【事件激情】再掲@サティアンズ 第二十五解 -ヴ【地下鉄サリン事件】



「番組の途中ですがニュースをお伝えします」

今朝8時過ぎ、東京の営団地下鉄、日比谷線の複数の上り電車の車内やホームで、激しい刺激臭がして、警視庁の調べによりますと、ラッシュ時の乗客100人以上が病院に運ばれ、うち10名が意識不明の重体ということです。

全放送局@除く教育がなんとあの安心安定のテレ東もふくめて緊急放送にチェンジ、
「地下鉄で刺激臭が発生し、これまでに150人以上が病院に搬送され──」
「築地駅、茅場町駅、霞ヶ関駅、八丁堀駅で異臭」

「今朝8時19分頃から150人以上が不調を訴え」
「10数人が重体」
「警視庁は薬物のようなものが──」

「急げ急げっ! 早く次の救急車に場所空けろっ」

「呼吸が──」「しっかり! 助かるからね!」

「こっち点滴! 急いで!」「吸引早く!」

「おい、酸素マスク追加!」「毛布もっと持ってこいっ」

1995年3月20日に発生した地下鉄サリン事件の状況、警察、自衛隊、病院、東京消防庁の活動は、公開された情報にもとづく。
登場する公官庁、企業、機関、組織、部局、役職もすべて実在する。
白鳥百合子はじめこの色で示されるのは、架空の人物であり、実在する人物、事件、出来事と架空の彼らの交差する部分は、例によって創作全開ソースは妄想なんであるが、その内容には一応意図がある。
また警視庁と各署の交信は2015年1月14日に警視庁が公開した事件当日の73分30秒にわたる交信記録にもとづく。


──午前9時27分
丸ノ内線@池袋行「B701」
サリン放置のまま、なんと1時間40分も走って走って走って、

国会議事堂前<霞ヶ関<銀座<東京>大手町<淡路町<御茶ノ水<本郷三丁目<後楽園<茗荷谷<新大塚<池袋
それでもまだ走るのかよってかんじで、
営団地下鉄運転指揮所がやっと「全路線の運転すべて取りやめ」と決定、

ようやく国会議事堂前で運行をやめた。

丸ノ内線@荻窪行「A777」
こちらもサリン気化中のまま運転続行中。
中野坂上駅で駅員が重症者を搬出、
不審物つまりサリンの袋を回収したものの、
霞ヶ関>国会議事堂前>赤坂見附>四ツ谷>四谷三丁目>新宿御苑前>新宿三丁目>新宿>西新宿>中野坂上>新中野>東高円寺>新高円寺>南阿佐ヶ谷>荻窪
そのままなんとはるか終点荻窪まで行っちまって、

ってだけでなく、これまた信じられないことに、
平常どおり折り返して運行続行。もちろん新しい乗客を乗せて。
新高円寺<南阿佐ヶ谷<荻窪

とうぜん新たに乗った乗客たちもサリンにさらされ、
丸ノ内線@荻窪行「A777」も、新高円寺でやっと運転を打ち切った。

汚染車両がサリンと被害者を行く先々でばらまいて走ったんで、もはやどの路線どの駅どの電車でどのくらいの乗客に被害が出てるのかまるで把握できてない。
営団は全駅全列車の総点検を開始。
日比谷線、終日運転中止。
丸ノ内線と千代田線、被曝車両を車庫・引き込み線に移して、運転を再開。
ただし霞ヶ関駅はドアを開けない通過扱いになった。

「警視庁によりますと、午前8時過ぎ、日比谷線の恵比寿駅で、東武動物公園行の電車に乗っていた男性が新聞紙にくるんだ弁当箱のようなものを置いたと──」
サリン発生の至近にいても生き延びた人が多かったため、
この時点で犯行状況はかなり詳しく把握される。
「今月15日にも地下鉄霞ヶ関駅に置かれたアタッシェケースから水蒸気が噴き出す事件があり、関連を調べています」

「白い煙が発生して乗客が倒れ──」
「座席の下で瓶のようなものが割れて揮発性のシンナーかベンジンのような──」
「消防庁によるとアセトニトリルが検出され──」
さっそく誤情報もまことしやかに広まる。

修羅場の聖路加国際病院
修羅場の中の修羅場救命救急センター

「血圧50から120っ、脈拍120パーセカンドッ」
「ジアゼパム10ミリ入れて!」

「先生、こちら警察の人が、緊急に伝えたいことがあると言われてますが」

「今そんなヒマないっ。部外者入れないで!」
「ですので、すみませんけど事務局の方に言ってくれます?」

「ネプライザーかけろっ」「血液検査の結果まだ来ないの?」
「呼吸不全、止まりません」「ネオフィリン早くい
キキキキキキキキキキキキキ

キキキキキキキキキキキキキ


キキキキイイイイイイイイイ

イイイイイイイーーーッッ




「………」(なんでここに学校の黒板が?)

「……こら、おまえなんのつも

「硫酸アトロピンの量は?」
「……は?」

「硫酸アトロピンはもう使った? 使ったなら量は?」
「え……あー、ワンショット投与した、が改善しない」

「ワンショットってアンプル1本0.5ミリ? それぜんぜん足りない!
硫酸アトロピンは最低2ミリグラム静脈注射で投与して。
パムも2時間あたり2本投与。改善が見られるまで継続して追加で」

「なんだと?(# ゚Д゚)」
「悪いけど言い合いしてる暇ないの。この人たちが8時頃に吸引したとすると、もう2時間半経ってる。5時間過ぎるとパムも効かなくなる。他の被害者が手遅れになってしまう。とっととここで結果を出して一刻も早く全院、いえ全病院に広げないと」

「ちょっとあなた、いくら警察でも素人が口を出さないでくれます?」

「私は素人でも、この対処法を考えたのは化学戦の玄人なので」
「か、かがくせん? あなたねえ──」

「いや、待て」

「ちくしょう、じゃこれサリン、ってことなのか?」

「ええ、まず間違いない」
「だが、硫酸アトロピン2ミリは標準の4倍だぞ。パム投与も原則1日2本までだ」

「これ農薬じゃなくて化学兵器だから。ちびちびやっても意味ないの。米軍および自衛隊の対化学兵器治療マニュアルは、サリン中毒にそのペースの投与を推奨している」

「あ、全身痙攣が始まりました!」

「このままだと心停止ですっ」



「硫アト2ミリ静注連続ショットだ!」
「え、いいんですか」
「それしかない」

「それからパムだ、2時間2本ペースで要るぞ。薬剤部からじゃんじゃん取り寄せろ」
「え、あれは農業地帯の病院にしかないんじゃ」
「聖路加ナメんな。ここにはどんなニッチな薬だって備蓄してあるんだ!」
「し、しかし、先生、あれは投与を間違うと生命の危険も」

「おれが責任とる! 硫アトとパム、連続投与! 思い切っていけ!」

硫酸アトロピン
PAMパム@プラリドキシムヨウ化メチル。
ともに有機リン酸系農薬中毒の解毒剤。
サリンも有機リン酸系農薬の親戚みたいなもんなので、この2つが効くんである。
ただし、サリンに冒されてから5時間以内が絶対条件。
それ過ぎるとパムすらまったく効かなくなる。
まさに時間との勝負。

さらに前後して、松本市の信州大付属病院の柳澤信夫教授から、
日野原院長@聖路加にあてて電話が。
「今テレビでやっている事件、あれはサリンです」
松本サリン事件のときの治療マニュアルがどっとファクスされてきた。

警視庁もやっとパニくり状態が落ち着いて、指揮所が幾つも分かれてるのはいかんと、刑事部対策室に刑事/警備の合同本部がおかれ、情報が集約されることに。
「ガス発生の駅は6つ、ただし被害者は16の駅から搬送されている模様です」
やはりまだ微妙に情報まちがってるんだが。
聖路加国際病院 救命救急センター@継続的に修羅場

「──全身痙攣が止まりました!」
「よしっパムが効いたぞっ。このことを大至急、各科に知らせろ」

「警察の人、おかげで助かった。あんたもかなり状態が悪そうだ、診てもら──」

「あれ?」


やがて自衛隊中央病院から医官と看護官の一団が応援に駆けつけた。
医者と看護婦の格好はしてても、有事には「軍医」「従軍看護婦」として戦場へ赴くれっきとした自衛官。
幸運にも聖路加に派遣されてきた青木晃医官、
つい昨日まで陸自衛生学校で対化学兵器医療の研修を受けてきたばかりで。
「神経剤、おそらくサリンか、タブン、ソマン、もしくはVX」
重症軽症問わず、パムと硫酸アトロピンの豪快な大量投与を主張。
研修の教科書「特殊武器疾病」をとりあえず持ってきてたんでそれも提供。
さらに陸自衛生学校に連絡>対神経ガス治療マニュアルを至急ファクスで取り寄せ。

さらに救急センターでの救命成功、信州大からの情報提供も受けて、
院内一斉に硫酸アトロピン&パム投与の治療に切りかわる。
患者たちは劇的に回復し始めた。
だがコンクリートジャングル東京には、とうぜんながらパムの備蓄は少なく。
みるみる薬剤部の在庫が残りわずかに──

「当院の備蓄は20人分しかありませんのです。
スズケンさんならパムの在庫をお持ちと思いまして。もう猶予がないんです。
じき東京じゅうでありったけのパムが必要になります」
名古屋市
医薬品卸大手スズケン


「なる早で大量に必要だぞ。おれは新幹線に乗るッ」
スズケンは営業所、病院からパムの在庫をかき集め、東海道新幹線に乗った社員が、浜松、静岡、横浜のホームで受けとっては東京へ運ぶリレー配送を決行。
大阪市
住友製薬@パム製造メーカー


「パムやパムやパムやパムやパムありったけ要るでー。急げっ、空輸で運べやっ」
パムと硫酸アトロピンありったけが関西から空路羽田へ、
羽田からパトカーの先導で各病院へと超特急で配送された。

さらに陸上自衛隊の衛生補給処もパム2800セット緊急放出。
空前の日本列島縦断超特急ミッションが、即興の連携プレーでくり広げられ、大量の硫酸アトロピンとパムが被害者治療中の都内各病院に届けられる。
こうして約600人の生命が助かった、ともいわれる。
午前11時過ぎ
聖路加国際病院の日野原院長と桜井副院長が記者会見を開き、


「運び込まれた患者は副交感神経が刺激を受けている。
松本であった中毒事件のサリンも可能性の一つである」

警視庁 科捜研

ガスクロマトグラフィー、有毒ガスの正体をあとちょっとで──

「出たぞ!」
警視庁 刑事部対策室 刑事部・警備部合同対策本部
「科捜研の鑑定結果きました!」

「GB サリン」
──ああああああああッ

「強制捜査まで……あと2日だった!」

午前11時30分──
警視庁の緊急記者会見
寺尾正大@捜査1課長


「被害者の症状や残された物質から神経ガス・サリンがまかれた可能性が強い」
「警視庁は殺人事件として午前9時に捜査本部を設置し、捜査を開始した」
「二次災害防止のため、地下鉄の通風口には近づかないよう」
「犯人は何者ですか!」

「早く報道をやった方がいい」
首相官邸も──
五十嵐官房長官


「村山総理は、人命救助に全力を挙げるよう──」
この時点で、警察もマスコミもごくごく慎重にあの団体名を出していない。
だが、暗黙の了解的に「サリン>犯人=オウム真理教だろ」
すこしでも一連の事件を知る誰もがそう受け止めていた。

渋谷ホームズ@諜報省「宇田川アジト」

実行犯10人が再集合中。
林泰男、廣瀬健一にサリンの中毒症状が出てたので、林郁夫が解毒剤を打った。
その横で井上嘉浩がぶちぶち怒ってる。

「なんでこういう大事なとき寝坊できるかなー(苛
「あとでビラまいたってなんの意味もあらへんやん!」
新進党の犯行声明ビラまくはずだったのに、ビラ担当の石川公一が寝坊したらしい。
アジトにはテレビがないんで井上はわざわざテレビを運び込んでニュースを見ている。

“最も被害の大きい築地駅の──”
……すごいな。あれをほんとにおれたちがやったのか。

新實「尊師の言われたとおり、1か月くらい強制捜査、延びますかねわんわんっ」

林泰男「よくて1週間ぐらいじゃないですか」
(いや、こんなことしたって結果は同じだ、警察はすぐにでもやるだろう)


海外でもトーキョーを襲った化学テロは大ニュースとして駆け巡った。

ここモスクワにも──
「……なんちゅうこっちゃ」

「教団がやったに違いないで」

「……………」


名古屋市近郊
「おうおう、東京えらいことなっとるがや」

“警視庁捜査第1課長が会見を行い、サリンがまかれた可能性が強いと──”

駆け落ち脱会夫婦富田隆@シーハとソーマ@オウムシスターズ長女、
ソーマの実家のある名古屋に向かったものの>オウムの追跡の目から隠れ逃れて転々>

>いまは郊外のパチンコ店に夫婦住み込みで働いていた。オウム信者がパチンコやりに来る可能性は限りなく極小なんでよき盲点。
富田はホール係、ソーマはいちおう帳簿係として雇われたんだけども、ソーマは教団で

の薬漬けと

店長が苦労人だよオットー1世らしく、事情をそれとなく察してクビにしないでくれて、おかげでようやくソーマもなんとか落ち着いてまともに戻っていた。

「ねえ、あれって」
「……奴らやっちまったのか、ついに」


長野県警松本署
「松本市における死傷者多数をともなう中毒事故早い話が松本サリン事件」捜査本部
「くっそ、あいつら、またやりやがった!」
吉池松男@警部補


丸メガネよう、おめーのこったからやるこた全部やってたんだろうけどよう──

でもなー、なんとかこうなるの止められなかったのかよ。
ちっ、そう言うおれは何やってたんだってことだよな、くそっ。

路上に横たわるおびただしい数の人人人、おびだしい数の救急車救急車救急車。
事件の代表的な空撮ショット、築地駅本願寺前出口である。







「姐さん、それ以上近づくと危ないっすよ」

「それにお忘れかもしれませんけど、姐さん本人、サリン以前に絶対安静中ですから」

「警部との連絡は途絶えたままです。霞ヶ関駅構内に降りて行ったのを最後に……」
「渋谷は神戸からこっちに向かったことまでは分かってるんですが、ポケベル鳴らしてるんすけど──」
「“大久保”くん、“駒”ちゃん──」

「──また、私にすこーし力貸してくれるかな」
「え、はいっ、そりゃ喜んで」
「誰も誉めてくれないし、ばれたらクビだけど、いい?」

「え──そ、そんなの屁でもないっす姐さん! なぁ?」

「もちろん自分もです、あのとき警視にかばっていただかなければ、
とうにクビになってた身です。あなたのお手伝いならなんでも」

「コマちゃん……」

「……えっと、ごめん、駒ちゃんをかばったって、なんだっけ?」
「 川*TーT)なんか悲しい自分です」

正午過ぎ──

サリンと知って警察消防ともに、もはや一歩も駅構内に入れず、
外でやきもきするばかり。だってサリンマジ怖えーし。

消防庁も毒ガスと聞いて化学災害用の陽圧服を引っ張り出してきた。
なかの気圧を高くして外気が入り込まない構造。ただし10分しかもたない。
使えねーじゃん。
警察庁「こりゃ警察と消防じゃもはやなんともならん」
ようやく防衛庁にヘルプ要請。
自衛隊的には遅っせーよ待ちくたびれたぜである。
防衛庁はじつをいうと発生29分後には化学テロと独自判断、
>化学学校、101化学防護隊に出動支度を命令。
防衛庁長官にもせっついて、全国の化学科小隊も市ヶ谷駐屯地に呼び寄せ。
とっくに指名待ちだったんで。

つい2か月前の阪神淡路大震災では、出動要請が出てから出陣の支度をはじめたんで初動が遅れ、渋滞にはまってさらに遅れ、ノロマだの使えねーだのさんざんっぱらに叩かれた苦い教訓からで。「駐屯地→駐屯地」への「小隊」の移動ならいつも演習でやってるから法的にも無問題、という裏技を使ったんである。
ただし、自衛隊が自らやれるのはここまで。
この頃の自衛隊は、都道府県知事から「災害派遣要請」ないと小隊ひとつ送り込めないシビリアンコントロールなんである。今回のばやい、東京都知事@鈴木俊一。


防衛庁は都庁に派遣要請を出すよう要請。
助けてお願いとぼくらにお願いしてくださいお願いします、と助ける側が言うのもなんかバカバカしい話だけども、自衛隊には何重もの鎖でがんじがらめなんである。
阪神淡路大震災では混乱の末、やっと派遣要請出たのが被災4時間も経ってから。自衛隊がのろいとか無能とか叩かれたが、おもに兵庫県庁が無知でバカだった。
たった2か月前&さんざ問題になったにもかかわらず都庁職員まーたく学んでねーし無知でバカで話にならんかったが、防衛庁も今回は粘りに粘ってせっつきまくった。
午後0時57分──

で、鈴木@都知事名で「災害派遣要請」>陸自第1師団、なんとかゲット。
が、間の悪いことに今日は代休日で、市ヶ谷第32普通科連隊(まぎらわしいけども、要するに歩兵連隊)も総員500名の半分もそろわず。三等陸尉(要するに少尉)がいちばん上。化学学校も6人しか集まらない。
報道見て自主的に出てきた隊員もいたけども、大半がひさびさの休み@旅行やレジャーに行ってて戻るに戻れず。

「ぐぬぬ、なんで今日という日に限って起こるかなー!」
午後1時──
首相官邸

戦前に建てられたロイド式4階建ての官邸はこじんまりしてもはや平成の世には手狭。
有事の危機管理センター的な部屋すらないんで、地下1階小食堂@首相ごはん用を使う。この日も閣僚が例によって小食堂にひしめき合う。
阪神淡路大震災での遅い対応をさんざん叩かれて、官邸は有事にかなり神経質である。
警察庁、防衛庁、公安調査庁、外務省、内閣情報調査室、内閣安全保障室からやってきた代表がそれぞれ状況説明。
政治家たちは初めて耳にする。カルト、サリン、ロシアンコネクション、軍用ヘリ、自動小銃密造──もはや理解の域を超えちゃってポカン(゚⊥゚)(゚⊥゚)(゚⊥゚)

午後3時7分──
市ヶ谷駐屯地

晴れて陸上自衛隊出動ゴーーーーッ!
人手不足のなか、普通科(つまり歩兵)連隊120名と大宮101化学防護隊と化学学校の教官や研究員70名を振り分けて、なんとか除染特殊コマンド4中隊をこしらえ。
「これは演習ではない。実戦である!
化学部隊が初めて国民に貢献できるチャンスが来た!」
このとき普通科つまり歩兵は初めてどこへなにしに行くか知った。
(; ̄_ ̄)( ̄_ ̄;)「サリンだってよ」「おれら、そん中入るの?」「何するの?」
不安げ。普通科つまり歩兵は普通って言うだけあって化学戦は素人なんで。

パトカーの先導で一路“戦地”へ。その数30輛以上。これだけ大部隊な自衛隊車群が東京中心を走るのは史上初。とりあえずある種の善良なる市民が発狂しそうな光景だが。

「おー」「なにあれー」「軍隊すげー」「クーデター?」
が、慣れない大都市公道をパトカーに従って慣れない交通規制無視で走るのは大変、

渋滞につかまったり、ついつい赤信号で停まって先導役のパトカーとはぐれたり──

道に迷ったでありますっ。
亀井静香@運輸大臣、首都高速を走る公用車で事件発生を知る。
元公安警察幹部@しかも過激派より過激なんでこういうときのえいやっは素早い。

「よしっ、ここでUターンだ!」
「あの、大臣。高速でUターンは無理です……」

速攻で運輸省へとって返しつつ、自動車電話で官僚に口頭で大臣命令捺印なんだそれおいしいのか? 陸、海、空の交通すべてに厳戒態勢をとらせた。

阪神淡路大震災の傷跡癒えぬ、
>神戸市>須磨区>の北部にある>

>須磨ニュータウン>北須磨団地>友が丘


“都内の地下鉄でサリンが撒布された事件で、現在死者──”

……おー、すげ。

午後4時──

ようやく化学防護服の自衛隊が次々と現場に現れ、
慣れない市街展開で混乱しつつ、“ホットゾーン”での除染開始。消防隊も加わり。
「除染の熱反応でサリンが気化するおそれあり。地上の通気口には誰も近づけるな」



サリンに侵された駅や車両の除染中。
苛性ソーダとさらし粉を混ぜた水溶液、つまりアルカリ水で洗い流してる。
意外ながら最凶化学兵器サリンは、水であっけなく“死ぬ”んである。


ホースで水まいて、デッキブラシでごしごしこすって。ハタから見りゃかぎりなく便所掃除だけど、洗ってるものを吸うと死ぬし本気と書いてマジと読むである。


「おーい、日比谷駅ちがうぞー! ガス発生源なーし! 誤報だ誤報!」
“日比谷中隊、築地駅展開中の築地中隊を応援に行け、送れっ”

“日比谷中隊へ、築地は取り消す。後楽園駅に不審物との通報。急行せよ、送れっ”

「だーッ、あっち行けこっち行けとか道わっかんねーよ! 送れっ」
で、午後6時過ぎ──

丸ノ内線 後楽園駅 引き込み線

「おい……“不審物”ってこれのことかよ( ; ゜<゜)」

「ボンベ用意っ。車両内はサリンが充満してると思えっ」

メディアで繰り返し登場する「あのシーン」である。

オウム真理教が夜になって緊急会見。

「オウム真理教はこの事件には無関係です」
と青山弁護士がしれっとウソこいてる裏では──

山梨県上九一色村 富士ヶ嶺地区
第六サティアン
実行担当信者を集めて尊師おほめのことばの時間。

「世間ではこれはオウムがやったと言っているようだ」
林郁夫、不信がはっきり芽生えたのはこのときだった。

(なぜそんなことを言う。先を見通せなかったのか?)

「これはポアだから。ポアされてよかったね、とマントラ1万回唱えなさい」

(なぜだ、信じていたのに)
という限られた幹部、そしてサリン散布に関わった者たち以外の信者は、


「また無関係なことをオウムに押しつけようとしてる」
被害者意識もろだしになってたが、動揺はさざ波のように広がり。

(どうすればいいんだろ。“メガネ”さん、なんで返事こないの)

(連絡とりたい)

(裏の公衆電話ならこの支部の人たちにも見えない)



「あ、いたいた、探したのよ」


「──マチク・ラプドンマ師、いつこちらへ」
「今着いたとこ。このあいだは手伝いありがとう」

「あら、どこか出かけるの?」

「──いえ、ちょっと、外で声がしたようなので」

「そうね。今日の騒ぎでまた周りがうるさくなりそうだものね」

「ね、ちょっと一緒に来てくれない?」
「え、今でしょうか」

「ええ、今すぐ」



「……はい」

「こっちよ、ついて来て」



午後8時40分──


自衛隊、すべての除染を完了。
だが各駅での汚染の有無を確認するため、
彼らはひと息つく間もなく首都中枢をかけずり回り、
最後の部隊が市ヶ谷駐屯地に帰投できたのは、午前2時を回っていた。


聖路加国際病院 救命救急センターは眠らない。
ICUでは重篤患者の救命治療が続く。
軽症で治療しないまま出勤し、のち症状を悪化させた被害者も少なくない。

千代田線@代々木上原行「A725K」 林郁夫が散布
死者2名
高橋一正@50歳@男性 @営団地下鉄霞ヶ関駅助役 午前9時23分 死亡
菱沼恒夫@51歳@男性 @同代々木電車区助役 翌21日 死亡
負傷者231名


日比谷線@東武動物公園行「B711T」 豊田亨が散布
死者1名
渡邊春吉@92歳@男性 @靴修理業 即死
負傷者532名

日比谷線@中目黒行「A720S」 林泰男が散布
死者8名
岩田孝子@33歳@女性 @OA機器販売会社勤務 即死
和田栄二@29歳@男性 @日本たばこ産業勤務 午前10時 死亡
坂井津那50歳@男性 @会社員 午前10時30分 死亡
小島肇@42歳@男性 @建設会社勤務 午前10時30分 死亡
藤本武男@64歳@男性 @会社役員 22日 死亡
田中克明53歳@男性 @塗装会社部長 4月1日 死亡
伊藤愛@21歳@女性 @会社員 4月16日 死亡
岡田三夫@51歳@男性 @洋菓子メーカー勤務 96年6月11日 意識不明のまま死亡
負傷者2475名

大量のサリンが気化したため、この路線はケタ違いに被害が大きくなった。
とくにホームにサリン袋が蹴り出された小伝馬町駅では4人が死んだ。

丸ノ内線@荻窪行「A777」 廣瀬健一が散布
死者1名
中越辰雄@54歳@男性 @ゴルフ場会社役員 21日 死亡
負傷者358名

丸ノ内線@池袋行「B701」 横山直人が散布
負傷者200名
漏れたサリンが少量で、この列車のみ死者が出なかった。
いずれも登庁する警察庁警視庁職員を狙っていたが、皮肉にも月曜日の登庁時刻はいつもと異なるため、サリン散布の時間帯に地下鉄に乗っていた職員はごく少なく、かんじんの標的だった警察総本山の被害は軽微だった。


散布されたのは30%の低純度サリン溶剤で、松本で使われた純度70%のサリンよりかなり低かった。
密室状態で乗客満載の地下鉄で撒かれたのが、松本サリン事件並の高純度だったなら、死者は数百、数千単位だったともいわれる。
でも死んだ者と遺された人々にとってそんな統計なんの救いにもならない。

死者12名 重症者53名 負傷者5510名

*2008年救済法向けの再検証で、死者13名、負傷者6300名以上となった。
被害者はいまなお心身の後遺症に苦しむ。
史上初めて平時の大都市で一般市民にむけて化学兵器が放たれた無差別テロだった。
【第二十六解 カナリヤは啼いているか】へと続く






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