アメリカが手を引いた時点で、腐敗と堕落だらけの
南ベトナム政府が遠からず滅びの日を迎えるのはまあ九割九分九厘決まってたようなもんなんだが。
ドロー試合だった
朝鮮戦争に続いて、
インドシナでくり広げられた
冷戦代理戦争2ndラウンドは、
共産主義陣営の勝利に終わった。
西側諸国の左方面の人々は
「おれが育てたんや」と大盛り上がり。
ここでも↓
「勝った、
私たちが勝ったのですっ」
斎藤和も珍しく興奮、大喜びで、で、反戦活動で人生ダメになったやつ死んじゃったやつ消えてしまったやつのことを語ってはうれし泣きに泣いて、
浴田由紀子も、あんま実感ないけどもらい泣きに泣いて。
逮捕20日前の夜だった。

5月2日 ゴールデンウィーク──
逮捕18日前
はるばる
釧路から
大道寺将司の両親が上京。
「東京物語」DVD 将司の
父親は今年、
釧路市役所を定年退職、相変わらず病気がちで、まあ旅できるうちに息子夫婦の新居を一度でも訪ねとこうか、となったわけで。
GWの間、
大道寺父母は息子夫婦宅で過ごし。
3日は、
スバルに乗って楽しい
東京巡り。
浅草寺・仲見世・新宿、落語、日比谷公園の
ブラバン演奏。
「……楽しそうっすね」
▼
5月4日──
午前2時28分間組京成江戸川橋鉄橋架け替え工事現場
被害>工事用コンプレッサー破壊
死傷者>ゼロ
もちろんやったのは
「さそり」これで
間組への
爆弾テロは4件─3回目になった。
急報で登庁した
土田警視総監は不気味なほど静か。
「
中島部長、ここまでだ。もう限界です」
「しかし、まだグループの全容解明には…」
「その前に我が国の治安への信頼が完全に失われる。
現在判明している
東アジア反日武装戦線のメンバー全員をすみやかに
逮捕し、
爆弾製造拠点を叩くこと。これは
警視総監としての命令です」
が、タイミングおよろしくないことに、
GW明けすぐ、
英国女王エリザベス2世夫妻が来日>
12日まで滞在する。
そんなときに都内でテロリストの大捕物なんて不測の事態になるおそれもある。
女王の来日中は無理ぜったい乂(´Д`;)
▼
同じ
5月4日姑は嫁
あや子に誘われ買い物に。
大道寺両親も、聡明で気さくでしっかり者たまに天然な
あや子を大好きである。
ご近所の人たちにも好かれてるらしい
あや子に、
姑は「ああ、よい嫁で
将司は幸せね」となごむんである。
ただ、共働きのわりに質素すぎの暮らしに、
東京は物価が高いのかしらと心配したり。
まさか
稼ぎの半分をテロ資金に回してるとは
大道寺父母思いもしない。
あやちゃん、
将司が苦労かけるわね。大変なら遠慮なく言ってね。
いいえ、
将司さんと一緒になって、
毎日とても充実してるんです。
私は、ほんとうに幸せです。
爆弾本部は、そういう家族劇場すべても静かに無情に監視中。
「その日」は確実に迫っている。
にしても、
なに彼らはこんなのんきしてる? なぜ逃げんのか?
あの
由紀子でさえ気づいたくらいだから、他メンの周りでも少しくらい怪しい兆候があったはず。
なのに、注意深い
斎藤和でさえ「気のせい」で済ませてるし。勤め先の喫茶店にも
斎藤の休日中に
警察が来て、あとで店主が不自然な言い訳してたというのに。
大道寺たち
「狼」4人組も
丸の内爆破死者8人の時点で、
「捕まれば死刑」と、なんとのう意識していた。
なのになんで?
たぶんカモフラージュの生活が、
彼らの人生そのものだったから。
で、ふつうの日常がそれなりにハッピーに回っていて。偽装という手段がいつのまにか目的になって。
だからの、
なんでもない、気のせい。心配ない。
▼
5月7日 午前──
大道寺両親は、息子夫婦のお見送りで、
羽田から空路、
北海道へと帰って行った。
で、それと入れ替わるように、
グレートブリテン及び北アイルランド連合王国こと、
英国女王エリザベス2世と
夫殿下来日。
日本の威信がかかる警備体制は、
佐々淳行@警察庁警備課長@突入せよ!「あさま」山荘事件が監修。
翌
8日、
女王は
NHKに案内されて、
大河ドラマ「元禄太平記」収録を見学。
「オー、チューシングーラ」「オー、サムライ」夫殿下「で、ゲイシャはどこー?」3日目の
9日、
警視庁にとって正念場。
帝国ホテルから
国立劇場まで
パレードである。
警視庁には17年前の
皇太子ご成婚パレードのトラウマがある。パレード中にメンヘラ浪人生が走り出て石を投げ、んでもって馬車によじ登りかけ、新婚
美智子様危機一髪!
そのていたらくがテレビ中継…orz。
警備警察の面目丸つぶれである。
それに
オープンカーでパレード、ってだけでいかにも変なフラグが立ちそげな…。
といっても、群衆を遠ざけたり、あんまぎっちぎちにごつい
機動隊で埋め尽くすってのも、めっちゃ治安ゆらゆらの国っすって全世界に宣伝するみたいでまずい。
そこで
土田総監は
佐々警備課長@突入せよ!「あさま」山荘事件と相談して創意工夫。
パレードを
音楽隊、
バグパイプ演奏隊、
婦警ドリルチームでにぎやかし、さらに、
けっこうカッコよさげ金モール正装の
警察学校男女学生を道路両脇に5m間隔でずらっと整列、
華やかかつキリッ凛々しさげに演出、厳重警備もさりげに両立。
女王も
その夫殿下もご機嫌。なかなか盛り上がった。
「おお、今日のサムライは着物じゃなくて洋装だね。我が大英帝国に合わせたのか」
「昨日のサムライはテレビショーの俳優。時差ぼけにもほどがあります殿下」翌
10日、
女王夫妻は空路関西へ。本当は
日本自慢の
新幹線に乗っけたかったんだが、あいにく空気読めない
国鉄労組が相変わらずストの真っ最中だった。
とにかくこの日、
京都御所見学>
11日に
伊勢神宮>
真珠島を回って>
鳥羽国際ホテルで泊まり。
で、どうしても
日本自慢の
新幹線に乗っけたいんで、
12日に
近鉄特別列車を組んで
名古屋>そこからもーむりやり
新幹線>
東京>そこから
羽田>離日。
「なんか疲れたね、リズ。ゲイシャも結局いないしさ」
「なにさりげにリズ呼ばわりしているのです。外では陛下とお呼びなさい」警察一家としては、ふう、なにごともなく済んだである。
と息つく間もなく次の日
13日、
警視庁奥の院、
総監応接室にひそかに集まったのは、
土田総監、綾田副総監、中島公安部長、
福井参事官兼公安総務課長、小黒公安1課長。「
Xデーをいつにするか」
いちばん手っ取り早く確実に立件できそうなのが、
韓産研の
事件。
ただしこれ、
実行犯と特定できるのが
浴田由紀子だけだ。
「
一味全員を
韓産研の
共犯で逮捕する。
強制捜査に持ち込んで、ほかの
事件の
証拠をなんとしても掴め」
となると、
家宅捜索で
証拠が出てくるか、が運命の分かれ道になってくる。
今のところ、彼らの自宅以外の
アジトは確認できてない。
「
強制捜査に先だって彼らの自宅に潜入し、
証拠を事前に確認しましょう」
公安部にはそういう
非公式活動専従チームも非公式にいたりする。
が、
土田総監が激しく反対。
「当事案で、これ以上の不正は許されん。我々はすでに
テロ行為を傍観するという国家の藩塀としてあるまじき過ちを犯した。このうえ空き巣まがいの工作など論外です」
「いえ、なにも
偽の証拠を置いてくるわけではなく、ただ
証拠物の有無を確認にとどめ…」
「まだ懲りないのですか!」
「不正を隠してもいつか必ず漏れる。
捜査関係者が事前に令状もなく忍び込んでいたと世に出れば、たとえ本物の
証拠でも、
警察が事前に置いたのだ、と言われてしまえばそれまでです」
公安が失態やらかした
ピース缶爆弾事件の遺族でもある
土田の言うことだから、みんなだまるしかない。
事前潜入は絶対に不可。破った者は誰であろうと管理者も含めて厳罰に処す。
でも
公安幹部連はやはり心配なんだな。
さすがに内緒でユーやっちゃいなよと言い出しはしなかったが、なんとか
証拠が見つかる可能性くらいどの程度か見込みつけたい。あまりに低ければ
総監を説得して延期させなければならない。
で、
爆弾本部に、
おまえら責任とってなんか言え、と命令が落ちてくる。
自宅に
爆弾製造施設や
兵器庫があるのではないか、
という見方は
爆弾本部内にもあった。
韓産研爆破の当日、
浴田斎藤は自宅から直接、爆破現場の
銀座と
関西へ向かった。
どこにも寄らずに。
ここ数か月の監視からすると、彼らは別の場所に
爆弾工場を設けてるのではなく、自宅を使ってる可能性高し。
ただし、彼らが用心深く
爆弾の材料や犯行関与のメモなどをいちいち始末していたら、ガサ入れは空振りになる。
話し合ってもなかなか結論は出ない。
というか誰もが下手なこと言って間違えるのをおそれてうやむやしてるんで。
爆弾本部トップとしてうやむやしてるのはまずい
理事官五反田が、
「参考に
永田町の意見を聴きたい」
もちろん国会のことでなくて、
解析専従にいるあの
永田町。
幹部たちは渋っつらだけども、これほどの重大事であの丸メガネ女も偉そうにほざくまい、変なこと言い出しても難癖つけてレポに載せさせなきゃいいんだし。
「
解析屋、
五反田と愉快な仲間たちがお呼びだ」
「たぶん
強制捜査で
証拠が出るか出ないかって件だろう。
だがいいか、今回は
解析による
予測とやらは引っ込めとけ。言質を取られないことだけ考えろ。
とくに、いつもの調子で
確実だとか
必ずとか余計なこと口走ったら命取りだぞ。
警部補がこの局面で
警視や
警部相手に喧嘩するな。奴らは煽るだろうし納得いかんだろうが今回だけ我慢しろ。次の事件で頑張れ」
「分かってます。自分も少し大人になりましたから」
「
証拠があるか否か、どう思うか。君の忌憚のない意見を聴きたい」
「はい、
証拠については、まだ残念ながら…」
「判断できるだけの、情報が──」
「
証拠は、
必ず彼らの自宅にあります」
…言いやがった。
我に返ってワロスたちが
お嬢さん必死ワロスとか
妄想乙とか口をはさもうとするのを、
「すみません、
今ちょっと話しかけないでもらえますか」
「自分はただ意見を述べるためだけに参りました。
否定のための否定にいちいち返事してたら、都民の税金でまかなわれる
勤務時間の無駄な浪費です」

「………」
「はい、続けます」
「
証拠物が彼らの自宅で
必ず見つかる、と申し上げた理由は、2つです」
まず1つ、
資金です。彼らには
秘密結社的な特性から、
支持母体も
シンパもいないことは明らかです。活動資金は自分たちの
月々の給料から捻出している、と考えられます。
給料からなんて
日曜大工かよ、聞いたことないぞ、と笑うのを。
(無視)「というわけで彼らの活動資金は潤沢ではありません。そして
爆弾の材料ほとんどが市販で手に入りますが、安いものばかりではありません。
だから
余った材料は残してあるはずです。
“もったいない”からです」
テロリストが
もったいないってかw 失笑が漏れるのを。
(無視)「彼らはほかの
極左過激派とちがい、ふつうの庶民としての暮らしがあります、月給取りの
サラリーマンであり、生活費を切り詰めて暮らす
社会人です」
「2つめの根拠は、
腹腹時計です」
また
腹腹時計かよ、
「そうです、彼らの
指導者的な存在だ、と自分が申し上げすぎて、皆様の癇に触っている、また
腹腹時計です。その中にご質問の答えがあります。
いえ、
そこに無いことが答えです」
腹腹時計の作者は、
反体制活動家であり、
プロの犯罪者ではありません。
実体験ではなく、既存のゲリラ教本や報道記事を寄せ集めて
頭の中で考えられて書かれたものです。
だから司法当局の追及に対して驚くほど細部まで配慮する一方、
ケチな窃盗犯でさえ真っ先に挙げてしかるべき最も重要な、
ある一点が、この本から抜け落ちていました。
「
腹腹時計を
犯罪教本として見るなら、
初歩的、そして
致命的な
欠陥があります!」
「“物的証拠を始末せよ”
このひと言が、
ありません!」
「え( ゚д゚)」
「は( ゚д゚)( ゚д゚)」「この本に書かかれてないことを、彼らはしません」
「だから
証拠物は、
必ず、
彼らの自宅で見つかります」

「……お、憶測ワロタ」
「はい、以上です。
初めてのご静聴、ありがとうございました。
ご命令どおり自分の意見を忌憚無く申し上げました。
採用なさるか握りつぶされるかは、皆さんのお好きにどうぞ。
あ、それと、
憶測じゃありませんから。
解析です
解析」
「では失礼しますっ」
腹腹時計をデスクに投げ出して、すたすた自分のブースへ。
そしていつクビになってもいいように、せっせと持ち物を整理し始めた。
「どこが大人になったんだ、あのバカちんが」
翌朝、
土田警視総監は、
「ぼそぼそ声」と密会。
「“各自宅に物的証拠ないしそれに準ずるものが、若干ないしは一定程度は残っている可能性は比較的高いと推察される”
昨晩、
爆弾本部から上がってきた分析レポだが、どう思うね」
「ゴミクズです」
「うむ、そのようだな」
「ただし、末尾に添付された
付帯意見の数行は除いて」
「それも読んだ。興味深い」
よくまあ
五反田も、
永田町の説をレポに割り込ませたものだ。ふつうなら幹部連がなんやかやと削ってしまうだろうけども、
五反田は提出直前にこそっと入れたらしい。
五反田も賭けに出た。
「それで、君はこの
付帯意見を尊重した方がよい、と思うかね」
「自分は組織の末端でしかありません。
最高指揮官である
総監に、何をしろとは申し上げられません」
「ではこう訊こう。君はこの
付帯意見を出した
担当者を信頼しているのだね」
「
信頼? まさか!
あんなの信頼できませんよ!」
「
土田( ゚д゚)え」
「組織人として、いや人としてふざけてる。上司を上司とも思わず、生意気で自信過剰のふざけたアホの。人の気づかいをなんだと。小野田少尉と交替でルバング島に置いてくるべきです。あのバ$#0)$5@」「
土田( ゚д゚)……」
「しかし」
「しかし、もしあいつが、
青のコードを切れば爆弾は爆発しない、と言い切るなら、
自分は
躊躇することなく青を切る。これだけは言えます」
「……そうか、分かった。ありがとう」
土田は、そのあと秘密会議でレポ末尾の
付帯意見を評価、
強制捜査決行を積極主張して、流れは決まった。
とかやってる間に、ひやっ、が起きる。
5月15日 ──
逮捕4日前NHKニュースでとつぜん速報が。
「
東京行動戦線が捜査線上に」
でも続報はナシ。単発の打ち上げ花火で終了。
国営放送といってもなんでも役所の言いなりに動いてくれるわけではないんで。
不確かなニュースだからとりあえず観測気球上げて、反応を見ようとしたのかもしれない。
でもそのせいで
中島公安部長、
囲まれてしまった。
「速報で言われたような事実は絶対にない」と否定したものの、昼夜マスコミに見張られて、動けなくなった。
これだけ大事件となると、
東京地検の
検事正に、
「つぎ大物しょっぴくんで受け入れ準備よろしく」
っつう仁義切りに幹部が出向くのがしきたりで。
本来なら
中島部長クラスが
地検に挨拶に行かないといけないんであるが。
どのマスコミもそういうの知っててスクープを狙っていた。
代わりに
警視総監が
地検に行くかも、
と、マスコミは
土田総監にも朝から晩まで張りついた。
警視庁、しょうじき困り申した。
NHKばかたれめー。
で、どういう裏技でこのにっちもさっちもを切り抜けたかは定かでないんだが、本筋には関係ないんで妄想捏造も略。
「週明け
5月19日の
月曜日、
強制捜査に着手する」

5月17日 土曜日──
逮捕2日前
「実家に電話しようかな」
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