まだWTCのリース契約が残ってるし」という理由であえなく却下。
その代わりにレスコラは避難計画を大幅リニューアル、3か月ごとに役員含む全従業員の一斉避難訓練を組み込んだ。それも“実戦”さながらの。
モルガンスタンレー以下略はサウスタワーの44階から72階のフロアを占める大店子。各階にいる従業員2700人を非常階段で素早く地上へ脱出させる、という訓練だった。
以来なんと8年間ずっとこの年4回の訓練は続いている。モルガンスタンレーの社員だけじゃなく来客もVIPも巻き添えにされる鬼の中の鬼訓練。

「ふだんなら当たり前にできることでも、戦場ではすべて真っ白になる!
だから頭で考えようとするなっ、体で覚えるのだっ」

「……いま、“戦場”って言ったよな」
「あのおっさん、まだベトナムで戦ってるつもりじゃないの?」

「前回の惨憺たるタイムでは諸君の半分以上がこの世におらんっ!
訓練でダメなやつが、本番で生き延びた例はないぞっ!」

「そのとき本気出すと言ってないでいま本気出せっ。ロドスはここだぞ!」
ちなみにリック・レスコラの鬼訓練が3か月ごとに決行されていたのは事実だが、
現実の9月6日には実施されていない。事件激情上の都合である。

「あれは? 何かあったのかな」
John P. O'Neill
Chief of security at the World Trade Center,
former Special Agent in Charge of Federal Bureau Investigation
ジョン・オニール
ワールドトレードセンター保安警備部長/元FBI特別主任捜査官


「おう、モルガンスタンレー名物の避難訓練さ。おれも実物見るのは初めてだ」

「3か月に一度、44階から72階まであるオフィスから数千人が地上まで階段で降りるのさ。タイムまで測ってて、ちょっとしたブートキャンプ並だぜ」
「以前ニュースで見た記憶があるな。これがそうか」

「仕切ってるのはモルガンの保安統括でな。このあいだ会って話したが、なかなか面白いおやじだよ。WTC全体のセキュリティとうまく連携できたら面白そうだ。ま、3万人を一斉に階段で降ろす訓練なんてのはさすがに無理だが」

「それよりクラーク、ようこそオニール様の新しい城へ! 当然今夜空けてるよな!」
「ユリコが君も交えて会いたいということだったが」
「おれもさわりしか知らん。シラトリに怒られるから、詳しくはじかに聞いてくれ」

「ディック! ご無沙汰です!」

「ユリコ! 元気そうでよかった」

「ってなんでシラトリの部屋なんだよ!」

「せっかく地上400mでウインドウズオンザワールドのきらめく摩天楼独り占め、ラグジュアリーを極み尽くした特等席を用意したのに!」

「だからそれはノーサンキューって言ったじゃん! あなたが女を口説く会じゃないんだから、不必要だよ400mもラグジュアリーもきらめく摩天楼も」

「まあまあジョン。ユリコもまだ本調子じゃないし、それはまた次の機会にしよう」

「ディック、気づかってくれてありがとう」
「おれに向ける死んだセミを見るような目とその笑顔との激しい差はなんなんだ」

「バーユリコへようこそ。いちおうテキトーにお酒とフィンガーフード用意したから。オールセルフ制でよろしく。わたしは飲まないんで好きにやって」
「はぁ? なんで飲まねーんだ、大酒飲みブーザーのくせに! 飲めよ!」
「わたしはこの後まだいろいろ仕事しなきゃいけないからだよ!
酔っ払ってバレリーさんに怒られるだけのあなたと違って!」
「(;◔д◔)……な、なんでそれを知ってる」

「得られた情報で推定するかぎりだけど、アメリカ国内に入り込んでるテロリストは最低でも6名、おそらく10名以上。それが3、4箇所に分かれて潜伏している。それぞれ別の攻撃目標があると思う。アフリカのときと同じで」

「ほぼ同時刻にケニアとタンザニアの大使館に自爆攻撃スーサイドアタック*【ウルトラ 15機目-結び】したのと同じパターン、同時多発狙いのテロ、か」

「“飛行機を使うテロ”。というとハイジャックか? 飛行中の爆破か?」
「そのフレーズのソースはアルカイダ関係者同士の通信傍受で拾われた会話の一部なの。なぜわたしがそれ知ってるかは突っ込まないでもらうとして、」


「口語でハイジャックや爆破を、飛行機を“使う”って言い方するかな?」
「たしかに不自然だな。むしろその飛行機で何かをすると読める」

「人質作戦や立て籠もりは、ビンラディンの聖戦ジハードの美学と合わない」

「一瞬で結果が出て、華々しく天を焦がす火柱のほうが、ビンラディンの思い描くジハードにふさわしい。60年代70年代にパレスチナゲリラがやってたようなハイジャックは長期戦だし、宗教観からして彼はそういう地味なのは好きじゃない」
「好き嫌いの問題なのか?」
「テロリストの行動原理なんて、なんだかんだいって好き嫌いのみだよ」


「そこで引っかかるのが、例のアルアウラキの線の、エヤド・アッラババがナワフ・アルハズミとハニ・ハンジュルらしい男たちをニュージャージーとコネチカットに案内したときの話*【第21便】。彼らの視察したなかにフライトスクールがあった」

「フライトスクール……飛行機の操縦を学ぼうとしている?」
「それ。でもなんだか違和感ない? いわゆるハイジャックなら操縦は絶対必須ってわけじゃない。たいていパイロットを脅して操縦させるんだし。乗客乗員を制圧する人手を減らしてまで自分で操縦する必要なんてないはず。なのになぜ?ってこと」

「しかも彼らのアメリカ入りは2000年春。1年半も前。ハイジャックにいくらなんでも時間かけすぎじゃない? 潜伏してる期間が長いほど身バレの危険は高まるのに」

「アフリカの大使館爆弾テロのときの、ムハマド・オデイが漁師に偽装していたようなインフラセルメンってことはないのか?」
「わたしもそれかなと最初思ったけど、定住も就職もせずに州をまたいで何度も転居を繰り返していること、そしてフライトスクール巡り、となると、どうも違う気がして。
おそらくこの1年半は、彼らが飛行機の操縦を身につけるための期間じゃないかな」

「で、そこまで時間と手間をかけるからには飛行機の操縦が絶対条件ということ。
テロリスト自ら操縦桿を握るのを前提にしたテロ。それってなんだと思う?」

「パイロットが自分や乗客を殺すぞと脅されても絶対にやらないこと、か」

「……“カミカゼアタック”」
「日本人としてはそのカテゴリー分けにやや言いたいことはあるけどね」
「これだけ時間をかけているとなると、使うのは軽飛行機レベルじゃないだろう」
「うえー実現したら国家安全保障の悪夢だな」

「阻止が間に合うかどうか、なんとも言えないけど、
いま仕掛けてる線のどれかが突破口になれば」
ここでオニールが、

「おれが言うのもなんだが、そろそろワシントンに預けたほうがよかねーか」
このまま令状もなしITOSも無視のやりかたを続けても、アンティツェフの言ったように、テロリストを見つけても逮捕できないわけだし。
まあしごく真っ当と言えば真っ当な意見である。
が、
「それはわかってる」


「でも仮に、いまここでした話をそのままITOSやCIAに聞かせてなんとかなると思う? たとえばミスタークラークがホワイトハウスで訴えてなにかポジティブな反応が期待できる? わたしは全然できないけど?」
「そんなのやってみなきゃわかんねーんじゃないか? 」


「おまえはいくらなんでもユナイテッドステイツを見くびりすぎじゃないか? こういうことになりゃアメリカはさすがに動くぞ」

「いや、ジョン。ユリコの言ったとおりなんだ」

「今の話をFBI本部に持ち込んでもかなりの高確率で、法的に妥当でない部分を非難され、かんじんのテロ計画の情報は法的に妥当ではないとして無視、放置されるだろう」

そしてCIAは“情報ルート保護”を理由に捜査全体の中止を求める。対してFBI陣営はどうするかというと、モラー長官は先週着任したばかりで局を掌握しておらず、対テロ司令塔のはずのITOSはいまや出向組に牛耳られCIAの代弁機関になりはてている。
「ほぼ確実にFBIはこの一件の捜査ぜんぶを放棄する。本部の決定にはモーン支局長もけっきょく従わざるを得ない」

「まさか! そこまでアホじゃないだろ。本部にはワトソンもいるし」
「ジョン、いまのFBIは君のいた頃のFBIとちがう」
「おいおい、おれが辞めたのたった2週間前だぞ!」


「FBIもCIAも日を追うごとに悪くなってるんだ。私やニューヨーク支局だけじゃない、副長官補のワトソンでさえITOSを脅しすかしても情報を隠されたままだ」
「いくらやつらでも尻に火がついたらいくらなんでも動くだろ」
「動かないよ。彼らは尻に火がついたことすら気がついていない。
テロ対策に不可欠な想像力が根本的に欠如しているんだ」


「サダムのクウェート侵攻前夜と状況は同じだよ。CNNでテロ発生のニュースを見て、初めて彼らは本当にテロ計画があったと理解するだろう」

「わたしは地下鉄サリン直前の日本の警察と同じ匂いを感じる。いいえ、それよりもっと酷いとこまでガタガタになってる。悪いけどわたしはFBICIAを信用できない」

「くそっ、じゃどうやって止める?」
「ひとつプランがあります。まずはテロを防ぎ止めるのを最優先にする」


「このプランを知るのはここにいる3人。公職者ではディック、あなただけです。FBI組にはワトソン副長官補にもモーン支局長にも特捜班のみんなにも教えてないし、知らせないつもり。法的立場もある彼らを巻き込みたくないから」
「FBIをからめないとなると、人員は?」

「そこでこちらの噛ま……助っ人一発やる太郎の出番ですよ」
「やる太郎じゃねえっジョン・オニールだこのやろー。てか今おまえ噛ませ犬って言いかけたろ! やるだけやらせといて梯子外すつもりじゃねーだろうな!」
ここで白鳥は、2人にテロ阻止プランを披露したんである。

この夜の「ソーホー秘密サミット」は現実世界では行われなかったし、

21世紀に生きる我ら未来人は、
この5日後にテロがおきた──
──という結果を知ってるわけだが。

「よかったー、ディックに反対されたらどうしようかしらんって怖かった」
「まあ、べつの選択肢があれば間違いなく反対したプランだよ。決して理想の形とはいえないが、ほかにテロを止める策がないという君の判断には同意できる」

「あとは場所と、時間さえ分かれば、」

「ってやる太郎さっきから飲むペース早すぎくない?」

「しゃーねーだろ、おれしか飲んでねえからその分も飲まなきゃ!」
「なにその謎理論。もうつぶれてもタクシー呼ばないからね!」

「心配するな、自分の面倒は自分で見れらー!」



「で、やっぱり酔いつぶれて寝るしっ」

「これが例のハニ・ハンジュルの隠れ家にあったゴミかい?」*【第23便】
「バラバラのサラダというか。なにかとっかかりがあるような見えかけてる気がするんだけど、それが形になりそうでならないカオスな段階」

「凄いな、この無秩序なスパムから意味のある情報を抽出するのは、
熟練のアナリストでも音を上げて逃げ出すぞ」

「地味ーに白鳥史上最大の難題です。いまテキスト部分をデータ化してるとこ」

「ああっ、またタイプミスが…」


「指太いせいだ…やせないと…まだ半分も終わらず…ブツブツ」
「だが、これを解析できるとしたら世界でも君しかいないと思うな」
「そういうプレッシャーを……まーわたしもそう思うけどね(*´∀`*)」


「でも正直どん詰まり。だから思い切ってほかのことした方が刺激になると思って」

「うう、……二度と浮気しません。この子羊にどうか憐れみを」
「相変わらず懲りないなー、やる太郎」
「文句を言いながら本当は嬉しかったと思うよ、君から今回の“作戦”に呼ばれて」
「ねえ? だったら素直にうれしそうな顔すりゃいいのに」

「あ、そうだ、ここからもきらめく摩天楼は見えるよ、」

「ただし地上5階からの摩天楼だから多少視界に不具合はあるけどね」


「そして単に階段の踊り場だけど。上の階は人住んでないし事実上専用ベランダ」

「ディックと知り合って、これで5年半くらい?」
「そのくらいになるか。早いものだ」

「5年目にして初めて見ました、あなたのスーツじゃない格好」

「ほとんど行政府ビルにいて、家に帰ったらシャワーを浴びて寝るだけだったからなあ。スーツのほうが着慣れてしまってかえって変な感じだ」

「そういうのも素敵ですよ」

「んー? ここはセキュリティ上は大丈夫なのかな?」

「前にいた領事館の施設よりも脆弱な気がするが。縦深がないし侵入路も複数……」

「ふふ」
「ああ、すまん、つい。職業病だな」


「四六時中そのことばかり考えてるから、なんでもこういう目で見てしまう」
「あ、いえ、そのへんはわたしも同類だから。でも、心配してくれてありがとう」

「外務省方面はしばらく避けたいの。ここだって見た目より安全なんだよ」

「1階に住んでる美女は若ハゲくんの友だちで元男で元特殊部隊だし。2階には元ベトコン、3階にムエタイの師範、4階に推手遣いの台湾人のおじいさん。この4人を倒さないとわたしの階まで上がって来られないから」
「なんだかブルース・リーの映画みたいだな」

「他ならぬユリコに差し出口だったか」
「いいえ、その他ならぬユリコのはずが自分を過信して調子こいてたらあのざまで、あなたにもみんなにも大変迷惑かけてしまったし、」

「国家安全保障のプロに添削してもらった方がよいかも。先生、採点してくれます?」


「なるほど、この西側から侵入しようとした場合の対策は?」

「ああ、そのときはここのラインから……」

「その場合、この階はどうするんだい?」
「えっと、それは……」





「いやー鋭い鋭い、さっすが“ツァーリ”、痛いとこいっぱい突かれまくりましたっす」
「いやすまない。この調子でやるから視察先の保安担当者にたいてい嫌がられてしまう。今日もウォール街でさんざん煙たがられてきたよ」
「そんなん煙たがるほうがアホですよ」

「わたし、どちらかというとオフェンス型なんで、ディフェンス面でどうも大雑把になる傾向があるから、助かりました、ありがとう」
「いや、じゅうぶん難攻不落に仕上がっていたよ」

「言いかたヘンだけど、こうやって“分かってる人”とやり合うのすごい楽しい」

「楽しい、か。仕事だからこれまで考えもしなかったが、近い感覚かもしれないな」

「なんだかんだいってわたしたちみたいな種族は、あーでもないこーでもないと考えるのが好きなんですよ。そうじゃなきゃ10年も20年もやってらんないっつーの」
「そこを理解してくれる人はごく少ないがね」

「あなたが対テロ調整官を辞めてしまうの、すごく残念だなー」
「長くやりすぎたよ。正直、少し疲れたかな」


「夜中も深く眠れず、24時間緊張の続く日々を10年も続けてくるとね。
もともと赤毛だったのに、このとおりほぼ白髪だ」
「ええーっ、赤毛だったんだ? ちょっと想像つかないよ」


「辞めてどうするか聞いてもいい?」
「まだ公にはなってないが、サイバースペースセキュリティ担当特別補佐官が新設される。10月からそっち専任になる。これからインターネットも国家安全保障の主戦場のひとつになるだろうし、ほとんどゼロからの立ち上げだ」

「やりがいある仕事だよ。この分野の中心はやはりシリコンバレーだからワシントンから離れてそっちに軸足を置くことになるだろう。それを1年やって体制づくりにメドをつけたら、政府の職から離れるつもりだ」

「根掘り葉掘りゴメン、その後は?」

「公職はさすがにもういいかな。とはいっても、もうどっぷりこの世界に浸りすぎて今さら別の仕事はできないからね。やはりインテリジェンスやセキュリティの世界で生きるだろうなあ。いまなにかと民営化が流行りだが、」

「安全保障分野もまもなくそうなる。国、州、市、企業、公人私人──セキュリティを必要とする人々は、合衆国に、いや世界中にいる」

「政府内にいて痛感したのは、選挙民は安全保障への興味が薄く、対テロ政策も評価につながりにくいことだ。だからセキュリティの意識をもっと広く多くの人々に共有してもらえるよう啓蒙的な活動もしていければ……」

「とてもいい仕事だと思う。よかった、ほっとした。あなたが前向きで」

「君のおかげだよ、ユリコ。君が私に初心を思い出させてくれた」
「えー? へへへ、わたし、そんな大したもんじゃございませんことよ (*´∀`*)」

「ライザはまだ残ると思うが、ロジャー・クレッシーはついてくると言っている」
「あーあの子犬みたいな。渋谷くんのUSAバージョンな人ね」
「肝心のNSC*があまり手薄になってほしくないんだがな」*国家安全保障会議
「人徳でしょそれは。分かってる人は分かってる人と働きたいのが自然だし」
「それなら、」

「一緒にやらないか、君も」


「へ?」

「君が力を貸してくれれば驚くような凄い仕事ができるだろう。
君の才能は世界を見渡しても唯一無二のものだ」

「いや、取り繕うのはやめよう。今言ったのは理由のひとつにすぎない」

「え、あの、え?」


「んーむにゃむにゃ」

「あれ? クラークとシラトリはどこいったんだ?」

「うー喉渇いたな、うわっ」



「わわわわおれ様のアルマーニのシャツがー。ティッシュティッシュ」


「おいティッシュはどこだ、洟かまねーのかあいつ!」

「うげっ、しまった、あーくそ」


「なんで崩れるような置き方してんだよ! ティッシュティッシュ」


「ティッ……」


“ニューヨーク大学医学部付属医療センター”

「君が大変ないま言うことでないかもしれない。それは分かってる」

「君が拘束されたと知ったとき気づいた、私の中での君の存在の大きさを。
君が苦しんでいると思うといてもたってもいられなくなり、すべて投げ打ってでも君を救い出したいと思った。けっきょく私は大したことができなかったが、とにかく君は生きて帰ってきてくれた。そして第一線に踏みとどまってくれた」

「今こうして君と話ができて、君の笑顔を見られるのを、神に感謝したい思いだ。
仕事が人生のすべてだった私が、一人の女性にこれほど惹かれるとは思わなかった」

「もちろん君が日本のため重要な役目を背負っているのは分かっている。そして日本にいる彼が君にとって大切な人であることも。彼は素晴らしいサムライだね。君の心に私なんかの入る隙などないかもしれない」

「しかしそれでも君に今の思いを正直に伝えたかった」



“脳外科”

「ユリコ、一緒に来てほしい。君を愛している」
【ウルトラ ニューワールド之章 第25便】へとつづく








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