【事件激情】ウルトラNW : 乗継便-結【日本解放計画】
*第17便──────────*new
【事件激情】ウルトラNW : 乗継便-結【日本解放計画】(第18便)
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「深淵を覗くとき、深淵もまた覗いているのだ」
──────────────────ニーチェ
「白鳥、つぎは必ずおまえを仕留めてみせる!」
“おまえも、おまえに近しい者たちも、世界のどこへ逃げようが付け狙われ”
“一瞬の安寧も許されない。一生を怯えて生きるがいい!”
─結び
登場する事件テロ紛争戦争、その捜査は公表された情報に基づく。
黒字の人物・赤字の人物・紫字の人物および各国の機関団体部局は実在する。
白鳥百合子、永春燕はじめこの文字色は架空の人物であり、
実在する人物との関わりは、根拠は創造にしてソースは妄想だが、ある意図がある。
“どうだ、恐怖で声も出ないか、白鳥”
「きも」
「は?」
【事件激情】ウルトラNW : 乗継便-結【日本解放計画】(第18便)
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「深淵を覗くとき、深淵もまた覗いているのだ」
──────────────────ニーチェ
「白鳥、つぎは必ずおまえを仕留めてみせる!」
“おまえも、おまえに近しい者たちも、世界のどこへ逃げようが付け狙われ”
“一瞬の安寧も許されない。一生を怯えて生きるがいい!”
─結び
登場する事件テロ紛争戦争、その捜査は公表された情報に基づく。
黒字の人物・赤字の人物・紫字の人物および各国の機関団体部局は実在する。
白鳥百合子、永春燕はじめこの文字色は架空の人物であり、
実在する人物との関わりは、根拠は創造にしてソースは妄想だが、ある意図がある。
“どうだ、恐怖で声も出ないか、白鳥”
「きも」
「は?」
「気持ち悪い、って言ったの」
「それさあ、あなたの母親が一人で焼きもち焼いてただけじゃん。
それも相手は先生の恋人でも妻だったわけでもなくて、先生が大昔に仕事で会って一方的に憧れてただけの薄い関係でしょう? その人ぜんぜんなんの責任もないよね」
“ましてわたしに至っては、たまたまその人に似てるって以外まっっったく関係ないじゃん。なんでわたしまで一緒くたに精魂こめて恨まれてんの?
トチ狂って立場も忘れて“先生”連れ出しに押しかけて、なのに“先生”にはスルーされて。けっきょく一人相撲なだけで。そのせいで僻地に左遷されましたって?”
「それぜーーっんぶあんたの母親の自業自得でしかないでしょ。
あんたら母娘して悲劇のヒロインみたいに酔ってるけど、それハタから見たら、協力者にマジ恋しちゃって突っ走って任務も台無しにしてしまいました、ってだけだから。
はっきり言おか、ただの無能じゃん。オフィサーがいちばんやっちゃあかんやつ。
アホすぎで迷惑なんですけど。周り巻き込まずに自分だけで勝手に酔ってろよとまず言いたい。屈辱だの奪っただの、そんなのわたしは一個も知らんっつーの。
赤の他人を独りよがりなやっかみに巻き込まないでほしいなあああ」
“で、さあ、母親もアホなら娘のあんた輪をかけてアホでしょ。
てか、あんたがいちばん気持ち悪いよ!
あんたに至ってはホントなんっっの関係もないじゃん。ずいぶん前に死んじゃった母親の片恋バナに、なんで娘のあんたが何年も何年も何年も顔真っ赤にしてんの?”
「だいたい恨む相手違うでしょ、ぜんぶ母親の自業自得の自爆でそうなったんだよ?
他人のわたしにメラメラする前にまず母親怒れよ。バっカじゃないの?」
“そんな理由でわたしあんな死ぬほどきつい目に遭ったの? はぁ? 勘弁してよ”
「あのねーあなた、あんとき笑ってたけど、あれホントにムチャクチャつらかったんだからね! よく正気で帰ってきたって自分のメンタルほめたいくらい。あれに匹敵するなんてどんな凄い恨みなんかなって、それなりにショック受ける覚悟したのに、」
「その理由がよりによってそんなバカ話かよ!
それとさーなんで母子二代そろってわたしを鬼畜輪姦する計画ばっか立ててんの変態!
しかもそれを眺めて気持ちいいですってどんなけキモい変態なんだ変態!
やっぱり単なる変態なだけじゃん。そんなにわたしが好きか変態!
別の意味でショックだわっ、キモい変態母娘に粘着されて知らんうちにずううっとキモい変態な妄想のおかずにされてたなんてキモいキモいキモいキモいキモすぎるわーーーーっ変態! あー聞いて損したーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
ぜえぜえ(息切れ」
「………白鳥、きさまに縁ある者たちの運命はたったいま決まったぞ、」
「そのへらず口を生涯身をよじり悔いるほどの、苦しみに満ちた残虐な死をその者ら一人ひとりに与えると約束しよう。まずは子連れの女刑事からだ」
三国志とか?
「なんかいちいち言い回しが時代がかってるしさ、いつの時代に生きてるの?」
「虚勢か? どうあがこうがもう遅いぞ。おまえから何かもかも奪ってや……」
トゥルルルル──
「奪っ……」
トゥルルル──
「へー携帯2台持ちなんだ。女子高生みたいだね」
“うるさい!”
トゥルルル──
「出たほうがいいんじゃない? 今しか話せない人かもよ」
「……………」
トゥルルル──
“切らずに待っててあげるからどうぞ”
ピッ
「はい?」
“おー、春燕チュンイェン。忙しかったか邪魔したか?”
「え? いえ。少しなら大丈夫だけど。どうしたの?」
“いや、桃が届いたと伝えようと思ってな。今年もたくさんありがとうな”
“日本の桃は美味いからな。ガキどもがいつも楽しみにしてるのは知ってるだろう”
“春燕? 聞こえてるか?”
「え、ええ。聞こえてるわよ。桃、届いたのね」
“毎年たっぷり送ってくれるから、村委員にもお裾分けして
いろいろ便宜も図ってもらえるし、桃様様だ”
“しかし去年より早いんだな。日本では旬なのかな”
「え、ええ、そう、そうね」
“ん、今春燕チュンイェン叔母さんと話を……ガキどももお礼言いたいそうだ”
「あ、ちょっ……」
“叔母さんグーマ! 桃おいしーっ”
「あ、うん。仲良く食べてね、ケンカしちゃ駄目だよー」
“それでなあ、春燕チュンイェン。じつは相談があるんだよ。うちの食堂の床、そろそろ古くなってきてな。張り替えをしたいんだが、今年は収穫が渋そうでな”
「じゃ、口座にいくらか振り込んでおくね」
“いつもいつも迷惑をかけるなあ”
「迷惑なんて思ってないから。なんでも言って、叔父さん」
「じゃ、みんなにもよろしく」
ピッ
ピッ
「白鳥ッ、きさまあああ──」
“あー、桃届いたみたいだね”
わたしも食べたことねーぞ
「あなたが毎年毎年送ってる超高っけえ桃と同じ銘柄だし、
たぶんがっかりさせないと思うから安心して」
「脅しのつもりか!」
“どう思う?”
「あの人たちに手を出してみろ、おまえの縁ある者を全員なぶり殺しにしてやる」
「いや、さっきあなたそうするって宣言したばっかりじゃん、
同じ人たちがそんな何回も何回も死ねないから」
「おまえに人が殺せるのか?」
“わたしが? まさか”
“仮にも法治国家の警察官のわたしがそんな大それたこと。
ただ、ちょろっと情報流通の仕組みをこしらえただけ”
「あの家族に手を出すのは許さない!」
“あなたがこちらにちょっかい出さないかぎり、お互いなんにも起きないよ”
「殺してやるぞ、白鳥」
“だからそれやるとあなた的にあまり喜ばしくない結果になると思うけど”
「いちおう教えとくと、なにがトリガーになるか、こまかく決めとくの忘れちゃって、もう手離れしちゃったから、わたしもよく知らないしコントロールできないんだよ。
とにかくこっちに何事もなければ、仕組みも眠ったまま。亡きマーマの恩ある養い親一家はこれからも平和に暮らしていけるよ。だから、」
「わたしやわたしの周りの人たちに不幸がおきないように、
せいぜい神様に祈っててね。あっ、」
「そっか、共産主義には神も仏もいなかったっけ?」
“………白鳥”
「……遠くない未来、」
「おまえとわたしは、じかに相まみえることになるだろう」
「そのとき、最後に立っているのはわたしだ」
“そうかもね”
「じゃ、今のうちに教えとこうか。さっきあなたの話を聞いて分かった新事実。
あのとき、わたしが最初に“先生”に対して疑いを持った発端はね、
あなたの思っていることと少し違うの。
レフチェンコの亡命じゃないんだよ」
“何者かがわたしの身辺を探っていたらしい変な動きに気づいたから。
出所を手繰っていったら、貿易会社勤務の中国人女性へと辿り着いた”
「ちょっと掘ってみると、彼女が“先生”の知人だってことが分かった。
“先生”は中国通だったから知人に中国人がいるのは別に不思議なことじゃないけど、
先生の知り合いがなぜわたしを詮索してるのか。偶然なんだろうか。
それが先生の周辺を洗おうと思った最初のきっかけ。
KGBとのつながりは結果的にその後で浮かんできたんだよ」
“その中国人女性の姓は劉リュウ”
「そう、あなたの母親。さっき名前聞いてピンときた」
「嘘をつけ」
“そう思うなら聞き流せばいいよ。でも本当のことだから”
「いい? あのときあなたのマーマがわたしにワケのわからん嫉妬して
裏でこそこそと立ち回って悪目立ちさえしなければ、
わたしが先生の界隈を怪しんで洗ってみることはなかった。
ってことは、」
“少なくともあの雨の朝の出来事は、起きなかったってこと。
この意味、分かるよね?”
「 “先生”を殺したのはね、
あなたのマーマだよ」
雄叫び凄かったな
「信じるか信じないかはあなたしだい」
ニイタカ追っかけですけどなにか
「ま、てめーも人のことはぜんぜん言えませんけどね」
「そりゃさー、ぜんぜんショックじゃなかったかっていうと嘘になるけどさー、」
大いに不満であるっ
「ってだいたい敵目線とはいえ、なんでわたしが
血も涙もない悪魔みたいな描写なんだよ!」
ぶーぶー
「わたしがなんにも感じずに先生しょっぴきに行ったと思ってんのかよ!
あーでもないこーでもないってめっちゃくそ悩んで
前の晩2時間15分くらいメソメソしてたんだからね!」
「でも、そっか、先生、そっか。ニイタカさんを知ってたんだ……」
あんのジジイ!
「だったら八っちゃんみたいに最初わたしの顔見たとき言えや先生! だまってわたしをニイタカ萌えの代用品にしやがって! しかもなんにも言わずに死んじまうし! おかげで変なのに恨まれて酷い目に遭うし、ニイタカさんにたどりつくの思いっきり遠回りしたじゃん先生のバカムキー」
「お、永ヨングループの件が、いましがた片付いたそうだ」
「永ヨングループに対しては、インドネシア当局に検挙させ、組織に打撃を与えた。
そして白鳥自身やその関係者に対して今回のような危害が加えられることのないようしかるべく措置をしたとある。そこが白鳥の一番懸念あったところだったからな。
措置の内容は書いていないが、当面の危機は去った確信があるのだろう。
あとは、グアテマラとペルー方面か」
「巧妙な罠だったとはいえ、今回の拘束でインテリジェンスオフィサーとして致命的ともいえる深手を負ったのは白鳥本人も理解している。
このままでは警察内でも白鳥下ろしは勢いづくだろうし、海外のインテリジェンスコミュニティーにつくってきたコネクションも失いかねん。
白鳥が今後も生き残っていくには、強さを見せる必要がある。敵にも味方にも。
すなわち、今回自分を陥れた者ことごとくに報復してみせること。それも迅速に。
白鳥の拘束監禁に加担した者は、日本を含めて複数国にわたる。
白鳥はおそらく相手のはたした役割、属する国にふさわしい形で報復するだろう。
それが敵にも味方にもメッセージとなる。
最も難関だった本丸の永ヨンの問題はクリアできた。
日本国内の掃除は我々の役目だが、これも時間は掛からんだろう。
残るのは、グアテマラだが──
監禁者たちは、白鳥の受けた苦痛とあの国の価値観に見合った復讐を受ける。
それは──
「苦しみもがいた末のむごたらしい死」
「グアテマラという国で理解される復讐の形はそれしかない」
ふんがー
「ふん、さんざ俺のユリコをいたぶりやがったクソ野郎どもだ。頼んでくれりゃ、おれがこの手でやつら全員のチンコ千切りにしてやったのによ」
「それじゃ鈴木がスカッとするだけで、ミスシラトリの名誉挽回にならないだろ」
「じゃどうやって殺すんだ」
「ミスシラトリは情報屋だ。情報屋には情報屋にふさわしい戦いかたがある。情報屋の使うのは銃でも爆弾でもない。ミスシラトリの使う武器は、情報だよ」
ゴウンゴウン──
「それでおまえの送ったあの名簿か。あんなもんどうやって手に入れた」
「餅は餅屋さ。傭兵にもグアテマラ軍出身はけっこういる。
ま、手回ししたのはミスシラトリだがね」
空港でミスシラトリを逮捕した国家警察の隊長は、いちおう法廷での合法的な体裁を整えるためだけの使い走りだった。
ミスシラトリからの“問い合わせ”で、自分の置かれてる立場に気づいたらしく、慌てて土下座命乞いモード、洗いざらいした白状した。
誰に拘束を依頼され、捕まえたミスシラトリの身柄をどこの誰に引き渡したか、ついでに自分の過去の汚職とか不正とか要らんどーでもいいことまで何もかも。
ミスシラトリはやっぱり大したやつだよ。
あんな滅茶苦茶な目に遭わされてる間も、
ずーっとクソ野郎ども全員の人相風体を精確に記憶し続けてたんだからな。
二の腕のタトゥーがヒントになった。
あれは「カイビレス」の隊員のトレードマークみたいなもんで。
死の部隊のなかでも最悪最低と恐れられた陸軍治安暴動鎮圧部隊「カイビレス」
そのうちあの地下収容所を使ってたなら、おそらく尋問担当の憲兵中隊。
だとしたら、例の警察の隊長からの情報とも辻褄が合う。
ミスシラトリが記憶してた野郎どもの顔や特徴と職員名簿を照らし合わせると、
ほぼ憲兵中隊のCセ小隊の隊員18人と一致した。
で、先週末あたりからグアテマラ首都界隈でちょっと噂が流れはじめた。
カイビレスの元憲兵隊員たちが、80年代のイシル族虐殺の命令を下した当時の軍幹部や部隊長について、米州機構の調査委で証言することに同意したという噂。
あの国はゲリラとの手打ちで内戦終わって軍政も終わったが、そのしこりはまだ根強く残ってる。弾圧と虐殺を死の部隊に命じた将軍たちは、過去の罪を隠して素知らぬ顔で政治家や警察や軍のお偉いさんにしれっとおさまってる。
ひた隠しにしてる黒歴史を暴かれるのはお偉いさんには愉快なこっちゃねえわな。
じっさい民主化から何年も経つのに、軍政時代の大量虐殺を告発しようとした活動家や神父が、暗殺や拉致失踪で消されてる。
つまり昔ながらの死の恐怖とほんとの死で告発を押さえ込もうとしてるわけだが、
たぶん堤の決壊は遠くない。お偉いさん連中はピリピリして、疑心暗鬼は最高潮だ。
そんな矢先、かつて忠実な飼い犬だった元憲兵隊員が、
黒歴史を洗いざらいぶちまけようとしてる、っつう噂が出回る。
噂がガチかガセかは関係ない、疑いだけでトリガーにはじゅうぶんだ。
あとは予想するまでもなく、行き着く結末はあの国ではひとつしかない。
「むーこれからその仕掛けが始まるって言うのか」
「いや、もう始まってる、とっくに」
「ついさっきメーリングリストで回ってきたグアテマラのニュースだ」
「首都郊外の家が焼けた。焼け跡から見つかった死体に拷問の跡があった。
こっちも同じく今朝のニュース。ミスコで昨晩、酒場から出たきり行方不明だった男が死体で見つかった。切断されたてめえのマラをくわえさせられていた」
「全員消されるのに、1週間もかからないだろうな」
「凄まじいスピードと破壊力だな。ユリコが本気出したか」
「なによりもおっそろしいのは、ミスシラトリがニューヨークの部屋から一歩も出ることなく、電話とメールだけでこの流れをつくったってこった。しかも短期間で」
「……ユリコが俺らの敵側にいなくてよかったな」
「ミスシラトリならではのマジックだが、」
「人が殺すマジックは彼女も初めてじゃないかな」
「いま私が話したことの半分は推定だ。いずれにせよ白鳥は君に報復の具体的内容について知らせるつもりはなく、一切の機密指定を要請してきた」
「だがこうして私は君にぶちまけてしまったわけだ。
白鳥に知れたら物凄く怒られるだろうな。
さて、警視、」
「なぜ私が、白鳥の要請を無視して君にすべて話したか、分かるかね?」
「シラトリはつらいだろうな」
「ん?」
「あいつはポリスだ。ソルジャーじゃない。わしらからしたらポリスなんぞめんどくせえ縛りばかりだが、シラトリはそのめんどくせえ縛りにえらくこだわっていた」
「だが、シラトリはこれで縛りを破った。その気持ちを思うとな」
「ジェイソン1号。おまえ、地獄みたいな顔のくせに繊細で優しいよな」
「地獄みたいってどんなツラだこの野郎ッ、つーか1号って言うな!」
「白鳥が拘束されたとき、私は杉田さんに尋ねた」
それでもあなたは白鳥を守りますか?
私が白鳥を利用するだけ利用し、捨て石のごとく切り捨てるかもしれないと?
非礼を承知で申し上げればそのとおりです。
あれはペルーの人質事件が解決してまもないころだったかな。
佐々さんが訪ねて来られてな。いまの安藤くんとほぼ同じ質問をした。
そして──
ここから回想の回想↓
「白鳥の劇毒的才能は、秩序を守る側になければならない」
「あいつもそのことを分かっている。自ら科した戒めを解き放てば、いかなる大凶事すら容易に引き起こせる力があることを。あいつは己の奥底にひそむ獣を恐れておる。
だから白鳥はいまなお我々の側にとどまっておる」
「だから杉田くん、どうか白鳥を頼む。あいつが日本の国家秩序護持に愛想を尽かし、戒めを無用のものとかなぐり捨てることのないよう、くれぐれも白鳥を頼む」
回想の回想↑ここまで
いまのが私の答えだよ、安藤くん。
私は白鳥が国家秩序の側に立ち続けられるよう全力を尽くす。力及ばぬかもしれんが、そうするかぎり、白鳥はきっと期待に応えようとしてくれるだろう。
「私も白鳥を支えてきたつもりだ。だが限界がある。杉田さんも、佐々さんも、國松さんもだ。万一のとき白鳥を引き留められるかどうか、確信できん。唯一それができたであろう土田さんはすでに亡い。
だから私の独断で君に何もかも明かしたのだ、警視」
「今回、白鳥は自らを縛ってきたストッパーをあえて外さざるを得ない。過去どんなときだろうと決して越えなかった警察官の禁忌を破る。そのことが白鳥にとってどれほど重い意味を持ち、どれほど内面の変容をもたらすか、当人にすらわからんだろう。
警視、君はいま白鳥に最も近しい存在だと思う」
「もし万が一のとき、白鳥を止められるのは君だけだ。
警視。そのときはどうか白鳥を頼む」
「分かりました」
おれは安藤部長に、嘘をついた。
いつの日か白鳥が、秩序の敵に回ろうとするなら、
もし白鳥がその道を選ぶのなら、
そのとき、おれは──
「はい、どちらさま?」
“おまえか! きさまの差し金だろう!”
「えっと、とりあえず、あなただれ?」
「もう8人殺された!」
「准尉も、軍曹もだ! あの女の電話もつながらねえっ」
「陰で糸引いてるのはきさまだろう!」
永の電話はキレて海に投げたからだと思う
「わたしは無力な負け犬の売女プッタじゃなかった?
そんな大それたことできるわけないでしょう?」
「とぼけるな! やめさせろ!」
「すぐに手を引かせろ! さもないと──」
「あのときのビデオと写真をばらまくぞ、世界中に!」
“インターネットに流れたら、おまえの人生はもう終わりだ!”
「世界中どこへ行ってもおまえは好奇の目に晒され、」
“ずっと生き地獄だぞ。いいのか?”
「それが?」
「へ?」
「な、なあ。悪かった、おれは頼まれただけなんだ」
「あんたには酷いことをしちまったと思ってる、
あんなことは嫌だったが無理矢理やらされたんだ」
「む、娘が病気で治療代がかさんでどうしようもなかった。
やらないと昔部隊でやったことをバラすと脅されて泣く泣く──」
「息子の、いや娘の病気、えーと、
いやあの謝るくらいじゃすまないとは分かってる……」
“ビデオも写真もぜんぶ燃やす。絶対に人の目に触れないようにするし……、
あ、あの女をやっつけるのに協力するぜ。
なあ、なんでもするから、どうか………おい、黙ってないで、なんか言ってくれよ”
ウウウウ──
トッ、トッ、トッ、
トッ
トッ、トッ、トッ
ハッ、ハッ、ハッ、ハッ
ウウウ──
「……売女プッタ」
“先に地獄インフエルノで待ってるぜ”
ダッ
ガンガンッガンッ
“ガウッ”
“ひゃああーっ、ぎゃあ゛あ゛あ゛”
“ひゅーひゅーごぼっ──”
ピッ
「おえええええええええっ」
「うっ、うっ、げぼっ」
「げえええっ」
(ダメだ──)
(壊れる!)
「おええええっ」
(だれか、たす……)
(え……?)
(警視?)
(あなたですか?)
(……温かい)
「けほっけほっ、けほっ、はあはあ」
「あ、ありが……」
「どうしたんだ、おい、飲みすぎか?」
「はぁ? なんでやる太郎なの?」
「なんでとはなんだ! そしてやる太郎じゃねーし! ニューヨークに来てるっつうから様子見に来たら、玄関カギ開けっ放しだしよ」
「カギ、あ、閉め忘れてた」
「不用心にもほどがあるだろ! 心配して覗いたらげえげえやってるしよ」
「なんでこの状況みて飲みすぎって思うかなー、もっと切実な理由とか思わないの?」
「って、あ、おい、まさか」
「え、あ、あー、幸いにしてそっちじゃないから。
きのう検査で妊娠してないの確認できたし」
「ほれ」
「……ありがと」
ずびー
ぐしょ
「えーと、はい」
「えーとはい、じゃねえよ。ふつうそのまま返すか?」
「シラトリはどうしてるかね」
「ん? そりゃ大泣きに泣いてるだろうさ、吐いてるかもな」
「あーそうか、まあそうだよな」
だがそこがいい
「もしミスシラトリがこれで平然としてるような女だったら、
おれたちだって命がけで助けようとしてねーだろ」
「ま、そりゃそうだわ」
「ところで、つぎはどこの国に行くんだっけ?」
「んーと、たしか西アフリカのどっかだぞ」
「なにいー、またワケわからん病気かかるじゃねえか」
「やめろっつうのにワケわからん魚釣って食うからだろ、ジェイソン2号」
「2号言うな」
「安心しろ、日本文明の誇るセーロガンがあるぜ。俺のユリコのお墨付きだ。
食うときは激マズだが下痢にはてきめんだぜラッパノマークノセーロガン」
「……鈴木、おまえ、まさかあれ噛んで食ってるのか? 水で飲み下すもんだぞ」
「ん? 口んなかがちょっとヒリつくが食えんことはないぞ」
「おまえ撃たれても死ななそうだな」
「ほれ、こういう粒になっててな」
「バカこら鈴木ッ、機内でフタ開けるな!」
「おわっと、こぼれた」
「っあーーーーー」
大パニック
「バッカ野郎! 鈴木てっめええええ!」
「ぎゃーなんだこの臭いは!」「拾え拾え!」
「ころころ転がりやがる!」「あー隙間にーっ」
ちなみに21世紀に入ってまもなくグアテマラの「堤は決壊」した。
虐殺に関わった米州学校OBの軍幹部たちがついに被告として法廷に立たされる。
元大統領で元国会議長リオス・モント、現職大統領ペレス・モリーナは辞職に追い込まれて訴追され、元軍幹部18人、将兵たちも次々と裁きの場に引きずり出されている。
若き日のモントとメッチャ仲よさげなレーガン
が、アメリカ側で弾圧虐殺に加担したレーガン政権の国務次官補エリオット・エイブラハムズは旧罪を問われるどころか、その経歴を「評価」されて息子ブッシュ政権の中東問題最高顧問におさまり、中南米でやった恐怖支配をイラクにも持ち込むんである。
「まあまあ元気そうだな」
「うん、まだ外歩くとすぐへろへろだけど。おかげさまでなんとか」
「嫌味か。おれは何もしてねえよ。おれが動かなかったのは聞いてるだろ」
「そうだね、そしてそれが嘘だってことも知ってるよ」
「あ、クラークめ、言うなっつったのに」
「やっぱりそうなんだ」
あっさりカマかけに引っかかる俺氏
「げ、このやろ。なんで分かったんだ」
「わたしがあんな状況で逆転解放になる理由は、ひとつしか心当たりないから」
「あなた、あの“生命保険”、使ったでしょ」
「さて、ご理解いただけましたかね、長官代行」
Thomas J. Pickard@Acting Director of FBI
トマス・ピカード@FBI長官代行
「……オニーーーール、なにが望みだ」
「ニューヨークタイムズにおれの記事が載るって話を小耳に挟みましてね」
「おれのダンディっぷりを褒め称える記事ならうれしいが、あいにくネガティブな内容らしい。去年フロリダでおれのブリーフケースが盗まれた件とかね。査問なんて内部情報、局内の誰がリークしたのか見当もつかないですがねえ(棒」
「それが載らんのが条件か?」
「おれは近々、局を卒業しますよ、円満にね。だからそれくらいで満足してほしいもんですな。おれは再就職でごたごたしたくないんですよ」
「いいだろう」
「と、思ったが、」
「気が変わった」
「は?」
「グアテマラとペルーの奴らだけじゃあんな大仕掛けは無理なんだよな。ICPO絡ますには米国の公的機関にも協力者がいないと」
「オニーーーール、急にきみは何を言っとるんだ?」
「おれは最初CIAに協力者がいると思ってた。グアテマラ案件はずっとCIAが牛耳ってたし、あそこの支局は将軍たちと癒着して腐り切ってたので有名ですからね」
「しかし、あのスキャンダルであの国でCIAの看板はズタボロになったはずだ」
回想の回想↓はじまり
あのスキャンダルとは、
駐グアテマラ米国大使盗聴事件@1995年
CIA支局長がグアテマラ軍幹部と共謀、駐グアテマラ米国大使♀マリリン・マカフィと♀秘書のレズ不倫スキャンダルをでっちあげて大使を追い出そうとたくらんだ件。
ちなみにマリリン・マカフィはプルーデンス・ブシュネルの2代前の大使。
血塗られた歴史からして中南米のCIA支局はたいてい腐敗してて、支局長の懲戒され率も世界でダントツのダメダメ地域なんだけども、とくにグアテマラは代々ひどく。
「お聴き下さいキリッ。グアテマラ情報部が大使の寝室を盗聴したら、大使と秘書のけしからん濡れ場音が。重低音サウンドでお楽しみください」
“うっふーん、マーフィ、マイラバー、そんな舐めちゃいやん。
お返しにこんなこともあんなこともしちゃうぞ~”
「さあ大使! 動かぬ証拠です、どう釈明しますか!」
「マーフィは秘書じゃなくてペットのプードルですけど」
「プ?」
「プードル」
あえなく失敗。つうかアホすぎるだろ。
結果、>
CIAグアテマラ支局長>重懲戒。二度とどこの支局長にもしてやらんの刑。
だけでなく原因つくった前任者までさかのぼって処分。
元グアテマラ支局長>懲戒免職 ゲッアウッ
元工作総本部南米部長>同じく ゲッッッアウッ
さらに1997年に情報公開法にしたがい、43年前のグアテマラクーデターへのCIAの関与もろもろや、暗殺教科書「殺人マニュアル」などやっべえもん公開でダメ押しに。
CIAグアテマラ支局は死に体、現地コネも空中分解。
回想の回想↑ここまで!
「ってわけで、いまあの国でCIAのライフはゼロ。バカやる余力なんてない。
じゃ、シラトリ拘束には一体どこのどいつが噛んだのか、と。
で、思い出した。灯台もと暗しだ。CIAほどじゃないが、とある某連邦機関もグアテマラ当局といろいろ懇ろだったよなと。それに刑事犯罪枠のICPOを巻き込むのだってCIAよりもやりやすい。なんせ捜査機関だから」
「でだ、FBI局内で、グアテマラの拷問屋とつるんでるネズミ野郎を燻し出して、すぐにユリコシラトリの身柄を解放させること。でっち上げたICPOのアーカイブからもシラトリの名を完全に抹消すること。これをただちに、今日夜半までに完了させること」
「これが私のささやかな条件であります、長官代行。
以上が完遂されますれば、その書類一式丸っとお渡しますぜ」
「わしは知らんぞ、そんな雲を掴むような話、どう手をつけろというのだ」
「いやいや、グアテマラ少なくとも中米の死の部隊と関係があって、ICPOの手配リストに架空の国際指名手配をでっち上げられるコネのあるFBI局員なんてそう何人もいるとは思えませんよ。おれでも大体見当はつきますぜ」
「わしに責任のないことで、私が損害を蒙るのはおかしいではないか」
「はあ? 責任ならありますよ。お忘れならお教えしますがね、」
「あんたは長官代行でしょうに。局内に不正があったら正すのはあんたの仕事ですよ。まさか気に入らん捜査官をいびるだけが仕事だと思ってましたか?」
「…………」
「まあ、その代わりと言っちゃなんですが、連邦政府内での再就職はやめにします、」
「だからニューヨークタイムズでもなんでも勝手に叩き記事を載せればいいですよ。まあこじつけの訴追や免職はなしで、民間で食い扶持を見つけるのまでは妨害しないってことさえ守ってもらえれば、私はガタガタ言わず黙って身を引きましょう」
「んんんんーーオニーーーールウウウ」
「じゃ、今夜中の吉報を待ってますぜ、長官代行」
「──ってところじゃないの?」
「見てきたかのように再現すんな、相変わらず千里眼かよ。怖えーよ」
手に入れるの苦労したし
「あの“保険”はねー、あなたがFBIクビにならないために渡したんだよ!
なんでわたしのことで使っちゃうかなあああ!」
「おまえさんが助かったからいいじゃねーか! おれが納得ずくで使ったんだから」
「よくないよっ、バカじゃないの!」
「助けたのになんでバカ呼ばわりなんだ」
「…………」
「そういやそうでした。その……ごめんなさい、そしてありがとう」
「なんで悔しそうなんだよ」
「だって、おかげでわたしは助かったけど、あなたはFBIをクビになるし、これでミスタークラークの後任で対テロ調整官になる話も立ち消えになったでしょ」
「まあ政府の仕事はさすがに無理だが、シルバースタインの警備仕事だって条件悪くないからな。おまえさんを助けるほうがいいって、おれが決めたんだからいいんだよ」
「………」
「ま、そんなに責任かんじてるなら、おれと一晩過ごせばチャラだ」
「…………」
「け、検討の結果、わたし、そんなに責任感じてないや、と気づいた、かな?」
「ムチャクチャ葛藤したあげく身も蓋もない拒否すんなって! 冗談だって冗談! おれすげえ卑劣なやつみたいじゃねーか。デリカシーなくて悪かったよ!」
「でも支局のみんなはあなたが保身に走った腐れチキンだって誤解したままだよ」
「ん? まあどうせ局は卒業するからかまわねえよ」
「なんでよ、ほんとのこと言えばいいじゃん」
「カッコ悪いだろ今さら後出しで言い訳みたいに!」
「わたしに任せてくれないかな。せめてもの恩返しに。ごく自然なかんじにあなたのおかげでわたしが助かったって支局の人たちに伝わるようにするから」
「まあ、やれそうならそうしてくれや」
「おまえさんの生存も確かめたし。おれが言いたいのはひと言だけだ」
「アメリカ人は殺すな」
「唐突になに言い出すの」
「今あんたが何やってるか、だいたい想像はついてる。だから言う、」
「アメリカ国外で何しても勝手だが、理由はどうあれ、アメリカ国籍を持つ人間だけは殺すな。もしやったら、おれはFBIとしてあんたを追っかけることになる」
「人殺しなんてしないよ、安心して」
「ま、おれがFBIでいられるのもそう長くないがな。じゃ引き揚げるか」
「ねえ、やる太郎」
「やる太郎じゃねえ! ジョン・オニールだ」
「今夜来てくれて本当にありがとう。おかげで踏みとどまれた。
あなたに続けて二度救われたことになるね」
「鍵、忘れんなよ」
分かってるようで分かってない
「……ハンカチ、そんなに欲しかったのか」
この翌週、ニューヨークタイムズにNY支局国家安全保障主任捜査官ジョン・オニールの機密書類入りブリーフケースを置き引きされた件の蒸し返しスクープが掲載され、
まもなくオニールはFBIを去る。
こうしてオニールは、縄張りも規則も遠慮なく突破するそのゴリ推し力が最も必要とされるまさにこのとき、対アルカイダ捜査線から退場してしまうんである。
27 days before ‘Nine Eleven’
──9.11まであと27日
【ウルトラ ニューワールド之章 第19便】へとつづく
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