【事件激情】ウルトラ : 18機目【911アメリカ同時多発テロ】
*17機目

911テロより前、90年代終わりのある日──

とあるアメリカとカナダの防空をになう、
NORAD@北米航空宇宙防衛司令部で、
とある軍事演習があった。
“こちらNORAD、サンタクロースを追跡中”
“警告警告、サンタが日本上空に接近しています!
日本のよい子のみんなは早く寝ましょう”
“寝ない子はサンタさんからプレゼントもらえないよ”
じゃなくて、
「ハイジャックされた航空機がアメリカ本土に自爆テロ」
という想定の防空演習。
しかも“ハイジャック機”のターゲット想定は、
>ワールドトレードセンター!
>国防総省@ペンタゴン!
ん、それって──?
化学兵器を載せてアメリカに迫るジェット機を大西洋上で撃墜する訓練も、“ハイジャック機”役に本物のジェット機を投入、リアルシミュなかんじでおこなわれた。
さすが宇宙人襲来を想定した防衛計画まで大真面目につくっちゃう米軍だけあって、911的な本土攻撃は想定内だったんである。
じつはこの演習の数年前1994年、
ベストセラー作家トム・クランシーのジャック・ライアンシリーズ
「Debt of Honor/日米開戦」が出版されている。
そのクライマックスが↓
JALのボーイング747が、
>連邦議事堂に”カミカゼアタック”、
>議事堂爆発崩壊炎上、>大統領も政府要人も還らぬ人に……。
これ読んだ軍の誰かが心配になって演習に組み込んでみた、のかもしれない。
というわけで少なくとも米軍にとって、
ハイジャック機による米本土”カミカゼアタック”は、
まったく思いもよらない青天の霹靂でもなかったし、
阻止(つまり撃墜)の段取りもそれなりに決まってたんである。

だったらなーんでかんじんの本番あんな体たらくだったんだよ、というと

じっさいに2年後の9月11日の朝、アメリカの空でおきたことは、
この日の軍事演習とひとつだけ条件が違っていた。





911テロより前、90年代終わりのある日──

とあるアメリカとカナダの防空をになう、
NORAD@北米航空宇宙防衛司令部で、
とある軍事演習があった。

“こちらNORAD、サンタクロースを追跡中”

“警告警告、サンタが日本上空に接近しています!
日本のよい子のみんなは早く寝ましょう”

“寝ない子はサンタさんからプレゼントもらえないよ”
じゃなくて、

「ハイジャックされた航空機がアメリカ本土に自爆テロ」
という想定の防空演習。
しかも“ハイジャック機”のターゲット想定は、

>ワールドトレードセンター!

>国防総省@ペンタゴン!
ん、それって──?

化学兵器を載せてアメリカに迫るジェット機を大西洋上で撃墜する訓練も、“ハイジャック機”役に本物のジェット機を投入、リアルシミュなかんじでおこなわれた。

さすが宇宙人襲来を想定した防衛計画まで大真面目につくっちゃう米軍だけあって、911的な本土攻撃は想定内だったんである。

じつはこの演習の数年前1994年、
ベストセラー作家トム・クランシーのジャック・ライアンシリーズ
「Debt of Honor/日米開戦」が出版されている。
そのクライマックスが↓

JALのボーイング747が、
>連邦議事堂に”カミカゼアタック”、
>議事堂爆発崩壊炎上、>大統領も政府要人も還らぬ人に……。
これ読んだ軍の誰かが心配になって演習に組み込んでみた、のかもしれない。

というわけで少なくとも米軍にとって、
ハイジャック機による米本土”カミカゼアタック”は、
まったく思いもよらない青天の霹靂でもなかったし、
阻止(つまり撃墜)の段取りもそれなりに決まってたんである。

だったらなーんでかんじんの本番あんな体たらくだったんだよ、というと

じっさいに2年後の9月11日の朝、アメリカの空でおきたことは、
この日の軍事演習とひとつだけ条件が違っていた。

それはもともとNORADなる本土防衛機構が米ソ冷戦下に生まれたってこと考えればとうぜんといえばとうぜんで、無意識にそういうことになったんだろうけども。
そのたったひとつの違いの代償は、あまりにも大きかった。
この軍事演習での“ハイジャック機”は、

外国から海を越えてアメリカに襲来することになっていた。

登場する事件テロ紛争戦争、その捜査は公表された情報に基づく。
黒字の人物・赤字の人物・紫字の人物および各国の機関団体部局は実在する。
白鳥百合子はじめこの文字色は架空の人物であり、
実在する人物との関わりは根拠は創造にしてソースは妄想である。



──────

February 1999
1999年2月

Virginia McLean
Potomac River west coast of Washington
バージニア州マクレーン
ワシントン ポトマック川対岸
ペンタゴンほど有名じゃないけども、ワシントン有名スポットのひとつ、
人呼んで、“ラングレー”

Central Intelligence Agency Headquarters
CIA@中央情報局本部
速報がCIA工作本部 ビンラディン追跡専従班「アレック支局」にもたらされる。
Michael Scheuer
Chief of the Bin Laden Issue Section,
aka "Alec Station"長げーよ
マイケル・ショワー
@ビンラディン専従班「アレック支局」主任

「アフガンのカンダハル郊外に、UAE@アラブ首長国連邦の首長たちがやってきて、ビンラディンと鷹狩りをやる。鷹狩りは部族の伝統にのっとって行われる」

「UAEの専用機やテント村の位置も偵察衛星で把握できてる」

「ビンラディン抹殺のチャンスだ。すぐトマホークでテント村を空爆すべき!」
だが、

「ビンラディンがそこにいる確証がない」
「仮にも国連加盟国の首長たちを一緒に吹っ飛ばしたら大国際問題になる」
>却下。


ムキー!

アレック支局は、チーフのマイケル・ショワー除く約20人いる分析官の大半が、
若い女性、というCIAには珍しい女の園。
というのも、
どの反米国家の援助もなしで活動しているテロ組織というものを、CIAの中東専門家たちの80年代で止まってる古い頭では理解できず。
しぜんと「そんなんあるわけないやろ」とバカにして見向きもしなかったんで、
やむを得ず女子局員を抜擢、かき集めて編成した結果こうなった。
女はせいぜい画像解析官くらいしかなれない局内の男女格差に苛立っていた彼女たちは、一線級のアナリストになれるチャンスにもちろんとびついたわけで。

チーフのマイケル・ショワーは変人で偏屈でオタクっぽいし風呂もあんま入らなさそげだけども、意外と若い女子たちは熱くリスペクト、アレック支局は全員とりつかれたようにビンラディン探しに没入中。異常すぎる団結力で。
彼女たちは半ば自虐っぽく半ば誇りをこめて自分たちをこう呼んだ。

“マンソンファミリー”


Jennifer Matthews
ジェニファー・マシューズ@アレック支局分析官
彼女もまた、そんな“マンソンファミリー”のひとりである。

ん?


タタッ──────────────タタタッ

タタタタタッ
なんなのあの人なんでさっきから行ったり来たりしてるんだろ。

「──と思ったら、あっ」

ショワーの天敵。ユリコシラトリじゃん!

あの合同模擬シミュレーションのとき【1機目】、ジェニファー・マシューズもショワーの補佐として出席してたから、あのシラトリという日本人女に上司ショワーが恥かかされたのもみてて憤っていた。
そのシラトリがなんでここに? なんでCIA本部をうろついてるの?


そして明らかに道に迷ってるし。なにやってんのよあいつ。

「ちょっとあなた! ミスシラトリ!」

「あ、ジェニちゃんじゃん!」

「敵地に乗り込むとはいい度胸ね。あなた、いったい何をしにこ──」

ツカツカツカツカッ───「え、な、なに? やる気?」
「よかった、ジェニちゃん、いいとこで会えた!」

「は? なに? ジェニ?」

「いやー道に迷って泣きそうだったよ!
持つべきものは友だね! さ、行きましょう!」

「え、な、はい?」


「あのう、主任」

「なんだマシューズ、いま取り込んでるから後にしてくれ」

「ミスタークラークの悪口メール送信中で忙しい?」


───────────────────「どうも」

「こんにちわ」

「すみません、シラ…ミ、ミスシラトリが、主任に話があると……」
「部外者をここまで入れたのか?」

「あ、ジェニちゃんは悪くないから。わたしが連邦議会からもらった権限を行使しました。人材交流プロセスでポーター・ゴス下院議員の臨時秘書見習いになりまして」

「ゴス議員がCIAの予算を決める情報委員会の委員長様なのはご存じでしょう。今日は議員の視察の付き添いで公務として参りました」

「ふん、マシューズ、ご苦労だった。職務に戻れ」

「主任、何かあれば知らせてください、

ただちに保安要員呼びますから」

「案内ありがとうねジェニちゃん」

「ジェニとかちゃんとか馴れ馴れしいの嫌いやめて」


「アレック支局のアレックって、あなたの息子くんの名前なんだってね。
さっきジェニちゃんから聞いて初めて知った」
「どうせ興味もないくせに、ぼくの息子を前置きに使うのはやめろ」

「座る場所ならご覧の通りないぞ」
「あ、気にしないで。適当にどけるから」

「ああっ、なんてことを! 分かるように分類して積んであるのに!」

「そういう人に限って一番下の書類がなんだったか、
かけらも覚えてないものよ、わたしがそうだし」

「で、なんの用だね。負け犬を笑いに来たのか」
「あら、自分の立場を分かるくらいの分別はあるんだ」
「ಠ益ಠ 」

「じゃ、もう少し分別働かせて、変な中傷メールばらまくのやめたら?」
「やっぱりか。ぼくの暴露は都合が悪いわけだ、クラークの女としては」

「そういう当てこすりってセクハラとか怒られるんじゃ? アレック支局はジェニちゃんみたいな若い女性が多いんでしょう?」

「あなた分析官としていい線いってるのに、自分の足元はまるで無頓着みたいね。ああいう悪口メールで首しまるのはミスタークラークじゃなくて、ショワちゃんの方だよ」
「ショワちゃんではない! なぜ”ー”を略してわざわざ長い”ちゃん”をつける!」

「だいたいぼくがコケればあんたらの勝ちだろう、なんでそんなこと言いに来る?」
「決まってるでしょ、あなたがCIAで唯一ビンラディンを追いつめる能力ある人だから。こんなアホなことで投げ出してほしくないの。とどまって頑張ってほしい」
「はっ、あんたの口からそんなセリフが出るとは。ぼくを嫌いなクセにきれいごとを」
「ごたまぜにしてる人多いけど、個人の好き嫌いと仕事できるできないは別よ」

「それと、わたしあなたのこと決して嫌いじゃないからね。あの模擬演習のときにああ言ったのは、あなたを嫌いだから怒ったんじゃなくて、あれだけ能力があるのに仲間に伝えるべき情報を隠したのがちょっと悲しかったからだよ」

「あんたがあのくそったれオニールやFBIの連中とつるんでるのは知ってるんだぞ」
「それは彼らが捜査機関で、わたしもいちおう日本の安全保障を担う警察官で、ビンラディンは犯罪者として逮捕されて被告として裁かれるべきだ、と思ってるから」

「これは警察官の習性とかじゃなくて、もっとドライな理由でね」

「ご存じかもしれないけど、
東京で地下鉄サリン事件があったとき *【サティアンズ 第二十五解】」

「オウム真理教を犯罪者じゃなく内乱勢力として自衛隊に──まあぶっちゃけ軍隊なんだけど、警察の手に余るから、自衛隊にやらせろよって声もかなりあったの。あのとき、アメリカの人たちが思ってる以上にぎりぎりの状況だった。

でもなんとか最後まで警察だけでオウムと対峙して、
あくまで刑事訴訟法の枠内で、刑法犯として麻原彰晃以下信者484人を逮捕した。
麻原ごときを国家の敵なんて神輿に上げちゃいけない、あの男はあくまで詐欺師で人殺しとして刑事裁判の被告席に立たせなければならない。
だからどうあっても日本警察は一歩も引けなかった。

まーフタを開ければ、我々もオウム真理教の実力を過大評価してて、
おそれてたサリンや銃弾飛びかう市街戦は起きなかったけどね。
あのときオウム真理教は女子供ふくめて1万人ちょい、
とくに危険な出家信者が1000人ほどいた。
アルカイダ本体は、なんだかんだいって実数100人もいないんじゃない?
なのに軍が乗り出して高価なミサイルの雨を降らせるわ、
なのに当のビンラディンはまだピンピンしてるわ、

あの空爆でビンラディンはすっかり箔が付いて、反米のシンボルになりかけてる。
同じようなことを繰りかえすたびに彼に力を与えるようなもの。
どんなに遠回りでもまどろっこしくても、
ビンラディンは「お巡りさん」が「犯罪者」として「逮捕」すべきだと思う。
──という考えかたは、ミスタークラークとも相容れないところだけど。
でもFBIだけじゃ海外の情報力が弱くて捜し出すのは無理、
アルカイダの情報を圧倒的に持ってるのはやっぱりCIA、
だからCIAのあなたにはビンラディンをミサイルで吹っ飛ばすためじゃなくて、あの男に手錠をかけて法廷に立たせるためにFBIと力を合わせてほしい──

んだけど、まあさすがに無理みたいだね。
わたしみたいなポッと出の部外者が口出してもどうしようもないくらいこじれてるし、今さらあなたとミスター一発やる太郎を仲直りさせるなんて無理ゲーだし」

「ふん」

「ところでさっきのジェニちゃん、優秀な人のようね」
「マシューズは女性初の次官にもなれる逸材だ、使命感も野心もガッツもある」

「でもジェニちゃんはまだ経験年数も実績も少ないし、あなたの代わりに彼女が意見言っても男尊女卑なおっさんたちは鼻も引っかけないでしょう。
このまま大将のあなたが職をぶん投げると、CIAで唯一ビンラディンのネットワークをまともに把握してる彼女たちはそういう扱いになってしまう」

「………」

「じつはさっき彼女と話してあなたをちょっと見直したんだよね」

「だってあなたの下でちゃんと頼もしい次世代が育ってるんだから。
わたしからしたらとても羨ましいし頭が下がるよ」

「さて、そろそろゴス議員がお帰りになる頃かな。じゃ、言うだけは言ったからね」
「シラトリ」

「あんたはひとつだけ、評価に値することをした」
「?」

「オニールのあだ名だ。あれの日本語の意味を調べたよ」

「出口まで案内させよう。親切心からじゃないぞ、
変なとこに迷い込まれたらCIA的に困るからだ」
「大丈夫、さすがに道順くらい覚えたから」

「…………」
数分後──


タッタッタッ─────────────タッタッタッ

(うっへー、また迷った。ここはどこ? わたしは誰?)

マイケル・ショワーは結局がまんできなかった。
クラークDisりメールをあちこちに送りつけるわ、
FBI幹部を怒鳴りつけるわ、異常行動が目立つようになり。
けっきょく“燃え尽き症候群”ってことでアレック支局の主任を解任。
こういう場合、表向き円満退職がお約束であり、
花道のために「情報勲章」も用意されてたんだが、

「そんなもの、てめえのケツに飾っておけ」
こうしてビンラディン追跡網のCIA側の牽引役が退場してしまったんである。

だけでなく、アメリカはもうひとりの牽引役も失おうとしている。

ジョン・オニール@FBIニューヨーク支局国家安全保障担当主任特別捜査官
オニールにじつは女房子供がいると知ってる人間はFBI局内でも多くない。

別居中の古女房クリステンが、オニールの実家のあるアトランティックシティにいて、子供2人、息子はすでに成人しかも孫がもうすぐ誕生!
の一方で、オニールの華麗なる──

バレリー@シカゴのちニューヨーク

メアリー・リン@ワシントン

アンナ@ワシントン
いずれ劣らぬオニール好みの美熟女ぞろい。
一発やる太郎の異名にたがわぬエロイエッサエムぶり。
土地土地で何股もかけまくり。愛人たちはほかにも愛人がいることを知らない。
オニールはそれがダブルブッキングらないよう三者面談らないよう芸術的に緻密なスケジューリングで綱渡りしていた。なんという無駄な労力。
女房子持ちはさすがにバレてたが「いまは離婚協議中で、ケリがついたら結婚しよう」と全員に言っていた。なんといういいかげん。
これだけでも国家公務員として風紀面で立場ヤバげなのに、さらに、

もれなく浪費グセまで。
モテるために服も小物も車もインテリアも一流品そろえるコジャレオヤジ。なんとなく趣味がオシャレというよりマフィアっぽいのは言わない約束だ。

さらにコミュ力高く社交性高しはいいんだけども、
なんにしろニューヨークみたいな大都市のコミュ力維持はカネがかかる。
にもかかわらず見栄っぱりでめったやたらと人に奢りたがる。

FBIの決して高給とは言えないサラリーでそんなぜいたくまかなえるはずもなく。とうぜん借金しまくだわ、ローンを払うためにローンを組むわで自転車操業状態。
多重不倫と多重債務。「買収or脅迫されやすい役人」の要件を満たしまくりである。
強引な仕事っぷりで敵を多くつくりまくってるわりに脇が甘すぎ。

テロ捜査で超多忙な一方で私生活もそんな風だから、とうぜん気の休まる暇もなく、注意力も散漫になってとんでもないポカも。

全世界の警察の非公開連絡先が満載のノーパソをヤンキースタジアムに忘れてきたり、

タクシーにケータイ置き忘れたり──

一歩間違えばアウツなケアレスミスが増える。
さいわいというかどれもなんとか大事にならずに済んでたんだが……。
が、ハインリヒの法則、ヒヤリ続出を放置するとやがてハッとすることが──

バレリーとデート中。自慢のビュイックがエンスト。

「お、そうだ、この近くに局の隠し部屋があったっけ。そこの車をいったん借りるか」
隠し部屋というのは、FBIが一時的な証人保護とか秘匿捜査に使う秘密施設。

なあに、明日返しときゃいいだろ。
そのときバレリーが事情をよく知らんまま、

「ジョン、中のトイレ借りるわね」

そこをたまたま隠し部屋に居合わせたFBI職員に見られた。
運悪くこの職員、アンチオニール系列で。
さっそくアンチオニールの上司に告げ口。

もちろんアンチオニールのピカード副長官にも伝わり。

「民間人を無断でFBI施設に入れたのは公私混同けしからんッ」

減給処分15日分。
ただでさえ金欠のオニール的には痛い。

妻子もいつつ何人も掛け持ちの同時多発不倫中、しかも借金まみれ、これは捜査機関の一員としては「リスク高めの要注意人物」そのまんまで、人事部から問題視されるのは時間の問題だった。
が、この生活をやめられないゆえ一発やる太郎であり。
まもなくおそれていた身の破滅的事件が起きるんだが。


マイケル・ショワー解任後もとりあえずアレック支局は動いていて、
CIAは何度もオサマ・ビンラディンの位置情報をつかみ、
>そのたびに攻撃作戦が準備された。

「アフガン北部同盟のシャ・マスード将軍が話に乗ってきました」


Cofer Black
@CIA : Chief of the Counterterrorism Center
コファー・ブラック@CIA対テロセンター長

「マスードはCIAの軍事支援が得られれば、非タリバーン部族と大連立を組んで、ビンラディンを追いつめて捕まえることができる、と言っています」
コファー・ブラック。今のCIAでは珍しい実戦派の幹部。ケースオフィサーとして海外6か国を渡り歩いた工作員からの叩き上げ。
アルカイダつぶしにも前のめりの戦国武将型である。

احمد شاه مسعود
Ahmed Shah Massoud
対して、アマド・シャ・マスード将軍。
対ソ連戦で大活躍の国民的英雄ムジャヒディン、人呼んで「パンジシールの獅子」
いまはアフガン北部同盟副大統領兼国防大臣兼軍総司令官。

反タリバーン軍閥の残党をとりまとめてアフガン救国民族イスラム戦線長いんで北部同盟をぶち上げ、パンジシール渓谷の要塞に陣取り。国土の1割、人口の3割をいまも勢力圏におき、タリバーンを1ミリたりとも入り込ませないでいた。

で、この人、ずいぶんとヒロイックに美化されてるけども、
あくまで「タリバーンや他の軍閥の野蛮人に比べればマシ」というところで。じっさいは女性差別、麻薬取引、虐殺など悪い顔もたくさんある複雑多層な人物である。

それでも戦争職人として超有能、求心力も並外れ、読書家で英語とフランス語がぺらぺらで国際情勢もよく見極めていてなにより親米で、
そのシャ・マスード将軍がやれるというならやれるのは間違いなく。
だが、この大チャンスも──
テネットCIA長官はというと↓

「んー」
失点をおそれる。

「出入国がCIA要員に危険すぎる、残念だが答えはノーだ」
当時、多くの欧米ジャーナリストや国際支援団体がもっとリスキーな条件でタリバーン支配下のアフガンに入国して命がけで活動してた

当時駆け出し時代の彼女もその一人だった
にもかかわらずこの答え。CIAさんどんだけ過保護やねん。

そのノー回答を聞いたシャ・マスード将軍、


「あんたがたアメリカ人はやはり頭おかしいな。昔とぜんぜん変わってない」

またあるとき、ビンラディンの居場所特定、の速報、>

>さっそくまたアラビア海上の巡航ミサイルが発射カウントダウンに入った。
ビンラディンはちょこまか移動するので悠長にダブルチェックしてる余裕はない。
今やるかやらないか即断即決である。
けども。

テネットCIA長官 よみがえるいやな記憶
というのも、つい数日前──

旧ユーゴ紛争コソボ虐殺>からの>NATO軍のセルビア空爆。

CIA「これがセルビアの兵站本部だ」
米空軍「よっしゃまかせとけ」


え? あれ?
は? 中国大使館?

中国大使館に思いっきし誤爆。中国人3人死亡。
ಠ益ಠ また間違えたんかCIA!
中国はセルビアを擁護して空爆に反対してたから、アメリカの意趣返しじゃないか的な陰謀論までささやかれ、アメリカの立場がまた悪くなって──

──という苦い回想(ピピッ 0.01秒)

「ミサイル発射やめ。作戦中止だ」
万事がこの調子。だったらCIAってなんだったら失敗なくやれるんだよ?
周りの目線が生暖かく変わりつつあった。


October, 1999
1999年10月

Bern, Switzerland
スイス ベルン

Swiss Ambassador Embassy of Japan
在スイス日本大使館
「ええ、告別式には間に合わませんでしたが、
ご厚意で火葬に立ち会わせていただきました」

「わたしなんかを親族の列に入れていただいて、なんだか申し訳なくて」
「土田先生は、君を娘のように思っていたからなあ」
「はい、おこがましいですが、わたしも父のように甘えさせてもらいました」

「長官──じゃないや、大使はもう大使のお仕事には慣れました?」

「まあ、ぼちぼちと、だね。君はキルギスの件でこちらに来たのではないのか? 国テロが緊急展開チームを派遣したと聞いたが」
「いやー前にペルーで自由すぎる動きをしたせいか、今回おまえは来んでよしって言われちゃいまして」

8月下旬におきたキルギス日本人技師人質事件は10月に人質が解放、いちおう終わる、
が、
外務省の警察以上に激しく陰険なキャリアとノンキャリの身分対立によるごたごたと後味の悪さ、のち日本政府の用意した身代金300万ドルをキルギスの独裁者アカエフや現地対策本部の外務官僚たち関係者で山分けネコババ疑惑が噴出したり、
いわく付きの胡散臭い事件である。
「しかしわざわざ私の就任祝いにスイスまで足を運んできたのではなかろう?」

「ひとつお願いがありまして」

「アルカイダの資金ルート?」
「欧州にはビンラディンのヒトとカネの流通ルートが構築されてると思うんです」

「テロ資金の流れを突破口にするわけか」
「はい、しょうじきワシントンではテロの警報が年がら年中鳴り響きすぎて、しかも日時も場所も標的もあいまいでどれが本物かガセかもわからず、ぜんぶに対応するのは無理です。結果悪い意味の慣れというか、狼少年みたいになってきてますから」
でもテロがあるところ、テロリストが行くところ、必ずカネも動きます。

例の東アジア反日武装戦線 *【 ハラハラクロック!】みたいにリーマンがなけなしの給料から資金捻出してアジトも借りて爆弾の材料も買ってるなら見つけにくいかもしれません。でもアルカイダはそうではなさそうなので。
アメリカ当局のかたがたは資金ルートを潰すことを目的に法改正しようとしてますが、わたしはこれをテロの兆しをつかむアラート代わりに使えないかと考えてます。
資金の出所をつかんで先をたどるのが最も確実なテロ防止につながるんじゃないかと」
警察庁から外務省にはつねにそれなりの人数が出向、大使館はじめ在外公館勤務になってるけども、とうぜん現地で公安情報収集にいそしんでいる。
得た情報は出向先の外務省ではなく、>警察庁警備局にもたらされる。
「ただ外事っていまいちゼニ勘定系のノウハウが足りないものですから──」

「欧州の在外公館にこの話がそれとなく広まるようにはからっていただけないかと。そうすれば自然と“あの人たち”の耳にも届くと思いますから」

「つまり、”彼ら”の耳目を引かせ、情報を集めさせようということか」
時代は下ってのち2013年、時事通信のスクープがちょっとした騒ぎになった。

陸上自衛隊の海外ヒューミント諜報部隊「別班」
「別班」@「陸上幕僚監部運用支援・情報部別班」
冷戦時代に米陸軍の下請け稼業として始まり、のち独自に動くようになった。
首相も防衛庁長官(のち防衛大臣)も存在を知らず。
どころか防衛庁の文官@背広組も知らず。法的根拠もない。
武官@制服組トップの陸幕長と情報本部長にのみ「発信元不詳」で報告が届く仕組み。


別班に属すると自衛官の籍を消し、他省庁の公務員の身分になり、商社マンを偽装したりしてヒューミント(協力者による諜報)に携わるんである。


「シビリアンコントロールを揺るがす大問題キリッ」「軍靴の音がー」
国内メディアは特定秘密保護法徴兵制キリッと合わせ技でネガティブキャンペーン。
そういう手口に飽き飽きしてる2013年の世論はたいして反応しなかったけども、
もしこの1999年前後に「別班」が発覚してたら大騒ぎだっただろう。

防衛省も陸自もスクープを否定↓
「別班は存在しないし、過去も存在したことはない」
まあそのずうっと前から領域の近い外務省や外事警察はとうぜん感づいてるんだが、ただ日本的な見ない言わない聞かないお約束にして暗黙の了解である。

「日本はイスラム過激派から憎っくきアメリカの舎弟と思われてますから、とうぜんテロのターゲット候補です。”あの人たち”にも需要あると思うんですよね」
これはあながちホラではなく、のちアルカイダが2002年日韓FIFAワールドカップを標的にしており、さらに新潟に幹部クラスが長期潜伏していたことが分かる。

國松としては、上級官庁すら知らないクローズドな諜報部隊が集めた機密情報を部外者の白鳥がどうやって手に入れるんだよと思うんだが、
白鳥のことだからどうせその手筈もつけてるんだろう、とあえて問わない。
「わかった。まあやってみよう」
「ありがとうございます」

「そういえば、佐々さんがなにか大変だったそうだね」

「もーあの人うるさいんですよ。わたしが告別式に遅刻したのも愛情が足りんのだとか難癖つけるし。ご遺族より激しく号泣してるし。ご遺族的に困るじゃないですか」
「佐々さん、土田先生の遺志を継いで君の親代わりになると断言されたとか」

「い、いりませんよ、あんな親!」

أفغانستان
Afghanistan
アフガニスタン

「んー、どうしたものかの」
せっかくの「飛行機計画」が始まると同時に企画倒れそうなんである。


飛行機計画のプランニングはビンラディン、発案者ハリドシェイク・モハメド、アブー・ハフス@アルカイダ軍事部門責任者の3人だけでひそひそ話し合われた。

最初は世界各地からアメリカに向かう旅客機を空中同時爆破とか、東海岸と西海岸で10機同時ハイジャックとか、日本と韓国とシンガポールのアメリカ関係施設も標的にしようぜとか、無駄に派手なアイデアも出た
けども、
多少は名が売れてきたとはいえアルカイダの実力じゃそんなでっかいプロジェクトはちと無理で。アメリカ連邦政府中枢のある東海岸にターゲットをしぼることに。

「ホワイトハウスと連邦議会議事堂、ペンタゴン」
「我が甥ラムジ・ユセフが倒すのに失敗【3機目】したワールドトレードセンターを」
それより悩みどころは、じゃ誰がやるんだよってこと、である。
きほん自爆テロだから殉教、喜んでやりたい候補は何人もいるんだけども、

問題は自分でジャンボジェットを操縦しないといけないってことで。
今回ふつうのハイジャックみたいにパイロットを脅して操縦させるってやりかたが使えない。ターゲットにぶつけろなんて、どっちにしても死ぬし、脅されてもそりゃイヤだって言うだろう。
だから殉教メンが自分でパイロットしないといけないんだが。
あいにく今のアルカイダにはパイロット経験者がいない。
ということは操縦を学ぶ必要がある。

ビンラディンはさっそく信頼する古参メン4人を選んだ、
が、
4人とも忠誠心はともかく、英語がまーたく話せない、欧米で生活したこともない、もちろんパイロット経験もない。ない三連ちゃん。

そこで米国留学やビジネスの経験あるハリドシェイク・モハメドが、この4人に英会話やインターネットの使い方、航空便の予約のしかたを講義するが…、


「(゚⊥゚)(゚⊥゚)(゚⊥゚)(゚⊥゚)…………」


「じ……ず………ペ……?」

(………あかん、こら前途多難や)
それ以前に超問題なのが、彼らの国籍で。
アメリカでテロをやるならまずアメリカに入国しないとなんも始まらんので。
4人のうちハリド・アルミダルとナワフ・アルハズミ、
>サウジアラビア国籍、

>申請すると速攻で問題なくアメリカのビザとれました。
ところが、残る2人ハラドとバラ、
>イエメン国籍、

>アメリカ移民帰化局「不許可」

サウジアラビア>>>越えられない無慈悲な壁>>>イエメン
サウジアラビア
>アラブ最富裕国の信頼度。サウジ国籍はなかなか外国人が取れないのも信用につながり、世界の入管でもほぼフリーパス。とくに建国以来の友好国アメリカはほぼ顔パス。
イエメン
>中東のくせに石油が出ない運の悪さ、アラブ最貧国にして国民の半分が失業中。
なので米当局からは「イエメン人は観光ビザで入国、>すぐ消えて不法滞在になる連中」とみなされていた。またイエメンは湾岸戦争のときイラクを擁護してアメリカに嫌われ、いまだ国同士ぎくしゃくしてたんで。

むー肝心のアメリカに入りこめる殉教メンが2人しかおらんとは。
こりゃ思うたよりハードルが高かった。
ぬぬむ、やはりまだアメリカ本土でジハードは難しいのか?
というまさにそのとき、

彼らがアフガン軍事訓練キャンプに現れたのだった。

「アミール、計画にうってつけの者らがおりますぞ。ドイツに留学しておる学生です」

Mohamed Atta Marwan AlShehhi Ziad Jarrah Ramzi bin AlShibh
モハメド・アタ マルワン・アルシェヒ ジアド・ジャラ ラムジ・ビナルシブ
例の“借りてきた怒り”でボルテージ上がってるハンブルグ工科大の留学生たち。
欧州に留学中で、語学力も問題ないし、
なにより高学歴でパイロット技術もすぐ身につけられそう。

ビンラディンはさっそくラマダンの祝宴に4人を招く。

ドイツから訓練キャンプにやって来たばかりの4人、
いきなりあのオサマ・ビンラディンと同席の栄誉に舞い上がってます。

「よきかなよきかな」

「君たちは殉教者になれるぞ」


Hong Kong
香港

イギリスから中華人民共和国に返還されて2年目

「──前の空港の、あの街に突っ込んでくみたいなのがスリリングだったのに」


「なんか他んとこと似たようなかんじになっちゃいましたね」


「いやーまだ香港は香港であろうとしますね。この不思議な香り」

「でもハリウッド映画ばっかになっちゃって、
アホなカンフー映画ぜんぜんやってないんですよ!」

「けしからんですよ! マイケルホイとかユンピョウとかなにやってんですか!」



「あ、これからちょっと用があるんで切りますね」

「はいはい、ちゃんと休みますって」

「ふう」


「誰?」


───────────────「お待たせ」

「…………」

カチャ

「あなたがわたしを待ってるって伝言を聞いてね」

「丸メガネの女が会いに来ましたよ。ちょっと遅くなったけど」

「姓は大道寺のままでよかったんだっけ? あや子さん」
【19機目 1999年のさよなら ─911アメリカ同時多発テロ】へとつづく





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