“
ラプドンマ師が
マハーカッサパ師から聞いていた”
“
1年以上前、
ラジコンヘリは
2機とも墜落。
マハーカッサパ師が試運転に失敗、
2機とも壊れた”
マハーカッサパとは
岐部哲也、
防衛庁長官と称する
幹部です。
ラジコンヘリの脅威は消滅した、
今朝の
会議にも関わる
重大情報かと」
「なるほど。
秘書官、
報告書を受け取り、
秘匿ファイルへ入れておいてください。
高石課長、ご苦労でした。
9時から
長官室で
会議だから君も出席よろしく」
「……あの、
局長には──」
「
なにか?」
「いえ、失礼します」
午前9時──
対オウム強制捜査の
実施日を決める
マルエスシフト最終会議。
國松長官も昨夜の
白鳥百合子襲撃の
凶報は知っていて。
秘書官を
聖路加国際病院に派遣し、状況を逐一報告させていた。
國松長官も本音では
早期決行に傾いている。
だが今手持ちの情報だけではいかに
長官決裁でも全員を納得させるのは難しい。
白鳥とのホットラインが途絶えてしまった今となっては、ますます難しくなっていた。
「
ラジコンヘリ存在せず」の
新情報が会議でもたらされれば、
少なくとも
國松長官の耳に届いていれば、
流れはぐぐっと
早期強行論に傾いただろう。
だが
杉田警備局長、
新情報を知ってか知らないでか一切口にすることなく。
「慎重すぎることはありません」今までどおり、安心安定の
慎重論を繰り返し。
その横に座る
高石和夫@公安第1課長、──
ラジコンヘリについては、やはり口を開かず。
となると、とうぜんながら
國松も
垣見もほかの
マルエスメンも、
「
ラジコンヘリ存在せず」を知らないまま。
(……白鳥、すまん)不安要素が相変わらず多いなか、趨勢は
警備局@
慎重論に傾いていき、
刑事局@
強行論がついに根負けした。
「ここは
長官のご判断を」
國松には総意をひっくり返すほどの根拠がない。
「たしかに現状把握されている情報だけでは、
警視庁の主張する
19日実施には、やはり不確定要素も多く、性急かつ無謀であると判断せざるを得ない」
「しかし逆に
来月以降という日程も別の
危険をはらんでいる。
敵もまた木偶ではなく刻々と状況は変化している。許す限りの迅速さでもって突き上げねばならない」
「
3月22日の
水曜日を、
対オウム真理教強制捜査の
実施日とする」
当初の
19日より
3日遅れ。
國松長官の手持ちの札で示せる精一杯の“
最速”だった。
しかし、このたった
3日の差が、
運命の分かれ道となる。
この日、
オウム真理教でもちょっとしたニュースが。
尊師通達による
正悟師昇格者の発表。
井上嘉浩@
諜報省次官、
石川公一@
法皇官房次長、
中川智正@
法皇内庁長官、
土谷正実@
第二厚生省大臣、
野田成人@
車両省大臣、
越川真人@
商務省大臣、
渡部和実@
科学技術省次官ほか
当日付で
正悟師に昇格。
さらに
後日付で昇格と発表されたのが、
林郁夫@
治療省大臣、そして、
林泰男・廣瀬健一・豊田亨・横山真人の@
科学技術省次官カルテット。
↑
のち
地下鉄サリン事件実行犯となる
5人である。
ステージ昇格するのは、きほん実務派の
中堅信者中心で
23人。年功序列な
古参幹部と同格にして、この難しい時期に筋骨質の体制をつくろうとした模様。
井上嘉浩は大喜びで
京都の実家に電話。
「ぼく、とうとう
正悟師になったよ!」
「おお、
正悟師って言うたらすごいやないか!」
井上両親も息子に感化されて
在家信者になってたんで、息子の大出世に大喜び。
こういう
16歳の少年のままの幼さもありつつ、凶悪狡猾な
非合法ワークの
ハンドラーでもあるのが
井上@アーナンダなんである。
一方、
尊師通達にショックを受けた者も。
新信徒庁長官大内早苗@ソーナー師長オウム最初期からの
最古参信者。
双子の兄
利裕は
ロシア副支部長。兄妹そろってあんまし
出世してない。
ひたすら
修行に打ち込む派だったんだが、評価されるのは、女を武器にする女、お追従の上手なお追従屋、目立つ
ワークをやってる連中ばかり。
まあ容姿端麗…とはちょっと言いにくい
早苗的には、そういうのは邪道であたしは正道を行くのよ、となおさら
修行一筋に──
でも、
早苗はずっと
師長のまま、
法友はどんどん昇格>わたしは置き去り。
それでもめげず頑張ってたのに……、
今度はろくに
修行もできてないような若い連中が
正悟師? なに? 当てつけ?
私は置き去りー 誰も私に気づかなーいー るるらーるーるるるらー
ぐやぢー(≧皿≦)
早川紀代秀@ティローパ@
陰謀論者の人気者“
裏トップ”、
ちょうど
前日17日から急きょ
ロシアへ飛んで、
日本にいない。
ロシアの
検事総局が
オウム規制に動き出した、というやばいニュースが入ってきてアワくってとるもとりあえず的に
ロシア入りしたんである。
海の向こうでも風向きが変わり、
オウム包囲網が猛速で狭まっていた。
早川は
上祐史浩@
ロシア支部長とともに、
地下鉄サリン事件発生を
モスクワのレストランで知ることになる。
そんな破滅の足音が聞こえてるのかいないのか、
いろんな煩悩やら世俗事やらぐちゃぐちゃしてる
教団悲喜こもごもである。
東京都中央区明石町
聖路加国際病院 集中治療棟「安心しろ、
マリモのお化けは
佐々さんにお持ち帰りいただいたぞ」
「………
解析屋、おまえいつまで寝てるんだ」

「おまえの口八丁がいちばん必要なときに寝てる場合か。さっさと起きて仕事しろ」

「このままじゃ寝覚めが悪いだろうが。
おれは、まだ
謝ってない、そのう、おまえにだな。
おまえが一番きついときに、おれはおまえを
見捨てた。仕切り直したかったが、おまえも知ってのとおりおれは堅物で頑固だからな。
それでずるずるきて結局これだ。

目を醒ませ、
解析屋。おれに
謝らせろ。このおれがおまえに頭を下げる珍しい風景が見られるぞ、どうだ。
だから、帰ってこい、
白鳥。このままいくな」
同じ頃──
3月18日 深夜零時地下鉄サリン事件、その序章が幕を開けようとせんばかり。
杉並区阿佐ヶ谷オウム経営の居酒屋「
識華」で、
20人くらい参加の
飲み会ご会食が開かれた。
麻原彰晃と
尊師妻松本知子と
尊師子どもの「
尊師ご一家」と、
村井秀夫、青山吉伸、遠藤誠一の最高幹部クラス、
そして
正悟師に昇格したてのほやほやの
井上嘉浩@
諜報省次官、
石川公一@
法皇官房次長、
野田成人@
車両省大臣、といった顔ぶれ。
とにかく
激励会というか
お祝い会というか、そんなかんじ。
オウムのご会食はなんで毎度こんな深夜始まりなのさだが、断食の日とかあってその兼ね合いらしい。

だから誰だよおまえ。
「
Xデーが来るみたいだぞ」
麻原はご会食中、
強制捜査の話題にふれた。
例によって食いっぷりは人間と思えないほど汚く。
午前2時──
ご会食も終わって散会になったあと、
麻原が
信者の何人かに、
リムジンに乗れ、一緒に帰るぞ、と声をかける。
ロールスロイスリムジン シルバースパーこういう
成金趣味に
信者のなけなしの
布施はムダ使いされてるわけである。
このとき
尊師専用ロールスロイスリムジンに
麻原と相乗りしたのは、
村井秀夫@マンジュシュリーミトラ正大師@
科学技術省大臣
青山吉伸@アパーヤージャハ正悟師@
法務省大臣兼
教団顧問弁護士
遠藤誠一@ジーヴァカ正悟師@
第一厚生省大臣
井上嘉浩@アーナンダ新正悟師@
諜報省CHS次官
石川公一@サルヴァニーヴァラナヴィシュカンビン新正悟師@
法皇官房次長
あと
リムジンの
運転手信者くん@名前はまだない。
運転手以外の
5人が、
麻原が最も信を置く側近中の側近、だったんだろう。
このあと
教団の存亡にかかわる超重大な「
「謀議」が始まるからである。
全員座れないんで、
石川公一は
リムジン助手席、
残る
5人は
後部スペースに陣取った。
杉並区から
上九一色村までのドライブ@約
2時間、
地下鉄サリンテロを発動させた
「リムジン謀議」である。
リムジン謀議はどんなかんじで
サリン散布が決まったか、重要な「
そのとき、歴史は動いた」なんだが、やたら話が散漫かつダラダラ長いので、
完全版はべつにつくって、ここではざざっと流れだけを。
bougi01【リムジン謀議*わりと完全版】は
≫ こちらへ
青山「いつになったら
四つに組んで戦えるのでしょう」
外界と接点の多い
弁護士だからもう少し現実認識してるかと思った
青山が、ブルータスおまえもかマジ
国家と戦争するつもりだったのかよ的な台詞で始まり、
「
11月かなあ」(まだ
11月→戦争するつもりでいる)
「ええ、その頃には
輪宝(レーザー砲)もある程度できているでしょうし」
「
アタッシェはメッシュが悪かったのかな」
「……………(・ω・`
村井)(・ω・`
遠藤)」
「
強制捜査が迫っている。何かないか」
「
尊師は
阪神大震災が起きたから
強制捜査がなくなった、と言われました。
それに匹敵するほどの
事件を引き起こす必要があります」
「
Tではなく、
妖術だったらよかったかもしれません」
Tは
ボツリヌス菌、
妖術はいうまでもなく
サリン。
「
地下鉄の車内で
サリンを撒けばいいじゃないですか」
やはり腐っても
村井、とっさに
麻原が好きそうなネタを口にする。そして
村井にしては珍しく絵空事でなくて実現性がある話だし。案の定
麻原は食いつく。
「それは
パニックになるかもしれんな。
アーナンダ、この方法でいけるか」
「
サリンでなくて牽制の意味で
硫酸でも撒けばいいのでは?」
井上的には、まず
サリン=
オウムは
警察にバレてるので、あるかないか分からない、という疑心暗鬼をよりつのらせる牽制として、あえて違う
危険物を撒いてみたらどうか?とそれなりに考えて提案するんだが、
でも
麻原はもはや「
地下鉄」「
サリン」「
パニック\(^o^)/」にとらわれてるんで、
それ以外の提案が気に入らない。
「
サリンじゃないとダメだ。
アーナンダ、おまえはもういい。
マンジュシュリー、おまえが
総指揮でやれ」
村井うれしそう。ライバル
井上に勝った形になったんで。
井上的にはうれしい悔しい以前に(え、
村井仕切り?
大丈夫かよ?)
村井はさらに得点を稼ごうとしたのか意気込んで、
「こんど
正悟師になる
4人を使いましょうか。
ヴァジラパーニ@豊田、
イシディンナ@林泰男、
サンジャヤ@廣瀬、
ヴァジラヴァッリヤ@横山で」
「
クリシュナナンダも入れればいいじゃないか」
麻原、わざわざ
林郁夫@
治療省大臣だけなぜか名指しで加えたんである。
なんでひときわ
年長で
大臣の
林郁夫なのか。
口封じのためなのか、寝返り予備軍のエリート先生を道連れにするつもりか。それは名指しした本人が語らないんで永遠に分からない。
「
ジーヴァカ、どうだ、
サリンは作れるか」
「条件が整えば、作れるんじゃないでしょうか」
ここで
井上が横から「いや材料ぜんぶ捨てちゃったじゃないですか」と言うとか、
村井が「材料なくても
サリンできます簡単です」とか無理な大言壮語をしてけっきょくいつものようにできないとか、
それだったらそれでこのトンデモな
テロ計画はしぼんでおしまいだったんだけども。
天界か運命の女神かどっかの魔性のイタズラか、その
「条件が整」ってしまう。
お正月の大破壊から逃れて、
杉並アジト「
今川の家」に隠されてる
ジフロ@約1.5リットル。
これが
三塩化リンや
ジクロのような前工程の
化合物だったら、
けっきょく
サリン生成より
強制捜査が先になって終わっただろう。
だが唯一残ってたのは、よりによって
完全体一歩手前の
最終駆動体 ジフロだった。
「
新進党と
創価学会がやったように見せかけたらいいんじゃないかな」
また
麻原の社会認識の壊れっぷりを証明するかのような、なんというてきとーアイデア。でも
グルが言ったんで思いつきでも名案としてやることになるんである。
「
サリンを撒いたら
強制捜査が来るか、来ないか、どうなると思う」
「どちらにしても来るでしょう」と
井上石川。それじゃけっきょく
サリン撒いても意味ないだろ、
だがそれでも彼らがあきらめなかったのを、
未来人のワシらは知っている──
のち
裁判では「
地下鉄サリン事件は
強制捜査を避けるため」というシロクロ分かりやすい
もっともな動機で説明されてしまってたけども、
本当の動機(の大半)は
↓これである。

「
何もしなければこのまま終わってしまう。ハルマゲドンは実現されなければならない」
この「
ホントの動機」はずううっとのちの
2012年になってから「
NHKスペシャル/
未解決事件」で
井上嘉浩の獄中からの手紙を通して、世間に初披露された。
麻原も側近たちも、
テロやっても
強制捜査を阻止するのはどうせ無理、
という常識的な結論にいたりつつ、
ハルマゲドンが起こらなきゃ
男がすたるんだ、効果効能なんて度外視の
決行だった。
ハルマゲドンのために
サリンもつくってきた。
だから使うのは
サリンでなければならない。
当初予定の
東京全域てか
人類ぜんぶ、のはずが、ずいぶんスケールしょぼいかんじになったが、とにかくなんでもいいから実現したい。
そこらへ至る十七次元的理屈については、
別掲
わりと完全版で詳しめに載せてみたんだけども、正直
キ印の
たわごとである。
まあとどのつまりは、
ハルマゲドンが起こらなきゃ
男がすたるんだ、これ↑なんで。
このへんの
サリン散布へといたる
動機を、常識的な
損得感情や
理詰めで考えて納得しようとしても無理がある。
大量殺人の
動機なんてだいたいすぱっと説明できるほど単純じゃないしとくに
オウムだし
麻原だし。
この厨房っぽいあやふやな
動機がやはり
オウムらしい。
そのあと
石川が「世間の同情を買うために、
マスコミの前で自分を撃ってくれ」と志願、「おまえ世間的にネームバリューないから」と却下されたり、世間の目を逸らすために
教団が攻撃されたような
爆弾事件を起こそうって話とか、
サリンを撒いたら
新進党の
犯行声明ビラを撒こう、とか、
グダグダ話してる間に、
リムジンが
上九一色村に到着、
謀議もなんとのう終わる。
「
第二にしてくれ、
瞑想して考える」


この
「リムジン謀議」で、
遠藤>
サリン生成、
村井>
総指揮、
井上>
現場指揮、
が命じられた、かどうかはっきりしない。
この夜の
リムジン謀議もじっさいはもっと居酒屋談義ばりの無秩序混沌のきわみだったらしく、記憶も混乱。
松本サリン事件決行が決まったときも同じで、グダグダ話にみんな何がなんだか分からないまま、とりあえず終わってみたらやることがなんとなく的に決まってました、
ってのが
オウム流だった。
それじゃ法的に通用しないんで、
裁判ではさくっと整理されてなんか違うものになっている。
だから事実と違う、という意味では、
裁判の判決はもちろん、さらに
弟子の暴走論をぶつ方々もまた、事実とちがう主張してるわけで。
どっちにしても、
リムジンが
上九一色に到着してまもなく、
異様にテンション高い
村井が
第六サティアン3階の
廣瀬健一の部屋にやってきて、
「
やってもらいたいことがある」「
どうだうれしいだろう」
それしか言わず、興奮して何度も部屋を出たり入ったりしてたんで、
遅くともこの時間には、
地下鉄サリン散布が決まってたのは間違いない。
1995年3月18日 土曜日 午前4時──
地下鉄サリン事件まで、あと
2日。【第二十四解 月曜日 午前8時1分】へとつづく