【事件激情】サティアンズ 第十七解【地下鉄サリン事件】
警察はこの1年いったい何をしてきたのか。
松本サリンを早く解決していれば、
地下鉄サリン事件は、防げたはずだ。
──地下鉄サリン事件の遺族
國松警察庁長官の今日この頃、
他省庁の上級官僚と同席すると必ず聞かれること↓
「松本市のあの事件、本当に犯人はあの会社員なんですかね?」
それに対する國松の答え。
「犯人はあの会社員以外にあり得ませんよ。
もし間違いだったら逆立ちして歩きましょう!」
が、その裏では──
オウム真理教による犯行の経緯、警察の捜査は、原則公開された情報にもとづく。
登場する公官庁、機関、組織、部局もすべて実在する。
ただし白鳥百合子はじめこの色で示されているのは、架空の警察官であり、
実在する人物と彼女らの関わりは、創作全開ソースは妄想である。
また、被害者のうちこの色この表記*の人物は、仮名である。
1994年12月10日
人事院ビル合同庁舎 警察庁
刑事局長室
「(マルエス)シフト」秘密会議
垣見刑事局長、稲葉広域捜査指導官室長
そして、
オウム事件絶賛捜査中の6県警広域捜査官6人が顔を並べる。
長野県警@松本サリン事件
神奈川県警@坂本弁護士一家“失踪”事件
宮崎県警@資産家拉致監禁事件
山梨県警@元信者看護婦拉致監禁事件
千葉県警@教団幹部による信者婦警殴打事件
静岡県警@オウム信者間の暴行事件
「山梨県警/元信者看護婦拉致監禁事件について」
元オウム看護婦会田カホ*@29歳、
10月26日、監禁されていた上九一色「第五サティアン」から逃げ出し、
富士吉田署に保護される。
出家信者だった看護婦会田カホ*は、教団の内情を知って不信>再三下向(脱退)を申し出るが受け入れられず、
何度も脱走を試みて、7月末に一度は成功、警察に保護された。
だが、まだ教団に残る我が子@1歳を返してもらおうと単身交渉に出向いたところを、
教団幹部新實智光たちに拉致され、ふたたび逃げ出すまでの3か月間、
牢獄コンテナに監禁、薬物射たれ続けて洗脳されそうになった。
なんとか再脱出してきたんであるまさに命からがら。
山梨県警は保護した会田カホ*をマスコミにも嗅ぎつけられないよう隠して極秘聴取。
彼女の証言で、今まで見えにくかった教団のウラ事情がずいぶんと明らかに。
第6サティアン2階の大部屋に500人分の三段木製ベッドがひしめき、
信者500人@ヘッドギア装着が横たわり、
麻原の脳波を再現した電流一斉に受けてるディストピア的風景の図。
独房式修行部屋。内装が日曜大工なのが文化祭ノリだ
1畳の独房に正座@頭にヘッドギア装着そして電流の図。
薬物で朦朧な信者に尋問めいた語りかけでグル大好きを脳に刷り込みの図。
どこの思想改造収容所だよ。
会田カホ*はオウム附属医院で看護婦してたが、彼女ら治療省のおもな仕事は怪我や病気の治療じゃなくて、洗脳の片棒担ぎだった。
薬物イニシエーション、温熱(熱湯風呂)修行による死亡事件も目撃。
そういうのが積み重なってカホ*は教団に不信を抱いたのだった。
またカホ*の監禁されていた牢獄コンテナ群には、彼女以外にもスパイと疑われたり破戒したり脱会しようとした信者20~30人が閉じ込められていたらしい。
「宮崎県警/資産家拉致監禁事件/新情報」
宮崎県警の秘匿捜査本部は、別件逮捕の可能性も探るため、
大牟田父*どげんかせんといかんを自宅から拉致するとき、薬物で眠らせたとみて、それが違法薬物だと逮捕容疑に使えるよなってことで、
オウム真理教がらみの薬物購入ルートを洗った。
すると、長野県警や神奈川県警とはまた違うネタにたどり着いた。
「オウムのダミー会社が、パムを大量購入していると分かりました」
PAM パムことプラリドキシムヨウ化メチル、
有機リン酸系農薬中毒の解毒剤として医療向けに流通しているが、
教団が農業やってる様子はない。
ただし、
有機リン酸系には、悪い顔の同族がいて。
サリン、タブン、ソマンの神経ガス兄弟。
パムはサリンの解毒剤でもある。
長野県警の“ヤマシタさん”特命班が、第七サティアン付近で採取した土から、
サリンの副生成物メチルホスホン酸ジメチルが検出されたのはすでに報告済み。
三塩化リン、メチルホスホン酸、亜リン酸トリメチルなどサリン原材料をオウムとつながる3法人1個人が大量に購入。
上九一色の教団施設に数十トン納入されたことも突き止めた。
オウム─サリンはますます色濃くなった。
ただ、困ったことにこれだけで強制捜査にもっていくのがむずかしい。
オウム─サリンは結びついた、が、松本サリン事件─オウムをつなげる証拠がない。
じつは日本には「サリン製造」を禁止する法律が、無いんである。
そんなもん国内でつくるバカがいるなんて誰も思ってなかったんで。
法律が無い、ということは違法でないってことで、
違法でない、ということは、裁判所が令状出す法的根拠も無いってことで。
限りなくクロなんだが、松本サリン事件─オウムの線がまだ乏しい。
ぬーむ。
「上九一色村教団施設の強制捜査を視野に入れ、最も早く立件が可能な事件は?」
最も“筋がいい”のは宮崎県警の資産家拉致監禁事件。
証人証拠も多いし凶悪度も高い。
ただし難があって、
この事件の捜査令状で家宅捜索できる教団施設は、
大牟田父*どげんかせんといかんが監禁された第六サティアンのみ。
ほかに12棟ある上九一色施設に踏み込めない。暴きたいのは第七サティアンなのに。
それに、宮崎県警は総員でも2000人しかいないミニ県警なんで、
全国一斉捜査には人数が足りなさすぎる。
刑事捜査は他県での強制捜査でも、
きほん事件の捜査本部のある県警が出向いて執行すると決まってるからだ。
上九一色だけでも12棟、全国拠点は支部だけでも20以上。
小さな県警にはしょうじき荷が重いんである。
「もし宮崎がやるなら2県警以上の合同捜査でないと厳しいです」
次にいけそうなのは? >山梨県警の看護婦監禁事件。
が、山梨県警はさらにミニで1600人しかいない。
6県警で一番の大手が神奈川県警@1万5000人なんだが、
残念ながら今のところ坂本事件がいちばん強制捜査の必然性が薄く。
今さらながら志賀警部補しょぼん
相手は前例のない宗教団体、しかもオウム。縛りが超きつい。
強制捜査やるからには必ず事件の証拠を見つけなければならない。もし空振りに終わったら、波野村のとき以上に警察の宗教弾圧だなんだで騒がれ、せっかく盛り上がってきた対オウムの気運が後退、またオウムがアンタッチャブル事案に戻ってしまう。
だから慎重に慎重重ねすぎるくらい重ねてるんである。
警視庁大軍団が使えたらな、とは刑事局一同ないものねだりに思うところで。
警視庁@警察官4万2000人、本庁捜査1課だけで捜査員350人、機動隊もそこらの県警だとせいぜい1個大隊@300人くらいしか持ってないのに対して、警視庁は10個大隊@4000人。さすが首都警察。
これだけいたら全国オウム同時総攻めだってさくっとこなせるだろう。
が、いかんせん東京都はオウム事件が起きてない自治体のひとつで、
ということは>警視庁大軍団は対オウムで1人たりとも出動できないんである。
んーむ、しかたない。
「では12月中の強制捜査を視野に、宮崎と山梨を軸にした合同捜査の線でいく。
しかしそれ以外の県警の捜査も積極的に突き上げてもらいたい」
各県警の広域捜査官には、
補佐として捜査本部の刑事が付き添っていた。
彼らはもちろん初顔合わせだったが、お互い直感で悟って、目配せし合う。
(なあ、ひょっとして、あんたら)
(あんたもか)
(お、あんたらもかよ)
(おいおい、みんなそうなのか)
(やっぱりか。そうじゃないかと思った。お仲間だな)
(ああ、丸メガネの──)
「ちっ、サリン工場に違いないだろ、あそこは。あと何が足りないってんだくそ」
「ヘタ打ちたくないんだろう偉いさん方は」
「不思議だな、あの女がぷらっと現れて、ばらばらだった事件を結びつけて、
今おれたちがここでこうやってツラ突き合わせて煙草吸ってるなんて」
「しかし、なんでおれたちだったんだろうな」
「そりゃ決まってるだろ。おれたちが空気読めないバカだったからだよ」
「違いねえな、はは」
「丸メガネ、元気してるかね」
「あのクソ腹立つへらず口、また聞きたくなってきたな」
「ははは、どこでもあの調子だったのかよ」
「たしかにあれは最初は腹立つがクセになる」
「そうそう」
そのなかで吉池松男警部補@富士山を前に仁王立ちする男、
どうやらおれだけだな、あいつの涙目のマジ顔を見たことあんのは。
なんだなんだ、ちょい優越感おぼえちまうぜ。
つーか、ご苦労のひとつも言いに来やがれ丸メガネ。
だが彼らデカたちには分かってる。
彼女が組織のルールを破り、大きなリスクを冒して手がかりをデカたちに託したと。
だから彼女はもう彼らの前に姿を現すことはないだろう。
そしてデカたちもまた、絶対に彼女のしたことを口にしない洩らさない。
沈黙こそが、彼らなりの“仲間”への最大の敬意と共感の証し。
そんなこと言われてる丸メガネはというと──
「へっくしっ」
「風邪かなあ。まさか誰かが噂とかそんなベタベタな話はないよねえ」
キリッ
「えーでは、諸君、この解析の続きですが」
「あの、管理官、洟垂れてます」
あっさり同じビルのほんの1階上にいたりして。
永田町1丁目10こと白鳥百合子警視
わっわっ
@警察庁警備局警備企画課 秘密の「チヨダ」運営出向
兼
@同警備局公安第1課 大衆班カルトチーム付
「マルエスシフト」は刑事局仕切りで進んでるし、いまだ公安幹部は「宗教って公安がやるの?」という先入観が強いんで、公安警察はほとんど動いてないんだが、
この大衆班カルトチームだけは情報収集部隊として超多忙になった。
といってもこのチーム、もとは統一協会対策で編成された部署なんで、
オウムなんてそもそも眼中にもないしぜんぜん知らんし。
んーぶー
そこに白鳥警視が自分の6年分の知識と資料を一気に持ち込んだんである。
11月20日に完成した資料第1弾「オウム真理教執務資料 ──警察庁警備局」
分厚い中身はほとんど白鳥の持ちネタの焼き直しだった。
チームはさらに手分けして世間に出回ってるオウムの出版物をかき集める。
信者に対する教祖麻原の説法が載ってる機関誌、
やたら数が多い麻原や教団幹部の著作、チラシ、新聞──
奇怪なオウム語に苦戦しつつそれらを調べるうち、
チームスタッフたちの顔色が変わっていく。
なんなんだこいつら──。
と、洟垂らす前に、丸メガネの女はお隣の警視庁に乗り込んで、
高石理事官も言ってた「伝説」の片鱗をチラ見せしていた──
「公安部や所轄公安係から運転免許試験場や駐在所へ、あ、離島もある。
へえ、誰が見てもあからさまな左遷ですよね──」
「白鳥警視、なぜ君がそれを持っている」
(無視)「この人事の理由が曖昧ですが、この12名にはひとつ共通点がありますね」
「だからどうして部外秘の人事案を君が持ってるんだ!」
(再び無視)「彼らはいずれも以前から都内のオウム真理教拠点の秘匿監視作業に従事していました。93年秋から担当してくれてる者も数人います」
渡辺泉郎@警視庁公安部長
「初めて聞いたな、それは偶然だ。人事については各人の評価に基づき、適正な──」
「はいはい建前はけっこうですから、すぐこの人事案を取り下げてください」
「警視風情に指図される筋合いはない。答えたまえ、なぜ君がその文書を──」
(再三無視)「あくまで予感ですが、近々こんな噂が流れるんじゃないでしょうか」
「93年夏、亀戸異臭騒動を機に、杉並署、赤坂署、城東署の公安係が、
管内のオウム教団総本部や道場の視察作業を始めた。
そのあとも担当を各署で増員、
現在に至るまで貴重な都内の教団関連情報が蓄積され、対オウム捜査に貢献した。
それら視察作業は将来の危険を察知した公安部長の口頭による指示で行われた」
「いいお話でしょう? 警視風情がやってたことが丸っと部長のお手柄になるんです。
内示されてる神奈川県警本部長の椅子もぐらつくことはありませんよね。
しかし、
もし部長がご自身の不作為をうやむやにしたい一心で、
この12名の不条理な左遷人事を押し通されるとなると──、
真逆の噂が広まるような予感がしますね、しかも証拠付きで」
「公安部長はオウム問題に無為無策だったばかりか、各所に圧力をかけて」
「な、え、ちょ──」
「どういうわけか最低限の基礎調査作業すら中断させた」
「おい待て──」
「じつは公安部長の親族が関係する、不可解かつ不適切な金銭の──」
「こらおいっ、ありもしないことを言うな!
圧力? 不適切な金銭? 知らん!」
「あれ、いいんですか? そんな言い切ってしまって。分かりませんよ?
一度お足元などお確かめになった方がよろしいんじゃないですか?」
「そんなでまかせ誰が信じるか!」
「真実が本当のこととは限りません。人の信じたいことが真実になるんです」
「という噂の予感ですが。さあて、どちらの噂が流れるでしょう?」
「………白鳥、きさまは、恐ろしい女だ」
びりびりびりびりびりびりりりり
「ご栄転おめでとうございます、本部長」
渡辺泉郎@警視庁公安部長、秋の人事異動でめでたく神奈川県警本部長に。大阪府警に次ぐA級本部かつ前任者杉田が警備局長に昇格してるんで、つまり勝ち組コース
のはずが、なんだかそのあとパッとせず、警察大学校長という閑職で警察人生終了。
しかも退官(そしてNHKに天下り)後、
なんと神奈川県警本部長時代にシャブ中警官事件を本部長ぐるみ組織ぐるみで隠蔽してましたって不祥事隠しがバレて。
逮捕>起訴>有罪判決という前代未聞の超弩級不祥事の主役となるんだが。
ま、それは今回とは関係ない話。
防衛庁──
まだこの頃は省ではなくて、総理府(いま内閣府)の外局の庁で、
赤坂9丁目@いまは東京ミッドタウンになってる場所に本庁舎があった。
警察庁刑事局長から防衛庁に内緒で秘密の協力要請。
「サリンの専門知識を提供していただきたい」
もちろんこういうとき専門家として呼ばれるのは、例の化学学校である。
第七サティアンの写真を持ってきた刑事局幹部に、
化学学校幹部は、以前、誰かさんに伝えたのと同じことを繰り返す。
「このパイプの規模からみて、トン単位のサリン生成能力があると推定できます」
「と、トン?」
デジャブーだ。
(とうとう山を動かしたか、やったな、白鳥)
というかんじに警察は包囲網をじりじり狭めていくんだが、
その一方で、
オウム真理教の起こす事件はさらに頻発、さらに極悪凶暴に。
井上@アーナンダ率いる諜報省、スパイ映画の見杉みたいな連続企業侵入事件。
NECレーザ・メカトロ事業部@神奈川県に侵入、資料を盗み出す。
八戸駐屯地のオウム自衛官から「化学武器防護ハンドブック」など内部文書入手。
日本油脂社員自宅@愛知県に侵入、化学薬品研究資料を盗む。
三菱重工広島製作所に、三菱社員の手引きで侵入、レーザーのデータ資料を盗む。
三菱重工高砂製作所@兵庫県に侵入、ウラン濃縮技術データを盗む。
漢字多くてなんか黒々してるぞ。
(ლ ^ิ౪^ิ)ლ (´^ิ益^ิ` ) 「化学兵器の次はレーザーだ核融合だ」
と麻原と村井が妄想してるからで。
諜報省は井上以下やればそれなりにできる子ぞろいなんで、盗めと言われればどうにかして盗んでくるんである。肝心の村井がそれをぜんぜん活かせないんだが。
もちろんオウム程度の資金力と技術水準とインフラ規模では、レーザー兵器なんてぜんぜん無理で核なんてますます論外である。まして村井だし。
が、一番の問題は国家機密級をオウムのスパイごっこであっさり盗まれてることだ。
さらにもはや常套手段となったポアや拉致監禁がますます増え。
12月2日、
【水野事件@中野区駐車場経営者VX襲撃事件】
なぜ江戸っ子を〈ちゃきちゃき〉と言うのか
水野昇@83歳、ちゃっきちゃきの江戸っ子でい。
親しかったおばちゃん一家が出家したもののすぐ脱会して逃げ込んでくると、
「おうおう、米はそのへんの勝手に炊いて食え、風呂も沸かして入えりな」
さらにお布施でとられた全財産数千万円の返還請求するため弁護士紹介や費用の工面、当面住むマンション代まで立て替えてやるという気っ風のいいとこ見せる。
「ん? なんで他人にそこまでって? 困った人らを助けるなぁ、ったりめーだろ」
で、追っ手のオウム信者たちがぞろぞろ押しかけてくるんだが、
「宗教は嫌えなんでい! おととい来やがれっ!」
大人に叱られ慣れてない軟弱いオウム信者たちは一喝されて逃げ帰る。
「尊師いいい、いじめるうう(泣」
「公安のスパイだ、ポアだ、神通力を使え」
もう思い通りにならないものはなんでも公安のスパイである。
神通力は「VX」の隠語である。サリンに代わる暗殺用化学兵器として化学の天才バカボン土谷正実が開発した。
VX@メチルホスホノチオラートは、猛毒度が最悪最凶の化学兵器で、サリンと同じく皮膚にふれただけで毒にやられるし、蒸発しにくいし壊れにくいしで1週間くらいは猛毒状態のままその場に残り続ける、サリンよりもたちの悪い神経剤。
オウムは「神通力」を試しに滝本太郎んーんーんーUFO的浮遊音に使ってみた
んだが、
車のドアにかけとくだけじゃ、あんまり効かんみたい。
太郎は前にもサリンをまかれ、飲み物にボツリヌス菌を入れられ、今度はVX。いつも実験台の太郎。にしても不死身杉るぜ太郎んーんーんーんーUFO的浮遊音。
もう一度太郎ポアに挑戦、と乗り込むが、もうその頃は警察の方針が変わり、太郎に警護がついてたんで断念。すげー強運太郎んーんーんーんーUFO的浮遊音。
江戸っ子水野ポアに向かったのは、新實智光、井上嘉浩、遠藤誠一、中川智正、
プラス新人ヴァジラヤーナ要員山形明@元自衛官、高橋克也@諜報省、見張り役平田悟@諜報省次官は現地で合流。
じかに付着させなきゃ効かないぞ、
科学技術省開発の特製注射器で水鉄砲式に皮膚にかける方法をひねり出した。
注射器でジェル状のVXを水野の後頭部にぴっとかけ。
「おうおう、冷てえぞ。ん? おうおう、なんでえこりゃ──」
江戸っ子も化学兵器には分が悪く、全治2か月の重症。
しかし江戸っ子水野@83歳、無事生き延び、のち裁判にもしゃんとして登場、
「また来い? 勘弁してくださいよ、オウムなんてバカらしくっていけませんや」
「この昭和のご時世に人殺しなんてとんでもねえこった。殺しちまえばいいんですよ」
得意の啖呵を切るんである。でも昭和じゃなくて平成ね平成。
12月5日、
【鹿島とも子長女拉致監禁事件】
教団の広告塔@元日劇ダンサー鹿島とも子、以前グレて不和だった娘@19歳を、
“幸せにしてあげたい”としつこく入信を迫るが、
「は? 今さらなに言ってんの?」
聞く耳持たれず。そりゃそうだ。
そこで信者連中と組んで、娘@19歳を路上で拉致。
サティアンに連れていかれた娘@19歳は、
「おまえはアイドル歌手になれ」と命じられるが、
「はぁ? アイドル? そんなのなりたくないし。てか信者にならないし!」
娘@19歳全力で拒否り>監禁される。
さらに12月10日、
【女性ジャズピアニスト拉致監禁事件】
ジャズピアニスト杉マリコ*@23歳
中学時代のオウム同級生に誘われて軽い気持ちで92年に入信、横浜支部の在家信者に。でも名ばかり信者で信仰心とくになし。
で、そのオウム同級生に「お休みがてら2、3日泊まってみたら」と誘われて、
12月10日、杉マリコ*はこれまた軽い気持ちで上九一色にやって来た
ら、修行とかワークとかなーんか様子がおかしいからムッ、
「話ちがうんで帰ります」
するとどやどや囲まれて「出家したからもう帰れない」とすごまれ。
「この野郎、騙したのかよ!」
こういう家族同僚友人をだまして引きこむあくどい手口(本人は善行のつもり)は、まあどの新興宗教も多かれ少なかれやらかしてるが、オウムのばやいとにかく極端。まー無理強い上等の大迷惑な教義なんで。
ところが、この杉マリコ*、ただの被害者に終わらない。
とにかく不屈の精神の持ち主で、
その後、何度も何度も何度も脱走をはかり反抗しまくり、
例によって強い人間に弱いオウムはさんざ手こずらされる。
そして最後には彼女の行動が、教団崩壊のきっかけにもなるんである。
が、それはもう少し先の話。
12月12日、
【濱口事件@大阪市会社員VX殺人事件】
濱口忠仁@28歳、上九一色でイニシエーション体験ツアーヴァジラクマーラの会に参加してみたことが1回あるだけで、あとオウムとはなんっの関わりもない。
ところが、麻原一味が、
大阪支部の在家信者が出家信者を下向させて派閥つくろうとしてる情報を入手。
その在家信者の人間関係のなかに、たまたま偶然濱口がいた。たまたま不運にも。
「公安スパイだ、在家を裏で操っている。ポアだ」
もうなんでもそれ。
刺客はまたもや新實、井上、中川、山形明、高橋克也、平田悟@諜報省次官の6人。
ちなみに平田悟は、のち警視庁に出頭して門前払いされた平田信とは別人である。
注射器でぴっと。
VXでついに死者が。
もちろん濱口はふつうの会社員で、
公安はおろか警察ともぜんぜん関係なかった。
「100人くらい変死すれば、教団を非難する者はいなくなるだろう。
1週間に1人くらいノルマにしよう」
一連のVX殺人・殺人未遂は原因が分からないまま事件にすらならず、
オウムの犯行と分かったのは、逮捕された実行犯たちが供述してからだった。
警察庁警備局 公安第1課 大衆班カルトチーム
なんだ、なんなんだこいつら。
「これから2000年にかけて饒舌に尽くしがたいような、
激しいしかも恐怖に満ちた現象が連続的に起こる」
「日本の国土は核によって荒れた大地へと変わる」
「必ず第三次世界大戦は起きる。これは私の宗教生命をかけてもいい」
「日本を悪役にして戦争の口実を作り」
「ICBM、化学兵器、生物兵器、プラズマ兵器で日本攻撃」
「地下要塞に隠れていた米兵が現れて日本を征服」
「日本を攻めるのはアメリカを中心とした連合国」
「大都会においては10分の1くらいしか生き残らない」
「食べ物やスポーツ、セックスの楽しい情報だけをあふれさせ、日本人を無知化」
「真の宗教であるオウム」「個々の人間は幸福になる。権力には都合が悪い」
「メディアによる弾圧」
「アメリカ及び日本の国家権力がオウムをおそれ毒ガス攻撃」
「97年、ハルマゲドンが勃発することは間違いない」
正気かこいつら。なに言ってるんだ?
宗教団体といえば、霊感商法、金銭トラブル、信者脱会の妨害や拉致監禁、周辺住民や右翼団体とのトラブル、というイメージだったが、
こいつらはちがう。統一協会ともまるで異質だ。
「とりあえず弁当はふつうみたいだな」
「そんなチラシまでもらってくんなよ!」
「みんな肝に銘じておいてほしいことがあります。
オウム真理教が宗教団体である、という先入観を捨ててください。
彼らの破壊的志向は、極左暴力集団と変わらない、いえある意味それ以上です」
「これらトンデモ話は、ただの宗教的コケ脅しじゃない。常識にとらわれないでください。彼らは本気でこれを現実にしようとしてる。彼ら自身の手で!」
白鳥百合子はとくに情報解析業界の生ける伝説と化してて、なかでも連続企業爆破事件で東アジア反日武装戦線を追い詰めたスーパーエースっぷりは語りぐさで。
だがその白鳥のブランド力をもってしても、公安警察の奥底に長年かけて沈殿した固定概念「公安の敵は左右の翼」から生ずる「でも」に手こずらされることになる。
「でも、まさか」
「でも、宗教団体がそこまでするかあ?」
→
警視庁公安部長、例の渡辺泉郎>櫻井勝に交替。
櫻井は杉田警備局長ごひいきの後輩ゆえの部長就任である。
が、
「オウムは宗教団体ではないか。公安には関係ない」
前任の渡辺よりもさらに頭がかちこちのザ・官僚だった。
ぬーむ、なんだかまた似たようなのがきちゃったな。
毒にも薬にもならない人材だけはやたら豊富なのよね我が軍は。
宗教団体への先入観と予断と油断に、公安だけでなく刑事警察もとらわれ続ける、
1995年3月20日のあの朝が来るまで。
【第十八解 '95 11月→戦争】へとつづく
第6サティアン2階の大部屋に500人分の三段木製ベッドがひしめき、
信者500人@ヘッドギア装着が横たわり、
麻原の脳波を再現した電流一斉に受けてるディストピア的風景の図。
独房式修行部屋。内装が日曜大工なのが文化祭ノリだ
1畳の独房に正座@頭にヘッドギア装着そして電流の図。
薬物で朦朧な信者に尋問めいた語りかけでグル大好きを脳に刷り込みの図。
どこの思想改造収容所だよ。
会田カホ*はオウム附属医院で看護婦してたが、彼女ら治療省のおもな仕事は怪我や病気の治療じゃなくて、洗脳の片棒担ぎだった。
薬物イニシエーション、温熱(熱湯風呂)修行による死亡事件も目撃。
そういうのが積み重なってカホ*は教団に不信を抱いたのだった。
またカホ*の監禁されていた牢獄コンテナ群には、彼女以外にもスパイと疑われたり破戒したり脱会しようとした信者20~30人が閉じ込められていたらしい。
「宮崎県警/資産家拉致監禁事件/新情報」
宮崎県警の秘匿捜査本部は、別件逮捕の可能性も探るため、
大牟田父*どげんかせんといかんを自宅から拉致するとき、薬物で眠らせたとみて、それが違法薬物だと逮捕容疑に使えるよなってことで、
オウム真理教がらみの薬物購入ルートを洗った。
すると、長野県警や神奈川県警とはまた違うネタにたどり着いた。
「オウムのダミー会社が、パムを大量購入していると分かりました」
PAM パムことプラリドキシムヨウ化メチル、
有機リン酸系農薬中毒の解毒剤として医療向けに流通しているが、
教団が農業やってる様子はない。
ただし、
有機リン酸系には、悪い顔の同族がいて。
サリン、タブン、ソマンの神経ガス兄弟。
パムはサリンの解毒剤でもある。
長野県警の“ヤマシタさん”特命班が、第七サティアン付近で採取した土から、
サリンの副生成物メチルホスホン酸ジメチルが検出されたのはすでに報告済み。
三塩化リン、メチルホスホン酸、亜リン酸トリメチルなどサリン原材料をオウムとつながる3法人1個人が大量に購入。
上九一色の教団施設に数十トン納入されたことも突き止めた。
オウム─サリンはますます色濃くなった。
ただ、困ったことにこれだけで強制捜査にもっていくのがむずかしい。
オウム─サリンは結びついた、が、松本サリン事件─オウムをつなげる証拠がない。
じつは日本には「サリン製造」を禁止する法律が、無いんである。
そんなもん国内でつくるバカがいるなんて誰も思ってなかったんで。
法律が無い、ということは違法でないってことで、
違法でない、ということは、裁判所が令状出す法的根拠も無いってことで。
限りなくクロなんだが、松本サリン事件─オウムの線がまだ乏しい。
ぬーむ。
「上九一色村教団施設の強制捜査を視野に入れ、最も早く立件が可能な事件は?」
最も“筋がいい”のは宮崎県警の資産家拉致監禁事件。
証人証拠も多いし凶悪度も高い。
ただし難があって、
この事件の捜査令状で家宅捜索できる教団施設は、
大牟田父*どげんかせんといかんが監禁された第六サティアンのみ。
ほかに12棟ある上九一色施設に踏み込めない。暴きたいのは第七サティアンなのに。
それに、宮崎県警は総員でも2000人しかいないミニ県警なんで、
全国一斉捜査には人数が足りなさすぎる。
刑事捜査は他県での強制捜査でも、
きほん事件の捜査本部のある県警が出向いて執行すると決まってるからだ。
上九一色だけでも12棟、全国拠点は支部だけでも20以上。
小さな県警にはしょうじき荷が重いんである。
「もし宮崎がやるなら2県警以上の合同捜査でないと厳しいです」
次にいけそうなのは? >山梨県警の看護婦監禁事件。
が、山梨県警はさらにミニで1600人しかいない。
6県警で一番の大手が神奈川県警@1万5000人なんだが、
残念ながら今のところ坂本事件がいちばん強制捜査の必然性が薄く。
今さらながら志賀警部補しょぼん
相手は前例のない宗教団体、しかもオウム。縛りが超きつい。
強制捜査やるからには必ず事件の証拠を見つけなければならない。もし空振りに終わったら、波野村のとき以上に警察の宗教弾圧だなんだで騒がれ、せっかく盛り上がってきた対オウムの気運が後退、またオウムがアンタッチャブル事案に戻ってしまう。
だから慎重に慎重重ねすぎるくらい重ねてるんである。
警視庁大軍団が使えたらな、とは刑事局一同ないものねだりに思うところで。
警視庁@警察官4万2000人、本庁捜査1課だけで捜査員350人、機動隊もそこらの県警だとせいぜい1個大隊@300人くらいしか持ってないのに対して、警視庁は10個大隊@4000人。さすが首都警察。
これだけいたら全国オウム同時総攻めだってさくっとこなせるだろう。
が、いかんせん東京都はオウム事件が起きてない自治体のひとつで、
ということは>警視庁大軍団は対オウムで1人たりとも出動できないんである。
んーむ、しかたない。
「では12月中の強制捜査を視野に、宮崎と山梨を軸にした合同捜査の線でいく。
しかしそれ以外の県警の捜査も積極的に突き上げてもらいたい」
各県警の広域捜査官には、
補佐として捜査本部の刑事が付き添っていた。
彼らはもちろん初顔合わせだったが、お互い直感で悟って、目配せし合う。
(なあ、ひょっとして、あんたら)
(あんたもか)
(お、あんたらもかよ)
(おいおい、みんなそうなのか)
(やっぱりか。そうじゃないかと思った。お仲間だな)
(ああ、丸メガネの──)
「ちっ、サリン工場に違いないだろ、あそこは。あと何が足りないってんだくそ」
「ヘタ打ちたくないんだろう偉いさん方は」
「不思議だな、あの女がぷらっと現れて、ばらばらだった事件を結びつけて、
今おれたちがここでこうやってツラ突き合わせて煙草吸ってるなんて」
「しかし、なんでおれたちだったんだろうな」
「そりゃ決まってるだろ。おれたちが空気読めないバカだったからだよ」
「違いねえな、はは」
「丸メガネ、元気してるかね」
「あのクソ腹立つへらず口、また聞きたくなってきたな」
「ははは、どこでもあの調子だったのかよ」
「たしかにあれは最初は腹立つがクセになる」
「そうそう」
そのなかで吉池松男警部補@富士山を前に仁王立ちする男、
どうやらおれだけだな、あいつの涙目のマジ顔を見たことあんのは。
なんだなんだ、ちょい優越感おぼえちまうぜ。
つーか、ご苦労のひとつも言いに来やがれ丸メガネ。
だが彼らデカたちには分かってる。
彼女が組織のルールを破り、大きなリスクを冒して手がかりをデカたちに託したと。
だから彼女はもう彼らの前に姿を現すことはないだろう。
そしてデカたちもまた、絶対に彼女のしたことを口にしない洩らさない。
沈黙こそが、彼らなりの“仲間”への最大の敬意と共感の証し。
そんなこと言われてる丸メガネはというと──
「へっくしっ」
「風邪かなあ。まさか誰かが噂とかそんなベタベタな話はないよねえ」
キリッ
「えーでは、諸君、この解析の続きですが」
「あの、管理官、洟垂れてます」
あっさり同じビルのほんの1階上にいたりして。
永田町1丁目10こと白鳥百合子警視
わっわっ
@警察庁警備局警備企画課 秘密の「チヨダ」運営出向
兼
@同警備局公安第1課 大衆班カルトチーム付
「マルエスシフト」は刑事局仕切りで進んでるし、いまだ公安幹部は「宗教って公安がやるの?」という先入観が強いんで、公安警察はほとんど動いてないんだが、
この大衆班カルトチームだけは情報収集部隊として超多忙になった。
といってもこのチーム、もとは統一協会対策で編成された部署なんで、
オウムなんてそもそも眼中にもないしぜんぜん知らんし。
んーぶー
そこに白鳥警視が自分の6年分の知識と資料を一気に持ち込んだんである。
11月20日に完成した資料第1弾「オウム真理教執務資料 ──警察庁警備局」
分厚い中身はほとんど白鳥の持ちネタの焼き直しだった。
チームはさらに手分けして世間に出回ってるオウムの出版物をかき集める。
信者に対する教祖麻原の説法が載ってる機関誌、
やたら数が多い麻原や教団幹部の著作、チラシ、新聞──
奇怪なオウム語に苦戦しつつそれらを調べるうち、
チームスタッフたちの顔色が変わっていく。
なんなんだこいつら──。
と、洟垂らす前に、丸メガネの女はお隣の警視庁に乗り込んで、
高石理事官も言ってた「伝説」の片鱗をチラ見せしていた──
「公安部や所轄公安係から運転免許試験場や駐在所へ、あ、離島もある。
へえ、誰が見てもあからさまな左遷ですよね──」
「白鳥警視、なぜ君がそれを持っている」
(無視)「この人事の理由が曖昧ですが、この12名にはひとつ共通点がありますね」
「だからどうして部外秘の人事案を君が持ってるんだ!」
(再び無視)「彼らはいずれも以前から都内のオウム真理教拠点の秘匿監視作業に従事していました。93年秋から担当してくれてる者も数人います」
渡辺泉郎@警視庁公安部長
「初めて聞いたな、それは偶然だ。人事については各人の評価に基づき、適正な──」
「はいはい建前はけっこうですから、すぐこの人事案を取り下げてください」
「警視風情に指図される筋合いはない。答えたまえ、なぜ君がその文書を──」
(再三無視)「あくまで予感ですが、近々こんな噂が流れるんじゃないでしょうか」
「93年夏、亀戸異臭騒動を機に、杉並署、赤坂署、城東署の公安係が、
管内のオウム教団総本部や道場の視察作業を始めた。
そのあとも担当を各署で増員、
現在に至るまで貴重な都内の教団関連情報が蓄積され、対オウム捜査に貢献した。
それら視察作業は将来の危険を察知した公安部長の口頭による指示で行われた」
「いいお話でしょう? 警視風情がやってたことが丸っと部長のお手柄になるんです。
内示されてる神奈川県警本部長の椅子もぐらつくことはありませんよね。
しかし、
もし部長がご自身の不作為をうやむやにしたい一心で、
この12名の不条理な左遷人事を押し通されるとなると──、
真逆の噂が広まるような予感がしますね、しかも証拠付きで」
「公安部長はオウム問題に無為無策だったばかりか、各所に圧力をかけて」
「な、え、ちょ──」
「どういうわけか最低限の基礎調査作業すら中断させた」
「おい待て──」
「じつは公安部長の親族が関係する、不可解かつ不適切な金銭の──」
「こらおいっ、ありもしないことを言うな!
圧力? 不適切な金銭? 知らん!」
「あれ、いいんですか? そんな言い切ってしまって。分かりませんよ?
一度お足元などお確かめになった方がよろしいんじゃないですか?」
「そんなでまかせ誰が信じるか!」
「真実が本当のこととは限りません。人の信じたいことが真実になるんです」
「という噂の予感ですが。さあて、どちらの噂が流れるでしょう?」
「………白鳥、きさまは、恐ろしい女だ」
びりびりびりびりびりびりりりり
「ご栄転おめでとうございます、本部長」
渡辺泉郎@警視庁公安部長、秋の人事異動でめでたく神奈川県警本部長に。大阪府警に次ぐA級本部かつ前任者杉田が警備局長に昇格してるんで、つまり勝ち組コース
のはずが、なんだかそのあとパッとせず、警察大学校長という閑職で警察人生終了。
しかも退官(そしてNHKに天下り)後、
なんと神奈川県警本部長時代にシャブ中警官事件を本部長ぐるみ組織ぐるみで隠蔽してましたって不祥事隠しがバレて。
逮捕>起訴>有罪判決という前代未聞の超弩級不祥事の主役となるんだが。
ま、それは今回とは関係ない話。
防衛庁──
まだこの頃は省ではなくて、総理府(いま内閣府)の外局の庁で、
赤坂9丁目@いまは東京ミッドタウンになってる場所に本庁舎があった。
警察庁刑事局長から防衛庁に内緒で秘密の協力要請。
「サリンの専門知識を提供していただきたい」
もちろんこういうとき専門家として呼ばれるのは、例の化学学校である。
第七サティアンの写真を持ってきた刑事局幹部に、
化学学校幹部は、以前、誰かさんに伝えたのと同じことを繰り返す。
「このパイプの規模からみて、トン単位のサリン生成能力があると推定できます」
「と、トン?」
デジャブーだ。
(とうとう山を動かしたか、やったな、白鳥)
というかんじに警察は包囲網をじりじり狭めていくんだが、
その一方で、
オウム真理教の起こす事件はさらに頻発、さらに極悪凶暴に。
井上@アーナンダ率いる諜報省、スパイ映画の見杉みたいな連続企業侵入事件。
NECレーザ・メカトロ事業部@神奈川県に侵入、資料を盗み出す。
八戸駐屯地のオウム自衛官から「化学武器防護ハンドブック」など内部文書入手。
日本油脂社員自宅@愛知県に侵入、化学薬品研究資料を盗む。
三菱重工広島製作所に、三菱社員の手引きで侵入、レーザーのデータ資料を盗む。
三菱重工高砂製作所@兵庫県に侵入、ウラン濃縮技術データを盗む。
漢字多くてなんか黒々してるぞ。
(ლ ^ิ౪^ิ)ლ (´^ิ益^ิ` ) 「化学兵器の次はレーザーだ核融合だ」
と麻原と村井が妄想してるからで。
諜報省は井上以下やればそれなりにできる子ぞろいなんで、盗めと言われればどうにかして盗んでくるんである。肝心の村井がそれをぜんぜん活かせないんだが。
もちろんオウム程度の資金力と技術水準とインフラ規模では、レーザー兵器なんてぜんぜん無理で核なんてますます論外である。まして村井だし。
が、一番の問題は国家機密級をオウムのスパイごっこであっさり盗まれてることだ。
さらにもはや常套手段となったポアや拉致監禁がますます増え。
12月2日、
【水野事件@中野区駐車場経営者VX襲撃事件】
なぜ江戸っ子を〈ちゃきちゃき〉と言うのか
水野昇@83歳、ちゃっきちゃきの江戸っ子でい。
親しかったおばちゃん一家が出家したもののすぐ脱会して逃げ込んでくると、
「おうおう、米はそのへんの勝手に炊いて食え、風呂も沸かして入えりな」
さらにお布施でとられた全財産数千万円の返還請求するため弁護士紹介や費用の工面、当面住むマンション代まで立て替えてやるという気っ風のいいとこ見せる。
「ん? なんで他人にそこまでって? 困った人らを助けるなぁ、ったりめーだろ」
で、追っ手のオウム信者たちがぞろぞろ押しかけてくるんだが、
「宗教は嫌えなんでい! おととい来やがれっ!」
大人に叱られ慣れてない軟弱いオウム信者たちは一喝されて逃げ帰る。
「尊師いいい、いじめるうう(泣」
「公安のスパイだ、ポアだ、神通力を使え」
もう思い通りにならないものはなんでも公安のスパイである。
神通力は「VX」の隠語である。サリンに代わる暗殺用化学兵器として化学の天才バカボン土谷正実が開発した。
VX@メチルホスホノチオラートは、猛毒度が最悪最凶の化学兵器で、サリンと同じく皮膚にふれただけで毒にやられるし、蒸発しにくいし壊れにくいしで1週間くらいは猛毒状態のままその場に残り続ける、サリンよりもたちの悪い神経剤。
オウムは「神通力」を試しに滝本太郎んーんーんーUFO的浮遊音に使ってみた
んだが、
車のドアにかけとくだけじゃ、あんまり効かんみたい。
太郎は前にもサリンをまかれ、飲み物にボツリヌス菌を入れられ、今度はVX。いつも実験台の太郎。にしても不死身杉るぜ太郎んーんーんーんーUFO的浮遊音。
もう一度太郎ポアに挑戦、と乗り込むが、もうその頃は警察の方針が変わり、太郎に警護がついてたんで断念。すげー強運太郎んーんーんーんーUFO的浮遊音。
江戸っ子水野ポアに向かったのは、新實智光、井上嘉浩、遠藤誠一、中川智正、
プラス新人ヴァジラヤーナ要員山形明@元自衛官、高橋克也@諜報省、見張り役平田悟@諜報省次官は現地で合流。
じかに付着させなきゃ効かないぞ、
科学技術省開発の特製注射器で水鉄砲式に皮膚にかける方法をひねり出した。
注射器でジェル状のVXを水野の後頭部にぴっとかけ。
「おうおう、冷てえぞ。ん? おうおう、なんでえこりゃ──」
江戸っ子も化学兵器には分が悪く、全治2か月の重症。
しかし江戸っ子水野@83歳、無事生き延び、のち裁判にもしゃんとして登場、
「また来い? 勘弁してくださいよ、オウムなんてバカらしくっていけませんや」
「この昭和のご時世に人殺しなんてとんでもねえこった。殺しちまえばいいんですよ」
得意の啖呵を切るんである。でも昭和じゃなくて平成ね平成。
12月5日、
【鹿島とも子長女拉致監禁事件】
教団の広告塔@元日劇ダンサー鹿島とも子、以前グレて不和だった娘@19歳を、
“幸せにしてあげたい”としつこく入信を迫るが、
「は? 今さらなに言ってんの?」
聞く耳持たれず。そりゃそうだ。
そこで信者連中と組んで、娘@19歳を路上で拉致。
サティアンに連れていかれた娘@19歳は、
「おまえはアイドル歌手になれ」と命じられるが、
「はぁ? アイドル? そんなのなりたくないし。てか信者にならないし!」
娘@19歳全力で拒否り>監禁される。
さらに12月10日、
【女性ジャズピアニスト拉致監禁事件】
ジャズピアニスト杉マリコ*@23歳
中学時代のオウム同級生に誘われて軽い気持ちで92年に入信、横浜支部の在家信者に。でも名ばかり信者で信仰心とくになし。
で、そのオウム同級生に「お休みがてら2、3日泊まってみたら」と誘われて、
12月10日、杉マリコ*はこれまた軽い気持ちで上九一色にやって来た
ら、修行とかワークとかなーんか様子がおかしいからムッ、
「話ちがうんで帰ります」
するとどやどや囲まれて「出家したからもう帰れない」とすごまれ。
「この野郎、騙したのかよ!」
こういう家族同僚友人をだまして引きこむあくどい手口(本人は善行のつもり)は、まあどの新興宗教も多かれ少なかれやらかしてるが、オウムのばやいとにかく極端。まー無理強い上等の大迷惑な教義なんで。
ところが、この杉マリコ*、ただの被害者に終わらない。
とにかく不屈の精神の持ち主で、
その後、何度も何度も何度も脱走をはかり反抗しまくり、
例によって強い人間に弱いオウムはさんざ手こずらされる。
そして最後には彼女の行動が、教団崩壊のきっかけにもなるんである。
が、それはもう少し先の話。
12月12日、
【濱口事件@大阪市会社員VX殺人事件】
濱口忠仁@28歳、上九一色でイニシエーション体験ツアーヴァジラクマーラの会に参加してみたことが1回あるだけで、あとオウムとはなんっの関わりもない。
ところが、麻原一味が、
大阪支部の在家信者が出家信者を下向させて派閥つくろうとしてる情報を入手。
その在家信者の人間関係のなかに、たまたま偶然濱口がいた。たまたま不運にも。
「公安スパイだ、在家を裏で操っている。ポアだ」
もうなんでもそれ。
刺客はまたもや新實、井上、中川、山形明、高橋克也、平田悟@諜報省次官の6人。
ちなみに平田悟は、のち警視庁に出頭して門前払いされた平田信とは別人である。
注射器でぴっと。
VXでついに死者が。
もちろん濱口はふつうの会社員で、
公安はおろか警察ともぜんぜん関係なかった。
「100人くらい変死すれば、教団を非難する者はいなくなるだろう。
1週間に1人くらいノルマにしよう」
一連のVX殺人・殺人未遂は原因が分からないまま事件にすらならず、
オウムの犯行と分かったのは、逮捕された実行犯たちが供述してからだった。
警察庁警備局 公安第1課 大衆班カルトチーム
なんだ、なんなんだこいつら。
「これから2000年にかけて饒舌に尽くしがたいような、
激しいしかも恐怖に満ちた現象が連続的に起こる」
「日本の国土は核によって荒れた大地へと変わる」
「必ず第三次世界大戦は起きる。これは私の宗教生命をかけてもいい」
「日本を悪役にして戦争の口実を作り」
「ICBM、化学兵器、生物兵器、プラズマ兵器で日本攻撃」
「地下要塞に隠れていた米兵が現れて日本を征服」
「日本を攻めるのはアメリカを中心とした連合国」
「大都会においては10分の1くらいしか生き残らない」
「食べ物やスポーツ、セックスの楽しい情報だけをあふれさせ、日本人を無知化」
「真の宗教であるオウム」「個々の人間は幸福になる。権力には都合が悪い」
「メディアによる弾圧」
「アメリカ及び日本の国家権力がオウムをおそれ毒ガス攻撃」
「97年、ハルマゲドンが勃発することは間違いない」
正気かこいつら。なに言ってるんだ?
宗教団体といえば、霊感商法、金銭トラブル、信者脱会の妨害や拉致監禁、周辺住民や右翼団体とのトラブル、というイメージだったが、
こいつらはちがう。統一協会ともまるで異質だ。
「とりあえず弁当はふつうみたいだな」
「そんなチラシまでもらってくんなよ!」
「みんな肝に銘じておいてほしいことがあります。
オウム真理教が宗教団体である、という先入観を捨ててください。
彼らの破壊的志向は、極左暴力集団と変わらない、いえある意味それ以上です」
「これらトンデモ話は、ただの宗教的コケ脅しじゃない。常識にとらわれないでください。彼らは本気でこれを現実にしようとしてる。彼ら自身の手で!」
白鳥百合子はとくに情報解析業界の生ける伝説と化してて、なかでも連続企業爆破事件で東アジア反日武装戦線を追い詰めたスーパーエースっぷりは語りぐさで。
だがその白鳥のブランド力をもってしても、公安警察の奥底に長年かけて沈殿した固定概念「公安の敵は左右の翼」から生ずる「でも」に手こずらされることになる。
「でも、まさか」
「でも、宗教団体がそこまでするかあ?」
→
警視庁公安部長、例の渡辺泉郎>櫻井勝に交替。
櫻井は杉田警備局長ごひいきの後輩ゆえの部長就任である。
が、
「オウムは宗教団体ではないか。公安には関係ない」
前任の渡辺よりもさらに頭がかちこちのザ・官僚だった。
ぬーむ、なんだかまた似たようなのがきちゃったな。
毒にも薬にもならない人材だけはやたら豊富なのよね我が軍は。
宗教団体への先入観と予断と油断に、公安だけでなく刑事警察もとらわれ続ける、
1995年3月20日のあの朝が来るまで。
【第十八解 '95 11月→戦争】へとつづく
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