【事件激情】ウルトラ 最終便 中段-続【POST - 9.11】








【事件激情】ウルトラ 最終便 中段-続【POST - 9.11】
「歴史とは世界が民主化されていく過程である」
──フランシス・フクヤマ著「歴史の終わり」

広げすぎた大風呂敷がついに畳まれ一点に収束する(はず)。
そこらじゅうにばらまいた伏線は漏れなく回収できるのか?
登場する事件テロ紛争戦争、その捜査活動は公表された情報に基づく。
黒字の人物・赤字の人物・紫字の人物および各国の機関団体部局は実在する。
白鳥百合子、ニイタカらこの文字色は架空の人物であり、
実在する人物との関わりも、根拠は創造にしてソースは妄想だが、ある意図がある。
白鳥家の人々の人物像もリアルとは異なり架空の白鳥家の人々である。








「青い鳥は最初から家にいた」
「なんだって?」

「ワールドトレードセンターで失われた機密解除公文書の資料は複写だった」


「ということはオリジナルの原本がどこかにあったはず」

「あるとすればどこかって、最初に思いつくべき場所だったのに」



「だってあの人のメガネと写真は実家で見つけたんだもの。他のものだって実家にあるかも、と思い至らなきゃおかしいでしょ。でも目が曇っていた。
東京に出てから、実家に近寄らず連絡もとらずにいたからね。育ったあの家を実家と思うことすらやめていた。無意識のなんちゃらしゃん?」

「でもとっくの昔に捨てられちゃったかもしれなかった。それが一番心配だったんだ。お養兄にいちゃん、長い間捨てずに持っていてくれてありがとう」

「おれは捨てようとしたんだが、母さんが止めた」

「お養兄ちゃんは昔から優しかったね」


「百合子はいまも警察にいるのか?」
「まあね、なんとかクビにならずに宮仕えしてますよ」


「皮肉なもんだな。家を出た百合子のほうが結局は父さんの職業を継いだ。警察でなにやってるんだ? もしかして父さんと同じか?」

「そんなヘビーな仕事、わたしに務まるわけないじゃん。所轄の交通課ですよ。それも内勤で地味ーなルーティンワーク」


「これ中身は読んだ?」
「父さん宛の手紙一通だけは日本語だったから読めた。あとの手紙や書類は英語や何語かもよく分からん外国語だったからさっぱりだ」
「ちょっと長めに借りていい? 翻訳しなきゃだし」
「返さなくていい。もとはといえば百合子が持ってるべきものだ」

「なあ、その日本語の手紙、な。それを読むと昔のこともいろいろ分かってしまうが、母さんを恨まないでやってくれ。いや、それは難しいかもしれん、だが頼む」
「白鳥の戸籍に残してくれたのは感謝してるよ。もう昔のことだし、いいよ」

「それから今日はこれも渡す」

「なにこれ? いちじゅうひゃくせんまんじゅうまんひゃく……ええっ? 大金じゃん! なんなの一体? なんでわたしにくれるの?」


「もともと百合子のカネなんだ。本当はそれでも足りない」
「えーと、ぜんぜん話が見えないんですけど」


百合子がうちの養女に迎えられたとき、まだ誰がおまえの本当の親で誰がお前を父さんに託したのか、おれはぜんぜん知らなかった。
おれも百合子と大差ないガキだったからな。
いつのまにか妹ができたくらいにしか思ってなかった。


おれが写真の女の存在を知ったのは父さんが殺されて何年も経ってからだ。偶然押し入れから写真を見つけて、これは誰だと母さんに訊いたら凄い剣幕で叱られてな。
その後、父さん宛の古い手紙を見つけて、


その写真の女が「ニイタカ」という名で、東京の警察本部と関係があり、父さんが長年ニイタカの秘密の協力者だったらしいと知った。


百合子は歳のわりに大人びて、中学に上がる頃には母さんよりもおれよりもずっと背が高くなって、顔立ちもどんどん写真の女、ニイタカそっくりになっていった。
母さんが百合子と目に見えてギクシャクしだしたのもその頃からだ。


それより前から子供心におれも母さんがおまえのことを内心疎ましく思ってるのは感じていたが、それがはっきり分かるほど強くなっていった。


おまえもあの写真を見たんだろ? だから急に丸メガネをかけるようになったんだよな。母さんへの当てつけだったのか?
まあ、ともかくそれもぎくしゃくに拍車をかけた。


おまえもなんで冷たく扱われるか納得いかなかったろうな。おまえが荒れてグレるのも無理はないとおれは思っていたよ。でもおまえ、なんか風変わりな不良だったな」

(我が黒歴史……)
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「白鳥さんって授業はサボるし寝るし、いわゆる不良少女だったけど、」

「かなり変わった人だった。ほかのスケバン?あの頃はそういう言葉なかったけど、そういう悪い子ともぜんぜんつるまないし、最初の頃いつも一人でいたの。誰とも親しくない感じ。格好もちょっと、というかずいぶん風変わりだったし」

「白鳥はセン公からもあたしがたからも普通の子からも敵対とまでは言わないけどあまされてた。そんなのあいつはへっちゃらだったみたいで、一匹狼っていうの?」


「あのころってあたしがたみたいに長いスカート、マスク、タバコが定番だったのに、
あいつだけ、なぜかミニスカ仕様」


あの時代そんなやつ札幌ぜんぶ探してもいないよ。
日本ぜんぶ見てもあんなのいなかったんじゃないかな。
とはいえあいつには正直似合っててさ。ガイジンっぽい色白で顔きれいだしその辺の男子より背高いし足長いしツイッギーみたいだし。それがまたむかついてね」


「かといって男に媚びる風でもなく、いつもかったるそうに一人でいた」


「そんな風におだつからそりゃ目ぇつけられるよ。生意気なやつだ、いっぺん焼き入れてやろうって計画してさ。人数集めて待ち伏せしたんだ」


「……のはずが、気づけばなぜか他校の連中と乱闘するハメになってみんな散々だよ」

「どう手ぇ回したか知らんけど白鳥がそういう風に罠しかけてはめたんだよ。やっつけてやろうと何度仕掛けても結局痛い目に遭うのは毎回あたしがたでさ。あいつにかすり傷ひとつつかないのに、あたしがただけ日に日にぼろぼろになってくの」


「あいつへなまずるくて悪知恵が働くんだ」

「うん、白鳥は不思議な生徒だったなあ。家庭にいろいろ問題があるようだったが本人は決して悪い子ではなかったよ。
全体的に成績は悪かったが、悪いというより学力のありかたが極端に偏っていたというか、初歩の簡単な基礎問題を間違える一方で、国語や英語の長文読解や数学の難問を難なく正解する。たとえば大学受験レベルの難問をすらすら読み解くことができるのに、morningの綴りや2桁の足し算を間違えるような。
あまりにもアンバランスでカンニングを疑われるほどだったなあ」

「白鳥? 最悪の問題児でしたよ。警察官の子だし。ええあんな悪い生徒は前にも後にもいませんでした警察官の子だし。カンニングも絶対にしていたに違いないんです。
口は達者だし、ずる賢くてカンニングや非行の証拠はつかめませんでしたけど間違いありません警察官の子だし。退学で当然なのにあの子に甘い先生も何人かいて。きっとふしだらな真似をして取り入ったに違いないですよ警察官の子だし」
「し、し、し、し、白鳥ぃ?」


「名前を聞いただけでも吐きそうだ。話すことなんてない。あいつは魔女だ!」
(警察官の遺児だった白鳥を目の敵にしていた担任教師。
職務中の不適切な行為が露見し学期中に転任)

「あのクソセン公が飛ばされたのも白鳥が罠にはめ込んだんだよ、どうやったか知らないけどさ。あの変態クズ野郎にはあたしがたもさんざいびられてたからざまーみろだね。あの頃からかな、白鳥とみんな少しずつ打ち解けてったのは」

「いちおう言っとくけど、白鳥はただずる賢いだけの子じゃなかったからね。いっぺんあたしがたの一人が下手打ってチンピラに攫われそうになったことがあってさ、」

「そしたらなんと白鳥が助けてくれたんだ。どうやったか知らないけどそのチンピラはとつぜん街から消えた。おかげでその子は命拾いだよ」


「白鳥は何も言わないしむしろ隠したがってたけど、あいつが裏で立ち回ってチンピラ追い払ったってみんな察した。あいつああみえて情にあついし優しいんだよ」

「それからはみんな白鳥に一目置くようになった。相変わらずあいつは群れなかったけど周りのみんなとそれなりに話すようにもなった。なんだかんだいって仲良かったのはあたしがたワルだったんじゃないかな。
あいつ成績のほうは万年げれっぱであたしがたと同じく追試と補講の常連だったけど、ほんとはクソ頭いい子だと思うよ」


「ただあいつが時代を先取りしたとか豪語してたミニスカートの制服は最後までぜんぜん流行らなかったけどね。時代を先取りしすぎたってあいつもごもくそ言ってたわ」

「バブルの頃に流行った? いやいやそれ何十年後よ、
未来すぎて先取りって言わないよねえ」


「白鳥って見た目あんな風だから気どった詩集とかフランス映画とか見てそうじゃん。あと学生運動とか全共闘とかにかぶれるとか」

「でもあいつはそのへん一切興味なし。聴いてたのは演歌とかムード歌謡だし、」


「観てた映画は東映任侠モノとかだったよ。橋幸夫にはまってたみたい。
なんかそのへんのギャップが可愛いんだよね」


「意外だけどあいつ、学生運動なんて鼻も引っかけなかった、いや違うな、むしろなんまら忌み嫌ってたな。フォークとかも耳障りな雑音だって吐き捨ててた。
白鳥のおやじさんが警官でアカに殺されたってのは後で知った。
で、そういう活動家連中と一回揉め事あったんだよ。そしたら、」



「白鳥はそいつら根こそぎぶっ潰した。どうやったか知らないけど、とにかくそいつら一人残らず学校からも街からも消えた。家族もろとも。そんときの白鳥は、」


「別人みたいだった。氷のように冷たくて情け容赦なくて、おっとろしかった」

「そんとき悟った。こいつは絶対本気で怒らせちゃいけないやつだと。それで仲違いするとかはなかったけど、正直いまでもあのときを思い出すと寒気がするんだ」

「でもあいついろんなことに知恵が回るくせに肝心なとこで抜けててさ。サボりすぎで出席日数足りなくて留年しそうになったんだよ。ちゃんと計算してサボってるって豪語してたのに、引き算間違えてやんの。はははバカだよねー」

「あいつ東京でマッポになったよね? 無期停学か警察入るか選ばされたんだっけ」


「本人はなまらぶすったれてたけど、白鳥ってああみえて正義感強いし困ったやつを見過ごせないしアカに容赦ないし向いてると思うよ。ただ大人に指図されると必ず刃向かってたからそのへんは、うーん不味いかもね」


(我が黒歴史……。昔から悪だくみばっかしてたんだなわたしゃ。忘れとった)


「やっぱりお母さんがそのう…あれだったのは、ニイタカさんと似てたから?」
「これは憶測だが、母さんは父さんとニイタカの仲を疑っていたんだと思う」

「は?」
「実際そうだったかどうかは分からんよ。ただ母さんはそう信じて込んでたと思う」

「おまえをニイタカと父さんとの間にできた隠し子じゃないかと思ってるフシもあった。百合子は父さん含むおれたちの誰とも似てないし、ふつうに考えれば血の繋がりがないのは明らかなのにな」

(ニイタカさんの協力者ってみんなあの人に惚れてたからなー。ニイタカさん側の気持ちはともかくお父さん側は恋してたかもなあ)


だが不思議に思わなかったか。
あれだけ冷たい関係になるまでこじれながら、母さんは百合子を家族として家に置き続けた。百合子が白鳥の姓を名乗るのを認め、身元保証人も続けたことを。


百合子は知らないと思うが、何度か周囲が見かねておまえを白鳥家から出してどこか別の家に嫁がせるなりしてはどうかという話がまとまりかけたことがあったんだ。

だがどれも母さんが断固として拒んだ。百合子はうちで育てると言って。


しかし、おまえを家に置き続けたのも、戸籍に残したのも、そのう、理由は愛情だけじゃないんだ。父さんの遺志を守ったというのとも違う。

その手紙によると、ニイタカはもう日本に戻ってくることはないからと父さんにおまえの将来についていろいろと託していた。
おまえを18歳まで養育すること、そしてそれまでにニイタカの資質を受け継いでいることが確認され、本人にその道へ進む意志もあると判断したら、


東京の警察庁……手紙ではその前身の国家地方警察本部と書かれていたが、その然るべき部局に連絡し、おまえを託してほしいと。
そしてもし百合子が18歳になっても資質が見られないか、見られても本人が望まなければ、東京には連絡せず、ごく平凡な婦女としての人生を全うさせてやってくれ、と。
警察庁はおまえの存在は知らされていたが、どこにいるのかは隠されていたんだろう。



ニイタカという女がおまえの実の母親かどうかは分からない。
だが瓜二つだし血の繋がりが一切ないわけじゃないだろうな。


手紙には「百合子」という名はニイタカが名付けたと書いてあった。

(わたしの名付け親=ニイタカさん?)

もし実母だとして、親の才能や特技がそのまま子供に受け継がれるのかどうか、おれにはよくわからん。そもそもニイタカの資質というのがなんなのかもはっきりしない。顔はそっくりになったとは思ったが。
ニイタカは、父さんに経済的負担をかけないようおまえが18歳になるまで養育費を引き出せる信託口座を用意していた。




ところが父さんはそれから1年足らずで殺されちまった。*【サティアンズ 第十六解】
代わりに母さんが信託口座を管理する弁護士の承認を経て養育費の受取人を継承し、その条件として父さんの役目も引き継いだ。

口座の原資はかなりあったと思う。初めの頃の引き出し額の上限は毎年初に200万円、それとは別に月々20万円。物価や貨幣価値の変化を考慮して引き出せる限度額は増やされ、百合子が高校に上がってからは、年初に500万円、毎月50万円が引き出されていた。それでもまだ残高はかなり残っていたようだ。
知らなかっただろう? そんなカネがあったこと。

「わたし、お養母かあさんにはずっと申し訳ないとは思ってたよ。実の子でもなく望んで養子にしたわけでもないわたしを高校まで行かせて負担をかけたし、品行不方正な生徒だったおかげで面倒かけたのもほんとだし」


「でもその信託口座のお金、けっこうな額だよね。わたしが高校生のときに、えーと1年で聖徳太子1000人以上? ってことは、ええっ、ひゃくまんえんも?」
「桁1つ足りないぞ。相変わらずおまえ算数苦手なんだな」

「でもお養父とうさんって殉職だったし、けっこう遺族年金も出てたんじゃないの? わたしもお養兄にいちゃんも小中高と公立だし学費もそんなにかかってないよね。うちもそんな贅沢してる様子なかったけど」

「そのカネは他に消えていたんだ」

母さんの実家、ずっと家業が経営難でな。引き出した養育費はそっちに回って赤字を穴埋めしていたんだ。母さんには実家を助けるためにあの口座が必要だった。
金額の大きさからして、ニイタカと父さんはおまえを全寮制の私立校にでも入れて英才教育するつもりだったんじゃないかな。
だが母さんはそのカネをおまえの教育には使わず、すべて実家に渡していた。

だから母さんも実家も、どれだけ親子関係がこじれようと、おまえを手放すわけにはいかなかった。信託口座の金を引き出せるのは百合子の養育が条件だったからな。
手紙にあったニイタカと同じ資質とやらが実際おまえにもあったかどうかは分からん。だが母さんがそれを確認した様子はないし、資質があろうがなかろうがおまえを東京へ渡すつもりはなかっただろう。
おまえを東京に送った時点で養育の役目は完了したとみなされ、
打ち出の小槌のような信託口座が閉じられてしまうからだ。

だから母さんは一度も警察庁に連絡を入れず、おまえが18歳になるまで目一杯金を引き出して実家に渡し続けた。
最後にはなにかと理由をつけて残高全額を引き出そうとしたらしい。たぶん実家からそうするよう頼まれていたんだろう。
だがさすがに管理人の弁護士が頑として認めず、信託口座は閉じられた。

信託口座から金が引き出せなくなった途端、母さんの実家は半年もたずあっさり潰れた。10何年もおまえの養育費の横流しで支えていたようなものだ。
おれに言わせればあんな先のないもの、大金をせっせとどぶに捨てていただけだ。

母さんがどういう気持ちでいたか、今となってはわからん。
父さんの愛人(?)だと疑い憎んでいた女と瓜二つの娘(?)を疎ましく思いながらも、実家を支えるためにおまえを育てなければならない。
悪くみればカネを流用し続けたのは、ニイタカと父さんの計画を台無しにする意趣返しのつもりだったかもしれない。母さんのことをそんな風には考えたくないが。

「母さんも辛かったんだ、と擁護するつもりはない。
身勝手だと思うし、なんの責任もないおまえにとって理不尽すぎる話だ」


「だが不思議なものだなあ。おまえは結局18歳で警察官になった。おれは神様とか信じる方じゃないがなにか帳尻を合わす大きな力が働いた気がする」

おまえが高校を卒業して北海道警に入るはずが、なりゆきで東京の警視庁へ行くと決まったとき、母さんはわずかながら父さんから託された役目をはたした気になったんじゃないかね。まったく違うんだがな。それに百合子が18歳になれば信託口座も閉じられるから、その後おまえがどこへ行こうとも引き留めなかっただろう。

「弁解するつもりはない。母さんはおまえに悪いことをした。おれも同罪だ。途中で何もかも知ったのに最後まで止めなかった。
そして昨日、おまえから電話が来て、とうとうそのときが来たと思った」


「だからそれは本来おまえに使われるはずだった金だ。全額は無理だった。半分にもならないが、今はこれで納得してくれんか」

「ねえ、お養兄にいちゃん、このお金はどうしたの? あなたも家庭があるし、子供もまだ学生だよね。失礼言うけどこんな大金をほいほい出せるほど裕福じゃないでしょ?」
「それは気にしなくていい」
「気にする。言いなさい」

「……預金とか保険とか解約して」
「それから?」
「家と土地を抵当に入れて、多少……借りた」


「つまりこれはお養兄にいちゃんの全財産プラス借金なわけだよね。そんなツルッぱげになるくらい苦労してつくった財産なんでしょ?」
「………(;-д- )」
|
| 彡⌒ミ
\ (´・ω・`)また髪の話してる
(| |)::::
(γ /:::::::
し \:::
\

「財産全部渡しちゃってこれからどうやって家族養っていくの? ダメだよそんなの! もらえるわけないでしょ。気持ちだけでいいからこれは持って帰って」
「しかし……」
「心配なら念書でも書こうか? 一生びた一文請求しませんよって」
「そういうことでは…」


「じゃあさ、この手紙と文書の保管代と相殺ってことでいいよ、」

「これはね、わたしにとってそのお金と釣り合うくらい価値あるものなんだよ」



「お養兄にいちゃんは長いあいだ大事に持っていてくれた。それで本当に充分だから」

「コーヒー代くらい出させてくれ、戸籍上だけでも一応兄貴おんちゃだからな」
「じゃ、遠慮なく。ごちそうさまでした」

「なあ、百合子」

「おまえ、交通課じゃないんだろ?」


「元気で」




「終わったか。思ったより早く済んだんだな」

「羽田行きの最終便、急げば間に合いそうだ」

「欲しいものは受け取れたのか?」


──────────────────「じゃ急ぎましょう」

──ということが、

──羽田に帰る前に札幌でもろもろあったのである。








コツ、コツ、コツ──


ガラガラガラ──


──チリンッ

「あ、お帰りなさい」

「お、帰ってたのか」


「いやーやっぱりちゃぶ台は和室で畳のほうがしっくりきますね」
「今日、土浦だったっけな。無事行って来れたのか?」
「ええ、久しぶりかつ安心安定の方向音痴でぐるぐるしましたけどなんとか」

「それの解読というか翻訳はできそうなのか?」
「英語はともかくドイツ語とロシア語も入り乱れててなんだかよく分かんないですけどね。ウィッキーさんに頼りながら悪戦苦闘中です」

「まだそれ使ってるのかよ。英会話でドイツ語とロシア語もなんとかなるのか?」
「あっ、そういやそうですね。どうりでさっぱり役に立たないわけだわ」
──カタカタカタカタ


──カタカタカタカタ
「あれ、夕飯食ってないのか? レンジでちんするだけだが、今から食うか?」

カタッ
「あの、警視」


「お話があります。ちょっとだけ時間いいですか」
「もうレンジかけちまったよ。メシ喰った後にしないか」
「すみません、いまお願いします」

「なんだ急に改まって」


「警視、長い間支えてくださってありがとうございます。でも、」


「わたしたち、もう終わりにしましょう」
【ウルトラ 最終便 終段 オープン ユア アイズ】へとつづく











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