「
警察庁が他省庁の職掌に対して口を出すことは難しい。とくに
警察っていまいち官界で発言力ありませんしね。ですから
内乱罪破防法の適用に反対はできません。
しかし、
適用しにくい空気をお膳立てすることはできます」
信者から巻き上げた金で
メロン食い放題の贅沢三昧、
自称
最終解脱者、ほんとは詐欺師あがりの銭ゲバな
宗教屋、
自らは手を下さず手下に
人殺しをやらせる卑怯なゴロツキ、
教祖の地位を利用し、清楚な
美人信者を片っ端から愛人にして、少女ばかりそろえたハーレムで、未成年への
性的虐待を繰り返した、処女好きの
ロリコン変態おやじ、そんなくだらない男の風呂の残り湯を
聖水とありがたがる
愚かな信者、
子どもにも笑われそうな陳腐な
新発明、
声がでかいだけですぐ底の割れるご都合主義の屁理屈、
どっかからパクってきた幼稚な歌──
オウム真理教の危険で狂的な顔ではなく、アホバカを強調し、
革命や内乱から最も遠い、安っぽいお笑いイメージで徹底的に貶め、
得体の知れない恐怖の異形集団という位置から、
低俗なゴシップネタにひきずりおろすのです。
それと並行してこれまで以上に
信者集金ネットワークの摘発と解体を徹底すれば、
教団はじっさい無力になる。
それも世間に知らしめる。
しぜんと
内乱罪も
破防法も腰砕けになるでしょう。
「名付けて
メロン大好き大作戦」
「……その名前をいちいち官能的な顔で言わなくてはならんのか?」
「しかし
マスコミが都合よく仕掛けに乗るかな」
「彼らが、まともに後先を考えて報道したことなんてありますか?」
「まあ、そうか」
「だが裁判で
麻原が
殉教者のごとく振る舞うかもしれんぞ」
「あ、それ絶対あり得ないですから。あの男はこちらの思惑どおり動きます」
「それは憶測ではないか」
「いいえ、情報を精査したうえでの
解析です」
「だが全国で
オウムと対峙する第一線の
警察官の気持ちを思うとしのびないな」
「はい。それだけは申し訳なく思います」
「君もだぞ
白鳥。
対オウム捜査の真の功労者は君だ。
いま君の口にした対応策は、君自身の功績も汚すことになるぞ」
「それが?」
「…………」
「それでは私、明日の用意もあるので失礼しますね」
「
白鳥警視、今日ここで話し合われたこと、ここにいた顔ぶれ、決して他言なきよう」
「こういうシーンの決まり文句ってありますよね」
「“え? 今なにか話しましたっけ?” 」
ますます過熱する
オウム報道は、
恐怖・不気味・危険的な煽りと、おバカ扱いがいりまじってカオスになり。
さてここで後門の虎のごとく現れて、
おいしいとこ狙いの
法務省である。
検察庁、
公安調査庁、
入国管理局、
刑務所、
少年院、
拘置所とかの元締め。
省庁の官僚てっぺんはふつう「
事務次官」なんだが、
法務省だけは独特で、省の序列1位=なぜか
検事総長@最高検察庁。
その次に
次長検事か
東京高検検事長、
大阪高検検事長が続き、
法務事務次官はその下、序列4番目か5番目にすぎない。異形の省庁である。
上級幹部の多くが
検察庁で、
法務省すなわち≒
検察庁である。
そして
【サティアンズ】でもずっと続いた
警察検察の息の合ってない感からしても、ぜんぜん一枚岩じゃないし。
対オウム<
内乱罪・破防法についても、まったく異なる目線で見てるわけで。
世論の追い風を得て、>
内乱罪、破防法まで一気突破してまえという
法務省の思惑。
内乱罪、破防法なら、
事件をまとめて断罪する一発ドーンが可能だ。
そして冷戦終焉でアイデンティティも終演しそうな
公安調査庁も復活のチャンス!
4月下旬、
政府与党首脳連絡会議&
与党責任者会議で「
内乱罪の適用」が話題となる。
検察─
与党族議員の連携プレーによる布石だった。
さらに
検察庁は
宗教法人法の「公共の福祉」を理由に、
東京地裁に
宗教法人オウム真理教の解散請求、
>
10月末、史上初の
宗教法人解散命令が下る。
法務省すなわち≒
検察庁的には、ここまで「計画通り」
次は
警察庁のターン。ビハインドからの巻き返し、
オウム報道の水面下で情報戦が始まる。
「あ、そろそろ始まりますよ」
「あれ、姐さんは?」
「それが昨日の夕方からいないみたいで」
「え、アバラ2本と指3本やってんのに?」
「やはり、
あそこ、ですかね」
「まあ、見届けるつもりなんだろうな」
……おれも行った方がよかったか?
「どうされました、
警部」
「ん、いやなんでもない」
1995年5月16日 火曜日──午前5時35分──「
麻原彰晃こと
松本智津夫および
地下鉄サリン事件関与の
31名の身柄を確保せよ」
警視庁、
強制捜査初日以来の
1200名超えの大軍を動員。
強制捜査開始から
55日。
警察対
オウム真理教の
“ハルマゲドン”は、ついに最終局面を迎えたんである。
1995年5月16日から現在までの
オウム真理教と警察のおもな動きは、公開された情報にもとづく。
登場する公官庁、企業、機関、組織、部局、役職もすべて実在する。
白鳥百合子はじめこの色で示されるのは、架空の人物であり、
実在する人物、事件、出来事と架空の彼らの交差する部分は、
例によって創作全開ソースは妄想なんであるが、その内容には一応意図がある。
またこの色この形*の人物は仮名である。
第六サティアン突入の最先鋒は、
井上警視総監がかつて
大隊長だった
六機こと
第六機動隊3個中隊270名+もちろん内緒で秘密の
特科中隊SAPも。
現場統括は初日とおなじく、
山田正治@捜査1課理事官。ここまでの
強制捜査で
オウム側からの
武力行使はない。
だが
教祖逮捕となれば今度こそ何が起きるか分からんし。
突入部隊は
化学防護服と、またまた異例の
全員拳銃携帯でのぞんだ。
(うー手は痛いしアバラめっちゃ痛いし…)
(しかもコルセットでウエスト太く見えるし、ぐぬぬ)
うざうざ400人も集まった
マスコミも大期待中。
午前5時48分──第六サティアンの扉を
電動カッターで焼き切るテレビ映えしそうな絵に
マスコミ殺到。
信者たちの目もそちらに引き寄せられる。
が、
このド派手なパフォーマンス、じつは陽動。
本当の
麻原捜索チームはその隙に裏口から、
「こんちわー
三河屋っすーじゃない
警視庁ですー」
ふつうにノックしてふつうに
第六サティアンに入っていた。
“本当の
麻原捜索チーム”は、
誘拐や
企業恐喝や
立てこもり担当の
捜査1課特殊犯捜査係を中心に、
機捜隊や
所轄から選ばれた
捜査員15人。
で、いきなりゴキブリの大群とご対面。中はゴミだらけ。悪臭むんむん。
出迎えたのは、
教祖夫人@
松本知子と
ガキども子どもたち。
「夫は長い間ここにはいません。ずっと
東京です」
「ではこの建物を捜索して、いたる所を壊すことになりますが」
「どうぞ、かまいません」
ほかの
サティアンやら周辺施設群では、
地下鉄サリン事件にかかわった
信者がさくさく逮捕されていく。
地下鉄サリン実行犯>
杉本繁郎、いつのまにか戻ってきてた
廣瀬健一と
横山真人、
サリン製造 プラント建設>
渡部和美、
滝沢和義、
森脇佳子、
垂井明美、
池田悦郎午前9時13分──寺尾正大@捜査1課長記者発表

「
信者13人を
殺人及び
殺人未遂で、1人を
有印私文書偽装などの容疑で逮捕した」
いや、そんな雑魚よか
麻原は?
だがかんじんの
麻原狩りは思いがけず難航中なんである。
“本当の
麻原捜索チーム”がタレコミの
隠し部屋をさんざんっぱら苦労して壁を壊した結果、とっくになくなってると判明。くそ、ガセか捜査錯乱の偽情報だったか。
どこだ。必ず
第六サティアン内にいるはずだ。
第二上九で最大の建造物
第六サティアン
約43m×約23mの地上3階。
で、構造がまた小憎ったらしい。
1階=
麻原とその家族の住居、2階=
信者修行場、
3階=幹部個室など“
蜂の巣”と揶揄された捜索泣かせの2畳小部屋
127室!しかもいちいち頑丈な鍵と分厚い鉄板の蝶番が掛かっている。
おまけに窓がほとんどナシで電気も切られた暗闇状態。地獄のように暑いし臭いし。
いちいちカギ開けてらんないので、片っ端からハンマーで壁をたたき壊すんだが。
しかも
富士ヶ嶺一帯ガスってくるし。
ちょっと勘弁してよ状態に。
このまま空振りか、と思われたそのとき、
“本当の
麻原捜索チーム”の一人
牛島巡査長が、ふと、
2か月前に見て妙に引っかかってた光景を思い出した。


あのとき
信者たちは、
第六サティアンの外壁に雨除けカバーを取り付けていた。
あそこに空気穴があったんじゃないか。
牛島は
本田署*の
盗犯係だけども、
地下鉄サリン事件発生で
築地署捜査本部に動員され、
被害者たちの聴取を担当して以来、
オウム捜査に関わっていた。
今日は“本当の
麻以下略”を邪魔する
信者を排除する露払い役で参加中。
*本田署 : いまは再編されて葛飾署。読みは「ほんだ」じゃなく「ほんでん」「2階と3階の間の壁に不自然な空気穴がある。どこかに隠し部屋があるぞ」

手分けして壁を叩いて、音から裏が空洞の場所を探す。
「ここだ」
2階にある少女漫画でいっぱいの
三女アーチャリーの部屋。その天井が隣室に比べて低い。ついに2階天井と3階床の間に仕切り板で囲まれたスペースを発見。
ハンマーでさらに壁を破壊。
「髪が見えます! あ、いや
ヒゲです!」
知らせを受けた
山田理事官が駆けつけると、


「…………」
─────────────「…………」


「
麻原か?」

──────────────「
ういっ」

「降りてこい」
「──ひとりで降りれません」
「誰か脚立もってこいっ」
“隠し部屋を見つけた──”
“隠し部屋に麻原らしき男を発見”

数人がかりでぶよぶよの肉玉を引きずり下ろし。
「重くてどうもすみません」
頭にはおなじみ
ヘッドギア。だが電源は入ってない。
三女アーチャリーが泣きながらすがりつく。
“──男は麻原彰晃本人と認めている”
2階天井裏の隠し部屋@3畳のカプセルホテルみたいで、
高さ50cm×幅1m×長さ3.35m。
中には寝袋、ウェットティッシュ、洗濯かご、ヘッドホン、
そして札束
960万円。
空気穴に気づいた
牛島巡査長は
所轄なんざ脇役だし最後列に追いやられていたが、
山田理事官が彼を呼び寄せ、
「おまえが
手錠を掛けろ」
名誉ある役目だけども、
牛島は
検挙班じゃなかったんで
手錠をバスに置いてきていた。
慌てて他の
捜査員から借りて、
麻原に
手錠をかけた。
“午前9時46分、麻原彰晃こと松本智津夫を確保した”
医師が身体検査をしようとすると、
「やめて!
カルマがつく! だめだめ!
パワーが落ちる! だめ!」

しょうじき困惑
この情けない男が、本当にあの
麻原なのか。なぜこんなやつを
信者は崇めたんだ。
「
本庁に護送せよ!」

















「もういい、
丸メガネ」


「あんたは頑張った。もういい」


“あ、麻原代表がいま捜査員に囲まれて出てきました!”
“麻原彰晃が、いま逮捕です!”
「このくっせぇゴミ溜め出ようぜ、な。ここはあんたのいるとこじゃねえ」

プップー
『えー、
麻原こと
松本容疑者を乗せた護送車が、いま動き出し──』

「終わったな」
ふっオレ様、決まりすぎじゃねえか参ったなこりゃ。
「あんた、オレに惚れんなよ」
ってまたいねえし、例によって忍者かよ。てか礼のひとつく──
らい──



「ありがとう、またね!」
「へへっ」
やっぱ男は富士の前で仁王立ちだな。

ってガスって
富士山見えねーじゃねーか。
当初、
麻原護送はヘリが予定されていたが、あいにく天候荒れまして、
午前10時45分、陸路で
東京へと出発。
その車内で
捜査員たち相手に
麻原は饒舌に語りまくった。
「地獄界は三つの世界に分かれているんです。天国界は…」
「あら、
麻原捕まったん?」
「そや」
「怖いなあ
宗教なあ。あんたも言うとったやろバモバモ…
えっと…なんやっけ。あんまり
宗教はまらんといてや」
「かあさん、あれ
宗教とちゃうよ。ぼくが自分で考えただけやし。
それと、かあさん、
バモバモやないで」

「
バモイドオキ神や」
井上幸彦警視総監は記者会見で意気揚々と、
「
サリンはもうない」
ところが同じ日の
村山富市首相の会見↓
そうじゃのう…―村山富市「首相体験」のすべてを語る 「
サリンはまだ隠されている可能性があるので厳重警戒を続ける」
首相会見の官僚的草案を用意したのは
警察庁で、
ここでも
警視庁と
警察庁ぎくしゃくしてるんである。
「現場の
警察官が頑張って治安を回復してるのに、
なんで不安を煽るようなことをわざわざ言うかなああ
ああああああああ」
だが、
16日 午後7時──
新宿副都心 東京都庁
に、
都知事公邸から回送されてきた
郵便小包。なので
麻原逮捕と同じ日に開封されたのは偶然である。
その中身はへんてつもない単行本、
のはずが、
表紙を開くと、
【東京都庁小包爆弾事件】≫ 続きを読む