【事件激情】ウルトラ 最終便─結【優生思想】
【事件激情】ウルトラ 最終便─結【優生思想】
「劣等人種には保護を与えてはならない。 せいぜい彼らが我々の役に立つ間、
保護を与えられていいだけだ。 さもないと、ここで没落が始まるからだ」
───────────────────────オイゲン・フィッシャー
──(カイザー・ヴィルヘルム人類学・優生学・人類遺伝学研究所初代所長)
「ニイタカは、白鳥の ‘母親’ なのか?」
「うーん、厳密には違うようなそうでないような…」
「これはわたしと警視のことにも関係することですから、
やっぱり包み隠さず知らせないといけないと思いまして」
「正座しないといけないようなことなのか?」
「はい、わたしの知るかぎりの話を聞いたうえで、わたしとの関係をどうなさるか警視の判断にお任せします。どんな判断でもわたしは受け入れます」
「わたしはニイタカさんの──」
6年余にもわたって続いた【ウルトラ】も今回いよいよフィナーレを迎える。
時空を超えて広げすぎた大風呂敷がついに畳まれる(はず)。
そこらじゅうにばらまいた伏線は漏れなく回収できるのか?
登場する事件テロ紛争戦争、その捜査活動は公表された情報に基づく。
黒字の人物・赤字の人物・紫字の人物および各国の機関団体部局は実在する。
白鳥百合子、ニイタカは架空の人物であり、
実在する人物との関わりも、根拠は創造にしてソースは妄想だが、ある意図がある。
─── ─結
─
ジーク、ハイル!
ジーク、ハイル!
ジーク、ハイル!
ジーク、ハイル!
ジーク、ハイル!
アイン、ツバイ! アイン、ツバイ! アイン、ツバイ!
いざ往かんー! 旗を押し立てよー! 雄々しく進めー、進めー!
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ
1939, Großdeutsches Reich
Nazi Germany
1939年 大ドイツ国/ナチスドイツ
ニイタカ・ヤヨイ-カトリーヌは、このときヒトラー政権下の首都ベルリンにいた。
大戦勃発前夜、嵐の前の静けさ的なモラトリアム期間。
「まやかし戦争」と人は呼ぶ。
つい数週間前、ドイツとソ連が組んでポーランドを東西から侵略、山分けしたばかり。
ポ国と援助条約を結んでた英仏はドイツに宣戦布告したものの、英仏独ともにいそいそと軍備増強に徹したんで欧州のどこでも戦いらしい戦いがないっつう変な空気感。
ちなみにこの1939年は昭和14年、極東アジア方面では2年前から日中戦争@大日本帝國対中国国民党が始まっていた。そして内向きの大鷲アメリカ合衆国はまだ欧州・アジアどっちの戦争にも(表立っては)参戦しておらず、
ここからまさか全世界を巻き込む極大戦争化するとは
ほぼ誰も思ってなかったもやっとした時代。
ちなみに今回のニイタカは「ドイツ系日本人」の設定で大日本帝國の通信社特派員事務所の通訳兼秘書として滞在していた。
目前に迫った大嵐を予測したニイタカは、ナチスドイツ支配圏に張り巡らす諜報ネットワークの強化を企図していた。
そしてヒトラー政権の中枢に浸透するため、ある学者に接近する。
Otmar Freiherr von Verschuer
オトマール・フライヘル・フォン・フェアシュアー名前言いにくいわ
人種衛生研究所所長、カイザー・ヴィルヘルム人類学・優生学・人類遺伝学研究所名前長げー部長のち所長。ナチスの激推しする「支配民族アーリア人マンセー教」こと優生学のトップオブザトップエリートである。
で、優生学とはなんやねんというと、
フェアシュアー博士は優生学の発展系、ヒトラーがこめかみに青筋立てて演説しとるマジキチ理論の超絶完璧スーパーサイヤ人的な種族アーリア人を遺伝操作で“安定量産”する計画に取り組んでいた。
至高の支配民族アーリア人こと純正ドイツ人の純度を限りなく100%にすべく、金髪碧眼高身長年収1千万円以上でないと結婚なんてありえないしー途中違うもんが混じってるがそういう選民上等の未来構築である。
こんなの疑似科学まがいで、政治的思惑ありきの強弁だけが先走り、実際には鼻やおでこの高さとか測って比べたりなにやってんのおまえそれ科学?ってかんじである。
ちなみにアーリア人のくくりってインド人とかイラン人とかも入るんだが、
総統閣下的にそのへんいいんかね。
念為付け加えとくと、優生学的な考えはナチスドイツの専売特許じゃなく、20世紀初頭ではかなり流行っててナウでヤングなイケてるトレンディーだった。
欧米にも優生学会はあったし、「人間改良財団」なんて物騒な名前の連中まで堂々と活動していたし、フェアシュアー博士の研究資金援助してたタニマチがアメリカのロックフェラー財団であったりする出たよ陰謀論の常連役者。
西洋つまり白人社会で「社会の役に立たないゴミは死ねというかそもそも生まれんな」という優生思想がはびこり、アメリカでは30州に断種法があるほどだった。
日本にもその価値観は脈々と受け継がれる。癩らい病@ハンセン病を遺伝病と間違えたところから強制隔離と強制不妊を義務づけた「癩らい予防法」が悪名高い。
ニイタカがフェアシュアー博士に狙いをつけたのは理由がある。
フェアシュアー博士は、初対面のニイタカを見て大興奮したらしい。
それ以来博士はニイタカと熱心に交流をはかって、まもなく秘密の取引を囁いてきた。
ニイタカがあえて内緒話を仕掛けやすい態度をとっていたのが効いた。
博士の内緒話によれば、ニイタカは多人種の優性遺伝子を集積させた超複合体であり、絶妙に調和の優れたハイブリッド人種になりうるという。
博士は完全人間創造にニイタカの遺伝情報を利用できるのではないかと会っただけで、
知的に大興奮そして絶頂に達しましたいやあくまで知的にひらめいた。
ほんとは単に女として一目惚れしちゃったのを自分内で認めたくなくて後付けで科学的言い訳を必死に連呼しただけなのかどうかは分からない。
とはいえ、秘密の囁きだけあって決して口外できない計画プロイェクトだ──
「全人類の絶頂のアーリア人たるドイツ人!」
「とにかくドイツ民族は最高超偉いンシュタインっ」
「それ以外の劣等人種との混血なんて絶許なつかしッコシュタインッ」
「ウンコシュタインッ!シュッゴクシュタインッ!」
って言ってる総統閣下本人が非金髪非碧眼ちんちくりんだったのは禁句だ。
「総統閣下は子供のころは金髪で色素が沈着して黒髪にこしゅとう゛ぁ」って逸話や閣下が青い目してる顔画像がいまも出回ってるが、演説のアーリア人から閣下本人が物凄くかけ離れてるのをちょっとでも近づけようと情報操作でゴリ推した名残である。
レニ、
リーフェン
シュタァァァァァーーー
ルーーーーーー!
金髪碧眼高身長のドイツ人同士の結婚子作り義務化、親衛隊員の嫁候補の養成と出産まで管理支援する嫁バンク的な「生命の泉レーベンスボルン」整備、
一方で「社会に不適合」と判定された精神病者、精神薄弱者、身体障害者、遺伝病者、アル中もろもろは強制隔離、強制不妊、強制安楽死──
──っつう優生学の総本山が、カイザー・ヴィ以下略研究所なんで。
国別平均的顔
フェアシュアー博士がこっそりニイタカの協力でやろうと夢想してる研究は、そんな優生学的にはまさに異端中の異端これぞ異端、ナチスの国策と真逆。混血を重ねて完全人類をつくろうなんてバレたらマジやばいわな。
というわけでごくごく内輪限定公開つまり秘密で内緒の極秘研究だった。
ちなみに優生学を誇らしげに推してたのはナチスだけでなく。西洋列強のスタンダードも大差なかった。ほれ「白人以外=人間の形をしてる猿的な生きもの」っつう思考ね。
たった80年前だけどそういう胸糞な時代。
ニイタカはフェアシュアー博士の再三の懇願を受け入れ、自分の卵巣の一部なのか卵母細胞か卵祖細胞か単に卵子か定かでないが、試料提供に同意した。交換条件付きで。
その交換条件は、博士がドイツ支配圏内の諜報ネットワーク構築に全面協力すること。もちろんお上には内緒で。
博士はこのムリめな条件すら呑んで取引に応じた。
これでニイタカはフェアシュアー博士の外に洩れたら一発レッドの弱味を握っておくことで、博士の裏切りを牽制することができた。
いわばニイタカとフェアシュアー博士の「相互確証破壊」の秘密契約成立である。
ニイタカ的には卵母細胞の「お裾分け」はあくまで取引材料に過ぎず、そんな空想科学小説みたいなトンデモ研究が成功するなんて期待もしてなかっただろう。
ちなみにこの半年後の未来@1940年5月──
Hearts of Iron Ⅳ
ドイツ軍141個師団335万名、フランス攻めキックオフ。
独仏国境320kmをがっちがちに要塞並べて固めたフランス版万里の長城・マジノ線を嘲笑うように、北へ回ってベルギーをぶち抜く。フランスはWW1のときにも同じことやられて大ピンチだったのに、教訓とか反省とかフランスの辞書にないのか?
ちなみにベルギーの漢字表記は白耳義だ読めんわこんなん。
ドドドドドドドドドドドドド
ドイツ軍はフランス-ベルギー国境のアルデンヌの森を突破。
あっさりフランス本土になだれ込む。しかも戦争史上あり得ない猛速度で。
ど、どないしよ
な、なんやあれ? 戦車ばっか並んでぎょうさん来よるで?
戦車2500輛による機甲部隊と急降下爆撃機スツーカの合わせ技というまったく新しい新戦法電撃戦ブリックリークが無双しまくり、>英仏軍はほぼ棒立ちのままひたすら殴られチンチンにされて脆くも瓦解、>
逃げー撤退ー早よ逃げー
あ、あかん、フルボッコや。あいつらなんであんな攻めてくるの早いん?
>イギリス遠征軍20万名とフランス軍14万名が軍用車両やら大砲やら膨大な重火器も置き去りにして命からがらドーバー海峡を渡りイギリス本土へ涙目逃亡撤退、>
アイン、ツバイ! アイン、ツバイ! アイン、ツバイ!
>わずか1か月でパリ陥落、>ヨーロッパほぼぜんぶがドイツになる、
そのあとバトル・オブ・ブリテンとかバルバロッサ作戦とか砂漠の狐とかスターリングラードとかD-DAYプライベートライアンとかミリオタにはド定番らしい話がいろい
ろ続くんだが、いちおう事件激情なんで以下略。
フェアシュアーはナチス党に入党、カイザー中略研究所長昇進と昇り龍。
ますます権威爆上げになった博士の急所を握るニイタカは
上手い具合に博士を利用して諜報組織を活性化。
で、ようやくここから本題なんだが。フェアシュアー博士には、
のち師匠よりはるかに有名人になる弟子↓がいた。
Josef Mengele
ヨーゼフ・メンゲレ
ナチス親衛隊*軍医大尉。人呼んで“死の天使”
ナチス親衛隊。隊員だったってだけで戦犯として永遠に追跡される人類の敵ランキング上位独占。そのなかでも、メンゲレの悪逆三昧は頭一つ抜けている、
というか人類の敵度の物差しの次元がちがう。
メンゲレ当人の優生学へのスタンスはちょっと変わってて、ユダヤ人を「劣等人種」と見なして侮る真似はせず、「ユダヤ人は各分野で成功者やエリートが多く優秀有能な民族」と意外とまともな認識をしていた。
でも「だから脅威なんでみんなぶっ殺がす」っつう結論は他のクズと同じだが。
つい最近までなぜかメレンゲって名前だと思い込んでいたのはここだけの内緒な。
*親衛隊@SS/Schutzstaffel ナチスを象徴する圧倒的ヒール。ドイツ国内および占領地域の警察、治安、思想統制、収容所運営を一手に握り、ユダヤ絶滅計画全般@ホロコーストも担当。国軍のクーデターを恐れるヒトラーが編成させたナチス党の武力組織であり、正規軍並みに戦う「武装親衛隊」もいた。全国指導者(つまり長官)はヒトラーの最側近ハインリヒ・ヒムラー。
あと制服がやたらカッコいい。↓こんなことも起きたりする。
対ソ連戦線に武装親衛隊軍医として従軍したメンゲレは負傷して後方勤務になる。
そこで配属された運命の任地が、↓
Das Konzentrationslager Auschwitz-Birkenau
Auschwitz Birkenau German Nazi Concentration and Extermination Camp
アウシュヴィッツ強制収容所
強制収容所にはユダヤ人、やはり撲滅対象にされたロマ族@昔でいうならジプシーいずーこ往くーか流浪の民、ソ連兵捕虜、身体障害者、精神障害者、精神病者、同性愛者、一緒くたに反ナチス派もぶちこまれていた。
ここでのメンゲレ親衛隊大尉の立場は「主任医官」
せいぜいヒラのちょい上ってくらいである。有名なわりに下っ端な。
医官の仕事は虜囚の健康を守るお医者さん、じゃなくて、やることは真逆。
誰をガス室に送るか虐殺の順番を決めるのがお役目である。
戦場に身を置く武装親衛隊よりも手柄を立てにくい地味ーな職場で出世するためメンゲレが立案したのが人体実験計画プロイェクトだ。人体なら手近でいくらでも手に入るし!
彼のプレゼンした人体実験プロイェクトは上のお気に召したらしく、「気圧を上げたら人間はどうなるか試したったw」「毒物や病原菌を注射してみたw」「どのくらい血を抜くと死ぬかやってみた結果ww」「人を凍らせて温めると生き返るか試したったww」「生きたまま解剖するとどのくらい痛がるか実際やってみた→結果www」とか、
いわゆる「ナチスの人体実験」にありがちなフレーズが並ぶ。
ありがちな「悪逆の記録」って大抵は盛ってることが多く、しかも盛ってる?と疑うことすら罪になる空気感が出来上がってるのも常なんで、他の収容所の医官たちがやってたのは確かだが、このへんまでメンゲレ当人がやった悪事かどうかはもはやわからん。
メンゲレが手を染めたとはっきりしてるのが、「双子」の人体実験。
メンゲレが専攻した優生学とリンクするんでとくに双子案件にはことさらうっきうきで打ち込み、メンゲレは収容者の中から双子の少年少女をかき集めて実験台に。
偏執的変態的にこだわったっつうか筋金入りの変態である。
師匠フェアシュアーが「双子こそ遺伝の謎を解く鍵」と考えてた影響と思われ。
変態度際立つのはメンゲレが双子たちを人として可愛がった、ということで。
とっかえひっかえすっげえ可愛がって懐かせたと思ったら、
翌日に生きたまま解剖するとか切ったりつないで「結合双生児」にしてみたりとか。マッドサイエンティストの極み。科学と国策を隠れ蓑にした変態である。
メンゲレがここにいたのは1943年から44年まで21か月間。
双子案件があったのは後半の44年だけだ。
だがその短い期間で3000人もつまり1500組もの双子が無慈悲に実験台にされた。
ほかの強制収容所の医官もそれぞれが人体実験を担当してて、「部屋の空気抜いたったww」「骨や筋肉や神経を切り取って他の奴に移植したった→結果www」とか「マラリアに感染させてみた結果w」「毒ガスを吸わせてみた結果w」「ひたすら海水だけ飲ませたった結果w」、
そっちはそっちでクズ度MAXなんだが、
なぜかメンゲレの双子萌えだけが細かに語り継がれてるのかっていうと、マッドサイエンティストと双子ってフレーズに悪の華的な黒いロマンが醸し出てるからだろう。
とはいえこの変態天国は長続きせず、
ナチスドイツが敗色濃厚になるとメンゲレは慌てて実験用の双子たちを次々とガス室にぶち込んで“証拠隠滅”していくが、途中で毒ガス「チクロンB」の在庫が切れて断念、そして本土へと撤収。
その2日後、ソ連軍がアウシュヴィッツに達し、解放した。ただしソ連も親ユダヤじゃなくてかむしろ敵視寄りだったから、ユダヤ人虜囚には苛酷な日々が続くんだが。
生き延びた双子は1500組3000人のうちわずか90組180人だけだった。
まもなく誰もが知るとおり、↓
April, 1945
1945年4月末──
ついにソ連赤軍が首都ベルリンになだれ込み、市民まで動員されて戦った地獄の首都決戦で街が瓦礫の山化するなか、地下壕で総統フューラーは自決。
首都陥落まで徹底抗戦しちまったせいで国全部が焦土に。
なにもかも詰んだドイツは5月、米軍とソ連赤軍に降伏する。
第三帝国の夢は12年間で潰えた。
その100日後──
“朕は帝国政府をして米英支蘇四国に対し、
その共同宣言を受諾する旨通告せしめたり”
“堪え難きを堪え、忍び難きを忍び──”
大日本帝國も無条件降伏へと。
全世界合計5500万人。史上最大の犠牲者を出して第二次世界大戦は終わった。
やっべ
で、御大フェアシュアー博士。
総力あげて保身します。卑怯と言いたいなら言え。
トラック2台分もの研究資料を慌てて焼却(ほぼ火災だろ)、その中には教え子メンゲレから送られてきた双子案件の資料も山脈ほどあったが、すべて灰燼に。
双子案件はフェアシュアーにとって貴重な臨床データでかなり重宝してたはずなんだが、ぜんぶ燃やしたからもはやどんなものだったか中身はわからない。
かのロックフェラーがタニマチだったっつう大人な事情もあったりしてなんちゃらうんちゃらあって、フェアシュアー博士はまんまと戦犯指定を免れた。
↑
つかそもそもおめーだろ、おめーが言い出しっぺだろ。悲劇の元凶の根っこはこいつだからねこいつ。メンゲレの師匠だけあって「遺伝子の謎をひもとくカギは双子にある」が持論の双子フェチだったし。フェアシュアー自ら手を汚してないだけで。
ちなみになんでこだわったのが双子だったかっつうと、
「顔とかそっくりなら、遺伝子もそっくりなはずじゃね?」
こんな薄っぺらい思いつきのせいで全双子大迷惑である。
そして戦後、西洋にこれっぽっちも存在しなかった「人道上」「倫理的」とかいう聞こえのいい概念が大人の事情で広まり、「優生学」は禁断の邪教扱いとなっていく。
ってのは建前で、
自分を当然優に分類してる「上級人類」の本心の本音では優生思想はいまも健在だ。
が、
フェアシュアー博士は地位も名誉も失わず、人類遺伝学者にするっと転身。人類遺伝学がどういう学問かというと、優生学の名前と表現をちょろっとロンダリングして聞こえをよくしただけで基本考えてることは同じだ。
「卑怯と言いたいなら言え、(おれの)人命第一だ」
罪を問われることなく学界の重鎮として幸せに過ごし、1969年に死去。
心疾患とか自動車事故とか資料によって死因はばらばらだが。
その一方で──
えっ
教え子メンゲレはというと、実行犯でもあるし戦犯扱い当確である。
人体実験に手を染めた収容所の医官たちは次々としょっぴかれ、
「医者裁判」の被告席に立たされていった。
だがメンゲレはなぜか好運が続いて連合国軍の追跡から逃げのび、
偽名で住み込み農夫をしてたが、まもなく支援者の支援で海外逃亡する。
メンゲレの逃亡先、南米の地域大国アルゼンチン。
アルゼンチンはWW2も「枢軸国に好意的な中立」でやり過ごし、戦後はナチス戦犯を国ぐるみで多く受け入れ。インフラや科学技術の導入を手伝わせるべく。
ナチス戦犯たちは中南米か中東@もちろんイスラエル除くなど、ユダヤが影響力を行使しにくい国に逃げ込むのが定番である。
このときアルゼンチンは「エビータ」の時代。
ナチス戦犯の逃亡は多くの支援者がいたおかげさまだった。ナチスとウィンウィンだったカトリックの総本山ローマ教皇庁つまりバチカン市国と傘下のカトリック教会群、西ドイツ政府内部の隠れナチシンパたち、海外のドイツ系移民ネットワークが手厚く支援。バチカンがナチ戦犯を支援したバチカンが支援大事なことだから3回言いました。
しかもメンゲレの実家は富裕層だし仕送りとコネでけっこうリッチな逃亡生活。
追跡から逃れるため、南米各国を転々と引っ越し続けないといけなかったが。
Candido-Godoi, Rio Grande do Sul
ブラジル リオグランデスル州のアルゼンチン国境近くにあるカンジドゴドーイ村。
メンゲレが60年代の一時期滞在したドイツ移民系のコミュニティー。
じゃがそれ以来、なぜかこの村で「双子」ばかりが生まれたそうな(声 市原悦子)。それも長身金髪碧眼デコっぱち鼻高っだか@いかにも定番ドイツな双子ばかり。
村民集合写真みれば分かるとおり双子率は孫の代を超えて受け継がれてる模様。
おめー逃亡中が何やってんだよだが性分というか相変わらずやるこたやってましたメンゲレ。しかも意図的に双子つくり出せるくらい結果まで出してるし。
ニイタカ提供の卵母細胞はフェアシュアー博士のラボに戦後も秘匿、メンゲレが国外脱出の前後でニイタカ胚と研究もろもろを受け継いだらしく、
逃亡先のアルゼンチンで若い女たちを代理母としてニイタカの卵細胞由来の胚を移植、子宮に着床させた、と思われる。
雄性生殖細胞つまり精子提供主の男は不明。そもそもそんなのいたのかどうか。
当時の医学では遺伝子やらDNAことデオキシリボ核酸の意味づけすらあやふやだったし、受精卵ではなく雌性生殖細胞の卵子オンリーで胚を形成するまで細胞分裂させるなんて高等な芸当なおさらやれたのかはわからない。
ともかく白鳥家に遺されていたドイツ語の文書によれば、メンゲレによってニイタカ由来の胚を植え込まれた代理母は17人いた。
しかし当時の発展途上の産科技術のせいか、女たちのほとんどは妊娠中に母子ともに死亡するか早期流産した、とある。結果的に代理母は全員死んだ。
しかし、記録をみると産前に死亡した妊婦は14人。
残る3人の妊婦、エストニア人の16歳とパラグアイ人の21歳と19歳だけが、
微妙に後の日付で死亡していることになる。
この3人は出産までこぎつけたらしい。3人とも出産時か産後に死亡したが。
うち1人の産んだのは奇形種で、重度の障害のためか半日も生きられなかった。
残る2人の新生児は生死について何も記載がなかった。
この記録から漏れた少なくとも2人の新生児は生き延びたのではないか。
1950年か51年、アルゼンチンに潜伏中のメンゲレ周辺に「双子」の乳児がいたことが確認されている。この「双子」の素性は不明。
瓜二つだがたぶん双子ではなく、代理母の胎内に移植された17人の胎児のうち、出産まで生き延びた新生児だったのではないか。
しかし、“双子”のうち1人はまもなく死んだ。
残る一人も、1、2年後に姿を見なくなったようだ。
だから双子ともに夭逝したと思われていた。
「でも、わたしは文書類の行間から↓こんな風に妄想してます」
“双子”の片割れの死は発育不良による病死ではなく、またもや大好きな人体実験をやろうとした結果、死なせてしまったんじゃないか、と。
最初から死亡も予定してたかメレンゲがミスって死なせちゃったかはわからないです。
メンゲレだ!
それと相前後してニイタカがその子の存在を知った。ただすでにニイタカ自身はモスクワに潜伏中で自由に動けなかったため、取り急ぎ協力者に指令を飛ばしたらしく。
どちらにせよ猶予はない、とニイタカは判断した。
メンゲレの手許に置いたままでは、残る1人もいずれ殺されてしまうだろう。
貴重な最後の1人とか関係ない。“双子”の1人を実験台にしたなら、もう1人も実験するのはメンゲレ的に当然だからだ。比較しなければ双子の意味がない。
変態は損得関係なく自分の欲望を制御できない。できる限り早く動かないと。
というわけでニイタカはすぐさま代理人をアルゼンチンへと送り込んだ。
メンゲレの潜伏する町へと。
「こんにちわグーテンターク、ドクトル、」
「急な訪問ですがどうかご容赦を」
「客人のつもりなら名乗るのが最低限の礼儀ではないかな?」
「ホアーです。初めまして」
「ホアー君、もしやユダヤの追っ手かね?」
「いえ、そうではありません。友人から言づてを頼まれ参上しました」
「“女の子を今すぐ渡してもらいたい”」
「なにを言っておるのか分からんが」
「10秒だけ待ちましょう。ドクトルのお返事がイエスヤーなら僕は何もせず女の子を連れて静かに去ります。もしノーナインなら──」
「力ずくで要求を通すつもりなら忠告しておくぞ。この国の政府も警察も私の味方だ。愚かな真似をすれば生きてこの国を出られると思わないことだな」
「まさかw、今どきそんな野蛮な真似はしませんよ? お国の戦争も終わりました。今は話し合いでエレガントに物事を解決するのがトレンドらしいですよ。まあ、僕のような人間はそうなると食い扶持に困るわけですが」
「さて、もしお返事がノーナインなら、30分以内にすべての情報が適切な相手に渡ります。この館にアウシュヴィッツの“死の天使”が住んでいること、ここ以外の国内外の潜伏場所、逃走ルート、人脈、カネの動きといった諸々を」
「……は?」
「テルアビブに新しくできた特務機関をご存じですか? “モサド”と呼ぶそうですが。逃亡中のナチス戦犯を追跡逮捕する部門もあるそうです。あとは民間のユダヤ人にも熱心な有志がいますね。さしずめ“ナチハンターズ”という人々です」
「ノーナインなら彼らはすみやかに有用な情報を手に入れるでしょう。ドクトルが地球上で呼吸しづらくなるのに充分な手がかりです」
「ま、待て」
「お、あと7秒ですよ」
「…………」
「あと4秒」
「ちょ…」
「2秒」
「こんちわ、お嬢ちゃん」
「だれ?」
「僕はマイク」
「マイク……」
「君のママの友だちだよ」
「ママ?」
「ママってなに?」
「君をとても大切に想ってる人だよ。僕と一緒に行かないか?」
「出たらダメなの」
「大丈夫、僕がドクトルに話したら、君の好きにしていいって言ってたよ」
「本当に?」
「本当さ。なんならドクトルに聞いてもいいよ。もう君は外へ出たくなったらいつでも出られるしどこへでも行けるんだ」
「どうだい? ここに残りたい?」
その数週間後──
第二回札幌雪まつり
Winter of 1951
Sapporo, Hokkaido, Japan
1951年@昭和26年、冬の札幌──
札幌市警の白鳥警部に、幼い女の子が託された。
その子には名前がなかった。メンゲレの館では「クライネ」と呼ばれていたが、それはただ「幼い子」くらいの意味でしかない。メンゲレの館で使用人たちに手厚く世話されていたが、「母親」の概念すら知らず、人間として育てる気はなかったのだろう。
だからニイタカは「幼い子」に名前を与えた。自らの本当の名前を。
尼港ニコラエフスク時代の自らの幼少期の本名「Юрикоユリコ」に、
花名を意味する漢字を添えて「百合子」と。
ちなみに長じて彼女が名乗った偽名ニイタカやヤヨイ、カトリーヌ/キャサリン/エカテリーナは、虐殺前の尼港ニコラエフスクで仲良しだった隣人の子たちの名前だ。
と、白鳥家と黄金町の弁護士の許にあった手紙や暗号電文に書かれていた。
ちなみに“生みの親”メンゲレの末路──
変態性では他の追随を許さないダントツの‘スター戦犯’。
その後もユダヤの追っ手を避けるため、アルゼンチン、チリ、パラグアイ、ブラジルと南米の国々を転々と流浪の民した。
ホロコーストに関わったナチ戦犯は次々と正体を暴かれ、
しょっぴかれ、お白砂送りにされていったが、
メンゲレは財力と強運もあって最期までナチ狩りに捕まることはなかった。
つねに物音や人影に怯えるのが日課になるほどびくびくして生活していたが、
30年後の1979年、海水浴中に心臓発作で死亡。享年67歳。
手に入れた記録をつなぎ合わせた、
「解析もどき」がこれ↓です。
「わたし白鳥百合子はニイタカさんの複製として生まれた」
「もちろんこんなの解析とは言えませんよ。あまりにトンデモな話だし、裏付けも証拠もありません。いまの話だって白鳥家や黄金町の弁護士事務所から渡された手紙やドイツやアルゼンチンの過去の報告書や医療記録の記述を、辻褄の合うようにつなぎ合わせて都合よく組み立てたおとぎ話でしかない。
さすがに2歳の頃のことなんて覚えてないし、アルゼンチンにいたことも、“双子”だった記憶もない。メレンゲなんて人も知りませんし」
メンゲレだ!
「でもおそらくこれに近いことが起きたんだろうなって、確信があります。
ぶっ飛んでてもパズルのピースが矛盾なく大体おさまるんで」
「ニイタカさんは本当に自分のクローンベビーつまりわたしが彼女の頭脳まで受け継いでいると思っていたかというと、ほぼあり得ない、と考えていたと思います。
そりゃ容姿は分身の術なほど受け継がれたけど、あとはごくごく平凡に生きていくことを想定していた。そりゃそうですよね。
わたしを“後継者”にするための用意をしっかり調えてはいたものの、一方でむしろわたしが“見つかった”にならないよう制約を課すことに熱心だった気がします。
こういうのってニイタカさんの癖だと思うんですよね。緻密に準備しながら、彼女の心の声?っていうか本心?みたいなのをごく些細な弱点にして混ぜ込むんです。バグのように。そのひとつですべて台無しにして破滅につながりかねないバグを。
わたしは運命とか神や仏のなんちゃらは信じてないです。でも、どれかひとつでもピースが欠けていたら、わたしは今日をここで迎えることはなかった。
ただわたしの出生がわたしの妄想した通りだと、
ひとつ大きな問題が生じるんですよね。
「わたしって、人間といえるんでしょうか?」
「かなーり微妙じゃないですかね? モンスターと思う人もいるかもしれません。類い希な美貌と明晰な頭脳の奇跡は置いといてですね、加齢すらしてなさそうとかさらに若返りとか脳出血が消えるとかの時点でどっか変だし。
わたしも正直もう分からなくなってきました」
「つい先日、警視は名実ともにわたしを人妻にしてくれたわけですけど、その時点ではわたしの出生についてまだわたしも分かってなかったんで隠してたわけじゃないってことでそのへん大目に見てください、
って言い訳を前提としてですね、」
「改めてわたしとの関係をどうするか、警視に再考してほしいんです。結果どんな答えでもわたしは受け入れますたぶんおそらくそんなつもりです」
──────────────「まあ、今日は休め」
白鳥的キラーワード直撃
「ちょっ、ずるいっすよ、なんで今そこでそれなの?」
「んー、おれは根っからの体育会系寄りの文系だからな。
難しいことはわからんし、気の利いたことも言えんが、」
「マリモの世話係のじいやから亭主に昇格したばかりだしな。それでいいだろ」
「ふう、やばいやばい。危うく泣かされるとこでしたよ」
「そのぼろ泣き顔に、どうツッコめばいいんだ?」
「えーと、じゃあ、」
「遠出の前に一発やっときましょう」
「あー、それなにかほかの言い方はないか」
その翌朝、白鳥は日本を出国、
行先を誰にも告げないまま南アジアへ。
そしてパキスタンを経由して、
戦乱のアフガニスタンへ。
そして──
ファサッ
「はじめまして、シャイフオサマ」
「わたくし、白鳥百合子と申します」
ザザザザザザッ
ガッ
タタッ
ドッ
ドン────────バコッ
トトッ
ダンッ
バシュッ
タタタッ
ドカ─ダンッ─ドカッ
ドカンッ
الله أكبر: تجنب الرصاص
「アッラーフ、アクバル! 躱しやがったッ」
بعد كل العدو هناك نمر
「やはり向こうにいるのは、豹だ!」
「ふう、あのアドルフ相手にちょっと安請け合いだったかな」
(んー、ウッドペッカー負けちまったらどうしようとびびってるのは内緒だ……)
カッターな!
そして案の定今回ぜんぶ入りきらなかったので、終わる終わる詐欺である。
次更新こそ本当の完結篇である。
次便こそ完結篇
【ウルトラ 最終便─完結】へとつづく
- 関連記事
スポンサーサイト
| 事件激情 | 18:28 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑