【事件激情】ウルトラNW : 夜行便-続【911アメリカ同時多発テロ】









*第30便──────────*new
【事件激情】ウルトラNW : 夜行便-続【911アメリカ同時多発テロ】

ロビー・ウッドカッターは完成形の人間兵器リーサルウェポンだった。


だからこそ、あいつは絶望的に孤独なんだ。


でもミスシラトリ、あんたならロビーとわかり合えるんじゃないかと思うんだよ。

「はひっ」
自分の目に映ってるのと同じ風景を見てる者が、自分以外に誰もいない──
そういう孤独、あんたなら分かるんじゃないか?


「ふへっ」


「ウッドペッカー!」







登場する事件テロ紛争戦争、その捜査活動は公表された情報に基づく。
黒字の人物・赤字の人物・紫字の人物および各国の機関団体部局は実在する。
白鳥百合子はじめこの文字色は架空の人物であり、
実在する人物との関わりも、根拠は創造にしてソースは妄想だが、ある意図がある。








「──ほ、ほ」

「ウッドカッターだバカモノ」
「あ、あれ? ごめん」



「よっしゃっ、もらった!」



「これで終わ


りだッ」



ドゴッ

「んぎゃふんっ」

「(タイ語)古式ムエタイの飛び膝蹴り、グラドートテッでし


たってこらザップ! なんなのかあの不便なハシゴ!」

「暗いしっ滑るしっ臭いしっ」

「あれ? ウッドカッターいるじゃん。どうやって屋上まで来たのか?」

「ん? ふつうに隣のビルから飛び移ったが?」
「そういうのはふつうとは言わないから!」

「ありがとう、チュリポーン」
「ぎゃーっ」

「ユリコーっ、ときすでに遅く死んでしまったかー?」
「あのーゾンビじゃないから。おでこ切っただけ」

「兵士ザップ、正しい手当て、正しく血止まった」
「あーなるほどー、」


「ってこらザップ!」

「さっきからなんで座ってるのか!おまえも働けよっ」
「兵士ザップ、トラップ戦専門。知性ない争う、しない」

「知性なくて、」


「悪かったなこのハゲーーーーーッ」─────ばきゃっ(とばっちり)

「FBIどこ? FBIもっと持ってこいっ」
「えーと、いまチュリポーンが蹴り倒した人で最後だよ」
「ええええっもう終わり? まだ蹴り足りんッ」
「あのーFBIをこれ以上蹴らない方がいいから」
「あれ? ホーさんは?」

あとは若いもんに任せてわしは寝るでな
「腰痛いからハシゴ無理だって」

「さっきから下の方が騒がしいけど、なに? 新手のFBI?」

「……じゃ、ない、ような」

「火事はどこだ?」
「破裂した水道管はどれだ」
「指名手配犯が隠れているというのはこのアパートか?」

「爆発物が見つかったのはどの建物だ?」
「脱税したカネの隠し場所がここだと通報が」
「麻薬の隠匿場所がここだと」
「不法滞在者はどこだ」「ニセ札工場はどこだ」「外来種ブローカーの取引所が…」
「虐待されているワンちゃんは?」
そして消防車来るところヤジ馬あり。
「火事と喧嘩は江戸の華」の法則は万国共通な江戸じゃないけど。

「………」

「あのうチーフ、このへん一帯、秘匿どころか超オープンになってますが」
「……もはやおれに訊くな」

「FDNY@市消防局、救急レスキュー、NYPD@ニューヨーク市警、IRS@国税庁、郡保安官事務所、ATF@アルコール・タバコ火器局、DEA@麻薬取締局、シークレットサービス、児童福祉局、移民帰化局、市環境保護ポリス、水道屋、電気屋、動物虐待防止協会執行官、保釈保証屋、そしてFBI──いやいやこれだけそろうと壮観だな」

「いたずら電話はいかんなー」

「副長官補ーーーっ!」

「ご指示どおり人事部からお求めの品を確保してきましたーっ」
「ローレンスくん遅いっ! ひと眠りしてから来たのか!」

「見たまえ。君らにはミスシラトリを逮捕することはできない、
なぜなら彼女は民間人ではないからだ。この書面にあるとおり、」

「ミスシラトリは、FBI局員だ」

「このような辞令を慌てて出されても効力など有りませんよ」
「日付をよく見たまえ」

「2001年1月1日付発行。つまり8か月前の辞令だ」

「今年初め、ミスシラトリにタンパで行われたテロ対策セミナーの机上演習に協力してもらった。その際、情報技官として雇用契約を結んだのだ。現在も雇用は有効だ」

「規則に造詣が深いならとうぜんご存じと思うが、FBIに籍のある者への調査は、FBI長官もしくは司法省の任命する監察担当官の管轄である」

「………」
「少なくともITOSにもニューアーク支局にも、もちろん君らCIAにも、
ミスシラトリに対する捜査権は一切ない。お分かりかな」
一方、クラークも──

「この真夜中にいきなり呼び出して何かと思えば──」
George Tenet
Director of Central Intelligence Agency
ジョージ・テネット@CIA長官


「クラーク、正気か。あんた罪に問われるぞ」

「かもしれん。が、テネット、君は歴史に名を残すだろう。最後のCIA長官として」


「……長官はCIAの王とはちがう。局員になんでも命令できるわけじゃない」


「なら、頑張れ」

「次長、長官からお電話です」

「え、モラー長官から?」
「いえ、CIAのほうの長官です」

「ウィルシャーです。……えっ……は、はい……分かりました」


「コルシ、タイムアップだ。捜査官を撤収させよう」

「しかし……」
「引き時だ。これ以上続ければ違法行為を問われるのは我々のほうになる」

「全員ただちに撤収ッ」

ニューアーク支局の捕捉班、もはやほぼ全員がヨレヨレ。
シラトリに指一本ふれられないまま。
どのみちアパートの周囲は人もあふれんばかりで、そんななかで再凸するわけにもいかず、シラトリ拘束なんてもはや事実上不可能だった。

「おい、やっぱり火事おきてないぞ。ガセだガセ」

「あーくそ、また空振りかよ! いつになったら本物の火事に出動できるんだ!」
Antonio Benetatos


新人消防士トニー、いまだ火事デビューできず。
Jules and Gedeon Naudet


ノーデ兄弟もいまだ火事の映像ゼロにちと困り顔である。
そして──



「おーい、おれ、忘れられてるのかー?」

「忘れ物を取りに戻っただけのつもりが長引いてしまった。クリニックに戻る。
産気づきそうな患者がいるのだ。そばに居てやらないと」


「ありがとう、ウッドペッカー」
「ウッドカッターだばかもの。いいかげん覚えろ」

「こういう状況にはならないようにしたつもりでいたんだけど、
甘かったみたい。結局巻き込んで迷惑かけちゃったよ」

「3人ほどむち打ち症になってるだろうが、殺してはいないぞ」

「あっ、撃たれたの?」
「かすっただけだ」
「手当てしないと、ちょっと見せて」
「自分でやった方が安全だ、わたしの職業をなんだと思ってる」

「人を死なさないって約束守って無理したから? ごめん」

「ひさびさだからなまってただけだ。
それよりシラトリ、」

「それ明らかに傷口ひらいて再出血してると思うぞ?」
「へ?」

「ぎゃーーっ、ほんとだ! ユリコやばいってそれ!」
「えっ? えっ? えっ? ど、どうすれば?」
「ちょっと見せろ。あ、これ止血し直さないとダメだな」

「こらザップ! ぜんぜん止血できてないじゃん! なにが正しく手当てだこら!」
「兵士ザップ、こらという肩書きではない。兵士である」
「なにが兵士だ。もうザップすらいらんわ! こらでじゅうぶんだこら!」

「あくまで応急処置だからな」

「早めに化膿止めの処方書いてもらえ。なんなら明日クリニックに来い」

「さっすが現職ナース、ありがと」


「………?」

「フランソワめ。余計な気を回すやつだ」

「済んだ、行く」


「で、当たり前のように飛んでくし」

フランソワ? だれ?

あーっ若ハゲくんか! そういやフランソワって名前かー! 忘れてたー。
わたしの白鳥百合子と同じでぜんぜん似合ってねー。

「こらザップ、もう終わったのにいつまでレディをふきっさらしに置いとくつもり? そろそろ下に降りれるように壁とか入口とかもとに戻してよ」
「外から戻す、できない」
「は?」
「外から戻せたら要塞にならないキリッ」

「はぁあああ?」
「うわーじゃまたあのハシゴ降りるのかー」
「トンネルも外から入る、できない」

「はぁああ?」
「外から入れたら要塞にならないキリッ」
「ナンバーテン! じゃどうやってわたしたち下に降りるんだよ! バカなの?」

「タイは微笑みの国ではないか。チュリポーン、タイの人なのに怒ってばかりである」

「あんたのせいで微笑みもすり減って無くなったわこら! ユリコも笑ってる場合じゃないでしょ! なんで怒らないのか!」
「(; ´∀`)ははは(もはやその気力も残ってないアルよ)」
9th September, 2001
2001年9月9日
Sunday
日曜日

am12:00
正午
45 hours before ‘Nine Eleven’
──9.11まで残り45時間

Deerfield Beach, Florida
フロリダ州
ディアフィールドビーチ

Panther Motel *現在モーテル名は異なる
パンサーモーテル

8月26日から滞在していた「マルワン・アルシェヒ」がチェックアウトして去った。

「なんだか気味悪い人たちだったわねえ」

マリンリゾートに行くためにあるような場所なのに、ビーチに行くでもなく遊びに出かけるでもなく、若い中東系の男の人ばかりで部屋にこもって、

人の出入りもやたらと多かったし。
7人はいたね。ちゃんと覚えてるだからね。
で、さらに奇妙なことがあって、

フロリダ定番、緑のゴミ箱。不燃物だろうが粗大ゴミだろうがとにかくブッ込んどけばゴミ収集車がぜんぶ持ってってくれる。分別?なにそれおいしいの?
モーテルの事業用なんでデカいコンテナタイプ置いてるんだが。

緑のゴミ箱を漁るモーテル経営者スルマ夫婦。
っつうと聞こえはよくないけど、
やはり「マルワン・アルシェヒと仲間たち」の怪しい感がよほど強かったと思われ。
で、その心配した通りに。

げっ
ほんとに出てきちゃった。
やっぱりあの人たちが捨ててったんだよねえ。

まだ新品っぽいバッグなのに。捨てるなんて不自然よねえ。
しかも中身がなんなのか知らんけど、ずっしり重くて。

えっこれまさか動物の死骸とかじゃ? 儀式かなにかで生け贄にした羊とか?

いやいやおまえ、ありゃたぶんイスラムだろうし、
そういう生け贄とかやる宗教じゃないよ。

まさかまさか人の死体とか?
おいおい、あんまりバカなことを言うもんじゃな──

前もニュースでやってたじゃない、奥さん殺して家のゴミ箱に捨てた事件!
ききききっとそうよそうだわきゃーーーーーーー

ははははおおおおまえなななに言ってるそんなことあるわけななななな

よよよよし、あああ開けるぞぞぞぞ。

「ど、どうぞ」
「……………」


その中身は、


アメリカ各地の地図多数、

ボーイング757-767の操縦シミュレーターマニュアル、

燃料チェッカー、

ドイツ語辞書、

それと格闘技の本s、
なんじゃこりゃ?

「ああいう連中の考えてることは謎だわ」
そーっと元の通りにゴミ箱に押し込んでなかったことに。
未来人のわれらの目から見れば、まさに9.11をなぞる証拠満載、とわかるんだが、
ビフォー9.11の一般人類が見たら、てんでばらばらの意味わからん品ぞろえだわな。
こうして重要な手がかりだったかもしれない置き土産は、ゴミ処理場へと消えた。
仮に夫婦がこれを警察に届けても、それがテロ阻止につながったか、
というと、正直この漠然とした陣容じゃ無理だったろう。

フロリダをあとにした問題のマルワン・アルシェヒ、この日のうちにボストンに現る。
筋肉メンムハンド・アルシェフリ、サタム・アルスカミを引き連れて。
前日に筋肉メンフェイズ・バニアハマドが先入りしていたミルナーホテルに泊まった。

Boston, Massachusetts───────*現在のホテル名は異なる
Milner Hotel, Boston Common
マサチューセッツ州ボストン
ミルナーホテル
翌朝10日にはホテル内でマルワン・アルシェヒの姿が目撃されている。

さらに同じ日にモハメド・アタもボルティモアから空路ボストンに到着。

ミルナーホテルは「都市計画学部@ニューヨーク攻撃チーム」の最終合流地点だったらしく、アタもここで一同と合流する。

この日、アタはエジプトに国際電話をかけた。
かけた相手はモハメド・エルアミール・アタ。

Mohamed el-Amir Awad el-Sayed Atta
正式にはモハメド・エルアミール・アワド・エルサイード・アタ
モハメド・アタの父親である。
高名な弁護士でゴリゴリのエリート主義、信仰心はエリート層の典型的にたしなみ程度で、息子にも理想のエリート人生を歩かせようとした厳格な教育パパ。
父親の意向で留学したお坊ちゃまくんがリア充になり損ね>カルトに嵌まって>ドロップアウト>テロ組織の鉄砲玉になりはてた33歳の男が、
けっきょく最後に電話したのは父親だった。

モハメド・アタが最後の会話で、父親となにを話したのか、それは明かされていない。

「ディック、もーひたすら感謝です、またもやみんなに迷惑かけてしまって」
「みんな迷惑だなんて思ってないさ」
Richard A. Clarke
@National Coordinator for CounterTerrorism
リチャード・クラーク
@対テロ調整官


「とにかくニューアーク支局にユリコの身柄を押さえられてしまったらどうしようもなかった。“死亡の塔”の彼らがFBI相手に一歩も引かず君を守り切ったのは感服するばかりだよ。今後は我々が目を光らせ、絶対君に手出しさせない」

「ありがとう」

「チュリ坊の友だちのケータイ。ときどきタイ語のわけわからん電話かかってくるけど、どうすりゃいいかね。ま、いいや」

「んー傷跡残るなー。これのおかげで死なずに済んだんだしぜいたく言えんけど。
一応は女だしね。んー、とりあえず前髪で隠しとこ、と」
Barry Mawn
@Assistant Director in Charge of the FBI’s New York field office
バリー・モーン
@FBIニューヨーク支局長


「ミスシラトリ、顔に大ケガしたと聞いたが、大丈夫かね」

「そんな大したことはないですよ」
「わーーーーーっ」
「あっ、これ去年のハロウィン用の傷メイクです。かなりリアルでしょ」
「( ;゚Д゚)……なんで今それをわざわざ」
「いえせっかくの機会だから」

「ニューヨーク支局のみんなもとばっちり食らわせてしまいました」

「支局長も巻き込んで老後の年金没収の危機にしてしまって、すみません」
「あーミスシラトリ、そっちは私ではなく立て看だ」

「いや、これは管轄権の問題でもあるからな。支局長としてITOSに厳重抗議する」

「わたしがFBIの情報技官って、あれでしょ、タンパのセミナーでSACs*の皆さんと模擬演習するためには機密にもふれるから内部の人間じゃないとまずいとかなんとか便宜上なった臨時の非常勤顧問とか言ってたやつですよね?」
* SACs : Special Agent in Charge 小規模支局支局長もしくは大規模支局の主任捜査官。sは複数形

「自分でもすーかり忘れてたましたよ。おぼろげな記憶だと、わたしが内職禁止の国家公務員だし差し支えあるから終わったらすぐ契約解除の手続きしたはずだけど?」
FBI副長官補のワトソンさん


「そうか? 誰かが処理し忘れてたんじゃないかな?(すっとぼけ」
深夜の籠城戦の余波はまだ引きずっていた。

「それについていい話がある」
コトをおさめるにあたってCIA側はとうぜんのこと、FBI側のはずの法律部までCIAの肩を持ってしつこくゴネている。
法律部の弁護士連中がCIAに味方してるのは、ニューヨーク支局対テロ特捜班を妨害するCIAの動きにOKを出してたからで、それを誤りと突っつかれたくないからだ。

神の目線から見る未来人はごぞんじのとおり、FBI法律部は、例の20人目のハイジャッカー@ザカリアス・ムサウイのノーパソの中身をミネアポリス支局の捜査官が見るのも絶賛妨害中である。*【第19便】
元FBI捜査官ジョン・オニールさん


「相変わらず腐ってやがるな。法律部の屍肉喰いスカベンジャーどもは」

だがワトソン副長官補がここから猛然と巻き返し、モラー新長官に直談判、
Robert Mueller Ⅲ
Director of Federal Bureau of Investigation
ロバート・モラー3世


モラー長官の後押しをとりつけ、白鳥と“死亡の塔”の住人たちのFBI捜査官への暴行と執行妨害については事実上の免責扱いに。
そこはFBIの出世競争を勝ち抜いてきたワトソンだけあって、FBIがどういうあくどい手口を使うか知り尽くしている。
“死亡の塔”の住人たちへの滞在許可取り消し誘導、別件捜査で嫌がらせという意趣返しも禁止という確約も取りつけて、ITOSと法律部の暗躍を封じた。
ついでにピカード長官代行がどさくさ紛れにジョン・オニールを新米捜査官への暴行と執行妨害で告発

ピカード(ぎくっ)
しようとしたんでその企みもさくっと阻止。

ちなみにロバート・モラー3世、例のトランプ大統領のロシア疑惑捜査妨害疑惑ややこしいの特別検察官に任命され、ひっさびさにメディアにその名前が登場する。

「で、悪い方の話だ……が」
「やっぱりあるんだ悪い話も。聞きたくねー」

白鳥を「FBI局員」という形ばかりの身分が守ってくれたが、副作用的にFBIの中の人としての制約も受けることになってしまったんである。

「CIAサイドが司法省の判断が出るまで、秘匿捜査も適法かどうかわからないのだから一時中断すべきだと主張し、うちの法律部も受け入れを勧告してきた」

ダン・コールマンしょぼん
「それでコールマンもアンティツェフ兄弟も、潜伏中のテロリストの捜査は一時差し止め、ということになってな」

「双子ならではの入れ替わりトリックでなんとかできないか」
「2人とも対象にされてて、入れ替わっても意味ないだろ」

「で、その制約が、“FBI局員()”のわたしにも適用されるってことね?」
「そうなる。その部分はワトソンも妥協せざるを得なかった」

「でなければCIAは君とアパートの住民たちを無理筋でも訴追する姿勢を示したからな。さすがにいいとこ取りは難しい」
「うーまるで後半45分に勝ち越し点決めたと思いきやロスタイム終了間際に不可解なPKとられてアウェーでドローにされたような気分っす」

「その一時中断とやらはいつ解禁になるんですか?」
「今日は日曜だ。再開できるとはかぎらんが、早くとも月曜か火曜でないと……」
「あのー、アルカイダは日曜だからお休みなんて習慣ないと思いますけど?」

「なーんか悠長すぎません? 誰と戦ってるつもりなんだろ」


「アンティツェフ兄弟とダン・コールマン“は”、動けないんですね」
「CIAとはそういう約束になっているし、彼らの電話もメールもおそらくCIAが傍受させているだろう、ん? ミスシラトリ、なにを考えてる?」

「いえ別に」
もちろんリアル現実世界では、*【第26便】から始まったITOSによる白鳥拘束の画策も、“死亡の塔”の籠城戦も起きていない。ウィルシャーとコルシもこんな積極的に策を巡らすヒールではなく、せいぜい嫌味な窓口担当くらいでしかなかった。
だが、9.11直前に潜入アルカイダメンの情報を弄ぶというのは、意味的にはこのくらいやらかしたのと同等の愚行だったんである。
一方の──

Laurel, Maryland
メリーランド州ローレル
そう、飛行機計画“法学部”@ワシントン攻撃チームが根拠地にしてた町のひとつ。

Ayah Islamic Center, aka ‘Ayah Dawah mosque’
アヤイスラミックセンター@イスラム教徒的にはアヤダワフモスク。
このモスク、イスラムテロリストの軍資金集めに加担してた真っ黒なモスクにもかかわらず、例によっての「ポリティカルコレクトネス」の下、ほぼ野放しだったが、
9.11後はこういうモスクへの取締りが厳しくなり、アヤダワフモスクが催してた国際救済基金()のチャリティーがテロ資金のマネロンと当局に疑われて閉鎖になる
、がそれはまだ先の話。

この日、アヤダワフモスクに2人の若いサウジアラビア人がやってきて、

「これを預かってほしい」

と、大サイズのダッフルバッグ2個を置いていった。
モスクは単に礼拝所ってだけでなく、イスラム教徒にとって困ったときの無料宿泊所や不動産屋やハローワーク的な機能もはたしてくれるありがたい存在である。たむろしてる斡旋屋から紹介される職は自爆テロだったりするが。

Khalid al-Mihdhar and Nawaf al-Hazmi
この2人、ハリド・アルミダルとナワフ・アルハズミ略してハズミダルである。

バッグsには「兄弟たちへの贈り物」というメッセージメモ付き。
このバッグsも、9.11後FBIに押収されるんだが、

その中身は、フライトスクールのパイロット記録@つまりハズミダルの落第の歴史、
領収書もろもろ、衣服、果物……。
んー? こんなの贈られても……どうすんだ?
この断捨離の結果捨てられたゴミ一式ですみたいな「遺品」、実際に身内ならこの意味が伝わるかもしれんけども、それは確認しようもない。

「9.11テロをやったのは息子じゃない、別人だ」
実行犯19人の家族は、今も認めることをかたくなに拒否してるからだ。




アメリカに残された彼らの行動記録の数々、本人出演の「殉教声明」ビデオまであって、サウジアラビア政府もしぶしぶ事実と認め、言い逃れようもないにもかかわらず。


いや息子は身分を勝手に使われただけでテロリストとは別人だ。だから「赤の他人の遺品」なんて受けとらないし、身許確認のための情報提供もしないし、本人確認のためのDNA提供もしない絶対。だって息子じゃないんだからDNAが一致するはずがない、はずがないんだから協力するいわれもない。
遺族に謝罪? 息子が犯してもいない罪でなぜおれがわたしが謝罪するのか。

息子たちは名誉を貶められた冤罪の被害者だ濡れ衣だ陰謀だ。
アッラーがすべてを見ていなさり、息子が無実だと示されている。
モハメド・アタ父エルアミール・アタ(弁護士)


「すべてイスラエルの陰謀!」「息子からテロの翌日に電話があった!」
「息子は無実!」「いまもきっとどこかで生きている!」
これからも彼らが加害者家族という不名誉を受け入れる日は永久に来ないだろう。
もし認めてしまったら、おれの息子わたしの息子が、狂信者の人殺しになってしまう。
おれはわたしは大量虐殺者を育てた親になってしまう。
そのような不名誉に耐えられるだろうか。

3千人もの生命を奪った殺戮者を出した、血塗られた一族になってしまう。
そのような不名誉に耐えられるだろうか。
絶対に違う、そんなことは許されない。
飛行機で突っ込んで死んだやつらは、おれのわたしの息子じゃない別の誰かだ。
アッラーがすべてを見

“ゴードン、FBI”

「スティービー、わたし」
“どうした? 昨日から何度かけ直してもつながらなかったぞ”
「ごめん、いろいろあって。今どこにいる?」

「ニュージャージーのパターソンだ。おまえさんは昨晩の電話でニュージャージーまでしか言わなかったが、もしやと思ってとりあえず来てる」
“なんて素晴らしいのスティービー天才!”
「う、うむ(。=ω=。)」

「あなたに行ってほしいのは、トトワという町」
“トトワ? ああ、隣の町だな”

「そこを彼らがなんらかの目的のために下見した形跡があるの。なんのための下見かは分からないし、トトワでは身許を知られないようにしていた可能性が高い。
ただ唯一、彼らのうち誰かが、現地のゴールドジムの1日会員になっていたようなの」
“ゴールドジムか。まずはそこから洗うか”

「しかしトトワなんて、言っちゃなんだがどこにでもある郊外のちんけな町だぞ。標的にしたくなるような派手なランドマークもない。空港もないしな」
“うーん、たしかにそうなんだよねー”

「それでね、スティービー、職場とかジョンかマイクかダンに連絡とった?」
“いや、まだだ”

「当面この件でみんなに連絡しないでほしい、電話でもメールでも。わたしと連絡とる手段は早めに知らせる。それまではわたしにも連絡しないで」

“……了解。とりあえず移動開始する”

んーと。FBIに追っかけ回されたり延々と暗闇ハシゴ登らされたりスナイパーに撃たれたり大出血したり昭和24年の下山事件解決篇に立ち会ったり昭和52年の八っちゃんにキスしたり(〃∇〃)あと何があったっけ? あまりにもいろんなこと怒りすぎてこらーっ起こりすぎてまだ脳内カオスっす。
さらに重大な事実もいま判明。

血液サラサラ血圧抑え薬、どっか落っことしたみたいなんですけどおおお。


屋上へ行く前、部屋着のポケットに入れたとこまでは覚えてるから、

やっぱりあの騒ぎの間に落としたんだろうなあ。



きっとあのハシゴ落ちそうになったときだな。ケータイばかりに気をとられてた。

えーと、火曜のお昼前に病院行くから、
昨晩、今日と明日、明後日の朝まで──
うわ、ほぼ3日、薬を飲まないことなるのか。

昨日はあの騒ぎで結局ほとんど寝てないし、今日もちょっと仮眠した程度で、
うーんマイ脳血管さんに優しい生活まったく送れてないのは言い逃れようもない。
おでこの傷見られたらまず間違いなく検査入院だろうしなあ。

あの女医先生、めざといから絶対勘づかれるよなあ。

おりゃあああああああ


よおおおしっ、火曜まで脳血管さん大丈夫と信じるしかないっ。
最も重要な最後の最後のときに、秘匿捜査は封じられてしまい、


唯一その網を逃れて動いているFBI捜査官は、ニューヨークから遠く離れたフロリダで単独行動していた某俳優似のスティーブン・ゴードンひとりだけ。

ゴードンが9.11を食い止める最後の希望だった。事件激情内限定で。
9th September, 2001
2001年9月10日
Monday
月曜日
am00:00
午前零時

The day before ‘Nine Eleven’
──9.11前日
【第32便 もうひとりのアタ ─9.11前夜─】へとつづく








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