【事件激情】彼女Y.Mの福音 : 後編【池袋出会いカフェ殺人事件】
吉原麻実 紺野正美


<<< 【前編】
■ 大学デビュー

都内の有名私立大学4年生。
いかにも大学全入時代っぽい学部に在籍。
いつから、なぜ、彼女が「割切り」までするようになったのかはわからない。
高校の卒業アルバム。
彼女@18歳。

意外にも、



<<< 【前編】
■ 大学デビュー

都内の有名私立大学4年生。
いかにも大学全入時代っぽい学部に在籍。
いつから、なぜ、彼女が「割切り」までするようになったのかはわからない。
高校の卒業アルバム。
彼女@18歳。

意外にも、
愛くるしい、純真、清純、純粋、
なんて古代語の域に入る言葉がとても似合う少女的な少女。
10代な眼差しにまだギャルの兆しはない。
てことは、ギャル系JKがいちおう大学にスライドして、ギャル系女子大生やってたわけでなくて、
いまや珍しい響きの大学デビューだったんじゃないかと思うけれども。
卒アルから4年、ギャル系女子大生となって出会いカフェを根城に夜な夜な体を売るようにまでに、何があったんだろうか。
もはや知ることもかなわんのである。
「ヘアメイクの仕事をしたい」
彼女は友だちに将来の夢を語ってた。
どこまで本気だったのかただポーズぽく言ってただけなのか。
大学4年でこのご時世そろそろ内定も決まってないとややまずめなんでないのなんだが、

夜の諭吉収集と並行してリクスーに身を固めて「御社の自由闊達な社風キリッ」いや今どきそんなこという奴おらんないやいるか、とにかくそんなことやれてたかどうか…。
あの↓完全無欠スーパー女子大生マイキー →

とは、まるで別次元の生きもの、
逆にいうとそのへんにゴマンといる今どき女子大生。

そのへんにゴマンといる女子大生が割切りを割り切ってるかどうかはともかくとして、彼女がその平均像からそんなにかけ離れてる変な女ってわけでもない。
彼女の死にざまとその昼の顔から、
東電OL →
を思い出す人もいただろう、いただろうけども、
円山町の安アパートの空き部屋で死んだ東電OLのドス黒い背徳と堕落衝動は、
池袋の彼女にはまっっったくない。
彼女は東電OLのようにウィッグと白塗りメイクで娼婦モードに変身する必要さえなかった。
もっと自然体、屈託なく、ふだんの延長線上、罪悪感なんて超薄いっす。
さすがにキャンパスで、
「みんなあああ、聞いてええええ」
「わたしいいい、ウリやってんのよおお!(しかも大声)」
なんてことしなかったし、もちろん親にも内緒だっただろうけど、
彼女の出会いカフェ通いは、仲のいい友だちなら知っていた。
ただ彼女が底抜けのバカでお人好しでない限り、たぶん割切り仕事は教えてない。だってねえ、ほらたとえ友だちでも同性に弱点を握られたらどんなことが起きるか油断できないし(*´・ω・)(・ω・`*)ネー
「学費の足しに」と彼女は友だちに言ってたけれど、本当にそうか遊んだりオサレに使う金が足りなかったのか。
とにかく彼女はいろんなバイトを掛け持ち、出会いカフェも“割のいいバイト”のひとつだった。

平成生まれ第1世代の彼女たち。
物心ついたときからずっと不況。
「バブル」なんて江戸時代とかわらん「歴史」だしてか江戸時代っていつだっけ?明治より後ってコトは知ってるんだけどあれ?戦争より後だっけ?あれ戦争ってイラン戦争だよね?
ふつうに真面目に働いててもぜんぜんお金にならないし、てかふつうに真面目に働くチャンスすら異常に少ないし、なんだかこの先の人生ずっとそうなりそうだし、夢とか目標持つだけムダじゃね?

'85テレクラ>'90ブルセラ>'94ダイヤルQ2>'96 Enjo kosai>'99ケータイ出会い系>'04 SNS>'06セリクラ>'06出会いカフェ←今ここ。
“先輩たち”がせっせと土壌を耕してきたおかげで、彼女たちにとっちゃ性的自分を換金することも、売春へのハードルも前の世代が思ってる以上にごくごくごく低い。
彼女を出会いカフェで見かけたという常連女も、紀尾井町あたりにある某カトリック系大学の学生(自称だけど)だった。
(※ところで、被害者をその某カトリック会系大学の学生と言い切ってる掲示板やブログがやたら多いんで、なんでなのよ?と思ったけれども、単にニュース記事を読み間違えてゴッチャにしてるウッカリさんたちであった。他の割切りの子たちはどうか知らんけど、少なくとも死んだ彼女はその某大学の学生じゃない)
さて、出会いカフェの女フロア内でも、彼女は“人気No.1”状態。
事件直前の25日土曜の夜も同じ。すぐ指名されて、すぐ連れ出された。
まあ出会いカフェ側のスタッフにとっては、店から出たあと2人がどこで何しようと関係ないし興味もないっつうことで。
毎度ありあしたぁ、またのお越しをおまていあーす、である。
* 美人時計アダルト
その頃、日付は26日 日曜に変わっていた。
彼女の人生は、あと3時間ほどしか残ってない。
■
ていう彼女の氏素性も死ぬ直前の足取りも捜査が始まったときには当然ながら分かってなかったわけで、
長期化すると思われた池袋ホテル“不詳女性”変死事件。
ところが、1日も経たないうちに、思わぬ急転直下で解決する。
■ 透明人間の告白

26日も日暮れて。渋谷署。かののりピー事件ですっかりこの高架横の建物も有名になった。
ここに2人の男がやってきて。

2人のうち若い方、というか少年なのか意外とトシなのかわからないたぶん若そうな疲れた男の方が、
もぞもぞ署員に告げた。
「池袋で死んだ女の人、一緒にいた男は僕です」
いきなり自首。
付き添ってきた年かさの同行人が署員に説明する。
えー自分はこの若い男の知り合いでして、そのー午後、彼から電話を受けましてですね──などという話を。
彼は池袋から逃げて、横浜のホテルに隠れていた。
「家に帰れない、今までお世話になりました、死にます、死んでわびます」
と言ってるのを電話で1時間半かけて自首するようなんとか説得、渋谷まで呼び出し、一緒に付き添って出頭したのだった。

慌てて警視庁捜査1課が彼を聴取すると、
男は29歳、無職。
「女の人の首を絞めた」と供述。
さらに女のバッグ、靴、財布、化粧ポーチ、学生証、それにホテル備え付けのタオルやタバコの吸い殻を持ち出して、
電車で横浜まで逃げてホテルに入って、その近くで捨てた、とも。
警察が探すと、供述どおりに彼女のバッグが見つかった。
身分証も。
やっと不詳──「名無しの30女」に顔と名前が戻った。

板橋区在住、都内の私立大学4年生、22歳。
女子大生かよ!
捜査員も驚いた。35歳じゃなかったのか。
翌27日、捜査1課と池袋署は、その無職@29歳男を、まず女の持ち物を持ち去った「窃盗容疑」で逮捕。

それからさらに取り調べ、深夜になって「殺人容疑」で再逮捕した。まだるっこしいけどいちおう法律なんで。
@29歳の自宅は、
なんと池袋1丁目のマンション。
現場のラブホからも出会いカフェからも歩いて5分以内のご近所さんである。
そんなてめえンちの庭みたいな場所で@29歳は、女を買い、殺したのだった。
>>人間透明化プロセス
@29歳は福島県から上京してきた。
といっても東京でなにかしようとかアテがあったわけでも頼れる親族がいたわけでもなし。
東京に出てきてすぐヤクザにからまれてトラブルになって、精神的にも落ちてしまった。

そんなだから定職も見つけられない。無職@29歳は無職だった。
自首に付き添ってきた年かさの男は東京での彼の数少ない人間関係でアニキというかオヤジというか、ここは福島流に「あんにゃ」と呼んでみるけども、
そのあんにゃが、@29歳のあまりのヘボさを見かねて、池袋1丁目に持ってたマンションの一室をタダで貸してやった。あんにゃまた気前のいい。
おかげでホームレスにならずに済んだ@29歳はそこで寝起きして、手持ちの金がなくなるとたまに日雇いバイトしたり。なにしようとするでもなく基本的にたらたらしていた。
これといって取り柄らしいのもなく、おとなしくて人付き合いも下手で。もはや草食男子以前。
となると、その存在は限りなく希薄になる。そこにいるんだけどいないも同然。

透明人間。
いてもいなくても誰も気づかない。
でもそんな人間こそ鬱々と獣的ななにものかをため込んでる。
■
9月25日 土曜の夜、

@29歳はムシャクシャしていた。
あいにくリビドーは透明じゃない。
となれば──
なけなしの7諭吉を財布に突っ込むと、@29歳は最寄りの出会いカフェKへと急いだ。

そこでマジックミラー越しに女フロアの彼女を見た。
■ 価格破壊

トークルームでの交渉はまあスムーズに運んだ。
彼女は@29歳とちょっと話しただけで、げんなりしただろう。
「つまんなそーな男、あーあ」
いくら割切りでもそれなりに楽しい時間を過ごしたいもの。
けど、「交通費」は言うなりに出しそうだし、気も小さそうで大人しいっぽいから変なこともされないだろうし、
まいっか。
なんて彼女が計算したかどうか。
対して無職@29歳は手持ちの軍資金7諭吉を、
使えるだけ使ってしまおう、
妙に気が大きくなっていた。そんなんホントは明日からの生活も困るんだが。
派手めの美人が笑顔で自分のつたない話に相づち打ってくれてるからかもだ。
居酒屋の飲み代、もちろん@29歳の奢り。
彼女が「先に交通費をちょうだい」と言うからそれも先に渡した。さらにホテル代も男持ちになる。
諭吉みるみる減る。
でも財布に少なくともあと1諭吉残ってるはずだ。
というと、ん? 待てよ、
@29歳は4諭吉ほど彼女に「交通費」払ってる計算じゃなかろうか。
とある新聞のルポルルルタージュで「25歳のOLが『5万なら割り切りもOK』で」なんて書いてあったが、それ言葉はアレだが“身のほど知らず”っつうやつで高すぎる。
女子高生が諭吉1枚ばやいによっては一葉1枚でウリまでやらかして雪崩のごときデフレが起きた結果、
20歳越えたら“市場価値”が容赦なくがくんと下落する。2諭吉さえ苦しくなる。まして激安出会いカフェKの客相手ならなおさら。
いくら美人さんでもフェロモニアでもただ10代なだけの小娘どもに勝てやしない。
別の記事の“カフェ嬢”の「誘われて1.5諭吉以上なら考える」というのがいちおうそれっぽい数字だろう。
もっとも、遊び慣れてないヒッキー気味の@29歳だからふっかけられるままに払ったかもだ。
その夜、そこまでは無問題だった。
■ “あの小説”
自首に付き添った“あんにゃ”はがっくりきていた。
かわいがってた弟分的な男がなんと殺人犯として逮捕されたんだから。
「人を殺せるようなやつじゃないのに。なんであんなことを」
あとで@29歳の供述を聞かされて、
あんにゃは寒々と思った。
「ああ──、あの小説みたいだな」

吉田修一の『悪人』は、
朝日新聞の連載小説で、
妻夫木聡、深津絵里の主演で映画にもなった。
描かれるのはまさにごくごくありふれた事件。天才的名探偵も奇想天外なトリックもないし、意外な真犯人も謎の遺言状も出てこない。もちろん双子も。
舞台は北九州。
福岡と佐賀の県境、三瀬峠。
峠名物・ぐるりんループ橋
今なお人里遠い難路。おきまり地元有数の心霊スポット。
ていう三瀬峠の国道で、若い女の死体が見つかる。

女は博多の生保レディ@22歳(映画では沖縄アクターズスクール出身満島ひかり)で、出会い系サイトでエンコーつまり売春的小遣い稼ぎも副業中だった。
生保レディが最後に目撃されたのは、
坊ちゃんイケメソ大学生(映画では岡田将生)のアウディQ7
アウディQ7 820諭吉也
の助手席に乗ってる姿。
だから当然の流れでイケメソ@アウディQ7が犯人じゃないかと疑われるんだが、
事件にはもう一人、別の男が関わっていて──
あ、ネタバレしてるからお気をつけあそばせ。
ボンクラで人付き合いが苦手でモテなくて友だちもなくて愛車スカイラインGT-R R33をかっ飛ばすのが唯一の気晴らし、ガテン系@27歳(金髪妻夫木聡)。
地方の行き止まり感ありありの鬱々してるガテン系@スカイラインは、生保レディ@22歳と出会い系サイトつながりのセフレの一人だ。
ガテン系はいちおう恋人同士のつもり。
でもビッチな生保レディ目線ではつまんないし金もねえガテン系なんてどーでもいーというか正直ウゼとか思ってて、合コンで会ったイケメソ大学生@アウディにラブラブ光線放射中で。でもオレ様なイケメソ@アウディ目線では安っぽいしいい女でもねえ生保レディなんてどーでもいーというか正直ウゼとか思ってて──。
ここで『悪人』ワールドの三瀬峠から離れて時空移動
▼
>池袋1丁目
>9月26日 午前3時
▼
>ピンクのラブホ
▼
>彼女と@29歳のいる客室へと

狭い客室いっぱいのベッド。
汗の臭い。タバコの臭い。

この数分後、
彼女と@29歳の2人だけの密室で、本当のところ何が起きたか、
もはや男側の言い分しか聞けないんである。
■ シンクロナイズド

無職@29歳はひとまず下半身にたぎるマグマ大使的ななにものかを発散したのち、
シャワーも浴びて生理学的にはひとまず落ち着いたところ。
反面なんだか余計にうつうつした気分ひしひしきてます。
ううう、たった一晩で6諭吉も使ってしまった。
終わってみれば虚しいばかり。
彼女といえば身なりを整えて、とっとと帰りたそうだった。
もうすることはしたでしょ一刻も早く解放してよねぽい本音がすけすけに透ける極薄の膜にしかなってない愛想笑い。
【心理テスト】愛想笑いを見抜けますか? > start

@29歳イラッ。
店ではきらきら輝いて見えた女が急に安っぽくて下品なビッチに見えてきた。
こんな女を抱くために失った6諭吉がますますもったいなく感じるどんどん感じる。
ううしまった考えなしに生活費に手をつけてしまった。こんなくだらないことのために。
残り1諭吉は大切にしなきゃ…財布をなにげなく見た@29歳、
ないっ ( ロ) ° °
1枚残ってるはずの諭吉ない。
@29歳はしばし呆然(-O-;)
ハッとして彼女をにらんだ。

「おい」
おれがシャワーを浴びてる隙に、こいつが盗んだ。
「盗んだ金、返せ」
彼女はきょとん、「なにそれ」
「財布の1万円!盗った!返せ」
「は?知らないよ、そんなの」
「盗った!おれ風呂入ってる隙に!」
「はあ?ワケわかんない。なんでそうなるわけ?」

彼は何度も「返せ」と言い、彼女その回数分「知らない」

この超薄っぺらい陳腐な言い争い、ホントにあったかどうか。
もしかして彼女が本当に手癖悪くて1諭吉くすねたかもしれないし、@29歳が7諭吉保有のつもりでも最初から6諭吉しか持ってなかったかもしれないし、計算間違いでぜんぶ使っちゃってたのかもしれない。

ただ引っかかる。
彼女が、諭吉1枚(とたぶん若干枚の英世)しか残ってない財布からわざわざその1枚を盗んで0諭吉にする、それ不自然だ。数えるまでもなく見りゃ一瞬でバレる。それすら気にもせず1諭吉くすねるほどバカなのか?
ってより彼女は出会いカフェKに身分証コピー付きで会員登録されてるんである。
怒った男に店にねじ込まれて個人情報保護なんて知るか泥棒かばうのか出るとこ出るぞ的な大ごとになって身元も自宅も大学も全バレ&親バレ…そんなリスクもゼロじゃないのに。
じっさいカフェ側は「個人的交際だから自己責任だろ」って男を突っぱねるだろうけど、世慣れてるようで22歳の女子大生でしかない彼女はそこまで確信できてない。
身バレでより困るのは買った男の方じゃなくて、昔っから売った女の方が何百倍もダメージ大きいのだ。
さて?
とにかく、
無職@29歳はラチがあかないのに業を煮やして、
「おだってんじゃねえぞ」
「なら警察に届けるからなッ」
「警察」と聞いて彼女は顔色を変えて、
きっ、
「警察? だったら──」
ここから事件は『悪人』と不気味なほどシンクロし始める。
またまた時空移動>

『悪人』ワールド>
▼
三瀬峠>
▼
わっ
▼
生保レディはイケメソ大学生に「おめウゼ」的にフラれ、アウディから蹴り落とされて置き去り。イケメソ鬼畜。
そこに約束をすっぽかされてワケも分からず愛車スカイラインで追ってきたガテン系。慌てて車を降りて駆けてくる。愛しい人を救いに馳せ参じたつもりで。
「だ、大丈夫か!」
が、このうえなくタイミング悪し。
生保レディ的には、これ史上最悪に情けないシチュエーションではないか。
フッた男(てかどーでもいい!)の前で本命の男に足蹴にされて転んで膝すりむいてるあたし。
なのになんであのダサ男はヒーロー気取りで走ってくんの?ねえバカなの?死ぬの?
失恋の悲しさと恥いのと怒りの八つ当たりで、
三瀬峠の生保レディはガテン系をにらみつける。
きっ、
寒い三瀬峠で、生保レディはわめく。
「拉致られたって言ってやる!レイプされたって言ってやる!」
ラブホの一室で、彼女はわめく。
「だったら無理矢理連れ込まれて、レイプされたって言ってやるから!」
ぷちんッ、男の脳内でどっかなんか切れて。
ガテン系は生保レディの首を絞めていた。
@29歳はタオルで彼女の首を絞めていた。
叫ぶのをやめさせたくて。
追い詰められてどうしようもなくて。
冷たい路上で。
生保レディの彼女は死んだ。
女子大生の彼女は死んだ。
汗臭いベッドの上で。
ありふれすぎの死。陳腐すぎる死。

いンや、待った
これでは『悪人』と同じで、さあ誰が悪人でしょうとか、彼女も悪いつうかむしろ彼は運のない可哀想なぼくで、彼女が殺されてもしかたない糞ビッチになってないか?
本当の本当にそのときあの密室で起きたこと?
実はこうだった──かも。
■ もうひとつの本当の本当──
財布をあさったのは彼女ではなく。

逆に無職@29歳の方が、
払った諭吉が急に惜しくなって、彼女がシャワーを浴びてる間に彼女の財布をあさって取り返そうとした──のかも。
だって彼女の財布の方がずっと諭吉が多数うなってそうだから。
そこを間抜けにも彼女に見つかったか、怪しまれたか、

「ちょっとお! 今あたしの財布から、お金盗ったよね!」
「知らん知らん、そんな知らねっ」
「ふざけんな!分かってんの。返しなさいよ泥棒!返せ返せ返せ!」
「うっつぁしッ」
「はあ?なにそれ、どこの方言よ?」
「なら警察行くよ!いいの?ホント警察行くからね!」
@29歳もイライラとギリギリで普段なら出ないきつい声が出たりする。
「はンッ、金さ取って男とヤル女が言っても、警察が聞くわけねえや!」

「売春婦! 汚え女!」
彼女は一瞬ぽかん。
生まれて初めてぶつけられたそんな言葉が、
思いがけず、彼女の心を深くえぐった。
「だ──」

急に涙が出てきて。
「だ、だったら──」
彼女は@29歳にわめく。べそ顔で。

「だったら無理矢理連れ込まれて、
レイプされたって言ってやるから!」

ありふれすぎの死。

陳腐すぎる死。
──だったかも。という妄想。
■ 不始末の始末

@29歳はそれから「なんとかしないと」と思って慌て出す。
もうすぐ90分になる。おっおっまずい。フロントに電話、
「延長お願いします」
時間稼ぎ。これで4時までは安心。
彼女の持ち物をあさる。この女、学生だと言ってた。
免許証、学生証。あとえーとなんだ。
身元さえバレなければ、彼女は池袋の夜にひしめく名もない玄人素人の売春婦たちの渦に埋もれるかも。
出会いカフェKで彼女を指名して連れ出した男なんて誰も思い出さないかもしれない。
@29歳は彼女のブランド物らしい高そげなバッグやら、財布やら化粧ポーチやらを抱え込んだ。せっかくだから諭吉も返してもらうべちょっと多めに。

彼女の首を絞めたタオルも、灰皿の吸い殻も置いてけない。吸い口についた唾液のDNAなんとかでいろいろ分かってしまうかも。
このへん@29歳はハンパに警察の捜査に詳しかったりする。ミステリーとか好きだったんだろうか。
さらに彼女の死体を裸にして服も持ち去ればさらに身元はバレにくいと思ったのか、
まず靴。脱がせた。
これだってどうせ高いんだろう。@29歳にはスーパーの980円の靴と見分けすらつかないんだが。
でも死体から服を脱がすのは思ってたよりずっと難しい。それに服までぜんぶ一人で持ちきれないと気づいたか脱がすのはやめた。
そんなことやってるうちに
うっうおっおっ、まずい。早くこっから逃げねば。
まさかフロントの前を逃げるわけにもいかない。非常口から出ようとも思ったけど、たしか開けるとブザーが鳴る、とパネルに書いてあった。
ううう、そうだ! 窓だ。

まさか窓から逃げる客がいるとは思わないしそこまで予算ないから窓にセンサーはついてない。
@29歳は窓枠に足をかけて、
運よく窓の下にちょうど自販機がある。
自販機の上に足をついて、そこから路上に飛び降りた。
(現場検証の結果、靴跡が見つかって自供が裏付けられた)

女の持ち物とタオルを抱え、うっすら明るくなりかけ夜明け前の路地を、マンションの自分の部屋(というかタダで使ってるあんにゃの部屋だけどな)に向かって急いだ。
途中で彼女の靴まで抱えてきてしまったことに気づいて。
ああ、しまった。なんでこんなかさばるどうでもいいもの。
とにかく気を取り直して、
女の持ち物をその近くのゴミ収集所に捨

うううああああ、ダメだべ。
女の顔。顔そのままだ。ドラマみたいにモンタージュとか似顔絵とかつくって刑事が近くの店に聞き込みに回るかも。
そのうち刑事は出会いカフェKにも行く。決まってる。だってすぐ近所だ。
彼女は目立つギャルめの美人だった。きっと顔を覚えてるスタッフや女がいる。いるに決まってる。
そしたら昨夜、彼女を指名して2英世払って店から連れ出した若い男のこともすぐ思い出すに違いない。
そしてその男は、店からもラブホからも歩いて数分のマンションに住んでるのだ。
(彼女が35歳と誤認されて、捜査があさっての方へと迷走しそうだったのはたまたまで、もちろん@29歳はそんなこと狙ってもいなかった)
浜田知明『いらいら(B)』(1975)
そこからは、たぶんパニックでムチャクチャにただただ池袋から逃げ出しただけだろう。
自分の着替えと彼女の持ち物やらをカバンにつっこんでマンションを飛び出し、
乗れた一番早い電車に飛び乗って横浜へと向かった。
遠くへ遠くへ! どこまでも遠くへ! でも横浜終点!
『悪人』のガテン系の逃避行には、深津絵里が寄り添っていったが、
池袋の彼は独りっきりだった。
■ 彼女を老わせたモノの正体
始まってわずか20時間で終わったこの殺人事件は、
身も蓋もなくいえば、
「素人売春の女が、金でモメて客に殺された」
ありふれた事件なんである。
じき裁判も始まるだろうが、そこで語られる彼の人生も彼女の人生もやっぱりしょぼめだろう。
それでもこの事件、見過ごせず。だから無理して今やったんであるが。
(なので穴だらけだし前後関係から埋めたフィッックション箇所も多かったりする。彼が買春後にむなしさを感じてたとことか、靴を持ち去った理由、横浜へ逃げるまでの心の流れもワシの妄想部分だ。言い訳である)
>>獄門

彼女はなんの罰なのか、顔出し&実名で“売春してて殺された女子大生”として報道。
悼まれるどころかあざけられ叩かれて眉なんかもひそめられて、したり顔で「あなたの娘さんは大丈夫ですか?」的に“悪いお手本”認定され、
“キャバクラ嬢は千葉大生”や“耳かき嬢@ひざ枕だけど性風俗じゃない”はお水だ萌えだなんだといろいろ報道も大はしゃぎで騒いでたけども、
今回はあまりに直球ド真ん中すぎるせいかかえってみんな口ごもり、とっとと14万8千光年の彼方へ追いやられつつある。
ところで、
>>最後の謎。

22歳相応、平均以上の美貌だった彼女が、
死後たった数時間で、どうしてひと回り以上も“老けた死体”になってしまった?
丑三つ刻の夜の街に入り浸って繰り返してた夜更かしのせい?だからお肌のツヤも張りもうるおいも30代並みにやつれた?
>>解答の断片
タオルでの絞殺
という特殊な死因。
タオルのような柔らかい幅広の布で首を絞めたばやい、人間の手や細めのヒモで絞めるのと違って圧力が分散して絞め跡もつきにくい。
だから現場検証だけだと「外傷がない」になった。
だから鬱血でむくんでゆがんだ人相も首絞めのせいと思われず>はっきり鬱血と分からない程度のむくみ具合だったがために>もともとの顔と思われて>13歳年上に見られた──そんなところ。
これまたほかの現場の謎と同じく偶然がいくつも重なって勝手に謎化したんだろう。
犯人が早く逮捕されすぎて遅ればせながらになった司法解剖では、
気道をふさがれての急性窒息死。
ちゃんと正しい彼女の死因が割り出された。
でも、
オカルト的に、つい思う。
こんなことも↓
彼女は街のエゴと性と金の猥雑なエネルギーに呑まれた。
憑かれて操られて生命力を先払いしながら夜の街でエネルギーを貪って生き続け、

死んだ肉体から蒸発するかのようにそれが立ち去って、
彼女のむくろは生命をダダ漏れさせた分を清算され、老いた。
まあ、
月並みな妄想でしかないんだが。これも。
■
さて、
9月27日、犯人自首の翌日。
事件の発端になった例の出会いカフェKは、かまわず営業中。
でもさすがに店の“会員”が割切り相手に殺されたわけだし、さすがに客足も…
ほえー
なーんとなにごともなかったように女でわさわさの女フロアである。
ちょっと怖いけど犯人も捕まったっていうし、死んだの別に知らない子だし。
だって(゚Д゚)ウマーだもん。
しゃて、そんな出会いカフェも、これまでの性風俗ビジネスと同じく、やがてお上が新しい理屈をこしらえてつぶされるだろう。時代のあだ花として消えていくか、それとも、したたかに生存の隙間を見つけて1ジャンルとして生き残るか。
セクシャルアンダーワールドでは延々とそれが繰り返され
はら? なんてぶつぶつ言ってる間に、女フロアでまた一人、指名されたようですな。
ほーらトークルームに入っていきましたぞえ、
お、どうやら交渉もまとまったらしく。
見知らぬどこぞの彼と一緒に、

彼女も夜の街へ消え
(終)
【追記】
紺野正美は、強盗殺人ではなく、殺人と窃盗の罪で起訴された。
東京地裁で裁判員裁判が行われ、
「強固な殺意」「証拠隠滅や逃走のために現金を盗んだのは悪質」
の一方で、
「被害者の言動や態度も犯行を触発」「とっさに犯行に及んだ」
死人に口なし、密室犯行の言い分が認められた。
2011年2月18日、
紺野被告に懲役14年の実刑判決が言い渡された。
*小説「悪人」 著/吉田修一/朝日新聞社
*映画「悪人」 オフィシャルサイト
*東京DEEP案内 ─埼玉の植民地「池袋」
*池袋の繁華街 / 池袋風俗情報!
*風俗wiki 池袋風俗街(東口)
*風俗街の辞典 風俗大辞典 東京・池袋・渋谷
*法医学講義 窒息(縊死、絞死、扼死)
【事件激情】 >
*その男、K。 ─秋葉原通り魔事件 >
*ネバダたん 彼女と彼女の365日 ─佐世保小6同級生殺人事件 >
*狭山事件と「となりのトトロ」─事件編 > ─うわさ検証編 >
*永遠に謎な女 ─東電OL殺人事件 >
*借りてきた「絶望」。─殺戮ゴスロリカップルと毒殺女子高生タリウム >
なんて古代語の域に入る言葉がとても似合う少女的な少女。
10代な眼差しにまだギャルの兆しはない。
てことは、ギャル系JKがいちおう大学にスライドして、ギャル系女子大生やってたわけでなくて、
いまや珍しい響きの大学デビューだったんじゃないかと思うけれども。
卒アルから4年、ギャル系女子大生となって出会いカフェを根城に夜な夜な体を売るようにまでに、何があったんだろうか。
もはや知ることもかなわんのである。
「ヘアメイクの仕事をしたい」
彼女は友だちに将来の夢を語ってた。
どこまで本気だったのかただポーズぽく言ってただけなのか。
大学4年でこのご時世そろそろ内定も決まってないとややまずめなんでないのなんだが、

夜の諭吉収集と並行してリクスーに身を固めて「御社の自由闊達な社風キリッ」いや今どきそんなこという奴おらんないやいるか、とにかくそんなことやれてたかどうか…。
あの↓完全無欠スーパー女子大生マイキー →

とは、まるで別次元の生きもの、
逆にいうとそのへんにゴマンといる今どき女子大生。

そのへんにゴマンといる女子大生が割切りを割り切ってるかどうかはともかくとして、彼女がその平均像からそんなにかけ離れてる変な女ってわけでもない。
彼女の死にざまとその昼の顔から、
東電OL →

を思い出す人もいただろう、いただろうけども、
円山町の安アパートの空き部屋で死んだ東電OLのドス黒い背徳と堕落衝動は、
池袋の彼女にはまっっったくない。
彼女は東電OLのようにウィッグと白塗りメイクで娼婦モードに変身する必要さえなかった。
もっと自然体、屈託なく、ふだんの延長線上、罪悪感なんて超薄いっす。
さすがにキャンパスで、
「みんなあああ、聞いてええええ」

「わたしいいい、ウリやってんのよおお!(しかも大声)」
なんてことしなかったし、もちろん親にも内緒だっただろうけど、
彼女の出会いカフェ通いは、仲のいい友だちなら知っていた。
ただ彼女が底抜けのバカでお人好しでない限り、たぶん割切り仕事は教えてない。だってねえ、ほらたとえ友だちでも同性に弱点を握られたらどんなことが起きるか油断できないし(*´・ω・)(・ω・`*)ネー
「学費の足しに」と彼女は友だちに言ってたけれど、本当にそうか遊んだりオサレに使う金が足りなかったのか。
とにかく彼女はいろんなバイトを掛け持ち、出会いカフェも“割のいいバイト”のひとつだった。

平成生まれ第1世代の彼女たち。
物心ついたときからずっと不況。
「バブル」なんて江戸時代とかわらん「歴史」だしてか江戸時代っていつだっけ?明治より後ってコトは知ってるんだけどあれ?戦争より後だっけ?あれ戦争ってイラン戦争だよね?
ふつうに真面目に働いててもぜんぜんお金にならないし、てかふつうに真面目に働くチャンスすら異常に少ないし、なんだかこの先の人生ずっとそうなりそうだし、夢とか目標持つだけムダじゃね?

'85テレクラ>'90ブルセラ>'94ダイヤルQ2>'96 Enjo kosai>'99ケータイ出会い系>'04 SNS>'06セリクラ>'06出会いカフェ←今ここ。
“先輩たち”がせっせと土壌を耕してきたおかげで、彼女たちにとっちゃ性的自分を換金することも、売春へのハードルも前の世代が思ってる以上にごくごくごく低い。
彼女を出会いカフェで見かけたという常連女も、紀尾井町あたりにある某カトリック系大学の学生(自称だけど)だった。
(※ところで、被害者をその某カトリック会系大学の学生と言い切ってる掲示板やブログがやたら多いんで、なんでなのよ?と思ったけれども、単にニュース記事を読み間違えてゴッチャにしてるウッカリさんたちであった。他の割切りの子たちはどうか知らんけど、少なくとも死んだ彼女はその某大学の学生じゃない)

さて、出会いカフェの女フロア内でも、彼女は“人気No.1”状態。

事件直前の25日土曜の夜も同じ。すぐ指名されて、すぐ連れ出された。
まあ出会いカフェ側のスタッフにとっては、店から出たあと2人がどこで何しようと関係ないし興味もないっつうことで。
毎度ありあしたぁ、またのお越しをおまていあーす、である。

その頃、日付は26日 日曜に変わっていた。
彼女の人生は、あと3時間ほどしか残ってない。
■
ていう彼女の氏素性も死ぬ直前の足取りも捜査が始まったときには当然ながら分かってなかったわけで、
長期化すると思われた池袋ホテル“不詳女性”変死事件。
ところが、1日も経たないうちに、思わぬ急転直下で解決する。
■ 透明人間の告白

26日も日暮れて。渋谷署。かののりピー事件ですっかりこの高架横の建物も有名になった。
ここに2人の男がやってきて。

2人のうち若い方、というか少年なのか意外とトシなのかわからないたぶん若そうな疲れた男の方が、
もぞもぞ署員に告げた。
「池袋で死んだ女の人、一緒にいた男は僕です」
いきなり自首。
付き添ってきた年かさの同行人が署員に説明する。
えー自分はこの若い男の知り合いでして、そのー午後、彼から電話を受けましてですね──などという話を。
彼は池袋から逃げて、横浜のホテルに隠れていた。

「家に帰れない、今までお世話になりました、死にます、死んでわびます」
と言ってるのを電話で1時間半かけて自首するようなんとか説得、渋谷まで呼び出し、一緒に付き添って出頭したのだった。

慌てて警視庁捜査1課が彼を聴取すると、
男は29歳、無職。
「女の人の首を絞めた」と供述。
さらに女のバッグ、靴、財布、化粧ポーチ、学生証、それにホテル備え付けのタオルやタバコの吸い殻を持ち出して、
電車で横浜まで逃げてホテルに入って、その近くで捨てた、とも。
警察が探すと、供述どおりに彼女のバッグが見つかった。
身分証も。
やっと不詳──「名無しの30女」に顔と名前が戻った。

板橋区在住、都内の私立大学4年生、22歳。
女子大生かよ!
捜査員も驚いた。35歳じゃなかったのか。
翌27日、捜査1課と池袋署は、その無職@29歳男を、まず女の持ち物を持ち去った「窃盗容疑」で逮捕。

それからさらに取り調べ、深夜になって「殺人容疑」で再逮捕した。まだるっこしいけどいちおう法律なんで。
@29歳の自宅は、
なんと池袋1丁目のマンション。
現場のラブホからも出会いカフェからも歩いて5分以内のご近所さんである。
そんなてめえンちの庭みたいな場所で@29歳は、女を買い、殺したのだった。
>>人間透明化プロセス

@29歳は福島県から上京してきた。
といっても東京でなにかしようとかアテがあったわけでも頼れる親族がいたわけでもなし。
東京に出てきてすぐヤクザにからまれてトラブルになって、精神的にも落ちてしまった。

そんなだから定職も見つけられない。無職@29歳は無職だった。
自首に付き添ってきた年かさの男は東京での彼の数少ない人間関係でアニキというかオヤジというか、ここは福島流に「あんにゃ」と呼んでみるけども、
そのあんにゃが、@29歳のあまりのヘボさを見かねて、池袋1丁目に持ってたマンションの一室をタダで貸してやった。あんにゃまた気前のいい。
おかげでホームレスにならずに済んだ@29歳はそこで寝起きして、手持ちの金がなくなるとたまに日雇いバイトしたり。なにしようとするでもなく基本的にたらたらしていた。
これといって取り柄らしいのもなく、おとなしくて人付き合いも下手で。もはや草食男子以前。
となると、その存在は限りなく希薄になる。そこにいるんだけどいないも同然。

透明人間。
いてもいなくても誰も気づかない。
でもそんな人間こそ鬱々と獣的ななにものかをため込んでる。
■
9月25日 土曜の夜、

@29歳はムシャクシャしていた。
あいにくリビドーは透明じゃない。
となれば──
なけなしの7諭吉を財布に突っ込むと、@29歳は最寄りの出会いカフェKへと急いだ。

そこでマジックミラー越しに女フロアの彼女を見た。
■ 価格破壊

トークルームでの交渉はまあスムーズに運んだ。
彼女は@29歳とちょっと話しただけで、げんなりしただろう。
「つまんなそーな男、あーあ」
いくら割切りでもそれなりに楽しい時間を過ごしたいもの。
けど、「交通費」は言うなりに出しそうだし、気も小さそうで大人しいっぽいから変なこともされないだろうし、

まいっか。
なんて彼女が計算したかどうか。
対して無職@29歳は手持ちの軍資金7諭吉を、
使えるだけ使ってしまおう、
妙に気が大きくなっていた。そんなんホントは明日からの生活も困るんだが。
派手めの美人が笑顔で自分のつたない話に相づち打ってくれてるからかもだ。

居酒屋の飲み代、もちろん@29歳の奢り。
彼女が「先に交通費をちょうだい」と言うからそれも先に渡した。さらにホテル代も男持ちになる。
諭吉みるみる減る。
でも財布に少なくともあと1諭吉残ってるはずだ。
というと、ん? 待てよ、
@29歳は4諭吉ほど彼女に「交通費」払ってる計算じゃなかろうか。
とある新聞のルポルルルタージュで「25歳のOLが『5万なら割り切りもOK』で」なんて書いてあったが、それ言葉はアレだが“身のほど知らず”っつうやつで高すぎる。

女子高生が諭吉1枚ばやいによっては一葉1枚でウリまでやらかして雪崩のごときデフレが起きた結果、
20歳越えたら“市場価値”が容赦なくがくんと下落する。2諭吉さえ苦しくなる。まして激安出会いカフェKの客相手ならなおさら。
いくら美人さんでもフェロモニアでもただ10代なだけの小娘どもに勝てやしない。
別の記事の“カフェ嬢”の「誘われて1.5諭吉以上なら考える」というのがいちおうそれっぽい数字だろう。
もっとも、遊び慣れてないヒッキー気味の@29歳だからふっかけられるままに払ったかもだ。
その夜、そこまでは無問題だった。
■ “あの小説”

自首に付き添った“あんにゃ”はがっくりきていた。
かわいがってた弟分的な男がなんと殺人犯として逮捕されたんだから。
「人を殺せるようなやつじゃないのに。なんであんなことを」
あとで@29歳の供述を聞かされて、
あんにゃは寒々と思った。
「ああ──、あの小説みたいだな」

吉田修一の『悪人』は、
朝日新聞の連載小説で、

妻夫木聡、深津絵里の主演で映画にもなった。
描かれるのはまさにごくごくありふれた事件。天才的名探偵も奇想天外なトリックもないし、意外な真犯人も謎の遺言状も出てこない。もちろん双子も。
舞台は北九州。
福岡と佐賀の県境、三瀬峠。

今なお人里遠い難路。おきまり地元有数の心霊スポット。
ていう三瀬峠の国道で、若い女の死体が見つかる。

女は博多の生保レディ@22歳(映画では沖縄アクターズスクール出身満島ひかり)で、出会い系サイトでエンコーつまり売春的小遣い稼ぎも副業中だった。
生保レディが最後に目撃されたのは、
坊ちゃんイケメソ大学生(映画では岡田将生)のアウディQ7

の助手席に乗ってる姿。
だから当然の流れでイケメソ@アウディQ7が犯人じゃないかと疑われるんだが、
事件にはもう一人、別の男が関わっていて──
あ、ネタバレしてるからお気をつけあそばせ。

ボンクラで人付き合いが苦手でモテなくて友だちもなくて愛車スカイラインGT-R R33をかっ飛ばすのが唯一の気晴らし、ガテン系@27歳(金髪妻夫木聡)。
地方の行き止まり感ありありの鬱々してるガテン系@スカイラインは、生保レディ@22歳と出会い系サイトつながりのセフレの一人だ。
ガテン系はいちおう恋人同士のつもり。

でもビッチな生保レディ目線ではつまんないし金もねえガテン系なんてどーでもいーというか正直ウゼとか思ってて、合コンで会ったイケメソ大学生@アウディにラブラブ光線放射中で。でもオレ様なイケメソ@アウディ目線では安っぽいしいい女でもねえ生保レディなんてどーでもいーというか正直ウゼとか思ってて──。
ここで『悪人』ワールドの三瀬峠から離れて時空移動
▼
>池袋1丁目

>9月26日 午前3時
▼
>ピンクのラブホ

▼
>彼女と@29歳のいる客室へと

狭い客室いっぱいのベッド。
汗の臭い。タバコの臭い。

この数分後、
彼女と@29歳の2人だけの密室で、本当のところ何が起きたか、
もはや男側の言い分しか聞けないんである。
■ シンクロナイズド

無職@29歳はひとまず下半身にたぎるマグマ大使的ななにものかを発散したのち、
シャワーも浴びて生理学的にはひとまず落ち着いたところ。
反面なんだか余計にうつうつした気分ひしひしきてます。
ううう、たった一晩で6諭吉も使ってしまった。

終わってみれば虚しいばかり。
彼女といえば身なりを整えて、とっとと帰りたそうだった。
もうすることはしたでしょ一刻も早く解放してよねぽい本音がすけすけに透ける極薄の膜にしかなってない愛想笑い。
【心理テスト】愛想笑いを見抜けますか? > start

@29歳イラッ。
店ではきらきら輝いて見えた女が急に安っぽくて下品なビッチに見えてきた。
こんな女を抱くために失った6諭吉がますますもったいなく感じるどんどん感じる。
ううしまった考えなしに生活費に手をつけてしまった。こんなくだらないことのために。
残り1諭吉は大切にしなきゃ…財布をなにげなく見た@29歳、
ないっ ( ロ) ° °

1枚残ってるはずの諭吉ない。
@29歳はしばし呆然(-O-;)
ハッとして彼女をにらんだ。

「おい」
おれがシャワーを浴びてる隙に、こいつが盗んだ。
「盗んだ金、返せ」
彼女はきょとん、「なにそれ」
「財布の1万円!盗った!返せ」
「は?知らないよ、そんなの」
「盗った!おれ風呂入ってる隙に!」
「はあ?ワケわかんない。なんでそうなるわけ?」

彼は何度も「返せ」と言い、彼女その回数分「知らない」

この超薄っぺらい陳腐な言い争い、ホントにあったかどうか。
もしかして彼女が本当に手癖悪くて1諭吉くすねたかもしれないし、@29歳が7諭吉保有のつもりでも最初から6諭吉しか持ってなかったかもしれないし、計算間違いでぜんぶ使っちゃってたのかもしれない。

ただ引っかかる。
彼女が、諭吉1枚(とたぶん若干枚の英世)しか残ってない財布からわざわざその1枚を盗んで0諭吉にする、それ不自然だ。数えるまでもなく見りゃ一瞬でバレる。それすら気にもせず1諭吉くすねるほどバカなのか?

ってより彼女は出会いカフェKに身分証コピー付きで会員登録されてるんである。
怒った男に店にねじ込まれて個人情報保護なんて知るか泥棒かばうのか出るとこ出るぞ的な大ごとになって身元も自宅も大学も全バレ&親バレ…そんなリスクもゼロじゃないのに。
じっさいカフェ側は「個人的交際だから自己責任だろ」って男を突っぱねるだろうけど、世慣れてるようで22歳の女子大生でしかない彼女はそこまで確信できてない。
身バレでより困るのは買った男の方じゃなくて、昔っから売った女の方が何百倍もダメージ大きいのだ。
さて?
とにかく、
無職@29歳はラチがあかないのに業を煮やして、
「おだってんじゃねえぞ」

「なら警察に届けるからなッ」
「警察」と聞いて彼女は顔色を変えて、

「警察? だったら──」
ここから事件は『悪人』と不気味なほどシンクロし始める。
またまた時空移動>

『悪人』ワールド>
▼

三瀬峠>
▼

▼

生保レディはイケメソ大学生に「おめウゼ」的にフラれ、アウディから蹴り落とされて置き去り。イケメソ鬼畜。
そこに約束をすっぽかされてワケも分からず愛車スカイラインで追ってきたガテン系。慌てて車を降りて駆けてくる。愛しい人を救いに馳せ参じたつもりで。

「だ、大丈夫か!」
が、このうえなくタイミング悪し。
生保レディ的には、これ史上最悪に情けないシチュエーションではないか。
フッた男(てかどーでもいい!)の前で本命の男に足蹴にされて転んで膝すりむいてるあたし。
なのになんであのダサ男はヒーロー気取りで走ってくんの?ねえバカなの?死ぬの?
失恋の悲しさと恥いのと怒りの八つ当たりで、
三瀬峠の生保レディはガテン系をにらみつける。

寒い三瀬峠で、生保レディはわめく。
「拉致られたって言ってやる!レイプされたって言ってやる!」


ラブホの一室で、彼女はわめく。
「だったら無理矢理連れ込まれて、レイプされたって言ってやるから!」
ぷちんッ、男の脳内でどっかなんか切れて。
ガテン系は生保レディの首を絞めていた。


@29歳はタオルで彼女の首を絞めていた。
叫ぶのをやめさせたくて。
追い詰められてどうしようもなくて。
冷たい路上で。
生保レディの彼女は死んだ。

女子大生の彼女は死んだ。
汗臭いベッドの上で。
ありふれすぎの死。陳腐すぎる死。

いンや、待った
これでは『悪人』と同じで、さあ誰が悪人でしょうとか、彼女も悪いつうかむしろ彼は運のない可哀想なぼくで、彼女が殺されてもしかたない糞ビッチになってないか?
本当の本当にそのときあの密室で起きたこと?
実はこうだった──かも。
■ もうひとつの本当の本当──
財布をあさったのは彼女ではなく。

逆に無職@29歳の方が、
払った諭吉が急に惜しくなって、彼女がシャワーを浴びてる間に彼女の財布をあさって取り返そうとした──のかも。
だって彼女の財布の方がずっと諭吉が多数うなってそうだから。
そこを間抜けにも彼女に見つかったか、怪しまれたか、

「ちょっとお! 今あたしの財布から、お金盗ったよね!」
「知らん知らん、そんな知らねっ」
「ふざけんな!分かってんの。返しなさいよ泥棒!返せ返せ返せ!」

「うっつぁしッ」
「はあ?なにそれ、どこの方言よ?」

「なら警察行くよ!いいの?ホント警察行くからね!」
@29歳もイライラとギリギリで普段なら出ないきつい声が出たりする。
「はンッ、金さ取って男とヤル女が言っても、警察が聞くわけねえや!」

「売春婦! 汚え女!」
彼女は一瞬ぽかん。
生まれて初めてぶつけられたそんな言葉が、
思いがけず、彼女の心を深くえぐった。
「だ──」

急に涙が出てきて。
「だ、だったら──」
彼女は@29歳にわめく。べそ顔で。

「だったら無理矢理連れ込まれて、
レイプされたって言ってやるから!」

ありふれすぎの死。

陳腐すぎる死。
──だったかも。という妄想。
■ 不始末の始末

@29歳はそれから「なんとかしないと」と思って慌て出す。
もうすぐ90分になる。おっおっまずい。フロントに電話、

「延長お願いします」
時間稼ぎ。これで4時までは安心。
彼女の持ち物をあさる。この女、学生だと言ってた。
免許証、学生証。あとえーとなんだ。
身元さえバレなければ、彼女は池袋の夜にひしめく名もない玄人素人の売春婦たちの渦に埋もれるかも。
出会いカフェKで彼女を指名して連れ出した男なんて誰も思い出さないかもしれない。
@29歳は彼女のブランド物らしい高そげなバッグやら、財布やら化粧ポーチやらを抱え込んだ。せっかくだから諭吉も返してもらうべちょっと多めに。

彼女の首を絞めたタオルも、灰皿の吸い殻も置いてけない。吸い口についた唾液のDNAなんとかでいろいろ分かってしまうかも。
このへん@29歳はハンパに警察の捜査に詳しかったりする。ミステリーとか好きだったんだろうか。
さらに彼女の死体を裸にして服も持ち去ればさらに身元はバレにくいと思ったのか、

まず靴。脱がせた。
これだってどうせ高いんだろう。@29歳にはスーパーの980円の靴と見分けすらつかないんだが。
でも死体から服を脱がすのは思ってたよりずっと難しい。それに服までぜんぶ一人で持ちきれないと気づいたか脱がすのはやめた。
そんなことやってるうちに

うっうおっおっ、まずい。早くこっから逃げねば。
まさかフロントの前を逃げるわけにもいかない。非常口から出ようとも思ったけど、たしか開けるとブザーが鳴る、とパネルに書いてあった。
ううう、そうだ! 窓だ。

まさか窓から逃げる客がいるとは思わないしそこまで予算ないから窓にセンサーはついてない。
@29歳は窓枠に足をかけて、

運よく窓の下にちょうど自販機がある。
自販機の上に足をついて、そこから路上に飛び降りた。
(現場検証の結果、靴跡が見つかって自供が裏付けられた)

女の持ち物とタオルを抱え、うっすら明るくなりかけ夜明け前の路地を、マンションの自分の部屋(というかタダで使ってるあんにゃの部屋だけどな)に向かって急いだ。

途中で彼女の靴まで抱えてきてしまったことに気づいて。
ああ、しまった。なんでこんなかさばるどうでもいいもの。
とにかく気を取り直して、
女の持ち物をその近くのゴミ収集所に捨

うううああああ、ダメだべ。
女の顔。顔そのままだ。ドラマみたいにモンタージュとか似顔絵とかつくって刑事が近くの店に聞き込みに回るかも。
そのうち刑事は出会いカフェKにも行く。決まってる。だってすぐ近所だ。
彼女は目立つギャルめの美人だった。きっと顔を覚えてるスタッフや女がいる。いるに決まってる。
そしたら昨夜、彼女を指名して2英世払って店から連れ出した若い男のこともすぐ思い出すに違いない。
そしてその男は、店からもラブホからも歩いて数分のマンションに住んでるのだ。
(彼女が35歳と誤認されて、捜査があさっての方へと迷走しそうだったのはたまたまで、もちろん@29歳はそんなこと狙ってもいなかった)

そこからは、たぶんパニックでムチャクチャにただただ池袋から逃げ出しただけだろう。
自分の着替えと彼女の持ち物やらをカバンにつっこんでマンションを飛び出し、

乗れた一番早い電車に飛び乗って横浜へと向かった。
遠くへ遠くへ! どこまでも遠くへ! でも横浜終点!
『悪人』のガテン系の逃避行には、深津絵里が寄り添っていったが、
池袋の彼は独りっきりだった。
■ 彼女を老わせたモノの正体
始まってわずか20時間で終わったこの殺人事件は、
身も蓋もなくいえば、
「素人売春の女が、金でモメて客に殺された」
ありふれた事件なんである。
じき裁判も始まるだろうが、そこで語られる彼の人生も彼女の人生もやっぱりしょぼめだろう。
それでもこの事件、見過ごせず。だから無理して今やったんであるが。
(なので穴だらけだし前後関係から埋めたフィッックション箇所も多かったりする。彼が買春後にむなしさを感じてたとことか、靴を持ち去った理由、横浜へ逃げるまでの心の流れもワシの妄想部分だ。言い訳である)
>>獄門

彼女はなんの罰なのか、顔出し&実名で“売春してて殺された女子大生”として報道。
悼まれるどころかあざけられ叩かれて眉なんかもひそめられて、したり顔で「あなたの娘さんは大丈夫ですか?」的に“悪いお手本”認定され、
“キャバクラ嬢は千葉大生”や“耳かき嬢@ひざ枕だけど性風俗じゃない”はお水だ萌えだなんだといろいろ報道も大はしゃぎで騒いでたけども、
今回はあまりに直球ド真ん中すぎるせいかかえってみんな口ごもり、とっとと14万8千光年の彼方へ追いやられつつある。
ところで、
>>最後の謎。

22歳相応、平均以上の美貌だった彼女が、
死後たった数時間で、どうしてひと回り以上も“老けた死体”になってしまった?
丑三つ刻の夜の街に入り浸って繰り返してた夜更かしのせい?だからお肌のツヤも張りもうるおいも30代並みにやつれた?
>>解答の断片

タオルでの絞殺
という特殊な死因。
タオルのような柔らかい幅広の布で首を絞めたばやい、人間の手や細めのヒモで絞めるのと違って圧力が分散して絞め跡もつきにくい。
だから現場検証だけだと「外傷がない」になった。
だから鬱血でむくんでゆがんだ人相も首絞めのせいと思われず>はっきり鬱血と分からない程度のむくみ具合だったがために>もともとの顔と思われて>13歳年上に見られた──そんなところ。
これまたほかの現場の謎と同じく偶然がいくつも重なって勝手に謎化したんだろう。
犯人が早く逮捕されすぎて遅ればせながらになった司法解剖では、
気道をふさがれての急性窒息死。
ちゃんと正しい彼女の死因が割り出された。
でも、
オカルト的に、つい思う。

こんなことも↓
彼女は街のエゴと性と金の猥雑なエネルギーに呑まれた。
憑かれて操られて生命力を先払いしながら夜の街でエネルギーを貪って生き続け、

死んだ肉体から蒸発するかのようにそれが立ち去って、
彼女のむくろは生命をダダ漏れさせた分を清算され、老いた。
まあ、
月並みな妄想でしかないんだが。これも。
■
さて、
9月27日、犯人自首の翌日。
事件の発端になった例の出会いカフェKは、かまわず営業中。
でもさすがに店の“会員”が割切り相手に殺されたわけだし、さすがに客足も…

ほえー
なーんとなにごともなかったように女でわさわさの女フロアである。
ちょっと怖いけど犯人も捕まったっていうし、死んだの別に知らない子だし。
だって(゚Д゚)ウマーだもん。

しゃて、そんな出会いカフェも、これまでの性風俗ビジネスと同じく、やがてお上が新しい理屈をこしらえてつぶされるだろう。時代のあだ花として消えていくか、それとも、したたかに生存の隙間を見つけて1ジャンルとして生き残るか。
セクシャルアンダーワールドでは延々とそれが繰り返され
はら? なんてぶつぶつ言ってる間に、女フロアでまた一人、指名されたようですな。
ほーらトークルームに入っていきましたぞえ、

お、どうやら交渉もまとまったらしく。
見知らぬどこぞの彼と一緒に、

彼女も夜の街へ消え
(終)
【追記】
紺野正美は、強盗殺人ではなく、殺人と窃盗の罪で起訴された。
東京地裁で裁判員裁判が行われ、
「強固な殺意」「証拠隠滅や逃走のために現金を盗んだのは悪質」
の一方で、
「被害者の言動や態度も犯行を触発」「とっさに犯行に及んだ」
死人に口なし、密室犯行の言い分が認められた。
2011年2月18日、
紺野被告に懲役14年の実刑判決が言い渡された。
*小説「悪人」 著/吉田修一/朝日新聞社
*映画「悪人」 オフィシャルサイト
*東京DEEP案内 ─埼玉の植民地「池袋」
*池袋の繁華街 / 池袋風俗情報!
*風俗wiki 池袋風俗街(東口)
*風俗街の辞典 風俗大辞典 東京・池袋・渋谷
*法医学講義 窒息(縊死、絞死、扼死)
【事件激情】 >
*その男、K。 ─秋葉原通り魔事件 >
*ネバダたん 彼女と彼女の365日 ─佐世保小6同級生殺人事件 >
*狭山事件と「となりのトトロ」─事件編 > ─うわさ検証編 >
*永遠に謎な女 ─東電OL殺人事件 >
*借りてきた「絶望」。─殺戮ゴスロリカップルと毒殺女子高生タリウム >
- 関連記事
-
- 【事件激情】乙女の祈り。:後編【宝塚中3女子自宅放火事件】
- 【事件激情】乙女の祈り。:中篇【宝塚中3女子自宅放火事件】
- 【事件激情】彼女Y.Mの福音 : 後編【池袋出会いカフェ殺人事件】
- 【事件激情】彼女Y.Mの福音 : 前編【池袋出会いカフェ殺人事件】
- 【事件激情】その男、K。#12(終)【秋葉原通り魔事件】
スポンサーサイト
| 事件激情 | 02:42 | comments:4 | trackbacks:0 | TOP↑