【事件激情】再掲@サティアンズ 第一解【地下鉄サリン事件】


「次なにが来そうだ?」

「──宗教、かな」
「宗教──って、仏教とかキリスト教とか?」
いえ、もう少しちがうやつです。たとえば…

ピープルズ・テンプル
ってご存じですか?
次に来るのは、そういうのですね。
説明面倒なんでテレビで知ってください。近いうちニュースになりますから。
「また解析ってやつか」

今夜、我々の叫びをやつらに知らしめるのだ!
やつらが来たら、殺せ!(歓声)
愛だけが武器だと?
嘘だ!

キング牧師は 愛を説いて 殺された!
ケネディも たわ言の愛を主張して 暗殺された!
愛だけが武器なのか?
拳もある! ナイフも銃もあれば ダイナマイトもある!
私は戦えるぞ! 戦うぞ!(歓声)

もう後戻りはできない 我々に残された道はない
権力者に媚びて生きるつもりはない
わたしは皆に道をしめし 皆を導いてきた しかし世界はわたしを拒んだ
ローマ教皇は自分が生まれたのは運命だと言った
皆もそうだ 運命だ ここで死のう
これは自殺ではない 革命的行動なのだ


Peoples Temple ピープルズ・テンプル──

日本では「人民寺院」と呼ばれることになるカルト宗教。

人種差別をなくそう、人種融和、をかかげたキリスト系新宗教として生まれた。

教祖ジム・ジョーンズ、もとは牧師見習い、26歳で教団を創設。
貧しい黒人層を中心に信者を増やし、彼らに衣食住を与えて、
社会活動家としてほめそやされ、政界にも人脈をつくった。
とそこまではよかったんだが、
裏では、安い労働力を手に入れて上前をはねて大儲け、信者は黒人ばかりなのに幹部は白人ばかり、教祖は愛人を何人もはべらせて肉欲大魔境──いつかどこかで聞いた話。
さらに教祖ジョーンズ、60-70年代、時代の影響で極左思想にどっぷり、
絶倫持続のためヤクをキメすぎて妄想まで拡張。

「CIAとFBIに狙われてる!」「核戦争が起こる!みんな死ぬ!」
さらに元愛人(しかも側近の妻)と裁判>親権争い>「たぶん負けちゃう!」


ジョーンズは、核戦争からも元愛人と裁判所からも安心安全の地、
ってことで南米ガイアナの密林に「ジョーンズタウン」を建設、
信者1000人をぞろぞろ引き連れて移住した。
外界から切り離された自給自足の理想郷、のはずだった。
が、まもなく、
鎖国状態のジョーンズタウンで、どうやら、

強制労働と拷問虐待、監禁、組織的レイプ、さらに軍事訓練まで…
といううわさがじわじわとアメリカ本国まで伝わる。
もうこの頃、教祖ジョーンズは、ほとんど末期的な狂人。
本国アメリカから下院議員とテレビ取材班が調査にやって来ると、
「やつらは何万キロも追ってきた 奴らの正義を押しつけるために!」


「まもなく今日出ていった仲間が、
飛行機のパイロットを射殺するだろう!」


っていきなり皆殺しかよ。

さあ、大鍋に満たした毒をみんな飲むのだ 古代ギリシア人のように!
やつらが来たら拷問されるぞ! 大人も子どもも構わずだ!
子どもたちを一人たりとて後に残してはならない!


さぁ急げ急げ急げ急げ 愛する子どもたちよ
敵の手におめおめ渡しはしないぞ

これから革命的な自殺をやり遂げるのだ
──Peoples Temple教祖ジム・ジョーンズ最期の説法より
(事件後、ジョーンズタウンで発見されたテープに録音が残っていた)
米大使館からの要請で、ガイアナ国軍、ジョーンズタウンへと急派。

そこで兵士たちが見たのは、



ただただ累々と横たわる信者914人のむくろ。
──1978年11月18日 【ガイアナ人民寺院事件】

──1995年3月20日
月曜日

「湯島ー湯島ー」


「扉が閉まります、ご注意ください」

「──営団地下鉄千代田線をご利用いただきましてまことにありがとうございます」

「この電車は、JR常磐線我孫子発の直通列車──

──代々木上原行きです」

「途中、大手町、霞ヶ関──


──国会議事堂前、赤坂に停まります」



「──次の停車駅は新御茶ノ水です」


「──営団地下鉄千代田線をご利用いただきましてありがとうございます」

「まもなく、新御茶ノ水に停まります」

「お手荷物など

お忘れものの無いようご降車ください」


「新御茶ノ水、新御茶ノ水です──




「──扉が開きます、ご注意ください」

──その36週間前

──1994年7月

「ちっ、課長のクソめが」

「お巡りさんが煙草のポイ捨ては不味いのでは?」



「あれ、あんたみたいなの、県警にいたっけ」

「どうしてわたしを警察官だと思うんです?」
「違うのか?」
「先ほど課長のクソめがと言ってましたね」
「立ち聞きかよ」
「クソの理由は、ここで先月末に起きた事件ですね」

「あれは化学の専門家でもないサラリーマンが、
園芸用の農薬をちょっと混ぜただけでできるシロモノじゃない。
そう初めから主張していたのに、聞く耳持たなかった。
だから課長はクソ」
「……あんた、なんでそれを」
「違うんですか?」
「……警務部か? おれの人事調査してんのか?」
「6月27日 23時9分。最初の119番通報」


「22時40分頃、自宅でテレビを見ていた第一通報者の妻、体の不調を訴える、
つづいて庭の飼い犬が倒れた。これが異変のはじまり」

「その夜、秒速0.5mの微風、南西から北東へと吹いていた」


「だから風下70m内の、関智ハイツ、松本レックスハイツ」


「そして明治生命寮、これらの2階以上で死者と重症者が多く出た」
「自然界には存在しない猛毒ガス、人の手が介して発生させたはず。それは誰か。
第一通報者の河野義行ではないのか。

まず河野家より西の地区では被害が出てない、
最も早く通報してきたのが河野家、他はどれもそれより後である、
ほかの建物は2階以上で重症以上が集中しているのに対して、
河野家は1階にいた妻の症状が最も重い、



つまり河野家付近では大半のサリンが地上近くにあり、
風で東へと流されるにつれ上昇していった、と考えられる、
河野義行がふだんから園芸用に自分で農薬を調合していた、
ほかに有機リン系薬剤がありそうな場所がない、
それらを総合すると、消去法で疑わしいのは河野義行しかいない、
それが目下、捜査本部の方針」

「しかし、ガスの発生地が、河野義行の家だとすると、
風向きからして、被害分布が明らかに不自然」

「だからガスが発生した場所は、

河野家の敷地内、ではなく、


じつは、その南にある、スーパーの駐車場、

つまりここではないのか。

だからガス発生時間帯の駐車場付近の目撃情報をもう一度掘り起こすべきだ、
と、一部の捜査員が主張した、

もちろんその意見も無視。
だから課長はクソ」

「おい、ちょ、ま──」
「このままだと明らかに無関係の第一通報者がむりやり犯人に仕立てられる。
どうせ自白さえとれたら、農薬は庭じゃなくて、
わざわざ南隣のスーパー駐車場まで行って調合してました、
と調書をつじつま合うように書き変えれば済む。
そして誤認逮捕、下手したら冤罪が起こる」

「だから課長はクソ」
「……誰だ、おまえ」


「宅配便です」

「……あ、もしかして、あんた、ハムか?」

「ハムがなんでデカの俺に

ありゃ?」

なんなんだあの女、忍者かよ。気味悪い。
まあハムって横書きじゃなんのこっちゃわかんねーか。
ハ
ム
って縦書きじゃねえと。おれは独り言で誰に説明してるんだろうな。

こりゃなんだ。
上九一色? なんて読むんだこりゃ。
村役場の議事録か。

…廃液…悪臭…施設周辺の牧草が枯れる…無人気球…再三の苦情も無視。
警察に届けてもろくに対応しない…耳が痛いね。どこだ? 山梨? あーあそこの県警は小せえからなあ。
ていうか、こりゃどんな意味があるんだ?
各県警のとくに刑事部門はそれぞれ捜査指揮権をもってまったく別個に活動しているため、長野県警の刑事が、遠く山梨県の小さな村で持ち上がっているトラブルを、この時点で知らなくても無理はなかった。
もう1枚。こっちはえーとなんだ?

発注伝票のコピーか。
ジメチル? どっかで聞いたな。ジメチルジメチルジメチル──

購入者──法人でなく個人か。住所は、と、世田谷区松原──東京かよ。
あの女、なんでこんなもん寄越したんだ。

「んーと、有休っていつまでに届ければいいんだっけな」
吉池松男@警部補


@長野県警刑事部捜査1課 班長代理
@「松本市中毒事故捜査本部」捜査員

あの惨劇の夜から2週間後の午後、ある一部架空の出来事。

1994年6月27日夜10時40分頃から28日未明、
長野県松本市

北深志の住宅街、謎の集団中毒、発生。
【松本サリン事件】である。
■関智ハイツ>
死者3(医大生♀29歳・会社員♂26歳・大学生♂19歳)重症2・軽症10
■松本レックスハイツ>
死者3(会社役員♂53歳・無職♀35歳・工員♂23歳)重症2・軽症5


■明治生命寮>死者1(明治生命社員♂45歳)重症1・軽症2
■河野家>重症1(通報者妻♀44歳)軽症2
■長野地裁松本支部宿舎>軽症1
■そのほかあわせて重軽症144(のち調査し直しで593人)

その夜は蒸し暑く、窓を開けてる住民が多かったから被害がより大きくなった。
最初は水道水への毒物混入が疑われて水道が止められ、やがて有毒ガスらしいということになるけども、それが何かわからない。被害者の症状は有機リン系農薬の中毒に似てるようなでもなんというか…
長野県警の科捜研、さらに警察庁の機関科警研スタッフがその日のうちに現地に向かって鑑定、6日後、ガスクロマトグラフィー(質量分析器)鑑定で、現場近くの池の水から、
メチルホスホン酸モノイソプロピル舌噛みそうを検出。
「サリン」とともに現れて忘れ物のようにその場に残る副生成物質である。


──正式名称 メチルホスホノフルオリド酸イソプロピル誤植してもわっかーへん。
この事件で初めて「サリン」を聞いた人多し。自然界には存在しない化学合成物質だ。
第2次世界大戦直前のドイツ、殺虫剤の開発中に、
なんや偶然の重なりでああなってこうなって神経毒サリンは生まれた。
いちおう基本形態は「液体」なんだが、揮発性が強くすぐ気化する。
そして呼吸や、皮膚、眼球の粘膜から動物(人間も)の体内に入り込み、
神経系を攻撃し、呼吸機能を奪う。
微量かつ速攻で作用、人への殺傷力がガチムチャ強い超猛毒である。
正直危ないんだが、人類は人殺し大好きなので、
とうぜんサリンも化学兵器として各国で研究開発が進んだ。


ナチスドイツがつくり、ソ連がつくりアメリカがつくり、
サダムフセイン@イラクがイランイラク戦争や国内クルド人弾圧にサリンを使ったといわれていたから、
湾岸戦争のとき多国籍軍にむけてサリンまいてくるんじゃないか、
と恐れられたけれども、けっきょくそういうことにはならなかった。
本来サリンは無色無臭(だからこそ恐ろしお)、なんだが、
この夜、北深志一帯に広がったサリンは、精製具合が雑だったらしい。
だから「白煙」「へんな悪臭」になって“見えた”んである。

さて捜査本部はというと「サ、サリン? なにそれおいしいの?」
よくわからんので、とりあえず古きよき刑事捜査の伝統に立ち戻る。つまり、
「第一通報者をとにかく責めて責めて責めまくって吐かせろなんでもいいから」
第一通報者の河野義行@会社員を怪しいってことでロックオン。

農薬調合中に誤って(もしくはわざと)サリンを発生させた、
という筋書きをつくる。
サリン中毒でグロッキーな河野を「重要参考人」として連日14時間聴取という名の取り調べ。といっても脅したりすかしたりカマかけたり@刑事捜査の伝統。息子14歳を「坊や吐いちまえよ」と脅したりいすかしたり…相変わらずの伝統芸である。
単に被害者の河野は、そもそもなんで疑われてるのかわけわかの状態である。
ところが、化学の専門家たちは、
「サリン生成は何段階もの合成が必要、農薬を混ぜただけじゃできんわ!」
河野家から押収した薬剤だけではどう混ぜてもサリンにはなってくれんのも分かって。
「無理筋じゃ?」と思ってる捜査員もちらほらいるんだが。
功を焦る長野県警上層部はかたくなに反論をスルー。もー河野一点張り。薬剤が無い? じゃ家族が隠したんだそうに違いない@刑事捜査の伝統で。
で、あげく外堀から埋めるつもりか「『農薬を混ぜるのに失敗した』とか『たいへんなことになった』とか事件直後に娘に言った」とガセネタまでリーク。


さらにマスコミが警察の流すそういうウソ情報をそのまま裏取りもせず「河野犯人説」を垂れ流す。おなじみのメディアスクラム。
地元紙信濃毎日新聞@毎日新聞とは無関係は最初っから河野を犯人扱い。さらに週刊新潮@誤報してもゼッタイ謝らないことで悪名高いは、河野家の家系図までもちだして「毒ガス事件発生源の怪奇家系」とかやらかした。
おまけに自称“毒ガスの専門家”こと常石敬一@じつは化学兵器史の研究者にすぎないが、専門知識あやふやにもかかわらず、
「知識さえあればサリンは農薬を混ぜて簡単にできる」
てきとーコメント。それをマスコミさらに引用>思い込み拡大。

それを見聞きした世間一般も、犯人≒河野だと思い込む。
のちのちまで長く尾を引く報道被害である@マスコミの伝統芸。
(ちなみに週刊新潮はもちろんいまだに謝ってない、どころか謝罪文を載せる約束で告訴を取り下げさせておきながら、けっきょく載せない、という悪名っぷりである。さらに報道被害拡散の元凶のひとり常石敬一は、真相わかったあとも河野への謝罪らしいこともしないまま、相変わらず「毒ガス専門家」として得々と発言している)

18年後の未来に暮らすワシら未来人は、
【松本サリン事件】のほんとの下手人=オウム真理教だと知ってるんだが、
この頃はオウムのオの字も表には出てこず、

じつは7月19日に長野地裁松本支部で、オウム真理教 対 地主の土地売買をめぐる民事訴訟の判決がくだる予定だったこと、オウム側の敗訴が濃厚だったこと、
そして【松本サリン事件】の影響で公判が長い延期になったこと、
それと関係あるなんてみんな思いもしなかった。

ほんのごくごく一部の人々を除いて。
【第二解 ロイヤー ミッシング】へとつづく





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