【事件激情】県警対14歳 Vol.11【酒鬼薔薇聖斗事件】

ムラヤマに会ったら何をするか分からないボクはどんどん大きくなる。
それいろいろ想像するのはとても楽しかったから。


ナメクジやカエルはたくさん殺して解剖したけど、そんなのとはきっと違う。
そのうち気づいた。
相手は別にムラヤマやなくてもええんやって。
それが分かるとボクはボクが怖くなった。
だから“透明な友人”にそういう悪いどろぐちゃを託すことにした。
透明な友人は引き受けてくれた。
誰にも遠慮せず、思い通りに行動できるやつや。
ボクはそいつに名前を付けてやる。
そいつの名は






この文字色の人物*は仮名である。
警察を含む人々の会話、思考の多くは創作で妄想である。
ただし日付付きの出来事は、公開された記録にもとづく。

さて捜査も、6月28日の逮捕劇へとむけて虚実交えて最終局面、
次の次で【県警対14歳】も(ようやく)完結なわけで、と思ったら、
ここで謎めいた「懲役13年」なるけったいなシロモノが現れた。
この怪文書のせいで事件はさらなる奇々怪々度を増すんだが──

ただでさえ長いし考察してると捜査話が止まるんでハショったれと思ってたけども、
まーこの事件の中心にあるモノだし、他であんま書かれてない説として思うところあったりするんでいちおう。おかげでその分長くなって次で終われなくなってしまったがや。
べつにこの“「懲役13年」の謎”の章ごとすっとばしても無問題である。
(念為「懲役13年」全文は、今回の最文末にくっつけた)
自分の脳内に巣食う獣性を「魔物」と呼び、酒鬼薔薇聖斗の殺戮性向と暗黒思想を吐き出したとされる怪文書「懲役13年」。
なぜこれが怪文書っていわれるかというと、
少年A(日向シゲル*@【事件激情】)当人の書いたものじゃないからだ。

つうか正確には、少年Aの元同級生(カネマサ*@【事件激情】)が、
「シゲル*に手書きの原稿を渡されて清書を頼まれたものを4月上旬にパソコンで作成した」
というものを思い出しつつ書きおこしたものを、警察に提供したものだややこしい。
その時点では、手書きのナマ原稿も、パソコン内のデータも、データの入ったフロッピーも、プリントアウトも、すべて消去するか捨てた、とカネマサ*は証言。
が、
少年A逮捕後の9月になってから、またとつぜんカネマサ*が、
「プリントアウトが1枚だけ残っていた」と全文を再提出してきた。

それが9月26日の朝日新聞に掲載された公開版「懲役13年」ってわけなんである。
ってとこから、
この「懲役13年」は、元同級生カネマサ*を通して世に出た。
「勉強のできない少年Aに第二の挑戦状はともかく、これが書けたはずがない」
っつうんで、
カネマサ*=酒鬼薔薇聖斗説、
カネマサ*=共同正犯説
を訴える陰謀論者までいる。もーみんな陰謀大好き。
「懲役13年」が謎の二乗なのはパッチワークであること。
よく挙げられるのが文中の──

人の世の旅路の半ば、ふと気がつくと、
俺は真っ直ぐな道を見失い、暗い森に迷い込んでいた
これは「懲役13年」で一番有名な一文。
朝日新聞の関連本はタイトルもそのまんま「暗い森」。

魔物(自分)と闘う者は、その過程で自分自身も魔物になることがないよう気をつけねばならない。深淵をのぞき込むとき、その深淵もこちらを見つめているものである。

大多数の人たちは魔物を、心の中と同じように外見も怪物的だと思いがちであるが……現実の魔物は、本当に普通な彼の兄弟や両親たち以上に普通に見えるし、実際そのように振る舞う……俺たちが思い込んでしまうように。
なかなかにして奥深げな言葉である。
これが中3のオリジナルだったら大したもん。
でもそれぞれ、



>ダンテ>>>>>>>>ニーチェ>>>>>>>>ウィリアム・マーチ
「神曲 地獄篇」>>「ツァラトストラはかく語りき」>「悪い種子」
からの引用、といえば聞こえはいいけど、ほぼまんま丸っと丸写しということが分かっている。まあちゃんと分かった博識な人がいるんだねえ。偉いねえ。
じゃ、このへんの原典をシゲル*は読んでたのか?
じつは、


このへんの犯罪系サブカル本を開くとあっさり載ってたりする。
引用のさらに孫引きなんである。
なーんだ、であるが。
ただし、それなりのつじつまが合ってる以上、引用でもそれなりの知的レベルが必要で、
国語が苦手なはずの劣等生が、
じつはフォトグラフィックメモリーの持ち主・直観像素質者でした、
という種明かし付きである。
直観像素質。
見たものを画像データとして鮮明に記憶する能力で、幼い子どもにはわりと備わってるが、成長するとできなくなる。
でもまれに、ずっとそれができる人間がいる。
彼らは当然文字も文字としてじゃなく画像として記憶するわけで。
少年Aの百人一首とつぜん80首完コピも博学みたいにみえる引用の数々もそのおかげ、と。
うーむ、
なんとなく密室殺人の真相は犯人が瞬間移動できたからです的なかんじ。

少年Aお気に入りのダリ作品「燃えるキリン」
ダリもまた直観像素質者といわれ、少年期に殺人願望を抱えてたという。
さて実際は?

カギはやっぱり元同級生カネマサ*である。
「懲役13年」を「著/少年A」と主張する唯一の証人カネマサ*だが、
どうもカネマサ*くんの発言、信用度が怪しいし、彼の立ち位置がなんかヘンなんである。

シゲル*が猫殺しを繰り返した、という話の出所はカネマサ*である。

と捜査員に答えている。
逮捕後、少年Aの猫殺しの噂はたしかに現地で広まってたし、
少年Aが「子猫の首3つを校門前に置いた」と言った、とか、「殺した猫の舌をワンカップ大関の瓶にコレクションしててキモかった」とか話したワル仲間もいた。
さらに少年A本人も「猫を20匹くらい殺した」と口にしてる。
事件前後、切り裂かれた猫死体が、竜が台で見かけられた記録もある。
そして連続殺人鬼は人を殺すようになる前段階で小動物を殺す、のもその手の犯罪系実録本ではデフォであるからして。
ところが、
カネマサ*くん、のちの聴取では

トーンダウン。というか前の証言ウソかよ。

で、神戸新聞がよくよく聞き回ってみると、猫殺しの場面を目撃した者は一人もいない。
パンダ公園事件で殴られるとき「竜が台の事件はおれがやった」、2月のときも「南落合橋で事件起こした」とシゲル*が口にしたともカネマサ*は供述。
またネタ本「FBI心理分析官」がシゲル*の家にあったのを見た、とカネマサ*は供述したが、シゲル*はその本を持ってなかったようで家宅捜索でも見つかってない。
カネマサ*的にはどうしてもシゲル*を引っ捕らえてほしかったようで、
悪行の数々を大げさかつ水増しして言い立てたフシがある。

カネマサ*はなんでそんな必死だったのか。
■
妄想ターーイム
実際はこうなんじゃなかったか?
しょせん証拠なんてないし妄想なんだけども。
でもいちおう彼らの行動の辻褄が合ったりする妄想。
妄想開始▼

カネマサ*はシゲル*のつむぎだす奇怪な世界観に惹きつけられた。
斬新かつ荒削りだが異様な迫力の。自分も持ってない感覚だったし、家族の信仰する宗教なんかよりもっとスリリングで激しく破壊的な。
シゲル*にとっても、ちょうど中2後半、ワル仲間が塾行ったり部活したりで自然消滅、なんとなくアローンになった頃。
これまで自分の世界観はいまいちワル仲間にも家族にもウケが悪かったが、目を輝かせて面白がってくれるカネマサ*という理解者が現れた。シゲル*ちょっとうれしいの巻。
だから2人は急接近した。

シゲル*はヒトラーの「わが闘争」を母親にねだって買ってもらい熟読した。母親が買って置いといたフセイン@イラクの本も。

ヒトラーすごいフセインすごいと興奮して周りに語った。ハーケンクロイツもお気に入りだ。(このへんは妄想ではない)
カネマサ*もまたその洗礼を受けただろう。
思春期のある種の男子にナチスのビジュアルはカッコよさげで蠱惑的だったりする。

でもシゲル*の表現力はあらくて幼かったし、あふれる奇想にアウトプットが追いつかず、混沌としていた。
そこで頭のいいカネマサ*は、粗雑で稚拙なシゲル*の世界観をちょっと整理整頓してやった。
最初は変で面白いから。実験みたいに。
頭の悪いシゲル*に対してなんとなく優越感も持ちつつ。
シゲル*の考えた奇想。
エクソファトシズム←間違い訂正。ななしどのご指摘ありがとう。
▽

エクソシストとファシズムの合成語っぽいが、
その意味は、
「この世は、弱肉強食の世界である」
「世の中はすべて作り物だから人を殺しても構わない」
「自分以外の人間は野菜と同じで切っても潰してもいい。誰も悲しむことはない」
等価思想
▽

「すべてのものに優劣はなく、善悪もなく、尊重すべきものは何もない」
どれも殺人行為を正当化する彼なりの理論武装で、
一見こむつかしそーだが暗黒気どりのませた厨房がいかにも言いそう系である。
この思想の体系化にもカネマサ*は面白がって関わった。

エグリちゃん 身長45cmの醜い少女。自分の腕を食べちゃう子

ガルボス 形のない獰猛な犬。
このへんのシゲル*の脳内住人は、母親や仲間たちも聞かされたし、シゲル*の描いた絵も見せられて知っていた。


じゃ、バモイドオキ神は?

そして、酒鬼薔薇聖斗は?
それもシゲル*はしゃべったかもしれない。
酒鬼薔薇聖斗やバモイドオキ神が脳内住人に加わったのは、小5か小6の頃だし中2の時点ではまだ脳外持ち出し厳禁の犯罪ツールにもなってない。
カネマサ*はバモイドオキ神や酒鬼薔薇聖斗という名すら知っていたかもだ。
そして3月16日の竜が台通り魔事件からまもなくの4月初め、
作文「三年生になって」
と同じ頃、
「懲役13年」が書かれた。
(まあフツーこの2つを同一人物が書いたとは思えんわな)

ナマ原を渡されたカネマサ*くん、
ただ単にワープロで打ち直すだけの写植オペレーターの役割をはたしただけ?
いやそうじゃなく、

リライトしたんである。
ロクに文章の体を為してないぐちゃぐちゃのシゲル*のドグマの爆発を、カネマサ*なりのお利口フィルターを通して組み直して、あちこちの通俗本の引用も付け足して見栄えよく。
どのくらい手を加えたか、ちょこちょこ書き整えた程度かもしれない。
でもカネマサ*本人が「あいつはおれが育てたんや」と思うくらいには。
だから(少なくともカネマサ*内では)共作だった。
原案はシゲル*、編曲がカネマサ*。
そうしてシゲル*の疑似脳内スキャンともいうべき「懲役13年」が生まれた。
シゲル*は「懲役13年」を得たことで、自分の欲望のありかを見つけた。

オレハヒトヲコロシタイ
一方、カネマサ*はというと、

びびってきました。
途中から恐ろしくなった。
最初は面白かったのに、やってるうちにフランケンシュタインの怪物よろしく勝手に動き出してコントロールできなくなってきた。
じっさいカネマサ*にシゲル*が精神改造されて殺人鬼になった、というんじゃない。カネマサ*本人がそう感じたかどうかなんである。
通り魔事件もシゲル*のしわざじゃないか。


その彼にいろいろ入れ知恵して煽った共犯者は、ほかならぬ自分。
大いにまずい。
カネマサ*は慌てて疫病神から距離を置こうとした。
でも面と向かって「うちらな、しばらく会わへん方がお互いのためにええ思うの」と言う勇気はない。なに考えてるか分からなくなったシゲル*が恐ろしい。
で、外堀から埋めるつもりか、ほかの生徒たちにいろいろあることないことしゃべった。なんとなく嫌われる自然消滅コースを狙ったかもだ。
でもカネマサ*は甘く見てた。

シゲル*は激烈に憤った。予定以上に激烈に。
そして5月13日のパンダ公園事件。

「よけいなこと言いふらしたな!」
カネマサ*はすたこら逃走。
シゲル*からの物理的な脅威もそうだけど、それよりもその後の凶事に巻き込まれない安全圏へと去るために。
シゲル*はプライドが高い。他人の、しかも裏切り者に自分のアイデンティティをこねてもらったなんて思ってないだろうし、
カネマサ*の方も自分が連続殺人をイデオロギー面で支えましたなんて言うはずもない。
変なとこで2人の利害は一致したんである。
こうして「懲役13年」は日向シゲル*著となった。
妄想終了▲
■
まあ制作秘話の妄想はおいといて、
日向シゲル*著「懲役13年」(を思い出してカネマサ*が書いた覚書)は、
宍戸*松笠*刑事によって須磨に持ち帰られた。
「これはホンボシや」
半信半疑だった疑惑が、はっきり確信へと変わった。

「サスケが死にそうやー、薬はないですかー」

これ小6のボクや。泣きながら近所を走り回っとる。

ばあちゃんの犬。ばあちゃんの買ってくれた犬。
ばあちゃんは死んだ。
病院に検査で入院したら、そのまま帰ってこんかった。

サスケも死ぬ。
やっぱり死がボクの大好きなものをボクから奪っていく。
サスケが死んで何日か経って、

夢に光り輝くものが出てきた。
それを感じてると不思議と安心できた。べつに何してくれるってわけでもないけど。
それはボクと対等じゃなくて、
もっとボクより上の存在、
だから神様ってことにしたんや。
■

亮一*と琴絵*の日向*夫婦は、児童相談所にいた。
カウンセラーから「ご両親からも話を聞きたい」と呼び出されて。
子育てについていろいろ話すハメになった。

琴絵*が幼い頃のシゲル*を長男として弟たちよりもビシバシ厳しくしつけて一切甘えさせなかったたこと。逆に祖母はかわいがり、シゲル*はすっかりおばあちゃん子になってたこと。
小3のときに異常な泣き方をしたので医者に診せたら「厳しくしつけすぎ」と言われて、以来、厳しくしないように(というか放任)したこと。

押し入れに隠してあったナイフを見つけたこと、
(え、ナイフ? byカウンセラー心の声)

床下から斧を見つけたこと、(え、お、斧? byカウンセラー心の声)
そのたび「友だちから預かった」とシゲル*が言って、
それを信用したことも。(え、信用しちゃうの? byカウンセラー心の声)
「えーと、息子さん、異性に対する興味はどうでしょうか」

一度、息子の部屋でAVビデオを見つけたことがある。
やっぱりシゲル*は「友だちのを預かっとるんや」と言った。
「それでどうなさいましたか」
「なら一緒に見よう」
父親亮一*が息子と並んで見た。(えっ、父子で? byカウンセラー心の声)
AVといっても半裸の女の子が浜辺で走ったりしてる他愛ない内容。

シゲル*が隣でたるそうにしてるので、
「こういうの見ると、興奮するか、どうや」
と聞いてみた、
「いいや、べつに」
やっぱりたるそうだった。
そのときは照れ隠しだと思ったんだが、今ではまったく異性に興味がないんじゃないかと思える。もしや息子はホモかなんかなんだろうか?
(て以前に、なんで思春期の息子と並んでAV観てんの? byカウンセラー心の声)

「私には息子が何を考えとるのか、さっぱり分からんのです」
(私もおとうさんがさっぱり分かりません。 byカウンセラー心の声)

琴絵*は黙ってる。
2月にやった上級生磯江アサコ*へのストーカー騒動のことも黙ってる。
■
女子は男子より弱い。

あの女を選んだ一番大きな理由がそれ。
いつの頃からやろか、仲間たちが女女女女そればっか言うようになったのは。
あいつら、女が脱いだり男とからみ合ってあおあお言ってるビデオで興奮して喜んでるし、女子の誰それが可愛いとかやりてえとかそんな話ばかりするようになったが、

ボクはそういうの見てもべつに何もかんじなくて。
ああいう興奮って、ナメクジやカエルを解剖したり、野良猫を殺したりするときのあの気分いい感じに近いんやろか。
前に一度誰かに話したら、「おまえ異常や」と言われた。あまり人に言わない方がいいんだろう。

あの日、学校で足を踏まれた。
踏んだのがあの女。
踏んだのに謝りもせず行ってしまった。
謝らなかったあの女が悪い。
だからこちらも思うようにしていいんや。



それにあの女の顔とか体のかんじとか、
仲間たちが可愛いとかやりてえとか言ってる女たちと似てる。



ということはあの女は可愛いんだろう。みんながやりてえと思う女なんだろう。
あの女ならボクも仲間たちと似た気持ちになれるかもしれない。

何をしたいのか分からないからありったけ道具を補助バッグに詰め込む。
ショックハンマー、金づち、龍馬のナイフ、斧、鎌、エア釘打ち機。
なんだ、ボクのやりたいのはやっぱりこういうことやないか。
あの女にどの道具を使おうか。

あ、そうや、斧は床下に隠してたのを親に見つけられたんやった。
「友だちから預かってる」と言い張ったら信じた。だけど斧は自治会に寄付されてしまった。
斧があの女に使えないなんて残念や。

あの女の家まで尾ける。
早く持ってきた道具をあの女に使いたい。
なるほど、こういうのを興奮ていうんかな。
女子は男子より弱い。
はずなのに、

あれ。なんで反撃してくるんだ?
なかなかうまくいかないな。
よし待ち伏せや。入るときなら思うようにでき
「なんやのあんた!」
へ?

なんなんだあの怪獣は。>>>>>>>↑シゲル*的主観で見たノリ子*
「なんでこの子につきまっとってるんや!」
「ぐぉら、なに黙っとるんっ」

さんざんやられた。狩るつもりが狩られた。
こんな怪獣が手下なんて反則や。
「名前名乗り!」

ああああ、ひどい目に遭わされた。
学校に言いつけられて。おかあさんまで呼ばれて。
教師の説教は聞き流したが、あの女を狙ってるのがバレた。
おかあさんは後で、
「なんやあんた、その子にフラれたんか」
「そんなんと違うわ」
どんだけ勘違いしとるんや。
本当のことは言えへんけどな、
あの女つかって死の実験する予定やったとは。
くそ、あの女。

あの女はてごわすぎる。
ずる賢いし卑怯だし。

あいつの手下も凶暴すぎる。
学校にまで知られた。危ない橋は渡れない。
ボクは背も小さいし細いし、体力もない。すぐバテる。
実験する対象は選ばないとな。
もちろんボクが傷ついたりしてはいけない。
反撃されない人間じゃないと。
あと逃げられたり、誰かに助けを求められても困る。
逃げ出したりしないような人間じゃないと。
そうやって考えながら家に戻る途中、


■
事件は世間を蝕み始める。

模倣犯。
友が丘中学校と周りの小中学校に現金5000万円を要求する脅迫状が届いた。
神戸市内の小中学校、「サカキバラだ」「生徒を殺す」のいたずら電話。
6月14日朝、大阪・住之江区の団地階段踊り場で小1男子が背後から首を絞められる。
九州・福岡でフリーター@19歳が、知り合いの女の子に「おれと付き合え」と迫り、『挑戦状』を真似たラブレター(どんなんや)を送って脅迫>もちろん逮捕。
岡山県に住むネットユーザーから「赤い字で「酒」「鬼」などの文字が書かれているホームページを2月頃に見た」と通報。
警察がプロバイダーを割り出して調べたが、赤い字で「愛」「死ぬ」と書いたユーザーがいた。これを勘違いしたんじゃね、と警察は判断。
地域の子どもに精神ストレス症状。
泣いたりおびえたり食事できなくなったりうなされたり「怖い怖い」と引きこもったり──
子どもの母親ため息「まるで大震災の後のような…」
4月に起きた大阪浪速の小3女子刺殺事件、奈良月ヶ瀬村の中2女子失踪もあって、恐怖の連鎖。
集団登校は近畿一円に広がった。
さらに夏休みが近づく。どないしよ、と近畿一円の行政・教委・自治会が頭を悩ませ始める。
■
「はい、田中」
「もしもし、伊丹*です」
「あらミキティー*」
「(-_- ;)やめてくださいデカ長、それ」

「ふん、おあいこや、やめて言うてんのにデカ長デカ長言うやんミキティー*は」
「ミキティー*の方が大ダメージですわ」
電話の向こうで元部下がかゆそうにしてる顔が浮かんで田中刑事は、例によって山の手のマダム風艶笑を浮かべ。
「そうや、あなたの言うとった磯江アサコ*さん、話ししたよ」
「あ、どうも。世話かけます」
「ええよええよ、心配な人がいたら教えてって頼んでたの私やし、ありがとね」
「こちらこそ頼んます。彼女、しんどい言うてましたか」
「ううん、いろいろ聞いときたかったみたい。しっかりしてて、ええ子やね」
「ふうん、ま、大丈夫ならそんでええですわ」

「あんたな、どういう魔法であの子だまくらかしたんよ。磯江*さん、まるであんたが聖人君子か徳の高い坊さんやと思わされてるみたいやけど」
「なんでだまくらかしたとか思わされてるとか決めつけとるんですか人聞き悪い」
「でな、なんや腑に落ちんから、あんたの下の名前が美樹*で人呼んでミキティー*やよって教えたったわ」
「えええっ(; ̄ロ ̄)」
「あーあと、ほら、あなたが男の子と一緒に泣いた話も」
「…(;-д- )なんの恨みですかまったく」
「なんでよ、ええ話やん。磯江*さんもめっちゃ感動しとったよ」
「勝手にいらんことばっか広めんといてください。だいたい人呼んでミキティー*って、呼んでるのデカ長だけですやん」
「いやいや、今後は磯江*さんも加わるから」
「ひどいわまったく。いじめや。架空の刑事への思いやりとかないんですか」

「っていや、電話したのはデカ長にイジられるためやなくてですな。ちょっと理由は聞かずに答えだけもらいたいんやけど、ええですか」
「イヤや言うても訊くんでしょ。なんやの」
「遺族からマルガイのこといろいろ聞いとられるでしょう?」
「まあ、少しはね」
「なんで犯人はマルガイを選んだと思いますか」
「……相変わらずミキティー*は唐突な子や」
「だからそのミキティー*は──まあええわ。で、どうです?」
「んー、単なる私の印象やけど、ええの?」
「まさにデカ長の印象を聞きたいんで」
「そうやね、事件の原因は彼らの中にはない。そういう影は匂わへんのよ」


「犯人が来た。あの子がそこにおった。だから」
「たまたまそこにおって、たまたま狙いやすかったから?」
「そうとしか思えへんの。ご両親にはむごい話やけど」
「それは、マルガイが犯人の知り合いやったとしても、ですか」
「──うん、そう思う」
「ふうむ、どうも。助かりました」
「──つまりあなたが寺田町の弾よけに回されたって話は事実と違うワケやね。磯江*さんも口が堅くて言わへんかったけど」
「まあ彼女が約束守ってしゃべらんかったのに、おれがしゃべるわけにはいきませんわ。ていうかヤクザの弾よけかい。どんな噂が立っとるんですかまったく」
「まあ、がんばって。ミキティー*」
「やっぱりいじめや」
■

相変わらずマスコミ過剰取材中。
北須磨団地自治会の石井一一会長(いちいちではなく、かずいち)、記者たちを自治会事務所に集めて、
「自治会でこまめに会見を開いて報告するから各家庭を回るのは止めてもらいたい」
と訴えるが、そんなのバツの悪げな咳払いだけで受け流され。
地元に支社のある報道各社に掛け合って自粛の約束を取りつけても、東京から来るテレビや新聞や週刊誌は知ったこっちゃなくて無視だし。

相変わらずマスコミ煽り中。
ワイドショーのコメンテーターしたりげ。
「犯人は今も、ごく普通の顔をして住民と接しているかもしれない。もしかすると葬儀にも何食わぬ顔をして参列していたかもしれない」

有田芳生「犯人はメガデスというデスメタルバンドの殺害的な歌詞の影響を受けた人物」
どこからネタ拾ってきたか知らんけど(一説には東スポ)。
もちろんマスコミの予測はハズレるの例に漏れず、酒鬼薔薇本人、メガデスどころかヘヴィメタすら聴いてやしなかった。

だって彼のマイフェイヴァリットソングは、
ユーミンの「砂の惑星」だから。

前回プロファイリングがピタリ賞だったロバート・K・レスラーも、
「性的加虐行為をしていない。快楽殺人者に分類しにくい」
「無秩序型とも秩序型の中間の混合型であまり見たことがない」
自慢のプロファイリングがブレ始める。
とはいえ「子どもしか殺せない幼稚な犯罪者ではないなどという言葉は、逆に自身の非力を十分に理解しているから」ってのは的中なんだが。
「少女殺傷事件と同一犯なら、今後45日から60日の間に再発するだろう」
とよけいな煽りもつけてくれる。
■
「警察は何をやっとるんや」という不信不満の声が聞こえる。
“ポリ袋を持った30~40歳の中年男”から先の話がぜんぜん出てこない。
おいおいまた今回も未解決にするつもりかあ?
しっかりしろよ兵庫県警よお!
マスコミが勝手にヒートアップするのと反対に、
捜査本部は沈黙を守っている。

県警本部詰めの事件番記者ですら何も教えてもらえない。
というかそもそも県警の幹部ですら知らされてないらしい。
記者たちは感じてる。
警察の奥深くで、明らかに何かが進行している、だが見えない、口が堅い。
これだけなんの情報も出てこないなんて異様だった。
≫【 Vol.12 最後の賭け】へと続く
完結まであと2話


I



▼「懲役13年」全文
>>>>>>>>>>>>>>>>懲役13年
いつの世も同じことの繰り返しである。止めようのないものは止められぬし、殺せようのないものは殺せない。時にはそれが、自分の中に住んでいることもある。「魔物」である。
仮定された「脳内宇宙」の理想郷で、無限に暗くそして深い腐臭漂う心の独房の中… 死霊の如く立ちつくし、虚空を見つめる魔物の目にはいったい何が見えているのであろうか。「理解」に苦しまざるを得ないのである。
魔物は、俺の心の中から、外部からの攻撃を訴え、危機感をあおり、あたかも熟練された人形師が、音楽に合わせて人形に踊りをさせているかのように俺を操る。それには、自分だったモノの鬼神のごとき「絶対零度の狂気」を感じさせるのである。到底、反論こそすれ抵抗などできようはずもない。こうして俺は追いつめられていく。「自分の中」に…
しかし、敗北するわけではない。行き詰まりの打開は方策でなく、心の改革が根本である。
大多数の人たちは魔物を、心の中と同じように外見も怪物的だと思いがちであるが、事実は全くそれに反している。通常、現実の魔物は、本当に普通な彼の兄弟や両親たち以上に普通に見えるし、実際そのように振る舞う。彼は徳そのものが持っている内容以上の徳を持っているかの如く人に思わせてしまう… ちょうど、蝋で作ったバラのつぼみやプラスチックでできた桃の方が、実物が不完全な形であったのに、俺たちの目にはより完璧に見え、バラのつぼみや桃はこういう風でなければならないと俺たちが思い込んでしまうように。
今まで生きてきた中で、敵とはほぼ当たり前の存在のように思える。良き敵、悪い敵、愉快な敵、不愉快な敵、破滅させられそうになった敵。しかし、最近、このような敵はどれもとるに足りぬちっぽけな存在であることに気づいた。そして一つの「答え」が俺の脳裏を駆け巡った。
「人生において、最大の敵とは自分自身なのである」
魔物(自分)と闘う者は、その過程で自分自身も魔物になることがないよう気をつけねばならない。深淵をのぞき込むとき、その深淵もこちらを見つめているものである。
人の世の旅路の半ば、ふと気がつくと、
俺は真っ直ぐな道を見失い、暗い森に迷い込んでいた
(*最後の一文のみ太書体でアンダーラインが引かれていた)
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