「
自殺未遂なんてバカすぎよ。
本人も生きてて違うって言ってるのに、なに無視して都合よく幕引きしてるの。誰が得するのか洗うのはあなたたちの基本のキでしょう?」
「おれぁ一介の
係長だからなあ。ヨソの
係の
ヤマに口出せないんだよ、
うー」
「あんたんとこなんてもっと縦割りだしわかるだろそのへん、
うー」
「大丈夫? 前もうーうー言ってたね。一度診てもらったら?」
「なーに胃もたれさ。仕事柄だ」
「ま、多少明るい話題もあるぜ。
寺尾さんが次の定期人事で
1課長になる。あの人ならちったあマシにコトが運ぶよ。そんときゃおれも割り込ませてもらうつもりだ」
「じゃちょーっとは期待してもいいのかな」
小山金七警部@警視庁刑事部捜査1課2係係長@通称「
落としの金七」
「おう、だからよう、
正月んときみたいな
ちゃぶ台返しは頼むからやめてくれよ。
おれぁあんたがわりと好きなんだ
メガネちゃん、こと構えたくねえ」
「なんのこと言ってるか分かんないなー」

「
営団地下鉄日比谷線にご乗車まことにありがとうございました。
秋葉原、
秋葉原に到着です」

「次の停車駅は、
小伝馬町、
小伝馬町」
警視庁本富士署「
小杉です」
「本日をもって、
警邏から
公安係に異動となりました」
「んーと、同行は、
渋谷くんでいいや。
小杉巡査長、今週いっぱい、彼に付いてひととおり教わるように」
「あ、
渋谷です。よろしくお願いします」
「不慣れですが、よろしくお願いします」

「
やっさん、ちょっと聞きた──」
「あ」
「──すまん」
「
マコやんは大丈夫、心配ない」
「ええ、分かってる。じゃ、わたし行きます」
「今夜は夜番だな。寄れたら
警備小屋に寄るから」
「うん。でも無理しないで。じゃ」

「すまん、邪魔した」
「いいよ、彼女ちょうど出るとこだったし。なんだ?」
「いやそれが、さっき
井上くんに呼ばれたんだが、
車の運転頼むって。
今日の午後、
目黒の方に行くんだと。
やっさん、なんか聞いてる?」
「いや知らないな。でも
マコやんとこの
大臣って
ティクシュナー師じゃないの。なんで
井上くんが直で
マコやんに指示してくるんだ?」
「確認したら、
アーナンダ師の言うとおりにしろだって。なんかヘンだろ」
「そうだな。たしかになんかヘンだな」
人数不足でつねにひいひいいってる
CHS@
諜報省事実上トップ
井上嘉浩は、
麻原から大きな権限を与えられていた。必要とあれば
大臣長官をいちいち通すことなく他
省庁のメンバーを
シークレットワークに動員できるんである。
こうして、
オウム真理教の
「最終戦争」が幕を開けた。
彼らの思い描いていた
ハルマゲドンとはちょっと、というかぜんぜん違っていたが。
とにかくこの日、それは始まった。
──1995年2月28日 火曜日
築地スエヒロで欠かさず毎年おこなわれる、とある集いが今年もしめやかに。
「それでは一同、
内田尚孝警視長、
高見繁光警視正の冥福を祈って、
黙祷」
「
あさま山荘」
追悼戦友会國松警察庁長官、
亀井静香運輸大臣、
佐々淳行@突入せよ!あさま山荘事件ら。
あさま山荘事件@1972で
長野へ派遣された
警察庁警視庁の
指揮幕僚団だった面々。
突入決行日とおなじ
2月28日にここ「
あさま山荘の間」に集い、
連合赤軍に撃たれて
殉職した
機動隊長と
特車隊長を悼んで黙祷する、と決まっていた。
そのあとはまあ同窓会になるが。
「
佐々さん、さいきんテレビに出ずっぱりですね、
震災の件で」
「
警察を批判するときはせめてお手柔らかに願いますよ」
「なにを言うか。
警察OBのおれが全方面クサして
警察だけ絶賛したら身びいき丸出しだろう。それでは
警察のためにもならん」
「
同感ですっ、駄目なもんはダメと言えばよしっ」
佐々淳行@突入せよ! あさま山荘事件@
あさま山荘事件のとき
警察庁警備局付兼警務局監察官「なんだ、
運輸大臣閣下はもう出来上がっとるのか。誰だ飲ませたのは」
「あの人はいつも
素であんな具合じゃないですか」
國松孝次警察庁長官@
あさま山荘事件のとき
警視庁広報課長「ところで
佐々さんの秘蔵っ子
白鳥くんですが」
「
待てちがうおれの秘蔵っ子ではないっ」
「
正月のあれは、おそらく
彼女のしわざと思いますが、どうです」
「むー、まあ、
あいつ以外にはおらんな」
「おかげで
3階がパニックです。
彼女の働きはたしかに図抜けています。が、
警察にとって
彼女のような存在が有益か否か、正直わからんのですよ」
「わたしは各論である
正義の遂行だけでなく
警察という大所帯が分解しないよう操縦せねばなりませんから。
彼女のような存在は組織にとって大変リスキーでもある」
「──たしかに
あいつは
猛毒のような女だ。有能かつ危険きわまりない。
だが、
だからこそ
あいつの
劇毒的才能は
警察になければならんのだ」
「
國松くん、
白鳥を頼む」
「
佐々さんが頭を下げるとは、よほど
彼女に惚れこんでおるのですな」
「
だからちがうっ苦渋の選択による断腸の思いあふれる言葉だっ。
この最大限に嫌々な響きを聞きとれんのかっ」
「“
長官が
警察官だからです”」
「ん?」
「
あの晩の、
彼女の言葉です。あれがずっと耳を離れんのですよ」
「お話中、失礼します、
長官。たった今知らせが……」
「──
佐々さん、中座をお許しいただきたい」
「
オウムがいよいよ
東京に現れたようです。
目黒で
事件が起きました」
ここで時計の針が
4時間ばかり
逆戻しされての──
同日午後4時半──
目黒駅は
目黒区にはない。なぜか
品川区にある。
そこから
東へ
300m──
目黒通りが
首都高2号線と交差する手前、
品川区上大崎3丁目
タバコ屋さんの前で事件は起きた。
「助け──」
路地から出てきた
老年@男♂を、いきなり
男数人が取り囲み、
ワゴン車に押しこんで走り去った。
一瞬の出来事。
白昼堂々の
凶行、人通りも多い往来なんで
目撃者も多く。
拉致ワゴンは
三菱デリカ。
ダークグリーンとグレーの上下ツートンカラー、真ん中にオレンジのストライプ。
「
練馬 わ」ナンバー。
拉致られたのは、現場近くの
目黒公証役場の
事務長假谷清志@
68歳。
現場から未舗装の路地を
30mくらい、
假谷の勤務先「
目黒公証役場」がある。
帰宅しようと
目黒通りに出たとたんの
拉致。繰り返すがここは
品川区。
「どうやら
オウムがらみらしいんです」
假谷家族が言うには、
假谷の
妹@
62歳が
オウムから逃げてきたのを、
兄假谷がいろいろ手配して匿った。
これが
事件3日前のこと。

江東区亀戸の
兄假谷宅には
オウム信者がしつこく
假谷妹の居場所を聞きにきたし、
怪しい人影も自宅周りをうろうろしてたらしい。
さらに
假谷@
息子が、
父親の書斎から
書き置きを発見。
「
妹のことで
誘拐されるかも知れない、そのときは
警察に知らせるように」
ますます
オウム怪しいのかんじである。
奇しくもこの日、「
1課の寺尾」
寺尾正大が、
捜査1課長に就任した日であり。
この
目黒通りの
拉致事件の報告がデスクに届くと、
「
オウムがついに
警視庁のもとに来た!」
ただちに
寺尾1課長は、
大崎署に
捜査本部を設置。
誘拐事件なんで、
特殊犯捜査係を投入、
さらに信頼できる
管理官や
捜査主任を送り込む。
八丁堀の同心 さらにさらにべつの
事件担当だった
落としの金七捕物帖を引き抜いて
新橋庁舎オウムセンターに配属、
捜査に必要な
オウム情報の収集と解析をスタート。
金七 壁|-`).。oO(計画どおり)」
兄假谷の
妹の
假谷妹、亡き
夫が元
裁判官で
目黒公証人だった。
假谷妹の
兄の
兄假谷はその
役場の
事務長。
公証人は公私さまざまな文書や事実関係の認証を担う仕事で、
身分は
公務員だけども収入は給料じゃなく手数料でまかない、
公証役場も自分持ち、半民半官の
公務員なんだが。
目黒公証役場も民家に個人商店くっついた程度のかんじ。
夫@
目黒公証人の死後、子もいないんで
假谷妹が
役場の
土地建物やら
ゴルフ会員権やらもろもろ丸っと相続。地味だが資産家状態。
假谷妹は
役場と棟続きの自宅で一人暮らし、
兄假谷は
役場に通って働いていた。
「
假谷妹@
62歳は
一昨年秋に
オウム真理教に
入信。
それ以来、
教団に求められるまま
数千万円を
寄付してきましたが、
最近になって
出家と
公証役場兼
自宅の
土地建物ふくめた全財産の寄付を無理強いされ、
怖くなって逃げだし、
兄假谷を頼ったということです」
兄假谷は知人にたのんで
假谷妹を
船橋市の某ある場所に匿ってもらっていた。
「念のため、そちらにも
警官を派遣し
警護を始めています」
「
公証役場の
土地建物は実勢
2億7000万だそうで」
「ひゅーっ! そりゃ
オウムも目の色変えるわな」

「
渋谷さん、お訊きしてもかまいませんか」
「あのー
小杉さん、僕は年下で階級もまあ下ですから、そんな丁寧じゃなくても」
「分かりました、
渋谷さん。この
別送という報告先はどう扱えばいいんでしょう」
「あ、それはですね、
本庁とは別に報告書を上げるんです。
とくに
警視どのには些細なことも拾った格別最新の情報提供しないと」
「ああ、ご存じの方なんですね」
「ええ、まあ」
このあと
3月20日までの
3週間、事態は日単位かつ猛速で突き進む。あまりに多くのことが複雑に絡み合いうねりながら同時に動くんである。
3月2日 木曜日 事件から
3日目──
「假谷さん拉致事件」と
「ある宗教団体」の関係について、
初めて
マスコミがふれた。
切り込み隊長になったのは
朝日新聞。
これまた奇しくも、同じ日、
麻原彰晃著「
日出ずる国、災い近し」出版。
「
95年終わりから
日本は大きな変化」「
ハルマゲドン、そして
第三次世界大戦へ」「
阪神大震災は
地震兵器による攻撃」というおなじみ杉のスパムフレーズが並んでて。
まかれた宣伝ビラ、機関誌にも「
尊師が
阪神大震災を
9日前に
予言していた!」「それは世紀末の
日本に襲いかかる、恐怖と惨劇のプロローグこしゅとう゛ぁ」的な、
じつに間の悪い煽り文がずらずらと。
この手の「
予言的中」はごく典型的な詐欺レトリックなんだが、
単純ゆえにだまされる厄介なシロモノだ。
3月3日 金曜日──
愛知県犬山市のレストランで相変わらず汚いドカ食いの
麻原が目撃される。
この日を最後に、
麻原は公の場からふっつり姿を消した。
3月4日 土曜日──
オウム真理教はさっそく
朝日新聞を
名誉毀損で告訴。でも威嚇牽制はおろかかえって呼び水になってしまい、ほかの
マスコミでも
「ある宗教団体」報道が始まった。
というドタバタをよそに、
「品川区目黒公証人役場事務長拉致事件」捜査中まもなく新情報が思わぬところから。
「
不審者が家の周りをうろついている」
26日27日、
假谷家から何度も通報。
所轄署員が
巡回していた。
で、
28日の
事件前、
公安係が、
假谷宅近くで
三菱デリカに
職質かけてたんである。
男ばかり数人が乗ってて、
公安係は
運転席にいた男の
免許証と
車のナンバーを控え
ただけで、
とくに
照会も
任意同行かけるでもなく立ち去った。
「この
免許証も
車のナンバーも検索かけましたが、両方とも偽造でした」
「なんでその場で検索かけてねーんだよ。やっぱ使えねーな
公安のボケは。
住宅地で野郎ばっかぞろぞろ乗ったワゴンなんて不自然そのものじゃねーか」
刑事は例外なく
公安大嫌いである。
ともかくその
職質うけた
三菱デリカ≒
拉致ワゴン。推理するに>
假谷を自宅界隈で
拉致するつもりが、
職質受けてまずいと思ったのか、
公証役場から帰るときの
拉致に変更した──と思われ。
さっそく
陸運局データベースで、問題の
三菱デリカを検索。
「
わ」ナンバーは
レンタカーだ。
該当する
デリカ@
レンタカー>
22台。事件日28日に貸し出されてなかった
16台を引いて>残り
6台。
で、そのなかの最も可能性高い
1台、
杉並区の
レンタカー会社の
営業所へと。
たしかにその
デリカ、
28日朝9時に男が借りていき、同じ男が返しに来た。
「
貸し出し中?」
「ええ、そのお客様が返却されたあと。遠出されてるようで留守電になってます。返却されるまでどうしようも…」
ぬー。
3月9日 木曜日──
デリカ@
レンタカーがやっと返ってきた。
捜査本部は速攻でゲット。

「というわけで、
宇兵さん、お願いします」
「はいよ」
寺尾捜1課長じきじきの指名によりまして、
「指紋の神様」の事件簿 (新潮文庫) ベテラン鑑識マン塚本宇兵@
指紋の神様登板。
指紋はあの耳かきみたいなのでテキトーにポンポンやってりゃ誰でもとれるんじゃなくて鋭い観察眼とアーティスティックなテクが不可欠。じゃないとせっかく
指紋が残ってても見逃したりうまく採取できずダメにしたりしてしまうんである。
「
目黒の
拉致事件で使われた可能性が高い車両です。しかし
容疑団体と
犯行を結びつけて
令状をとれるネタがまだない。
宇兵さんに
検分の仕切りをお願いしたい」

「ただし
完全保秘で」
絶対的内緒。
デリカを調べてるのが報道されると
証拠隠滅つまり
被害者が危ない、ばあいによると
実行犯そのものも抹消されてしまう。
オウムはそれくらいやりそうな
凶暴集団、というのが「
オウムセンター」にいる
落としの金七捕物帖の認識。
指紋の神様の
鑑識チーム、細心の注意で調べ始める。慎重に慎重に。
「心
しん、こめて、と」



隅の隅までライトで照らしつつ。
指紋、
毛髪、
皮膚片、
血痕、
唾液もろもろ
体液、
繊維片、
土砂、
塗料──捜し求めて
ミクロの極限的世界がくり広げられた結果、

20ヶほどの
指紋、それから後部座席についた
褐色の染み発見。
「ごくさいきん付着したものです。周りにぬぐった跡がありました。
血痕ですかね」
「まず当たりだな」
人血かどうか、だったら
被害者の
血液型と一致するか>シートごと
科捜研の
鑑定へ。
指紋の方は──
車内で見つかった
指紋のうち数個が
兄假谷のと一致した。家族に頼んで本人の身の回り品から照合用の
指紋を採取しといたんである。この
デリカ=
拉致ワゴン確定。
ただ残りの
指紋が、
「容疑団体」にむすびつく証拠になるかというと──
「ぬーむ」
「
近未来問題研究会。
20人ほどの
小グループです」
「
新宿駅など繁華街で
オウムの名を出さず
勧誘活動や
セミナー宣伝を行い、
ビデオや
イニシエーション体験を通しておもに若者を
入信出家させる活動をしています」
と、
教団内の
出家信者たち大半がそう思わされています。
井上嘉浩@
24歳。
ホーリーネームは
アーナンダ。彼がこの
グループの
リーダーとみられます。
ステージは
愛師長。若いし序列もさほど高くありませんし、
これまでほとんど無名の存在で、
マスコミもノーマークでしたが、
教団内でごく
特殊な立場にあることが分かってきました。
16歳@
高2の若さで
入信、
18歳で
出家。
21歳で
福岡支部長に抜擢、その後、
麻原の
警護役などを経て、
東京本部長を任されていました。スピード出世ですね。
ところが
昨年から始まった
省庁制です。
東京本部を母体に「
東信徒庁」ができました。
ほかの
省庁の
大臣長官もだいたい前の
部長や
班長が横滑りしましたから、
ふつうなら
井上が
長官と思うでしょう。
しかし、このとき
長官になったのは
飯田エリ子。
有名信者の一人ですね。
飯田は
井上の前に
東京本部長だった古参幹部で
正悟師。
正悟師は
教団に
10数人しかいない最高幹部なので、彼女が
長官になるのもおかしくはないです。
しかし、
井上が回されたのが、このちっぽけな街角勧誘チームだとすると、
なにかドジを踏んだのか、
麻原の逆鱗にふれたのか、
そう思わないと不自然な数段落ちの降格人事ですよね。
そこでさらに疑問が生じます。
「現段階で、
近未来問題研究会のメンバーと判明した
信者です」
平田悟 山本直子 中沢美奈子
藤森久男 高橋克也 林武 吉田裕美このなかに、とても興味深い経歴の持ち主がいます。
山本直子@
27歳徳島県出身、
ICU@
国際基督教大学の
現役院生。
専攻は
理論物理学。
プログラミングにも精通しています。
オウムの大好きな
理数系高学歴エリートです。
もう一人、
中沢美奈子。彼女も
ICUの卒業生で
山本の先輩に当たります。
いくら
オウムが
男尊女卑でも、
こうした人材を街角勧誘グループにわざわざ集めるのは不自然です。
またこのグループは、活動内容からして
東信徒庁の下に属するはずですが、
井上はじめメンバーは
出家信者にもかかわらず、
上九一色、
関東圏の
支部道場のいずれにも居住している様子がありません。
彼らは公にされていない別の場所を拠点として、
東信徒庁に管理されることもなく、独自に活動しているのです。
さて、これによく似た構造の組織を私たちはごくごく身近に知ってますね。
「
井上嘉浩の率いるこの小集団、街角勧誘はカモフラージュでしょう。
彼らが
教団の
シークレットワーク、
裏ワークの一翼を担っている可能性が高い。
オウム真理教の
非合法活動の解明には、このグループの徹底追尾調査が必要です」
警視庁鑑識課──
敗色の気配濃厚。
うーん。こりゃあかんなー。
車内で見つかった残りの
指紋は従業員のものか、
指紋照合システムでも該当ナシの未知の
指紋ばかり。
「容疑団体」には
在家信者も含めて
全国で1万人もいる、しかもすこぶる
非協力的。
というより
デリカを以前に借りた客の
指紋かもしれないし。
つまり可能性は無限大に。=
令状は出ない。
「
血を丹念にふきとる用心深いやつらだ。車内に
指紋を残すポカはしない、か」
ん、いや待て。
指紋採取は手当たりしだいにアルミ粉ふりかけまくって耳かきみたいなのでポンポンやってるわけじゃなく、
心理学の世界なんである。
犯罪者が現場でどう考え、どう行動するのか。
そこ見通して証拠能力のある
指紋を探し当てるのが
指紋・ザ・プロフェッショナル。そこに立ち戻れば、だ。
「これ、
レンタカーだよな」
「はい」
「じゃ、
あれがあるんじゃないか。
あれには
指紋残してるかもしれんぞ」

「……報告書にある連絡先は、
警視庁、
公安総務課内の内線番号」

「ただし
別送の送付先は、
警察庁、
警備局経由……」
「階級はおそらく
警視……」
公総から
警察庁警備局に
出向、
警視──これか?
前職 警察庁出向
前職 警備局警備企画課******
前職 同公安第1課******(兼職)
前職 警視庁公安部公安総務課******
階級 警視
氏名 ******
入庁 ******
「伏せ字だらけだ。
氏名を……」


「ちっ、新入り
公安係の
閲覧権限じゃやっぱり無理か」
公安のどこかに──グルは、公安のどこかに教団弾圧を陰でコントロールする黒幕がいると仰せだ。
黒幕、ですか──?
おそらくCIA、ユダヤ、フリーメーソンが日本の警察内に送り込んだ工作員だろう。
黒幕は教団や信者の情報をあらゆる手段をもって集め、スパイを操り、
我々の救済を阻もうと、さまざまな妨害活動を仕掛けている。
(やれやれ、ひさびさ日付変わる前に帰れるや)
その黒幕の人物は、全国の公安、刑事、警察庁長官ですら、
意のままに動かしてしまう強大な権力を持っている。
(あ、夜ごはん、つくろっかね。たしか冷蔵庫に…)
これまでの警察や反対運動による弾圧や妨害の背後にも、
この黒幕がキーマンとして暗躍したらしい形跡があるんだ。
(冷蔵庫に…、あれ? 何あったっけ)
公安の内部を探るのはたとえ警察官でも難しい。
でも同じ公安なら身内だし、調べられるはずだ。
(んー)
グルのご意志を伝える。
この黒幕を突き止めろ。
(やっぱめんどくさ。今夜も
カップヌードルでいいや)
【第二十一解 猛将、現る】へとつづく

COMINGSOON【第二十二解 アサシンズ】
【第二十三解 リムジン】