【事件激情】ウルトラ : 14機目 ─続き【帝銀事件】
*13機目

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「日本にあるファイルのうちひとつだけは、決してご覧になれないはずです」
───────ユージン・H・ハットリ@元GHQ/SCAP民間諜報局公安課
────────「帝銀事件の真実 平沢は真犯人か?」ウィリアム・トリプレット著

帝銀事件をめぐる背景と経過、警視庁による満州第七三一部隊および第九陸軍技術研究所への捜査は公開された情報にもとづく。
平塚八兵衛、成智英雄、伴繁雄ら黒字・紫字・赤字の人物はすべて実在するが、
一部の会話や行動はちっとばかし変えている。
彼らの属する国家、官公庁、組織団体もすべて実在する。
ただしニイタカ・ヤヨイ-カトリーヌは、架空の人物であり、
実在する人物や出来事との関わりはすべて創造全開、ソースは妄想である。
─続き

「調べてみればいい。あの男↓以外にやれる者はいない」
「あの男↓が犯人だよ」
諏訪三郎@軍医中佐
昭和13年から関東防疫給水部に配属されていた初期メンバーである。
東大出身 51歳
すこぶる優秀な医師
スマートな紳士風
人相体格などモンタージュ写真や目撃証言とぴったり。
ともに働いた同僚たちによると、
パビナール中毒で頭おかしいサイコパス。
昭和18年に東京第一陸軍病院に配属、
翌19年に七三一部隊チチハル支隊出向を命じられる、
が、薬物中毒がバレて待命処分に。
それから静岡に住んでいたが、

1945年@昭和20年6月の静岡大空襲で焼け出され、
それっきり行方知れず──。
警視庁は、帝銀事件重要参考人として
「元軍医中佐 諏訪三郎」の手配書を全国各警察へむけて送付した。

さて七三一部隊が、BC兵器の実験で数千人も殺した悪魔の飽食軍団だったかどうか。
成智の遺稿から元隊員の言葉は引用してるものの、ここまで七三一的に有名なビジュアルすら1コも引っ張ってこないのはなぜかっつうと、






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「日本にあるファイルのうちひとつだけは、決してご覧になれないはずです」
───────ユージン・H・ハットリ@元GHQ/SCAP民間諜報局公安課
────────「帝銀事件の真実 平沢は真犯人か?」ウィリアム・トリプレット著

帝銀事件をめぐる背景と経過、警視庁による満州第七三一部隊および第九陸軍技術研究所への捜査は公開された情報にもとづく。
平塚八兵衛、成智英雄、伴繁雄ら黒字・紫字・赤字の人物はすべて実在するが、
一部の会話や行動はちっとばかし変えている。
彼らの属する国家、官公庁、組織団体もすべて実在する。
ただしニイタカ・ヤヨイ-カトリーヌは、架空の人物であり、
実在する人物や出来事との関わりはすべて創造全開、ソースは妄想である。


「調べてみればいい。あの男↓以外にやれる者はいない」
「あの男↓が犯人だよ」

諏訪三郎@軍医中佐
昭和13年から関東防疫給水部に配属されていた初期メンバーである。
東大出身 51歳
すこぶる優秀な医師
スマートな紳士風
人相体格などモンタージュ写真や目撃証言とぴったり。
ともに働いた同僚たちによると、

パビナール中毒で頭おかしいサイコパス。
昭和18年に東京第一陸軍病院に配属、
翌19年に七三一部隊チチハル支隊出向を命じられる、
が、薬物中毒がバレて待命処分に。
それから静岡に住んでいたが、

1945年@昭和20年6月の静岡大空襲で焼け出され、
それっきり行方知れず──。
警視庁は、帝銀事件重要参考人として
「元軍医中佐 諏訪三郎」の手配書を全国各警察へむけて送付した。

さて七三一部隊が、BC兵器の実験で数千人も殺した悪魔の飽食軍団だったかどうか。
成智の遺稿から元隊員の言葉は引用してるものの、ここまで七三一的に有名なビジュアルすら1コも引っ張ってこないのはなぜかっつうと、

左右というか愛国売国のプロパガンダに汚染されすぎで、
もはや真相なんてわかりようもなくなってるからで。

中共が再建という時点で胡散臭さただよう基地遺址
写真捏造、犠牲者数の水増し、妄想、創作、怪しい証人、一をもって十の否定、悪意あるレトリック、資料の誤解誤読誤訳、資料の意図的な曲解誤読誤訳──

基地址「731部隊罪証陳列館」の生体実験再現粘土人形 ネタ元はあの「悪魔の飽食」だ
──無数のスパムがあふれかえらんばかり、真実なんて紛れてしまった。

従軍慰安婦、南京大虐殺、従軍慰安婦、靖国神社、強制連行、関東大震災朝鮮人虐殺、従軍慰安婦、従軍慰安婦、朝鮮進駐軍、従軍慰安婦──
そのへんと同じ類の香ばしさがここにもある。
ただし、今回の事件激情的には、その真偽よりも、
「GHQ的には731部隊ネタってどうだったよ?」
この一点のみが重要なとこで、
なので、
いちおうプロパガンダ抜きにして、帝銀事件がらみで事実、
と言えそうなのが↓

*平房ピンファンにあった資料記録は、終戦時に廃棄され、物証が残っていないこと、
*だから証人(元隊員含む)が現れても、語り部状態なだけで裏付けがないこと、
*成智警部補の手記によると、聴取に対して幹部級を含む複数の隊員が
「非人道的な行為」を語った(が、特命捜査で公的記録がない)こと、

*部隊長石井四郎が、死んだふりするほど戦犯訴追をおそれていたこと、
*が、けっきょく隊員はひとりも戦犯にならなかったこと、

*じつは日本軍の細菌戦研究は、米ソより遅れ気味で低レベルだったこと、
*ただし、隊員の持ち帰った「臨床記録」「病理標本スライド@8千枚」は、
アメリカ(とソ連)にとってもなかなかの価値があったこと、
*米軍が大金(15万円)を出してこの病理標本を隊員から買い取ったこと、
それを報告したウィロビー少将の署名付>陸軍参謀本部情報局長宛書簡も実在、公開されている。俗説「研究成果提供と引き替えに戦犯免責」っつうほど単純な話じゃないようで。

*ちなみにこの病理標本の“摘出元”は、半分以上が日本人で、
平房ピンファンでの生体解剖なんかではなく、単に大陸各地での
防疫部隊としての病理解剖だった可能性が高いこと、

*このときすでに米ソ冷戦はじまり、BC兵器開発競争も始まっていたこと、
*ソ連側の目論見として七三一部隊を戦犯法廷に引っ張り出して、
裁判を名目に細菌戦研究の成果を丸っとごっつぁん(゚д゚)ウマーを画策中、
とうぜんアメリカ側はその狙いを分かってるんでのらりくらりしていたこと、
*てのもあってアメリカ的には「731」にまつわる人間や記録が、
日本の司法の場で、しかも大量殺人事件がらみで
俎上にのせられるのはあーんまし好ましくなかったこと、
というのが【事件激情】界な事実として。
帝銀事件には、とくに*印付き最後の3つが、大きく影響するんである。
そう、たとえば、↓こんなかんじに。
──1948年@昭和23年 8月下旬 警視庁

「その件については了解しました、イートン中佐」
「合意が得られてなによりです、チーフフジタ」

「それでは、事件の一日も早い解決を願っています」



「部長、居木井です」

「一刻を争う重大事で参りました」

「──かくかくしかじかで、平沢貞通の逮捕状請求をぜひ許可いだきたく」

「…………」
「あの、部長、どうされました?」
「あ、いや」

「……よし、10万損してみるか。捕まえて来い」
のち機密解除されたGHQ文書にも、731部隊とか特務機関から手を引けと警視庁に圧力をかけたなんて1行も書かれていない。
もちろん上の藤田とイートンの会話もソースは妄想だ。

おかしい。
なにが変わったんだ。
死にものぐるいで犯人を追いつめ、
裁きの場へと引きずり出すまであと一歩、
目前まできたのに、
──8月22日 日曜日 毎日新聞
帝銀事件の有力容疑者、
小樽で逮捕

「はぁ? 平沢? 画家?」
「なんで名刺班ごときがしょっぴくんだ。冗談だろ」
「ただの画家が犯人のはずがない、誤認だ誤認、すぐ釈放になるさ」
──8月23日 月曜日 朝日新聞
堀崎捜査1課長「このていどの容疑者は毎日扱っている、シロ七分クロ三分だ」
──8月24日 火曜日 朝日新聞
首実検の結果、平沢氏の容疑は薄らぎつつあり、
家宅捜索の有力な手がかりもなく、シロ八分クロ二分。
──9月2日 木曜日 毎日新聞
詐欺の被害者四人が画家を犯人と確認
──9月6日 月曜日
平沢貞通の逮捕から半月後──
藤田刑事部長の私邸で内々の秘密捜査会議がおこなわれ、そこになぜか、

民間人ながら、伴繁雄@元9研技術少佐が伊那から上京して出席。
「毒物=青酸カリ」って話が会議で出た。
だが、その場にいた伴が異を唱えたり、青酸ニトリールとか口にした様子はない。
伴繁雄は、のち伊那でおこなわれた出張裁判でも、
「帝銀事件で使われたのは古い工業用青酸カリと確信している」
しれっと証言した。
アセトニアシアノヒドリンなんてもの最初から影も形もなかったかのように。

「捜査打ち切り? なぜですか」

「当面平沢一本にしぼり、他の捜査は打ち切ることとなった」
と同時に、「諏訪三郎軍医中佐」の指名手配もひっそりと取り下げられ、
──そして9月27日 月曜日

「平沢貞通を強盗殺人で起訴するとお聞きしましたが」

東京地裁刑事部・東京地方検察庁合同庁舎
「平沢ではあり得ません。あれは特殊な毒物です」

「犯人は化学知識のある者で、七三一部隊の捜査が、いま核心に迫っており──」

「──あーきみ、成智警部補といったか」
「はい」

「もう結構。余計なことを言うな、帰りたまえ」
↑
高木一@東京地検「帝銀事件」主任検事
平沢を自供させ>起訴>有罪へと運んだ、いわば冤罪派の怨敵である。

アバウトすぎる事実関係の組み立てとか、無罪を示唆しそうな事実関係時系列すべて無視とか、さらに上司出射検事@刑事部長による検事聴取書偽造疑惑とか、
あれだけ謎めかされてきた毒物についても。
「市販で手に入れた青酸カリウム」
「自分は飲んだふりでごまかした」
しゃらっとふれただけで、すがすがしいほどさくっとスルー。
当日のアリバイも、「炭団を受け取りに来た」という次女の証言は「家族の証言だから」っつう理由で無視、自宅で「炭団を持って帰ってきた平沢に会った」という米軍下士官@三女の男友だちは唐突に帰国、>裁判でも証言も求めずスルー、
かなり無理矢理な裁判だったのはまーたしかにそうで。

じつは高木検事、帝銀事件摘発のちょっと前に闇市利権がらみの訴訟で、GHQの意に染まない結果を出してしまい主任検事を外され、>失点になっていて。
つづけざまにGHQの機嫌を損ねるのは避けたい立場だった。
で、ここでうへーにがー(>皿<)説につながるんだが、

じつは高木検事は平沢より前に、
平沢の知人、能口ヒロシ@仮名という人物を取り調べている。

歯科医能口ヒロシ@仮名
能口@仮名は平沢貞通と同じテンペラ画会に属していて。
歯科医で薬物の専門知識もあって。
しかもかつて特務機関に所属したこともあって。

さらに生存者村田正子の証言もあって。
平沢貞通の面通しでも一貫してブレずに「犯人と違う」と言い続けた彼女は、
能口ヒロシ@仮名の顔を見たとたん震えだして、

「これまで見た人のなかでいちばん犯人に似ています」
という具合に、画家の平沢よりよほど犯人っぽいんであるが、
にもかかわらず、能口ヒロシ@仮名はすぐ放免となった。
高木検事「土地カンはあったが識カンがなかった」
というのが放免理由。
この怪しい歯科医能口ヒロシ@仮名の存在は、ずっとあとになって再発掘され、
のち「複数犯説」の主役に躍り出る。
安田三菱の未遂2件の男=平沢、帝銀事件の男兼主犯=能口@仮名、という設定で。
ところで、最初の最初っから無関係な平沢を犯人に仕立て上げたれ、
という極悪フレームアップ大作戦が推進されたか、というと、
そうそう善悪すぱっと割り切れるもんでもなく、
GHQは司法の民主化にこだわっていて、平沢には当時まだ珍しかった起訴前弁護士がつけられた。また例の怪しい大金10数万円についても、
高木検事「春画を描いたことがあるか」といちおう水をむけてはいる。

ところが平沢がコルサコフ症候群からの虚言症作話症のせいか、
>とにかく検事にも大小無数の嘘に嘘を重ね、
>それがことごとく裏取り調査で嘘と分かる、
>じゃ、本当のことを言います、>それも嘘、>を繰り返し、
>「義弟に合わせてもらえばすべて話す」と言うんで望み通りにしたら、
>義弟の前で「ぼくは潔白だ」と壁に頭ぶつけて流血自殺未遂、
>検察と捜査本部が振り回され、悪印象がより強まっていき──
>さらに、巷で平沢シロが強まり、
>市民団体や弁護士会が誤認逮捕で訴訟をおこすなんて話も湧いてきて、
>司法の面子からも引けなくなり平沢を意地でも有罪に──
──という流動的な側面もあったりして。

ちなみに、平沢<怪しい、のきっかけとなった「スリと扇子」だが、
じつはちょっと後日談がある。
のち「電車内で扇子をスラれた」という扇子の持ち主が名乗り出たんである。
扇子は本当にスリが平沢のポッケに放り込んだものかもしれず、
すると「スリは自作自演」は八兵衛の見込みちがい、になるんだが、
じゃあ松井名刺とかさらにややこしやになるんだけども──まあこのへんで。
ちなみにこの高木検事、この5年後──

札幌地検の次席検事として、奇しくも、


あの【白鳥事件】のこれまた疑惑の法廷を指揮することとなるんである。
検察がそうとうに“やらかす”集団だってことは、ここんとこのスキャンダルで完バレしたんだけども、帝銀事件のときもま
おや、こんな遅くに誰か来たようだ

「おとうさん」

「お金の出所を言えないのなら、私たち家族も、
おとうさんを犯人と疑うことになるけど、
それでええの?」

「…………」

平沢の両親は翌年相次いでこの世を去り、妻はまもなく離婚して旧姓に戻り、長男は失踪、三女は結婚して渡米、次男は母方の籍に入り、一家は散り散りとなった。


「事件解決、オメデトウゴザイマス」

「不可解にも近い障害を克服して帝銀事件を、
見事に解決したことは世界でも類例を見ない」

しょせん、刑事など──

──無力な駒か。
今回、きほん成智警部補目線なので「これぞ事件の真相」みたくなってるが、
一歩引いてみますれば七三一部隊捜査こそ思い込み一本で突っ走ってる感強し。
そもそも七三一の本分は細菌戦研究で青酸カリは専門じゃないし、
もちろん物的証拠はゼロ、諏訪三郎を最有力容疑者にしたのも根拠は、
「怪しいヤツだってみんな言ってたから怪しい」
でしかない。
そんなん状況証拠以下の印象証拠でしかなく。
むしろ登戸研究所方面のほうが技術的背景のつじつまも合うんだが。
GHQが旧軍系への捜査をやめさせた(らしい)理由も、帝銀事件の犯人に迫ったからってより、単に「731」が世間(とソ連と手先の日共)に広まってほしくない、
──っつうところだろう。陰謀ロマン度は低いけども。
ところで、その成智に真犯人認定された「諏訪三郎軍医中佐」なんだけども、

じつは、七三一部隊の名簿には「諏訪三郎」という名は載っていない、
どころか帝國陸軍ぜんたいの軍医名簿にすらその名前は見当たらんである、
「諏訪」姓の軍医佐官も、
諏訪敬三郎軍医大佐と諏訪敬明軍医中佐、七三一とは関係ない2人だけ。
しかも諏訪敬三郎、
>医者は医者でも精神科で、毒物を扱い慣れてる医者とはいえない医者。戦前戦中は国府台陸軍病院の院長で、帝銀事件捜査にも協力していた。
もう一人の諏訪敬明、
>三菱安井帝銀事件のころ、九州小倉で開業医。往診に連日駆け回っていた。
新幹線もないし航空便も極少激高だった当時、東京─博多間は連合軍専用の最速特急ですら片道28時間もかかり、

一般向け列車は買い出し客であふれんばかりでいつ乗れるかわかんねーしで。
じゃクルマならどうよっつうと、このころ自動車は一般にまだ普及していない。モータリゼーション到来前、国内に高速自動車道路は存在せず。名神高速道開通が1965年、東名高速道が1969年、山陽道にいたっては1997年ようやく開通である。さらに本州を東西に分ける関ヶ原は当時の自動車の性能では超難所。現代のように東京-小倉間を12時間前後で走破、なんて夢のような未来の話だった。
(ちなみに下山事件でも交通事情を完全に現代の感覚で書いて自爆してる陰謀論本もある。いかに事実に基づかずテキトーな想像だけの嘘かもろバレなんである)
つまり往診の合間に関東─九州往復して犯行なんてどこでもドアなければ無理状態。
なので、
「諏訪三郎軍医中佐」は成智の記憶違いか、仮名のつもりだったのか、それとも成智の脳内にしか存在しない諏訪さんか、もはや永遠に分からない。
ちなみに成智の手記によりますれば、公訴時効成立後の1970年@昭和45年に、「諏訪中佐」の本籍地に照会したところ、「昭和34年福岡で死亡」だったそうだ。

──12月23日 木曜日

世界は回る。
「こんばんは、ミスターヒラサワ」

「あんたは?」

「はじめまして。わたくし、ニイタカと申します」

「あなたにあるひとつの提案をするため、夜遅くですが時間をとってもらいました」
「提案?」

「初公判で自白を翻し、無実を主張しましたね」
「それが本当だからだ、僕はやっていない」

「でもこのままだと、あなたは有罪判決から逃げられないですよ」

「…………」
「多額のキャッシュについて、あなたはいまだ明らかにしていませんね」
「…………」

「あのお金の出所、わたしが当てましょうか?」
「……なぜあんたに分かるんだ」
「今からわたしなりに組み立てた物語をお話ししてみます」

「ミスターヒラサワ、あなたがなぜ、帝銀事件の直後に大金を手にしていたのか、
誰から、なんの代価として受けとったのか。

お金の出所を明かせば、疑いが晴れるかもしれない、なのになぜ口を閉ざすのか。
自分は絞首台に立たされ、家族の人生まで破壊してしまう、
それほど犠牲にしてなお沈黙をつづける理由はなんなのか、
あなたは帝銀事件と関係があるのか、ないのか、
あなたはなにを恐れているのか

「──と、そんなところを物語ってみます」

「最後まで聞いた上で、もしその気になったら、選んでください。
このままずっと口を閉ざしつづけるか、それとも、
このつぎの公判で真実を明かすか。
あなたの選択しだいで、わたしがこの一件をおさめましょう」

「ふん、お嬢さん、あんたが裁判所や検事を動かせるとでも?」
「ふつうなら許可の出ない、立会人無しの面会を、こうして深夜にしれっとやってるあたりで、わたしに何ができるか察してもらうしかないですね」

「ではお話ししましょう」


それからいくばくか時間が過ぎて──


「──ご静聴ありがとうございました、ミスターヒラサワ」

「あとはあなたしだいです」

「おやすみなさい」

「…………」

──これが、もうひとつの目から見た帝銀事件の光景です。

「さて、ディテクティブハチベエ、いまでも平沢を犯人と思ってい
「そんなこたどうでもいい!」

「へ?」

「おい、おめえ、真相知ってるのか!」

「言え! 真相つかんでるなら教えろ!」

「今すぐ言え!隠さず言え吐け言え!」

「ち、ちょ、急に必死すぎですよ。いきなりどうしたんですか」
「おれはよ、あいつ落としてねえんだ!」

「おれは取調室でやつを言い逃れできねえくらいとことん追い込んで、
やつの口からじかに聞きたかったんだ、真実をな!」


「だが、検事が横からかっさらって、おれの見えねえとこで勝手に落としちまった!
おれはな、じかにこの目で見て、じかにこの耳で聞いたことしか信じねえ」

「それがもうできそうもねえんだからな! がーっむかつくぜ!」

「な、なんだよ?」

「これは、キスの距離ですね」
「ば」

「ばば馬鹿野郎! なに言ってやがる! からかうんじゃねえ!」
「え、いえ、しちゃってもいいかなっていま思ったんですけど、いやですか?」
「いやいやいやじゃとかそういうこっちゃねえ! 簡単にしちゃうんじゃない簡単に! 嫁入りまでとっとけ! って、ん? イギリスだと違うのか?」

「やっぱり思った通り、あなたが一番の敵なのか、まいったなあ」
「おい、またそれか」

「だが、けっきょく平沢はいまも初公判と似たようなこと言い続けてるじゃねえか。
ってことは、あんたがやつに話した推理は外れだったのか」
「さあ? 彼の表情からして、わたしの話したとおりだった、とは思ってますけど」
「じゃ、真相を言い当てたが、やつは提案に応じなかったってことか」

「そうなりますね。でもそれがミスターヒラサワの選んだ道ならしかたありません。
わたしとしてもあれ以上無理強いするつもりも義理もないですし」
「真相が分かってんなら、お天道様の下にさらさなくていいのか」
「あ、わたしは警察官じゃありませんから」

「検事でも裁判官でも、弁護士でもジャーナリストでも慈善家でもありません。わたしには日本人の血も流れていますが日本人ではありません。わたしが言う“おさめる”の意味も、あなたの思う“おさめる”とは、別のものでしょう。
正義や真実の追求でもないし神様も関係ない話ですから」
「……おぼろげながら見えてきたぜ。あんたがおれを敵だのなんだの言う訳もよ」

「じゃ、ひとつだけ教えてくれ。寝ずの看病と引き替えだ」
「あれ? それって先ほどチャラになったのでは?」
「さっきのチャラは1日目の分だ。2日目がこれでチャラだ、そう決めた」

「ふふふ、ずるいなあ。まあいいでしょう、どうぞ」

「おれはな、今のあんたの話を聞いても、平沢はまっさらのシロじゃねえと確信してる。あいつを逮捕したのは間違ってねえ、その思いは変わらん。
もしあんたの話のとおり、ホンボシが気のふれた軍医か歯医者かなんかだったっていうなら、そいつはどうやってか知らんが、平沢になにか役割を演じさせたんだ」

「平沢もおそらくそれを知ってる、そのせいでてめーが死刑にされそうなこともな。
なのにやつは口をつぐんでる。なんでかはわからんが。
平沢にふられた役回りはなんだったんだ?」

「お客さん」
「あ?」

「、が来たようですよ」





「いやー今日大変だったぜ八っちゃん。
何日雲隠れしてるつもりなんだよ。しらばっくれるのも限界だよ」
「なんだ金井か!てっめーなんて間の悪いやつだ、邪魔すんな!」
「な、なんで自分んちに帰っていきなり怒られるんだよ」

「ディテクティブカナイ、あなたの家と布団と寝巻きを借りています、ごめんなさい」
「あ、いやその、いやそんな気にしないでいいですよ」
「おかげで助かりました、ありがとうございます」
「いやーははは、元気になったみたいでよかった、
あのえーとミスニイタカ、ファーストネームは?」

「ヤヨイ、と申します、よろしくイワオさん」
「え、いやーイワオさんだなんてそんな、あはは、よろしく、ヤヨイさん」

「こら金井てめー、デレデレすんじゃねえ、
あんたヤヨイなんつー風流な名前だったのか。そういや知らなかったぞ」

「それはミスターハチベエがちっとも訊いてくれなかったからですよ。本当につれない人なんですよね。キスもろくにしてくれないし」
「えーっ、八っさん、キキキほほほんと? キキキッス?」
「馬鹿野郎! してねーぞ! なんつーこと言い出すんだおめー!」
「ふふふ、お尻は見たのに」
「えーっ、お尻まで?」
「違う! こら待て! おい! なんなんだ! このかゆい空気はよ!」

「ああ、そういや、ついでだから八っさんの長屋、様子見てきたけどさ。
変わったことはなかったから安心してよ」
「なに、おい、金井、まさか中野寄って、真っ直ぐここまで来てねえよな?」

「ん、そうだけど?」


「……Oops(あちゃー)」
「この大バカ野郎」
「え、なんで?」



「──右手の道の向こうに人が見えた、2人か」

「教本にならうなら左手の道も封鎖しているでしょうね。きっと裏口の方も」


「のようだな、くそ」

「なあ、八っさんもヤヨイさんもさっきからなに言ってるんだよ」

「あのなー中野のおれんちは見張られてたんだ! そこにてめーがのこのこ現れて、
やつらを親切にここまで案内してきたんだよ!」
「えーっ? まずいよそれ! 落ち着いてる場合じゃないよ!」
「だからこうやってさっきから焦ってるだろーが! このばかちん!」

「うーん、わたしとしたことが。アホフーリッシュを牽制したつもりが、
脅しが効きすぎてかえって暴走させてしまったようです」
「キャノンって野郎か」
「わたしのミスで、あなたたちを巻き込んでしまいました、謝ります」

「わたしは走れません。あなたたちなら逃げ切れるかもしれない。行って下さい」

「なに言ってやがる。手負いの女ひとり置きざりにしておれらだけ逃げるなんざ男がすたるってもおいてっめーこら金井どこ行くんだ」



「え?」
「靴までスタンバっといて、え、じゃねーよ」





「ふん、ちっぽけなバンブーハウスか」

「少佐、周囲の路地も封鎖し終わりました」

「よし、準備整いしだい、玄関と裏口から同時に突入しろ」
「イエッサー」
ジャック・Y・キャノン少佐
@GHQ/SCAP_対敵諜報部隊CIC_「Zユニット」チーフ

「一人も逃がすな」

「GO!」

【15機目 アフリカンボンバー ─911アメリカ同時多発テロ】へとつづく
【16機目 2人の女 ─911アメリカ同時多発テロ】




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