Admiralty Arch, LondonAdmiralty, Her Majesty's Naval Service of the British Armed Forces「アドミラルティ」その歴史は
15世紀までさかのぼる。いまも続く
英国王立海軍ロイヤルネイビーの総司令部である。
Admiralは
「提督(海軍の将官)」だが、
Admiraltyにはぴったり合う
日本語がないんで、たいてい
「英国海軍本部」「海軍省」とか訳されることが多い。
「アドミラルティボード」はそのトップ・オブ・ザ・トップの最高決定機関で、
「海軍本部委員会」と訳されるがなんか違うような微妙ななかんじ。
「ボード」は
海軍総司令官に当たる
「ロードハイアドミラル(海軍卿)」を長に、
「ファーストロード(政治家)」「ネバルロード(提督)」、実務を担う
「セクレタリ(書記官長)」で構成され、
海軍の采配を司ってきた。
かつて七つの海を支配した
王立海軍ロイヤルネイビーの司令塔として、
冷戦初期まで実際にも
海軍を仕切っていたが、
三軍が
国防省に統合される頃から形式化、
英国海軍が見る影もなく縮小した現代では年に1、2回開かれるだけとなった。
ロードハイアドミラルは
王室や
君主の
名誉職となり、しかもここ
200年くらい空席だったが、
1964年に
エリザベス2世女王がひさびさの
ロードハイアドミラルに就任。
2011年からは
女王の夫で元
海軍中佐エジンバラ公が就いている。
「わしが前任者から
連絡官を引き継いだとき、すでに
キャサリンは
極東および
南洋方面で
諜報ネットワークを構築しておった。
あのころの彼女はまだ
20代半ばだったと思うな。内面は恐ろしいほど老成しておったが、ほんとうにごく若い娘っ子だった、君くらいの」

おっほほほ困りますわ
「えーと、わたし、じつはそんなに若くありませんわよ」
「
MI5*1、
MI6*2は
ケンブリッジの恥ずべき
売国奴*3にすっかり汚染され、われわれの
諜報ネットワークは
ボルシェビキにさんざん根絶やしにされてしまったが、

キャサリンは
アドミラルティボードの直属で
MI6ともまったく別系統だったし、彼女の存在を知る者は片手で数えられる程度、
連絡官がわしであることも伏せられていたから、彼女と彼女の
諜報網は最後まで無傷だった。
キャサリンはほかの
諜報部局を一切信用せず、決してリンクすることなく、尻尾も掴ませなかった。いま思えば
フィルビー*4のやつめが不自然なほどしつこく
ボードに探りを入れてきたものよ。
*1 英国陸軍防諜部 *2 英国秘密情報部 SIS *3 ケンブリッジファイブ【ウルトラ 9機目】
*4 キム・フィルビー【ウルトラ 9機目】彼女は
ヴェノナ作戦でも
MI6を経由せず、
米軍の
カーター・クラーク准将*と直でやりとりしていた」
*【ウルトラ 9機目-中段】
「いま思えばそれが正解だ。彼女は
もぐらモールの存在と
おおよその見当もついていたんじゃないかな」
「
キャサリンの
情報活動は緻密かつ精確だったが、
大英帝国が彼女の多大な働きを活かせたかというと怪しいな。彼女が再三傍証付きで警告していた
コミンテルンの策動を軽視し、
日本軍ばかりに目を奪われていた」
「過ちに気づいたときはもはや手遅れだったわい」
「
キャサリンが我が国から距離を置くようになったもその失望ゆえだったかもしれん。
第二次世界大戦の半ばから独自に動くようになり、まもなくフリーランスとなった」
「
大戦末期にわしも
内務省へ異動になったゆえ、
キャサリンのその後は知らんのだ。
占領期の
日本へ渡っていたことは
ケナンから聞いたが……」
「
ニイタカ…いえ
キャサリンさんは、
1949年8月24日までは
東京にいて、」

「その夜半、
シモヤマケースの
発生現場に関係者を集め、
国鉄総裁の
死の
謎解きを行いました。その場に居合わせた複数の人たちの裏付け証言もあります」

「そして、その夜が、彼女の姿が確認された最後なんです。
どの人に話を聞いてもどの記録を見ても、その日以降の消息が不明のままで」
「ひょっとして君がじつは
キャサリンだったりしてな」

わたし、何歳なんでしょう
「だとすると大どんでん返しですけどね」
「さて、わしを驚かせるためにわざわざ呼んだのではあるまい?」
「はい、
伯爵はいまも
イギリス連邦の
諜報界に影響力がおありと」
「骨董品のようなジジイがうるさがられておるだけだがな」
「
伯爵にぜひお願いしたいことがあります」

そして
白鳥がこのとき
イギリス諜報界の長老に何を「お願い」したのか、

それは終盤で明らかになるであろうひさびさの白戸三平風。
「君が
キャサリンと、はたしてどのような縁があるのか、いつか分かる日が
来るとよいな。君の戦っておる
大いくさが首尾よく成就することも」
「ありがとうございます、
伯爵」
「最後の最後で、頼りになるのは
直感だ」
「え?」
「無駄に歳ばかり食った老いぼれからのささやかな助言だよ」
「……はい」
「あのころ、彼女を知る者はみんな彼女を好きだった。わしも好きだったよ。
ケナンも澄ました顔をしておるがきっとそうだろうさ」
「わたし、
機密指定解除文書を読み、当時の彼女を知る方々の話を聞いて、彼女のことがだんだんと分かってきたように感じます。彼女はどんなときも肩書きや地位だけではなくその人を見ていました。だから思うんです。
彼女も皆さんを好きだったと、」

「もちろん
伯爵のこともです。なので、」
「彼女に代わって、一瞬だけ非礼をお許しください」


「長生きはするものだ」
「およそとるにたらん人生だったが、最後によいことが起きた」
「みんな、正直に言います」
「ごめんなさい」
「
テロ、ぜんぜん阻止できる気がしないです」
「まだ
地下鉄サリンのときの方が手応え感がありました。
そのときを圧50%だとすると、今回は圧2%くらいで」
「でもやれることはすべてやるしかないから、みんなそんな怖い顔しないで。
ディック、わたしを愛してるんだよね。
ライザもそんな怒り顔してると眉間のシワ増えるよ」

「皆さん
クビになる
危険だけ増大しましたけど頑張りましょう」
「なんて今さらとても言えないよなあ」
はあー「恩を仇で返してしまうよ」


等身大パネルに顔貼って
スライディング土下座のリハーサル中。

なぜ私だけ後頭部の落書きが貼ってあるのだ
プルル…
「あ、わっ、ふざけてたんじゃないです、全力の反省を表現するための練習を」
“なにを反省してるんだね”「あ、あれ?
大佐? なーんだ」
“例の口座が動いた”「
送金?」
「いや、それが奇妙なことに、
カネが
アメリカへ
送金されたのではなく、逆だ。
アメリカ国内の
銀行口座から例の
口座へと
8000ドルが振り替えられた」
「え?
アメリカ“へ”、じゃなくて
アメリカ“から”?
どういうことだろ。
振替元の
口座名義はどこの誰?」
「
サントラスト銀行、
ハリウッドの端末からだ。
ハリウッドは映画の都のほうではなく
フロリダの
ハリウッド。口座の名義は
フェイズ・アーメド・バニアハマド」

「むー?」
GreenBelt, Marylandメリーランド州グリーンベルト「
フロリダ?」
“フェイズ・アーメド・バニアハマド。海外のアルカイダメンとお金のやりとりがあった。9月5日の時点でハリウッド、えっと、フロリダ州のほうのハリウッドにいた。テロ計画メンの可能性が高い。綴りはドクターフーのF、アル・パチーノのA、イエス!高須のY、はぁーE気持ちのE、怪傑ゾロのZでフェイズ。ハートのエースが出てこないのA、このお湯凄く熱いねのH、気分は全開MAXのM、日が昇るE、ゾンビのD──”
独自すぎてわからん。タカス?「あー最初の
ドクターフーは
Fじゃなくて
Wだぞ」
“あれ? そうだっけ。まー知ってるならいいじゃん”「やはり各地に分かれて潜伏してるってことか。わかった、
ゴードンを行かせる」
“よろしくジョン”「
マイクだ」
「あ、
ダンからやっと来た。テキスト化ご苦労さん」

「うへー膨大なテキスト。
ダンもようやるわ。やらせたのわたしだけど」
「さて、カテゴリー分けの条件を決めて、と。んーむ」


「すべては区分設定しだい──」
「──なんだけど、っと」

「特異点はどこ、か、し、らん?」
「うーん、違うな、んーっと……」
8th September, 20012001年9月8日
Saturday土曜日3 days before ‘Nine Eleven’──9.11まであと
3日
9.11をまだ知らぬ
アメリカ、最後の週末。
Laurel, Marylandメリーランド州ローレル
前日
7日から
ハズミダルたち
「美術学部」組と最終打合せのため
メリーランド入りしていた
モハメド・アタ、
ウェスタンユニオンの
個人向け国際送金サービス窓口から
2860ドルを送金。
ウェスタンユニオンいわば
国際金融の
コンビニ。世界
120か国に送金ネットワークを展開、そこらの
ガススタンドや
ショッピングモールにも窓口があるお手軽さが売りで、とにかく数が多い。ここ
ローレルも大通り界隈だけで10か所以上のサービス窓口が営業している。
このあと
アタはさらに別の
ウェスタンユニオン窓口へ移動して
5000ドルを送金。
2箇所に分けたのは一度に送金できる金額の上限があるからで。
いずれも送金先は、
スタンダードチャータード銀行の
ドバイ支店、

またもや
ムスタファ・アーメド・アルハサウィ名義の口座だった。
“例の口座にまたアメリカ国内から送金があった”
「
メリーランド州ローレル市内にある
ウェスタンユニオンの
国際送金サービスから2度に分けて
7860ドル。送金人は2回とも
モハメド・アタ」
「
アタ? それってたしか──」
イスラエルの
モサド@諜報特務庁のキャッチした「将来大規模な
テロ計画に関わりそげな
要注意人物」の4つの名前
「マルワン・(アル)シェヒ、ミダル、ハズミ、アタ」な要注意人物」の4つの名前「マルワン・(アル)シェヒ、ミダル、ハズミ、↑
「そうだ、あの
アタと同じ人物の可能性が高い」
「また
資金が
アメリカから
UAEへ逆送?」
「
そうか……。これ、
アメリカ潜入組から
アルカイダ本体に
活動資金が返却されてるんだ。ということは──」
“資金はもう必要ない”
「……あとは
“殉教攻撃”で死ぬだけだから」
「我が国は
重警戒態勢に入る。
CIAと
国務省にも
警告を飛ばそう」
“お願いします、大佐”
リミットが迫ってる。
明日──いや
今この瞬間
テロがおきても不思議じゃな
ドクン
つっ
ちっ、今くる? よりによって今?
“FBI、コールマン特別捜査官”
「
ダン、わたし」
“あ、ミスシラトリ”
ほめてほめて「
テキスト届きましたかあ? 3日3晩、徹夜で打ったんですよ」
華麗にスルー「いま
メール送ったから。至急そのリストを
航空会社の
予約名簿と照会させて!」
“えっ?”
「いいから
早くメール読んで! やりかたは前に話したとおりで!
モーン支局長にも力貸してもらって!」
“は、はいっ”もう少し持ちこたえろ、わたし!

ていうかわたしの
脳みそ! ていうかわたしの
血管!ようやく巡って来た。
惨劇を止めるチャンスが。

最後の最後になって。
だが──
「…………」
「こちら
ITOS*、
コルシ。
ニューヨーク支局に不審な動きを見つけました」
*FBI本部国際テロリズム作戦セクションDina Corsiダイナ・コルシFBI本部ITOS@国際テロリズム作戦セクション次長補佐官@CIAビンラディン問題課から出向中

「ええ、
ハリド・アルミダルの追跡を
ニューヨーク支局の
対テロ捜査官が無断で継続している疑いがあります。確認できしだい、ただちに差し止め措置を」
【第26便 ヒューマンファクター】へとつづく





